日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第4回大会
選択された号の論文の98件中1~50を表示しています
シンポジウム
試料調製と解析手法
  • 松山 由美子, 工藤 寿治, 韮澤 崇
    セッションID: S1-1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    近年、ポストゲノム時代におけるプロテオミクスとして、疾患プロテオーム解析が注目を集めている。これは、正常の臓器と何らかの疾患をもった臓器とでは、どのようなタンパク質に違いがあるかを調べ、病気の診断マーカーの探索や病気のメカニズムの解明、さらには治療薬の開発などに役立てることを目的として行われる。そこで今回は、質量分析を利用したバイオマーカー探索のための前処理として、磁性ビーズによるペプチドやタンパク質の精製および濃縮の効果について紹介する。
    ここで紹介するClinProtTMビーズは、様々な機能性を表面に持たせたもので、ペプチドのプロファイリングを目的とした疾患プロテオーム解析のための前処理技術である。このClinProtTM ビーズの利点としては、再現性も非常に高く。ハンドリングが非常に簡便であり、さらにスケールアップやマルチステップによる精製が可能であるということが挙げられる。今回はその中でも、低含有量とされているリン酸化ペプチドおよび糖ペプチドの精製および濃縮を目的として、金属アフィ二ティービーズ、レクチン(ConA)ビーズを用いた場合の効果について、MALDI-TOF MSの結果とともに紹介する。
  • 岩船 裕子, 談 建中, 井野 洋子, 岡山 明子, 石垣 祐二, 齋藤 浩二, 有馬 三樹子, 大場 光芳, 亀井 修一, 丹花 通文, ...
    セッションID: S1-1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    従来のプロテインチップは多くの場合、遺伝子操作により発現させたタンパク質、あるいは精製した天然タンパク質をガラスやシリコン基板に固定化して作製されている。本研究ではSDS-PAGEや二次元電気泳動で多数のタンパク質を分離した後、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルで表面を化学修飾したダイヤモンド様炭素被膜処理ステンレス基板(DLC基板)にエレクトロブロッティングを行ってプロテインチップを作製する技術を開発した。この方法を用いれば、短時間で多数のタンパク質を固定化したプロテインチップを作製することができる。プロテインチップ上でプロテアーゼ消化(On-Chip消化)を行った後、MALDI-TOF/MSによるペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)を行えば、ゲル内プロテアーゼ消化をしなくても、基板に固定化されたタンパク質を同定することができる。酵母から抽出したタンパク質を二次元電気泳動で分離し、DLC基板にエレクトロブロッティングで転写、固定化し、On-Chip消化により得られたペプチド消化物をMALDI-TOF/MSにより測定してPMFでタンパク質の同定を試みたところ、15-60%のcoverageでタンパク質を同定することができた。このcoverageはゲルからタンパク質を切り出して、ゲル内プロテアーゼ消化を行った場合とほぼ同等の効率であった。これらの結果からゲル内消化のような煩雑な操作を必要とせず、DLC基板を用いて簡便にタンパク質を同定できると考えられた。 また、DLC基板に植物のホルモン受容体様タンパク質やカルモジュリン、IgGなどを固定化し、固定化したタンパク質に対して他のタンパク質やペプチド、薬物などを結合させてMALDI-TOF/MSで検出を試みたところ、それぞれタンパク質-タンパク質間相互作用、タンパク質-ペプチド間相互作用、タンパク質-薬物間相互作用を確認することができた。今後、DLC基板を用いて、二次元電気泳動で分離された千〜数千のタンパク質、ならびにそれらと相互作用するタンパク質や低分子化合物を網羅的に解析できるようになると考えられる。
  • 小海 康夫, 苗代 康可, 木村 成寿, 山口 真美, 堀 司, 相馬 仁
    セッションID: S1-1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    「はじめに」血漿には、濃度、性質の大きく異なるさまざまなタンパク質が存在している。HUPOのplasma解析では、その数は1万を超えると報告された。血液は、人体のあらゆる臓器を潅流し大循環に戻ってくることから、各臓器に起こるイベントを反映するタンパク質が存在していることが推定される。この理由から、血漿中の病態マーカーの探索により、疾患の動態、治療応答性、診断などに重要な情報が得られることが期待されている。一方、血漿はアルブミンを代表とする高濃度の分子からきわめて低濃度の分子まで大きな不均一性を持ったタンパク質溶液であり、さらに脂質、生体色素などのタンパク質分析に障害となる因子が混在し、タンパク質解析に大きな障害となっている。血漿からのタンパク質分画の精製とアルブミンなどの高濃度タンパク質の処理には、さまざまな方法が工夫されているが、簡便でハイスループットに対応できる方法論は確立しておらず、あらたなバイオロジカルリガンドの開発が望まれている。われわれは人工燐脂質2重膜よりなるリポソームのバイロジカルリガンドとしての有用性を検討し、血漿タンパク質の解析に簡便でハイスループットなシステムを提供できる可能性が示唆されたので報告する。 「方法」血漿:インフォームドコンセントを得た患者および正常対象者 リポソーム:燐脂質(PS:PC=1:9)にて作成したMultilamellar vesicle(MLV) 結合条件:血漿100uLをEGTA 5mM,CaC l5mM,MLV 500ug, PBSにて1mLとした。 「検討項目と結果」同一正常人血清間、異なる個人における正常血清間、慢性関節リュウマチ患者を含む自己免疫性疾患患者の治療前、治療後、アルツハイマー患者および類似疾患(血管性認知症、老人性うつ病)の血漿を用いて、正常人間、疾病対正常、疾病間などの比較を目的としてリポソーム結合タンパク質を回収し、キレート処理して遊離するタンパク質を解析した。解析は、収量、2次元電気泳動、直接トリプシン処理してSCX分離後質量分析などにより、定量、定性的に行った。複数の疾患特異的な分子が観察された。 「考察」リポソームは、新しいバイオロジカルリガンドとして血漿タンパク質の解析に有用であることが示唆された。
  • 上野 郁子, 野津 祐三, 正田 純一, 次田 晧, 上條 憲一
    セッションID: S1-1-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    In the present time, human liver proteins identified by combination of detergent-solubilization, 2-DE and MALDI/TOF MS are less than expected estimation from the genome database. For identification of the causative abnormality of the protein functions in the intractable disease more comprehensive and precise informations are required on each component proteins constructing the signal road from the receptors outside of the cell membrane to nucei or other organelles. To resolve and identify as many as possible proteins from the human liver specimen, the homogenate of the specimen was fractionated to the cytosol, ER, mitochondria, and, nuclei and cell debris fractions. The proteins in each fractions were solubilized with different solvent systems. Various kinds of protein not extracted from the whole homogenate were identified by the extraction after the fractionation.
