日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第4回大会
セッションID: S1-3-5
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メタボローム解析
脊髄液における疼痛関連物質の動態解析
*山本 行男秋田 朗子佐藤 洋久保 英夫山岡 和子島村 眞里子大久保 岩男林 健児西村 欣也羽里 忠彦
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抄録

 疼痛制御物質 enkephalin の代謝酵素である dipeptidyl peptidase (DPP) III は、ブラジキニン発痛系において本酵素の阻害物質が痛み刺激を抑制することから、疼痛調節能を有することがわかってきた。一方、中枢系に存在し、疼痛や睡眠に関与することがわかってきたプロスタグランディン(PG)D2 が新たな神経伝達物質として注目されてきている。PGD2 の生合成酵素には二つのタイプが知られ、一つは痛みや睡眠に関与するlipocalin タイプ (L-PGDS)で、もう一つは炎症に関与する hematopoietic タイプ(H-PGDS)である。前者は脊髄液における主要な蛋白質であると報告されている。今回、疼痛病態解析のアプローチとして、脊髄液に存在する疼痛制御物質(DPPIII とL-PGDS)のプロテオームによる動態解析を行った。
 脊髄液は、アルブミンとイムノグロブリンの除去操作後、 Immobiline DryStrip (pH 3-10, Amersham Biosciences) を用いて一次元電気泳動を、更に10 % アクリルアミド濃度を用いた二次元電気泳動により蛋白質を分離した。泳動ゲルは銀染色により蛋白質のスポットを確認した。差異解析 (2D-DIGE) は、比較対照群に含まれる蛋白質を蛍光標識した二次元デファレンシャル解析により行った。蛋白質の同定は、発現変化を示したスポットを切り出し、ゲル内でトリプシン消化した後、抽出成分を脱塩し質量分析(4800 MALDI TOF/TOF Analyzer, Applied Biosystems)を行った。脊髄液は、疼痛病態(関節炎、前立腺癌、子宮癌)患者およびそれ以外の脊椎麻酔予定者(ヘルニア、抜釘:コントロール)より趣旨説明の後、同意を得て使用した。
 プロテオーム解析により脊髄液中におけるL-PGDSを同定できた。コントロール群と病態群の差異解析から、前立腺癌患者においてその発現の増大が認められた。一方、DPPIII は脊髄液中での酵素活性は検出できるが、プロテオーム解析での検出が困難であった。現在、特異抗体を用いたELISA およびWestern Blotting によりプロテオーム解析の結果を確認している。疼痛関連物質の動態が病態の変化を反映しているか追究していきたい。

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© 2006 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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