  • 柳田 光昭, 中山 仁志, 吉崎 史子, 藤村 務, 高森 建二, 小川 秀興, 岩渕 和久
    セッションID: S1-1-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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     好中球は自然免疫応答に関与する白血球であり、近年、その分化や異物の貪食には細胞膜に存在するマイクロドメインあるいはラフトと呼ばれる構造体が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。われわれはそれらを司るマイクロドメイン機能の分子メカニズムを調べるため、そのモデルとしてジメチルスルホキシド(DMSO)によって好中球様細胞へと分化するヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60の界面活性剤不溶性膜画分のプロテオミクス解析を行っている。
     DMSOによる分化誘導前後のHL-60細胞株の細胞膜から1%TritonX-100不溶性膜画分(DRM)をショ糖密度勾配遠心により調製した。DRM中のタンパク質は還元アルキル化、クロロホルム/メタノール沈殿した後に再溶解し、プロテアーゼ消化してペプチド混合物とし、ナノフロー液体クロマトグラフィー/質量分析によるショットガンプロテオミクス解析を行い、試料中のタンパク質を同定した。また、一部の注目するタンパク質については同定の際に出現したペプチドの中から適当な配列について選択し、該当する安定同位体標識ペプチドを合成して内部標準物質として添加して定量を行った。
     ショットガンプロテオミクス解析の結果、DMSOによる分化誘導前後のHL-60細胞膜のDRMから120 種類以上のタンパク質を同定した。この中には機能未知の膜タンパク質も含まれていた。このうち、分化誘導前後に特異的に発現されているタンパク質をそれぞれ41種類、25種類検出した。LysまたはLeuを安定同位体標識した内部標準ペプチドは13種類のタンパク質について合成し、絶対定量を行った。その結果HL-60細胞においてDMSO刺激により発現抑制されることがすでに知られているトランスフェリンリセプターは分化誘導により激減し、またflotillin1およびflotillin2は分化誘導により増加することを確認できた。現在、分化誘導によって発現の変化するタンパク質に関してその機能と分化や貪食能との関連を調べている。
グローバルプロテオミクス
  • 大石 正道, 前田 忠計
    セッションID: S1-2-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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     一次元目にアガロースゲルを用いた二次元電気泳動(アガロース2-DE)法は分子量10万以上の高分子量タンパク質を酵素切断しないで解析できるので、同一遺伝子産物のアイソフォーム解析に有効な方法である。しかし、生体試料の生物種、または使用する細胞や組織の種類によって解析の難易度が異なる。骨格筋、心筋、肝臓、腎臓は比較的安定した2-DEパターンが得られるが、DNAを多く含む脾臓や胸腺、ムチン型糖鎖を多く含む舌下腺、プロテアーゼを多く含む小腸、膵臓および脳、骨などの硬組織、高分子量タンパク質の一種チログロブリンを大量に含む甲状腺などは解析が難しかった。現在、我々は、これら解析が難しい組織においても個別に最適条件を決定して、プロテオーム解析に利用できる2-DEパターンを出すことに成功している。  我々の研究室では、医学部や薬学部などの複数の研究室と共同で多種多様な生体試料における疾患プロテオーム解析を行っているため、個別疾患ごとに、目的の細胞・組織に最適化した試料調製法の開発に取り組み、できるだけ多種類の高分子量タンパク質を解析できる条件の検討を行ってきた。  その中でも特に、SDS-PAGEでは解析可能であるのに2-DEでは解析できない難溶性タンパク質をどのようにして2-DEで解析するかに焦点を絞って実験を行った。その結果、SDS-PAGE用サンプルバッファー中で組織をホモジナイズし、7M尿素、2Mチオ尿素、CHAPS、DTTを含むイモビライン用抽出液で10倍に希釈し、ミリポア社の遠心式フィルターによって濃縮すると同時にSDS濃度を10分の1に低下させた試料を等電点電気泳動用に用いると、これまで検出されなかった2-DEパターン上の高分子領域の位置にスポットが多数検出されるようになった。このことから、SDS存在下でないと一次元目のアガロースゲルに入らないタンパク質成分が多数存在することが明らかになった。これらのタンパク質は等電点電気泳動でフォーカスしてスポットを形成していたので、泳動中にSDSがタンパク質分子からはずれると推測された。さらに、高分子量タンパク質を扱う場合の重要なポイントとして、二次元目SDS-PAGEゲル中のSDS濃度をLaemmli法の0.1%から1%にあげたことがあげられる。分子量67kDaから100kDa付近の高分子量領域で帯状にパターンが抜ける現象が見られることがあるが、SDS濃度を上げることでこの問題を解決した。
  • 山下 亮, 井狩 高平, 浜田 圭子, 安田 和基, 鏑木 康志
    セッションID: S1-2-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    近年、糖尿病の増加に伴って、糖尿病性腎症に罹患する患者数が増加しており、同時に糖尿病性腎症を基礎疾患として持つ慢性透析患者の割合も多くなっている。現在、糖尿病性腎症は微量アルブミン尿にて診断され、さらに糖尿病性腎症に特異性の高いIV型コラーゲンなども尿中マーカーとして用いられている。微量アルブミン尿はさらに脳梗塞や心血管系疾患の予測因子としても知られており、他の尿中のタンパク質も疾患マーカーとして潜在的な可能性を持つと考えられる。 尿中のタンパク質は生体の状態変化に伴って変動することから、様々な疾患で特異的なマーカーの探索のため尿のプロテオーム解析が行われている。しかしながら尿中のタンパク質前処理法は確立しておらず、様々な方法が提案されているが、最近の研究では有機溶媒による沈殿法や限外ろ過膜を用いた濃縮法などが多く用いられてきている。我々は糖尿病患者尿のプロテオーム解析により、糖尿病性腎症への進行の臨床指標となりうる新規の早期診断マーカーや心血管系疾患などの予測マーカーの探索を目標として、尿タンパク質の2D DIGE解析応用への条件の最適化を検討した。回収した尿は限界ろ過にて濃縮を行い、Albumin and IgG Removal Kit (GE Healthcare社)またはMultiple Affinity Removal Spin (MARS) Cartridge (Agilent社)にて高含有量タンパク質の除去を試みた。試料を再濃縮・バッファー置換を行った後にCyDyeにてラベルし、二次元電気泳動を行った。試験紙法にて尿タンパク陰性の尿では、ヒト血清を対象としている両者のカラム共にタンパク量の回収率は約70%であり、泳動像からはほとんどのAlbuminとIgGのスポットが消失していた。さらにMARS CartridgeではTransferrin, Antitrypsin, Haptoglobinの消失も確認された。タンパク質スポット数はカラム未使用と比して大きな変化はないものの、Albuminなどにマスクされていたタンパク質スポットが検出可能となった。以上の試料前処理法により約10mlの尿から回収したタンパク質で二次元電気泳動が可能となったが、さらにタンパク濃度の高い尿タンパク陽性の尿の2D DIGE解析ではアフィニティーカラムを用いた高含有量タンパク質の除去がより有効であると考えられる。
  • 倉地 須美子, 田中 拓, 笠間 絵美, Solovieva Elena, 金井 宗良, 倉地 幸徳
    セッションID: S1-2-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    先に我々は血液凝固因子の遺伝子発現解析から、最初の年齢軸ホメオスタシス調節機構であるASE/AIE年齢軸遺伝子調節分子機構を同定した(参照総説J Thromb Haemost 2005;3: 909-914)。この基盤に立って生理反応恒常性調節の統合的解明を目指し、マウスを解析モデルに肝臓核蛋白質の一生スパン年齢軸に沿った発現変動の網羅的プロテオミクス解析を進め、興味深い進捗成果を得たので報告する。  本解析では、1、3、6、12、18、21月齢雄マウスの肝臓から核分画蛋白質を調整し、2次元電気泳動(2DGE:pH 4_-_11領域)で展開、分離された蛋白質スポットの定量を行うと共に、質量計(MALDI/TOF/MS)解析システムを用いて網羅的に同定した。3ヶ月齢マウスの肝核分画から、約4500の蛋白質スポットが2DGE展開され、各スポットのMALDI-TOF/MSペプチドマスフィンガープリント(PMF)解析により、2500以上がユニークな蛋白質として同定された。他エージのマウス肝臓から得られた解析結果との比較をPDQuest、GeneSpring解析ソフトを用いて行い、年齢依存的発現変動パターンの解析を行った。その結果、一生スパンでほとんど発現が変化しない蛋白質群、老化段階で特異的に上昇、または減少の方向に変動する蛋白質群、特定のエージ段階で特異的に変動する蛋白質群、等、の存在が明らかになり、又、年齢軸に沿って幾つもの発現調節機構が複雑でダイナミックに作動している事が可視化され、ASE/AIE型調節機構に加えて、まだ解明されていない幾つもの基本的年齢軸遺伝子発現調節分子機構が存在し、作動している事が示唆された。現在、得られた情報のデータベース化も進んでいる。これらの成果は、一生スパンに亘る生理反応の年齢軸変動解析を始め、老化や肝疾患研究、ストレス/チャレンジ負荷、早期エージ段階における栄養状態による影響のエージ長軸テスト、等、epigeneticテストを容易にすると共に、既成の、或いは新規に開発される医薬品薬の評価や早期診断技術の開発の促進など、産業応用の可能性も大きいと考えられる。
メタボローム解析
  • 伊藤 徹, 平井 聡
    セッションID: S1-3-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    質量分析器により得られたペプチド断片の発現データを多検体間で一斉比較を行うことは、質量分析器由来データが複雑であるため、ソフトウェア・ツールがなければ実質上困難である。メタボローム解析用に開発されたソフトウェアPhenomenome ProfilerTM (Phenomenome Discoveries社)は、各種代謝産物の質量分析器由来データを処理し、高度な統計処理により発現プロファイリングを行うために、開発されたソフトウェアである。このソフトウェアを用いてLC/MSにより、ペプチドの発現プロファイルの一斉解析を行った結果を報告する。 予備的な実験として次のように市販ヒト血清サンプルを分析した。市販ウシ血清アルブミンの6種類の希釈系列を作成し、市販ヒト血清サンプルに加え、トリプシン処理を行った。処理後のペプチド混合物をLC/MS(ABI社 Q-Star)を用いて、フルスキャン・モード(イオン化源ESI)により測定を行った。分析誤差を考慮するため、各サンプル3回の反復で行った。測定結果はPhenomenome ProfilerTMにインポートし、データ較正 、ピーク・ピッキングを行った後、ペプチド発現の全体的な解析を行った。 アレイ・クラスタリングにより異なるペプチドのピークとして認識されたものは計2,362種類であった。このうち423種類がすべてのサンプルで同等の発現をしていると認められた。コントロールとして加えたウシ血清アルブミン消化断片と同様の発現パターンを示すピークとして40種類が同定された。これらは同様の発現プロファイルを示すペプチドとして容易にクラスタリングされた。また同抽出・イオン化条件、測定モードではウシ血清アルブミンの添加量として少なくとも750fmolの違いを検出可能であることが各系列の反復実験から容易に解釈された。 迅速な発現プロファイルの比較ならびにバイオマーカー候補の検出のために同ソフトを用いた解析法が有用であることが示唆された。各種分析モードによるデータを組み合わせること、複数種類のサンプルを組み合わせることにより、有用な発現プロファイリング法に発展することが期待される。
  • 加藤 智啓, 増子 佳世, 遊道 和雄, 唐澤 里恵, 片野 雅淑, 向 陽
    セッションID: S1-3-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    血清に存在する蛋白質は、アルブミンやイムノグロブリンなど主要20種ほどの蛋白質でそのほとんどが構成され、それらは疾患の標識分子や病因関連分子とはなりにくい部分である。疾患標識分子や病因関連分子が存在するとすれば、それ以外のいわゆるディーププロテオームの部分であり、さらに、その一部に過ぎない低分子ペプチドに目を向けなくてはならない。我々はこれに対処するため、ブルカー社のMALDI-TOF/TOF型質量分析器およびClinProt解析システムを用いて、血清中に存在する分子量おおよそ5kD以下の小ペプチドに焦点をあて、それらの網羅的検出と同定、さらに検出ペプチドの機能解析を試みた。具体的には、強皮症、関節リウマチ、変形性関節症、全身性エリテマトーデス、血管炎など多くの自己免疫性疾患患者血清を対象として検討した。すなわち、C18ビーズ、陽・陰イオンクロマトビーズなどを用いて上記患者血清中より小ペプチドを精製、まずMALDI-TOFでペプチドを検出した。そのプロファイルをClinProtシステムにて解析し、疾患特異的ペプチドの選定を行った。さらに、MALDI-TOF/TOFを用いたde novo法により アミノ酸配列を決定した。その際、場合により2次元クロマトグラフィーを用いて精製ペプチドを詳細に分画し、同定効率を高めた。これらの方法により上記の様々な疾患で疾患特異的に出現あるいは増加するペプチドの検出に成功した。また、一部はペプチドを合成し、それを用いた検討で、それらに細胞増殖活性などの生理活性があることも突き止めた。これら一連の成果について報告する。
  • 根本 直, 片岡 妙子, 有福 和紀, 安藤 一郎, 金澤 健治, 藤原 正子, 久原 とみ子
    セッションID: S1-3-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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     オミックス研究の進展により、非常に詳細かつ多量な情報が得られるようになってきたが、それらを個体レベルにフィードバックして理解することは病態などの理解のために重要である。
     我々は、各個体の尿の水素核一次元NMRスペクトルを数値化して統計解析を行うことでその個体の代謝の状態を可視化解析するメタボローム解析の一手法であるNMRメタボリック・プロファイリング(NMR-MP)法について研究を進めている。本手法は、尿を試料として利用するので非侵襲、前処理も簡便な計測方法であり、従来のNMR法の様に複雑なNMR信号の帰属や線形の解析などを行う必要がない。前回、我々は高血圧自然発症ラットとその対照群の尿の解析により概日リズムを含む生理状態を計測できることを見出し報告したが、今回は新生児等の先天性代謝異常尿を用いてNMR-MP法による計測・評価を試みたので報告したい。先天性代謝異常を示す新生児には、栄養をコントロールする適切な治療を行えば重篤な知的障害などを回避することが可能である。先天性新生児代謝異常は尿を用いたGC-MS法により130種類以上の診断が可能であることが久原らによって報告されている一方、実際の新生児マス・スクリーニングは踵からの採血によって行われているが、多数ある代謝異常のうちごく特定の6種類に限られており、全国レベルでは時おり見逃し事例が見られる。
     AからDの代謝異常と診断された新生児尿等を健常児尿と供に診断結果未知のままNMR装置(JEOL-ECA500)にて測定し、ALICE2 for Metabolome version1.0(JEOL)を用いて処理と解析を行った。同ソフトに実装されている統計的手法であるPCAと部分空間法の一種であるSIMCA解析を繰り返すことにより健常群と異常群を識別することが出来た。また、同一の代謝異常の症例と診断された試料であってもその状態には多様性を認めた。
     代謝物の総体を計測するNMRメタボリック・プロファイリングでは尿を表現型の一つと捉えて評価することが可能であり、極微量のホルモンや腫瘍マーカなどの検出は感度の高い質量分析が、また直接遺伝子やタンパク質の状態を計測するにはチップシステムが優れているが、直接マーカ物質や遺伝子を標的として検出することなく結果として生じた生体内の代謝の変動を検出する本手法はオミクスデータの理解を助ける計測方法として極めて有効であると結論した。
  • 藤原 正子, 根本 直, 安藤 一郎, 片岡 妙子, 有福 和紀, 金澤 健治, 名取 泰博
    セッションID: S1-3-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    代謝物総体を計測するメタボロミックスは現在質量分析法が先んじているが、我々は、NMRの水素核一次元スペクトルを用いた手法としてNMRメタボリック・プロファイリング(NMR-MP)法を提案し研究を進めている。本手法は、多検体の尿スペクトルを数値化して統計解析をすることで各個体の代謝の状態を可視化解析する方法である。NMR測定は前処理もごく簡便な一次元水素核計測であり、従来のNMR法の様に複雑なNMR信号の帰属や線形の解析などを行う必要がない。本会でもヒト先天性代謝異常尿を用いたNMR-MP法によって病態の把握が可能であることを報告している。  本報告では正常ラットに糖尿病発症試薬を投与した尿を用いたNMR-MP法によって病態や代謝の変化の把握が可能であることを示す。Wistarラット20匹のうち左腎臓摘出後、Storeptozotocin(STZ)投与した15匹と非投与の対照群5匹の尿を、投与後の時間経過を追って採取し、500MHz NMR (JEOL-ECA500)を用いて1Hスペクトルを測定した。これらのスペクトルをNMRメタボロミクス用ソフトウエアALICE2 for Metabolome (JEOL) version1.0を用いて多変量解析した結果、PCAスコアプロット上で投与群と対照群は明瞭に区別されることがわかった。投与群の中で4匹は残りの11匹とそれぞれに異なる挙動を示した。これらはスペクトルの比較によっても明瞭である。PCAスコアプロット上で、対照群、投与群それぞれに経時変化も観測されたのでSTZ投与の影響のみならず左腎摘出手術の影響が重なって出ていることが推測されるが、これについてはさらに考察を要する。PCAの発展的手法であるSIMCA解析によって、対照群からの距離を比較する方法で代謝の個体差が明らかになった。個別の化学成分の同定なしに全体の代謝の変化を検出したNMR-MP法であるが、この結果に蛋白や遺伝子レベルでのデータがあればより深いオミクスとしての理解が可能になる。
  • 山本 行男, 秋田 朗子, 佐藤 洋, 久保 英夫, 山岡 和子, 島村 眞里子, 大久保 岩男, 林 健児, 西村 欣也, 羽里 忠彦
    セッションID: S1-3-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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     疼痛制御物質 enkephalin の代謝酵素である dipeptidyl peptidase (DPP) III は、ブラジキニン発痛系において本酵素の阻害物質が痛み刺激を抑制することから、疼痛調節能を有することがわかってきた。一方、中枢系に存在し、疼痛や睡眠に関与することがわかってきたプロスタグランディン(PG)D2 が新たな神経伝達物質として注目されてきている。PGD2 の生合成酵素には二つのタイプが知られ、一つは痛みや睡眠に関与するlipocalin タイプ (L-PGDS)で、もう一つは炎症に関与する hematopoietic タイプ(H-PGDS)である。前者は脊髄液における主要な蛋白質であると報告されている。今回、疼痛病態解析のアプローチとして、脊髄液に存在する疼痛制御物質(DPPIII とL-PGDS)のプロテオームによる動態解析を行った。
     脊髄液は、アルブミンとイムノグロブリンの除去操作後、 Immobiline DryStrip (pH 3-10, Amersham Biosciences) を用いて一次元電気泳動を、更に10 % アクリルアミド濃度を用いた二次元電気泳動により蛋白質を分離した。泳動ゲルは銀染色により蛋白質のスポットを確認した。差異解析 (2D-DIGE) は、比較対照群に含まれる蛋白質を蛍光標識した二次元デファレンシャル解析により行った。蛋白質の同定は、発現変化を示したスポットを切り出し、ゲル内でトリプシン消化した後、抽出成分を脱塩し質量分析(4800 MALDI TOF/TOF Analyzer, Applied Biosystems)を行った。脊髄液は、疼痛病態(関節炎、前立腺癌、子宮癌)患者およびそれ以外の脊椎麻酔予定者(ヘルニア、抜釘:コントロール)より趣旨説明の後、同意を得て使用した。
     プロテオーム解析により脊髄液中におけるL-PGDSを同定できた。コントロール群と病態群の差異解析から、前立腺癌患者においてその発現の増大が認められた。一方、DPPIII は脊髄液中での酵素活性は検出できるが、プロテオーム解析での検出が困難であった。現在、特異抗体を用いたELISA およびWestern Blotting によりプロテオーム解析の結果を確認している。疼痛関連物質の動態が病態の変化を反映しているか追究していきたい。
質量分析と多次元解析
  • Meno Kohji, Yamaguchi Eiji, Fujimoto Hirotaka, Tanigawa Tetsuo, Hiroyu ...
    セッションID: S1-4-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    Hepatic fibrosis is an important consequence of inflammatory disorders in the liver with hepatitis C virus, and ultimately progresses to cirrhosis and hepatocelluler carcinoma. Diagnosis at the early stage of chronic hepatitis C and monitor the progress to cirrhosis is important for the liver cancer prevention. Here, we established comprehensive and quantitative MALDI-TOF mass spectrometry-based serum peptide profiles for biomarker discovery in the liver diseases. Peptide profiles were obtained from 2D-µHPLC MALDI-TOF MS of low molecular weight protein fraction in serum from hepatitis/cirrhosis patients (each 20 cases) and 20 normal controls. Peptides specifically observed in the diseases were found on the differential analysis software, DeView, originally developed by us. The peptides from each sample were mapped in 2-dimension consist of m/z and HPLC fraction, and intensity of signals were compared among samples. These potential biomarkers for inflammation and fibrosis were identified by MS/MS or MSn analysis on MALDI TOF-TOF MS or MALDI-QIT-TOF MS. As a result, 193 peptides showed 0.8 or more value in Area Under Curve (AUC) of Receiver Operating Characteristic (ROC). Among them, 72 peptides were unique in the chronic hepatitis.
  • 肥後 大輔, 鷹井 宏, 新井 悦郎
    セッションID: S1-4-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    臨床応用を前提とした診断マーカ等のバイオマーカ探索が注目されている。疾患等における発現タンパク質プロファイル変化の比較解析と、その後に続く質量分析法(MS)によるタンパク質同定がこの探索過程の中心となるが、これらを総合的に効率化し感度向上させるための技術も各種開発されている。 近年のトピックスとしては、抗体カラムによる血漿中メジャータンパク質の選択的分離による検出効率の向上、ゲルを用いない2次元LC(2D-LC)システムによるタンパク質のままでの分画による同定範囲の拡大、及び分画後のタンパク質状態での解析、質量分析計のバリエーションによる同定精度・感度の向上が上げられる。 本演題では、アルブミン等の血漿メジャータンパク質12種を選択的に分離するProteomeLab IgY-12 プロテオームパーティショニングキット(ベックマン・コールター社)、及び翻訳後修飾変化も踏まえてタンパク質のまま液相状態での2次元分画を行う2D-LCシステム ProteomeLab PF2D(ベックマン・コールター社)を通じて比較プロテオーム解析を行い、さらに分画後のLC-ESI-Q-TOF法によるタンパク質同定をMicro TOF Q(ブルカー・ダルトニクス社)により行った過程を紹介する。 メジャータンパク質の選択的分離の効果については、未分離の場合に比べて特にアルブミンやトランスフェリン相当のタンパク質ピークが2D-LCシステムによる分画結果において減少し、それらの部分で隠れていたピークが観察された。 食前飢餓状態と食直後のヒト血漿タンパク質についてメジャータンパク質を選択分離後、2D-LCによりこれらをそれぞれ分画した。クロマトフォーカシング法による1次元目分離pI 5.8_から_6.1相当部分の2次元目分離でピークの差異が認められた部分について、溶出されたタンパク質をトリプシン消化し、LC-ESI-Q-TOFにて同定を試みたところ、integrin-linked kinase-associated protein phosphatase 2C、golgin-245、putativeが検出された。
  • 大久保 雅隆
    セッションID: S1-4-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    超伝導検出器を飛行時間質量分析計の検出器に用いた場合、その検出原理から、質量数に依存せず100%の粒子検出効率が予想される。また、イオン、中性粒子に拘わらず、たんぱく質のような高分子の運動エネルギーの測定が可能である。これらの特性は、従来では不可能であった質量分析を可能にすると期待される。 0.3 Kといった極低温環境では、熱雑音が室温の26 meVに比べて0.026 meV程度になる。このため、非常に小さな数meVの超伝導エネルギーギャップを使って、常温動作では不可能な計測性能の実現や、事実上熱雑音が全く無いノイズレスの計測を実現できる。我々は、超伝導検出器の出力低下は、1 MDa以上までは起こらないことを生体高分子(標準ペプチド、リゾチーム、牛血清アルブミン等)、人工高分子(ポリスチレン)にて実際に確認しており、100%の検出効率が達成できることを実験的に実証した。また、従来、質量分析はイオンのみが分析対象であった。これに対して、超伝導検出器では、粒子の運動エネルギーを測定する能力を活かすことにより、イオンだけでなく中性粒子もその分析の対象とすることができる。
モデル動物のプロテオーム解析
  • 由木 大, 田原 俊介, 藤間 武志, 柳田 光昭, 田中 あかね, 松田 浩珍, 高橋 信弘
    セッションID: S1-5-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    アトピー性皮膚炎 (AD)は強いかゆみを伴った慢性的な皮膚湿疹をおこすアレルギー性疾患である。近年、AD患者が急速に増加し、その解明および治療法の確立が求められているが、この疾患には遺伝的・環境的な多くの因子が複雑に絡み、疾患の発症原因や病態進行の詳細なメカニズムはまだ不明である。NC/Ngaマウスは自然環境下で8週齢頃からヒトADに類似の皮膚炎を自然発症するが、specific pathogen free(SPF)環境下では発症しない。このような特徴及び他の特徴から、NC/NgaマウスはADのモデル動物として確立されてきている。我々はADの病態発症・進行機構を調べるために、NC/Ngaマウスの頸部リンパ節が病態発症とともに肥大化することに注目し、発症前後の発現プロテオームを二次元電気泳動によって比較した。その結果、58個のタンパク質スポットに変動を確認し、そのうち17個のスポットをPMF法によって同定した。同定タンパク質の中で、小胞体局在のタンパク質であるBiPとgp96は複数のスポットで同定され、発症に伴って分解物が増加していることが示唆された。さらにこの分解物の切断部位をMALDI-TOF MSで得られたペプチド断片とスポットの等電点、分子量から推測したところ、どちらのタンパク質もC末端側に持つ小胞体残留シグナルが切断されていることが予測され、この切断によってBip, gp96が細胞外に分泌されている可能性が示唆された。
    最近、gp96の属するheat shock protein familyは細胞外での免疫学的な機能が報告され、gp96についても細胞障害性T細胞の活性化、抗原提示細胞のサイトカイン産生上昇、抗原ペプチドの再提示などの役割を持つことが明らかになった。そこで病態発症に伴ってBiP, gp96が細胞外に分泌され、NC/Ngaマウスの免疫機構に何らかの影響を与えている可能性について検討した。NC/Ngaマウス頸部リンパ節細胞表面での局在と存在量をフローサイトメトリーによって調べたところ、予想外に病態発症に伴って減少していることがわかった。本発表では、これらの結果及び他の結果から、少なくともNC/Ngaマウスの病態進行に伴う頸部リンパ節でのBiP, gp96の発現及び動向の変化と病態に何らかの関連性について議論したい。
  • 坂本 安, 廣澤 成美, 鈴木 悠子
    セッションID: S1-5-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    プラスチックの可塑剤に用いられるフタル酸エチルへキシルDEHP[Di-(2-ethylhexyl)phthalate]は、内分泌撹乱作用に関して懸念される化学物質の1つであるが、作用メカニズムの解明には至っていない。本研究は、親ラットに投与したDEHPが胎盤、母乳を通し胎児期、乳児期の仔ラットの臓器や生殖機能に及ぼす影響に関して蛋白化学的検討を行うことを目的として遂行した。妊娠ラットF344(♀)をコントロール群、妊娠期間投与群、授乳期間投与群の3群に分け、妊娠期間投与群には妊娠日齢2日目から出産前日(約21日)までに15回 DEHP(0.5g/kg/day)をゴマ油に混合し親ラットに経口投与した。授乳期間投与群には、出産2日目から離乳(約21日)までに17回DEHP(0.5g/kg/day)を同様に親ラットに投与した。コントロール群にはゴマ油のみを親ラットに経口投与した。投与終了後、親ラットから隔離して飼育を始め、4ヶ月後に仔ラットを解剖し臓器を摘出した。  実験の結果、それぞれの群から生まれた仔ラットの体重に有意な差は見られなかったが、妊娠期間投与群の親ラットから生まれた雄仔ラットの精巣重量はコントロール群と比較し有意な減少が見られた(P<0.05)。また、DEHPを投与した群の(妊娠期間、授乳期間)雄仔ラットの脳下垂体重量はコントロール群と比較し有意に増加した(P<0.05)。このことからDEHP投与は、雄仔ラットの精巣及び下垂体に何らかの影響を有していると推察されため、両組織から可溶性蛋白を抽出し、コントロール群、妊娠期間投与群、授乳期間投与群の三者間について、プロテオーム解析を行った。等電点電気泳動には、Immobiline DryStrip pI3-10NL 24cmを用い、二次元目には24.5 ×18 cmゲルを用い、CBBにて染色を行った。脳下垂体について画像解析ソフトによる解析を行った結果、コントロール群に対して、それぞれの投与群の蛋白発現量に差が見られるスポット3種類が見出された。これらの蛋白スポットの増減は、DEHPの投与による内分泌系への影響を反映するものと考えられ、DEHPの内分泌撹乱作用のメカニズムの解明に役立つものと思われる。精巣の蛋白解析については、現在遂行中である。
  • 田伏 洋, 皆川 宏貴, 次田 晧
    セッションID: S1-5-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    近年、線虫C.elegansなどのモデル動物で寿命に関わる変異体が分離され、それらを用いた分子生物学的研究から寿命を制御する遺伝子メカニズムの一端が解明されてきている。線虫においては、耐久型Dauer幼虫の形成に関わるインスリン受容体経路上の遺伝子であるage-1daf-2の変異が長寿をもたらすことが明らかにされ、この経路が老化メカニズムに普遍的に関わる可能性が指摘されている。また、線虫の加齢に伴う遺伝子発現プロファイルが遺伝子マイクロアレイを用いて解析され、ヒートショックタンパク質の発現低下やトランスポゼースの発現上昇が報告されている。私たちは、加齢に伴うプロテオームの変化を見るために、成虫期に達した後、2、4および6日目にサンプルを採取し、タンパク質の発現プロファイルの変化を2D-DIGE(DIfference Gel Electrophoresis)により解析した。2次元電気泳動ゲルのイメージをサンプル間で比較することにより、時間経過に伴うタンパク質発現量の変動を見るとともに、ゲルからを回収したタンパク質をペプチドマスフィンガープリント法で解析し、約150のスポットでタンパク質を同定した。その結果、加齢に伴いエノラーゼなど炭水化物の代謝酵素の中に発現量が顕著に上昇するものが見られ、エネルギー産生系の変化が示唆された。また、プロテアーゼの中にも発現上昇が見られたほか、脂質代謝に関わる酵素には発現量の低下するものも認められた。一方、成虫期以降のタンパク質発現の変動とDauer幼虫形成に伴う発現変動を比較したところ、同様の発現パターンを示すものもが見られ、加齢とDauer幼虫形成が共通の制御メカニズム下にあることと符合していた。これらの結果と寿命に関わる変異体におけるプロテオーム解析について併せて報告する。
  • 上中 崇裕, 永井 宏平, 池上 春香, 松本 和也, 森本 康一, 佐伯 和弘, 細井 美彦, 入谷 明
    セッションID: S1-5-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    卵巣の機能は脳下垂体から分泌される2つのホルモンによって制御されている。ひとつは卵胞刺激ホルモン(FSH:follicle-stimulating hormone)で、これは卵子を育む卵胞の発達を促進する。その後、FSHにより十分に発達した卵胞に作用するもうひとつのホルモン、黄体形成ホルモン(LH:luteinzing hormone)が卵巣に届き、卵胞からの排卵が誘起される。本実験では、FSH様作用を持つ妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG:Pregnant mare serum gonadotropin)とLH様作用を持つヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG:Human chorionic gonadotropin)の投与によるPMSG-hCG法を用いて実験動物であるマウスの卵巣を調整した。卵巣の解析ではこれまでに、ホルモンレセプターやイオンチャネルなど特定のタンパク質に注目した研究がなされてきた。また、排卵中の変化を網羅的に研究した例では、組織の質量を測定した報告がある。しかし卵巣組織に起こる現象を発現しているタンパク質全体の変化から、網羅的に研究した例はない。本研究では、卵巣に含まれる全タンパク質の抽出法、二次元電気泳動法、およびタンデム質料分析器を用いた網羅的タンパク質の同定法を試みた。 まず、ICR系マウスから処理前区、PMSG投与後24時間区、PMSG投与後48時間区、hCG投与後20時間区の卵巣をサンプルとした。卵巣で発現しているタンパク質を網羅的に解析することを目的にpI3-11、10%アクリルアミドゲルを用いて二次元電気泳動を行った。その結果1400以上のタンパク質を分離することに成功し、そのうち256スポットにおいてMOLDI TOF-MSを用い、解析・同定を行った。その結果、transferrinや、glutathion S-transferase、heat shock proteinなど生体で多く発現しているタンパク質の192スポットを同定した。さらに、各区画の卵巣から得たタンパク質抽出液を、二次元電気泳動を行い経時的な発現量の変化を測定した。その結果、ホルモン投与後に発現量の上がるtransketolaseやhCG投与後20時間後に発現量が上昇するvimentin、またホルモンの投与後に発現量が減少する14-3-3 proteinなど様々な挙動を示すタンパク質を解析した。また処理により解糖系クエン酸回路に寄与する酵素の発現が一様に上昇した。以上の結果から性腺刺激ホルモンの感作を受けた卵巣では排卵までの過程で解糖系のタンパク質の発現量が亢進していることが示された。 尚、本研究はJST和歌山県地域結集型共同研究費で行われた。
バイオマーカー1
  • 武内 徹, 中西 豊文
    セッションID: S1-6-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    関節リウマチは原因不明の全身性炎症疾患で、早期より進行性の関節破壊をきたすことが特徴である。近年、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの過剰産生と生体の抑制メカニズムの機能不全が関節リウマチの発症に重要な役割を果たしていると考えられ、これらを標的とした治療すなわち抗TNF-α療法をはじめとする生物学的製剤による治療の登場により関節リウマチも寛解が期待できるようになってきた。これらの有効な治療を早期導入し安全に使用するためにも早期診断・病態把握・予後予測が重要であり、これらを把握するためのマーカータンパク質の解析が求められている。我々は、関節リウマチの病態把握・予後予測のためのマーカータンパク質の解析するために、抗TNF-α療法を行った患者の治療前後の血清および健常者血清を用いて2次元電気泳動法によるディファレンシャルディスプレイを行った。血清は高濃度含まれる蛋白は多親和性カラムにより除去し透析後、二次元電気泳動し発現に差のあるタンパク質を質量分析あるいはWeb上の血漿タンパクのプロテインマップとの比較により同定した。血清タンパクは抗TNF-α療法により臨床症状の改善とともに変動し正常血清とほぼ同じパターンとなった。CRP、C3などの急性相反応タンパクは減少し、RBP、Transthyretinは増加した。また、治療によりアポタンパクの変動がみられ、脂質代謝への影響が示唆された。以上より、これらの解析が関節リウマチの病態把握・予後予測解析の一助になると思われる。同様の手法で早期リウマチ患者血清のプロテオーム解析を進めている。
  • 苗代 康可, 相馬 仁, 小海 康夫
    セッションID: S1-6-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    近年,関節リウマチに対する治療は,生物学的製剤の登場を筆頭にめざましく進歩している.一方で,感度・特異度ともに高いバイオマーカーが存在しないため,診断に難渋することが多い.そこで,関節リウマチ患者における疾患活動性や治療効果に関連した新しいバイオマーカーを見いだすために,質量分析法(SELDI TOF-MS)を用いた血漿蛋白の検討を行った.対象は抗TNF-αモノクローナル抗体で治療を受けた関節リウマチ患者の治療前後とその他の炎症性疾患患者血清および健常コントロールの血漿とした。解析の結果、関節リウマチの治療前後で発現が変化する2つの分子を見出した。一方は治療前の関節リウマチ患者で高く,関節リウマチの活動性が高い群と低い群に区別することが可能であった。また,後者のピークは健常人で高く、関節リウマチ患者で低下しており、また治療後の関節リウマチ患者で増加することから関節リウマチ患者と健常人を区別するマーカーとして有用と考えられた。今回この2つの分子をアミノ酸シーケンサーにより同定し、これらの分子の臨床検査上における有用性を検討したので報告する。
  • 須永 雅彦, 朝長 毅, 根津 雅彦, 曽川 一幸, 小寺 義男, 江原 正明, 横須賀 收, 若田部 るみ, 野村 文夫
    セッションID: S1-6-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】原発性肝細胞癌(以下HCC)は肝硬変(以下LC)などの慢性肝疾患を母地として発症する。HCCの早期診断体系において、現在利用されている腫瘍マーカー(AFP,AFP-L3,PIVKA-_II_)はその診断効率において超音波検査などの画像診断に及ばないのが現状であり、新たなマーカーの探索が急務である。そこで表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF MS)を原理とするプロテインチップシステムを用いて、C型肝炎ウイルスによる肝硬変(C-LC)からの肝癌(C-HCC)発生の診断に役立つ新たなマーカーの探索を特に早期癌症例に焦点を当てて行った。【方法】対象はC-LC群20例、C-HCC群40例である。HCCはStage_I_、_II_群の20例と、Stage_III_、_IV_群の20例からなる。各患者の血清を用いて検討した。初めにイオン交換レジンを用いて血清の前分画処理を行い、次に各分画毎に各種ケミカルチップを用いて発現解析を行った。(ここまでBiomek 2000、Beckmanを用いた)作成したプロテインチップは、Ciphergen社のプロテインチップリーダーPBS2cにより測定した。データ解析はProteinChip Software 3.2およびCiphergenExpress Software 3.0により行った。マルチマーカー解析にはBiomarkerPatterns Software5.0を用いた。【成績】シングルマーカー解析により、3群間で発現に有意差があり、LC群からStage_I_、_II_HCC群、さらにStage_III_、_IV_HCC群へ病態の進行に伴い、発現が増加、あるいは低下するペプチドピークを見いだし、現在精製同定中である。また同時にマルチマーカー解析も行い、peak patternから疾患群判別のためのdecision treeを作成している。【結論】SELDI-TOF MSにより、多数の血清ペプチド、タンパク質の発現を網羅的に測定し、その結果HCC特異的なペプチドを見いだした。これにより、HCCの診断において、従来の疾患マーカーに加えて新たな診断マーカーが得られる可能性があると考えられる。
  • 蔵満 保宏, 森 早耶香, 良沢 昭銘, 藤本 正憲, 山本 邦子, 坂井田 功, 沖田 極, 中村 和行
    セッションID: S1-6-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     膵癌は最も予後の悪い癌の一つであり、ほとんどの化学療法や放射線療法が効果が無く、早期の外科切除が唯一の有効治療法となっている。最近、膵癌に唯一有効性が認められる化学療法剤gemcitabineが用いられるようになってきたが、平均生存日数は未だ7ヶ月未満である。それゆえ、加療予定の患者の膵癌細胞がgemcitabine感受性か否かを予め知っておくことが、有効な治療法を行う上で非常に重要となる。  今回我々は4種類のgemcitabine感受性膵癌細胞株と2種類の抵抗性膵癌細胞株を用いて二次元電気泳動法と質量分析法によるプロテオーム解析を行ったところ、感受性膵癌細胞株と比較して抵抗性株でその発現が増強している蛋白質が4種類、減弱している蛋白質が5種類同定された。
創薬プロテオミクス
  • 馬庭 二郎, マルコバーガ ジョージ
    セッションID: S1-7-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    Proteomics research is very useful throughout the entire research and development process of new drugs. Novel protein profiling technologies and platforms have increased the possibilities of identifying new drug targets and biomarkers, thus making them an important tool for developing more effective and safer drugs. Pharma and biotech companies are increasingly seeking to include biomarker information with every new CD delivered from the discovery departments. The sequencing,- and structure elucidating- capabilities by the new generation of mass spectrometers has made it possible to identify protein entities at both medium and low abundant expression regions . With respect to proteomic patterns and annotations identified from clinical samples offers a new dimension to clinical trials to evaluate the effects of drug treatment which also correlate to the mechanisms of drug action. Protein biomarkers can assist in diagnosing a disease at the biochemical level or discriminating the responses of different patients to the same medical treatment. A combination of proteomic strategies, including high resolution nano-capillary chromatography, 2-dimensinal gel electrophoresis, interfaced to mass spectrometry as well as protein microchip arrays has been recognised as important tools in biomarker discovery. Within AstraZeneca there is currently a major emphasis on the study of proteins and peptides from basic discovery to clinical development, with a global organisation to support it within the respective research and disease areas.. We have developed technology platforms that can identify biomarker candidates in a number of biofluids as well as tissue and cells.. Outlines and perspectives will be presented and discussed, exemplified by proteomics studies within various therapeutic areas of interest to AstraZeneca.
  • 平本 昌志, 由利 正利, 横田 博之, 森田 修司, 黒光 貞夫, 三田 晴久, 山田 哲夫
    セッションID: S1-7-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)
    間質性膀胱炎(IC)の尿中マーカーを見出すことを目的としてプロテオミクス技術を用いた尿タンパク質変動解析を行った。
    (方法)
    健常人とIC患者の尿タンパク質プロファイル比較解析は二次元電気泳動法、好中球エラスターゼ活性は合成ペプチド基質切断活性により測定した。
    (成績)
    二次元電気泳動解析により、IC患者尿から多数のアルブミン分解物が検出された。IC患者尿中に何らかのプロテアーゼ活性が存在すると推察し、IC患者尿からプロテアーゼを精製したところ、LC-MS解析により好中球エラスターゼが同定された。尿中好中球エラスターゼ活性は健常人(n=89)よりIC患者(n=99)において有意に高かった。IC患者の中でも膀胱容量が小さい患者群および痛みを有する患者群において高値を示し、症状の重症度と相関していることが示唆された。
    (結論)
    尿中の好中球エラスターゼはICの有望な診断マーカーであることが明らかとなった。今後、他のICマーカーと組み合わせることにより、さらに精度・確度の高いIC診断が可能になると考えられる。
  • 高橋 信弘, 辻村 輝子, 藤山 紗理, 舘川 宏之
    セッションID: S1-7-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    シクロスポリン (CsA)やタクロリムス(FK506)は、臓器移植の際の拒絶反応の抑制だけでなく、喘息やアトピー性皮膚炎あるいは自己免疫疾患の治療などに使われる極めて有効な免疫抑制薬である。これらの免疫抑制効果は蛋白質Ser/Thr脱リン酸化酵素カルシニューリンを阻害することで現れるとする知見から、CsAとFK506はカルシニューリンの阻害剤であると理解されている。しかし、カルシニューリンを阻害するためにはCsAとFK506はそれぞれシクロフィリン (CyP)とFK506結合蛋白質 (FKBP)を細胞内の第一ターゲットとし複合体を形成する必要がある。これらの蛋白質はプロリンペプチド結合のシス・トランス異性化反応を触媒する酵素 (PPIase)であり、CsAとFK506は対応する酵素活性を阻害する。このことから、これらの免疫抑制薬はPPIaseの阻害剤であるとも言える。ヒトの場合、CyP・FKBP共に少なくとも15種類のアイソタイプが見いだされ、これらは蛋白質の高次構造形成だけでなく、ステロイドホルモンレセプター・STAT5・プロラクチンあるいはc-Mybなどの転写因子の活性発現や核内への移行制御、Tecファミリーに属するチロシンキナーゼの活性発現制御、あるいはミトコンドリアの膜透過性遷移穴の制御、成長ホルモンレセプターやカルシュウムチャネルの制御、さらには、ヒト後天性免疫不全ウイルスやC型肝炎ウイルスのヒト細胞での感染性や増殖での役割など、極めて広範囲な現象に関わっている。免疫抑制薬の多岐に渡る作用のいずれかが、腎毒性などの副作用や脳溢血の際の脳細胞の破壊抑制や神経突起伸張など他の効果を引き起こすと考えられるが、これらの現象を統括的に理解し、副作用の除去や新たな臨床への応用を見いだすための分子レベルでの包括的解析は行われていない。本研究では、プロテオミクスの手法を用いて、知られているCyPとFKBPのアイソタイプに対する相互作用タンパク質あるいは作用する蛋白質を網羅的に解析し、免疫抑制薬の細胞における作用の全体像をターゲット蛋白質の機能ネットワークの観点から理解することを目的とし実験を行った。発表では、CsAとFK506の作用スペクトルとこれらのターゲット蛋白質の機能ネットワークとの関係及び用いたアプローチの有効性や問題点について議論したい。
  • 赤間 邦子, 龍野 良佑, 大津 昌弘, 祭 友昭, 中村 愛, 戸田 年総, 中山 孝, 井上 順雄
    セッションID: S1-7-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    神経幹細胞は自己増殖能とともに神経細胞やグリア細胞への分化能を持っている。この性質を利用して、神経幹細胞あるいは神経幹細胞から分化した神経系細胞の移植が進行性の神経変性疾患の新たな治療法となり得ると期待されている。胚性幹細胞(ES細胞)から分化させた神経幹細胞のタンパク質発現の特徴はまだ充分わかっていない。そこで、Neural Stem Sphere法によりマウスES細胞から分化させた神経幹細胞のタンパク質発現プロファイルを調べた。まず、ES細胞をアストロサイト条件培養液中で浮遊培養することによりNeural Stem Sphere (NSS) と名づけた細胞集合体を形成させた。次にNSSをfibroblast growth factor 2存在下で接着培養して神経幹細胞を増殖・調製し、さらに神経幹細胞を神経細胞へ分化させた。リアルタイムRT-PCR分析により、Oct-4のmRNAの発現はES細胞で高く、nestinの発現は神経幹細胞で、neurofilament proteinとmicrotuble-associated protein 2の発現は神経細胞で高いことを確認した。各段階の細胞を集め、抽出したタンパク質を二次元電気泳動にかけ、発現量が変化するタンパク質を検出し、ペプチドマスフィンガープリンティングによりタンパク質を同定した。その結果、神経幹細胞で増加し、ES細胞と神経細胞では減少しているタンパク質としてvimentin、creatine kinase B、thioredoxin 1、及び数種の機能未知のタンパク質が同定された。リアルタイムRT-PCR分析によりcreatine kinase Bとthioredoxin 1のmRNAは神経幹細胞、神経細胞へと分化するにつれて増加することがわかった。これらの結果から、ES細胞は神経幹細胞を経て神経細胞へと分化する過程でタンパク質の発現が特異的に変化し、分化が進むにしたがい、翻訳後修飾が進む可能性があることが示唆された。
  • 妙見 夕佳, 片岡  美穂, 立野  知世, 大房 健, 吉里 勝利
    セッションID: S1-7-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト肝細胞キメラマウスは、肝障害マウスに凍結保存ヒト肝細胞を移植し、マウス肝臓のほとんどをヒト肝細胞で置換させたマウスである。これまで、我々は移植する前の凍結保存ヒト肝細胞およびコラゲナーゼ灌流法によってヒト肝細胞キメラマウス肝臓から分離したヒト肝細胞の二次元電気泳動像の比較を行ない、これらの肝細胞のタンパク質スポットの一致率が80%以上であることを確認している。
    本研究では、キメラマウスへの医薬候補化合物の投与によるヒト肝細胞の影響をプロテオミクスによって評価する系の確立を目的としている。今回は、ヒト成長ホルモン (hGH) によるタンパク質発現の変化を解析した。 成長ホルモン(GH)のヒトとマウスにおけるアミノ酸配列の相同性は67%と低く、キメラマウス体内にあるヒト肝細胞はマウスGHの影響下にないことが示唆される。このことから、キメラマウスにhGHを2.5 micro gram/gram body weight/day の濃度で2週間持続投与し、コラゲナーゼ灌流法により肝細胞を分離した。得られた肝細胞は95%以上がヒト肝細胞であった。
    今回は、hGH投与および非投与個体から採取した肝細胞について二次元電気泳動像の比較結果と医薬候補化合物評価系としての有効性について報告する。
翻訳後修飾解析法
  • 中野 智世, 吉野 健一, 飯田 直幸, 町田 光世, 板東 泰彦, 服部 成介
    セッションID: S2-1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     タンパク質のリン酸化は、種々の細胞内情報伝達系において重要な役割を担う翻訳後修飾である。そのため、リン酸化タンパク質の同定、リン酸化部位の特定ならびにリン酸化の量的な変動解析は細胞の機能解析を進める上で重要な研究課題である。近年、前処理法の開発とその発展、配列データベースの充実ならびにソフトウェアの発達によって試料中のタンパク質を迅速に同定することが可能となった。しかしながら、リン酸化ペプチドの含有量の少なさ、イオン生成効率の低さ、さらに、Collision-induced Dissociation (CID) – MS/MSにおけるSer/Thrリン酸基のニュートラルロスにより、リン酸化ペプチド解析は困難なことが多い。
     リニアイオントラップ質量分析計は高速のスキャンスピード、高いイオントラップ効率、またMSnが可能であることから、リン酸化ペプチド解析の多くの課題を軽減・克服することができる。そのため、我々はリニアイオントラップ型質量分析計を用いたLC/MSnによるリン酸化ペプチドの探索、同定法とそのための検索エンジンの利用法についての検討を行った。
     液体クロマトグラムはParadigm MS4B (Michrom BioResources) を、リニアイオントラップ型質量分析計はFinnigan LTQ (Thermo Electron) を用いた。HeLa細胞由来リン酸化タンパク質の粗精製試料のトリプシン消化物をこのLC/MSシステムを用いて解析し、取得されたデータを、Product Ion Mass Fingerprinting用検索エンジンを利用し、タンパク質の同定ならびにリン酸化ペプチドの検出を行った。加えて、リニアイオントラップ型と電場型フーリエ変換型のハイブリッド質量分析計Finnigan LTQ Orbitrap (Thermo Electron) による質量確度の高い測定で得られたデータについても同様の検討を実施したので報告する。
  • 吉田 豊, 張 瑩, 許 波, 行田 正晃, 宮本 雅仁, 矢尾板 永信, 山本 格
    セッションID: S2-1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    In an attempt to disclose phosphoproteome of the normal rat glomerulus, which is assumed to play critical roles in the physiology and pathophysiology of the kidney, we have conducted a proteomic study by combining 1-DE or 2-DE separation and immunochemical analyses using anti-phosphotyrosine antibodies in order to identify tyrosine-phosphorylated proteins in the normal rat glomerulus. Western blotting analysis revealed the presence of tyrosine-phosphorylated proteins of 62, 70, 120, 145 ,200, 220-kDa, of which those of 62, 70, 120, 145, 220-kDa were predominantly detected in the glomerulus, while others were commonly present in the three compartments; glomerulus, cortex, and medulla. These phosphorylation was augmented by orthovanadate, and abolished in the presence of phosphotyrosine but not of phoshoserine or phosphothreonine. Immunofluorescence microscopy indicated the predominant localization of phosphotyrosine staining along capillary walls in the glomerulus with less intense staining along the tubular epithelium. Immunoelectron microscopy also indicated the predominant localization of phosphotyrosin immunoreactivity to the basal membrane of glomerular epithelial cell (podocyte) foot processes adjacent to GBM and the basement of slit diaphragm. With MALDI-TOF MS and LC-MS/MS analysis, we have so far identified 4 tyrosine-phosphorylated proteins as talin (220-kDa), vinculin (120-kDa), ezrin (74-kDa), Hsc70 (70-kDa). Immunoblotting analysis using antibodies against talin, vinculin and Hsc70 revealed their ubiquitous expression in all the three compartments of kidney. These results suggest that talin, vinculin and ezrin (membrane cytoskeleton-associated proteins), and Hsc70 (a constitutive member of Hsp 70 family) are phosphorylated almost exclusively in the glomerulus, presumably in podocytes, highly specialized epithelial cells structurally adapted to facilitate bulk flow of the glomerular filtrate through their intercellular structures, slit diaphragms.
  • 小寺 義男, 上野 剛, 澤田 晃, 川島 祐介, 松井 崇, 大石 正道, 前田 忠計
    セッションID: S2-1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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     疾患プロテオーム解析に求められていることは病気の診断・治療に役立つプロダクトを創出することである。この目的を達成するためには臨床医(M.D.)とPh.D.との密接なコラボレーションが必要となる。北里大学では昨年4月に理学部附属疾患プロテオミクスセンターを設立し、北里大学医学部・医療衛生学部はもとより、千葉大学医学部、東京慈恵会医科大学と共同で研究を進めている。センター設立の目的は(1)独自のアガロース二次元電気泳動法(アガロース2-DE)と安定稼動LC-MSを基盤に臨床医参加型の疾患プロテオーム解析を実践すること、(2)独自の技術・アイデアを常に発信し、病態解析およびマーカー探索に速やかに応用できる方法確立の場とすることである。(1)に関しては、トータルシステムとしての高いプロテオーム解析感度の実現により、既に前立腺癌、大腸癌、食道癌の診断マーカー候補を見つけ、現在その評価を進めている。(2)に関しては、血清を対象としたペプチド抽出法、尿中のタンパク質抽出法を始め様々な独自の方法の開発を行っている。今回の発表ではその一つとして進めている疾病特異的な酸化傷害タンパク質検出法の開発と応用について発表する。
     癌、糖尿病をはじめとする様々な疾病に活性酸素が関与しているといわれている。中でもアルギニン残基,リジン残基が酸化傷害を受けて導かれるカルボニル化に関しては、様々な疾病にともなう蓄積量の増加が報告されている。しかし、酸化状態の多様性が大きいため疾患に関連した本質をとらえることが非常に困難である。そこで我々は今までにビオチンヒドラジドとアガロース2-DE, ウエスターンブロッティング(W.B.)を組み合わせた分析法(M.Oh-Ishi, T. Ueno, T. Maeda, Free Radic. Biol. Med. 34: 11-22, 2003)、ならびに酸化傷害タンパク質濃縮・定量分析用タグの開発とLC-MSによる分析法の開発を行ってきた。そして今回新たに蛍光ヒドラジドとアガロース2-DEを組み合わせた方法を確立した。この方法は2種類の試料中の酸化傷害タンパク質に異なる蛍光ヒドラジドを反応させた後に混合して2-DE分析するため、精度の高い分析が可能である。この方法を用いた酸化傷害タンパク質の定性的な解析結果ならびに糖尿病モデルラット腎皮質に応用した例について発表する。
  • 古川 絢子, 島田 厚良, 細川 昌則, 川西 正祐, 及川 伸二
    セッションID: S2-1-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    【目的】酸化ストレスがDNAやタンパク質などの生体高分子に酸化的損傷を引き起こし、老化促進に関与すると考えられている。本研究では酸化ストレスによる老化促進機構に関与するタンパク質を解明する事を目的として、高酸化ストレス状態にある老化促進モデルマウス(SAM)を用いた発現プロテオミクス解析を行った。またタンパク質の酸化損傷であるカルボニル化に注目した機能プロテオミクス解析を行い、酸化ストレスによって傷害されるタンパク質を検討した。
    【方法】7月齢雄性SAMP8(老化促進系)とSAMR1(コントロール)の海馬からタンパク質を抽出し、蛍光標識2次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)法にて発現変動を解析した。MALDI-TOF massによるペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)法にてタンパク質を同定した。カルボニル化タンパク質の検出は、海馬から抽出したタンパク質溶液を2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)と反応させた後、2次元電気泳動および抗DNP抗体を用いた免疫染色にて検出した。各スポットボリュームを解析し、2倍以上の差が見られたスポットを同定した。
    【結果と考察】発現プロテオミクス解析では、SAMP8で増加したスポットが2つ、減少したスポットが3つ認められた。同定の結果、Mitochondrial inner membrane protein (Mitofilin) とTubulin b-2C chainであり、それぞれ等電点が変化する修飾を受けていると考えられた。機能プロテオミクス解析ではSAMR1に比べてSAMP8はカルボニル化タンパク質量が多く、SAMR1よりも多くの酸化損傷を受けていることが明らかになった。個々のスポットを解析した結果、Actin、グリア線維性酸性タンパク質(Glial fibrillary acidic protein)などの細胞骨格タンパク質や、Mu-crystallin homologなどのカルボニル化がSAMP8で増加していた。これらのタンパク質は酸化ストレスによる老化のバイオマーカーとなる可能性があると考えられる。
  • 松尾 光祐, 向 陽, 中村 洋, 増子 佳世, 遊道 和雄, 野寄 浩司, 西岡 久寿樹, 齋藤 知行, 加藤 智啓
    セッションID: S2-1-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    目的:関節リウマチ(RA)に特異的に認められる自己抗体の抗原として、近年いくつかのシトルリン化蛋白が報告されている。ところが、シトルリン化蛋白およびそれに対する抗体の病因論的役割はまだ解明されていない。この役割を明らかにするため、われわれはRA患者の関節滑膜組織に存在するシトルリン化自己抗原を、プロテオミクスの手法を用いて網羅的に解析した。 方法:手術中に得られたRAの滑膜組織から蛋白を抽出し、2次元電気泳動にて分離した。その後RA患者血清、抗シトルリン抗体、健常人血清を用いてWestern blottingを行い、シトルリン化自己抗原を検出し、質量分析器を用いて同定した。さらに、シトルリン化の有無が抗原性に与える影響を、同定した蛋白の一つF-actin capping protein alpha-1subunit (CapZα-1)を用いて解析した。 結果:抗シトルリン抗体にて37個のスポットを検出した。このうち28スポット(76%)はRA患者血清によっても認識され、シトルリン化自己抗原と考えられた。われわれは、28個のうち20個のシトルリン化自己抗原を同定した。このうち8個のスポットはシトルリン化自己抗原としてすでに報告されているフィブリノーゲン由来の蛋白であった。次に、同定された蛋白の一つCapZα-1の抗原性をシトルリン化の有無で調査した。その結果、抗CapZα-1抗体の発現頻度は、RAで36.7%、変形性関節症(OA)で10.7% 、健常人で 6.5%であった。一方、抗シトルリン化CapZα-1抗体の発現頻度はRAで53.3%と増加したが、OAでは7.1% 、健常人では 6.5%と有意な変化はなかった。また、RA患者の36.7%で、抗シトルリン化CapZα-1抗体の抗体価が抗CapZα-1抗体の抗体価より増加していた。CapZα-1のシトルリン化部位に対する抗体はRAに特異的であった。 結論:われわれは、プロテオミクスの手法を用いて、新たなシトルリン化自己抗原を同定した。このうちCapZα-1およびシトルリン化CapZα-1に対する抗体はRA患者に高頻度に認められた。
バイオインフォマティクス
  • 戸田 年総, 中村 愛, 櫻井 洋子, 廣田 三佳子, 森澤 拓
    セッションID: S2-2-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     中枢神経系の細胞は、未分化な神経系の胚細胞から多段階の前駆細胞を経て、ニューロン、オリゴデンドロサイト、およびアストロサイトへと分化する。それぞれの神経系細胞の機能的な違いは、細胞内で発現される遺伝子の違いによるものと考えられ、これまでにも様々な細胞特異的マーカータンパク質の探索が試みられ報告されてきたが、その多くは特異抗体を用いた免疫染色性の違いによる細胞化学的比較研究によるものであった。そのため、種々の神経系細胞種間の発現タンパク質の違いについては、全てが明らかにされているとは言いがたく、細胞機能の違いを生化学的に理解するためには、プロテオーム技術を用いた網羅的な比較解析を行う必要がある。しかしながら、従来このような研究がなされてこなかったのは、プロテオーム解析に十分な量の細胞数を高純度で成熟脳組織から分離することが困難であったためである。そこで今回我々は、胎児ラットの脳組織から未分化な前駆細胞を大量に採取、培養系で選択的に増殖させ、さらにこれを最終的にニューロン、オリゴデンドロサイト、およびアストロサイトへと分化成熟させた後に、それぞれの細胞集団を用いて比較プロテオーム解析を行ったので、その結果について報告する。  今回の比較プロテオーム解析では、ニューロンで788個、オリゴデンドロサイトで695個、アストロサイトで633個、未分化な初代培養の細胞で691個、およびその培地中で747個のスポットが検出されたが、全てに共通に発現されているものはわずかに107スポットのみであった。この結果、これまでに報告されている分化マーカータンパク質以外にも極めて多くのタンパク質が細胞種特異的に発現されていることがわかった。特にリン酸化タンパク質に結合し、その機能を調節しているとされている14-3-3タンパク質はニューロンおよびオリゴデンドロサイトに比べアストロサイトで発現が低く、アイソフォームのタイプにも差が見られることがわかった。また神経系細胞で特異的に発現されるBrain Lipid-binding protein (P55051) も、アストロサイトでは発現レベルが極めて低いことがわかった。
  • 奥泉 盛司, 剣持 聡久, 佐藤 雅男, 宮崎 賢司, 上條 憲一
    セッションID: S2-2-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     蛋白質は、アミノ酸配列に応じた立体構造を持っているため、親水性度やリガンドとの結合部位などの情報を活用することにより、より精度の高い蛋白質同定結果を得ることができると考えられる。本稿では、質量分析計を用いた蛋白質同定の信頼性を確保するために、検出されたピークについて対応する蛋白質立体構造中の配置を提示する手法について検討を行った。  我々は、質量分析計のスペクトルと二次元電気泳動等の結果を統合的に管理するLIMS(Laboratory Information Management Systems)ソフトウエアの開発を行い製品化を行った。このソフトでは、種々の実験データを統一元的に管理することでゲル画像やスポットマッチング情報、蛋白質同定結果、プレート分注情報などの各結果を統合して表示することが可能となっている。  MALDI-TOF MS質量分析計によって蛋白質同定を行い、同定に用いた質量スペクトル・ピークと、同定された蛋白質情報に基づいて、観測されるべき理論スペクトル・ピークをソフトウエアの画面上に重ね合わせて表示する手法を構築した。さらに、同定された蛋白質にリン酸化が想定された場合、表示した理論スペクトルのうちヒットしたピークについて、リン酸化部位を推定し、同定された蛋白質の立体構造上での配置を3次元的に表示した。これにより、その部位がリン酸化されやすい位置かどうかの確認を行うことができる。同定された蛋白質の立体構造がDB上に登録されていない場合、BLAST検索により、Structure Database:MMDBに登録されている相同性の高い蛋白質の立体構造を代替として使用した。ソフトウエア上では、同定された蛋白質の理論スペクトルや対応する配列に対して立体構造上の配置を合わせて表示するようにした。  実際に、リン酸化が推定された部位は蛋白質立体構造上において表面に近い部分に観察されたことを確認した。翻訳後修飾においては、酵素作用が広く知られているが、目的のペプチドについて立体構造上の配置を表示することより、翻訳後修飾などの受けやすさを考慮しながら同定の確認を行うことができる。  また、LIMSによって一元的に集められた解析結果、たとえば理論pI/MWと測定pI/MWから同定された蛋白質を統合的に判断することも可能となった。
  • 梶原 英之, 中根 薫, 楊 建平, 中村 匡利, 三田 和英, 今牧 篤重, 東ヶ崎 文生, 伊藤 陽子, 村井 景, 小竹 強史, 石坂 ...
    セッションID: S2-2-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ(Bombyx mori, p50)の二次元電気泳動像と質量分析結果からなるプロテオームデータベース(DB)を作製した。5齢3日目の主要組織(中部絹糸腺、後部絹糸腺、中腸、脂肪体、体液、マルピーギ管、卵巣)の二次元電気泳動ゲルから、各200-300個の主要スポットを切り出し、アルキル化後、トリプシン処理した。ペプチド断片はマイクロHPLC-イオントラップ型MS分析装置(LCQ-deca, Thermoquest)で分析し、SequestおよびMascotによって質量スペクトルを解析した。タンパク質同定のための検索についてはショウジョウバエゲノムから得たタンパク質のアミノ酸配列、およびカイコESTから得た部分アミノ酸配列を主に使用した。Image Master (Amersham)を用いて取り込んだ泳動像に、タンパク質解析結果および泳動に関する情報を加え、これらをXML形式に変換後、Make2D-DB II (SWISS-2DPAGE)に読み込ませることによってデータベースを作製した。また、カイコ4齢1日目から、蛹および成虫までの二次元電気泳動像の全タンパク質泳動プロファイルの時系列的に調べた。データベースはこれらの泳動像と、タンパク質の等電点、分子量、スポット濃度、MSスペクトル、および同定情報からなり、質量分析し同定されたものについて相同なスポットをリンクした。分析したタンパク質のうち、約半数については同定することができ、これによって組織間の差異や発育に伴う変化の知ることができた。現在、同定タンパク質とそれをコードしていると思われるカイコESTクローンをリンク中である。なお、上記以外の組織についての分析結果、現時点ではカイコゲノムのORFは解明されていないが、それが解析された場合には、その情報を追加する予定である。
構造プロテオミクス
  • 木川 隆則
    セッションID: S2-3-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    RIKEN Structural Genomics/Proteomics Initiative (RSGI) (http://www.rsgi.riken.jp) was organized by RIKEN Genomics Sciences Center and Harima Institute at SPring-8 in 2001 to conduct genome- and proteome-based structural biology (structural genomics and proteomics). RSGI has been integrated into the National Project on Protein Structural and Functional Analyses ("NPPSFA" or "Protein 3000"), organized by the Ministry of Education, Culture, Sports, Science, and Technology (MEXT), as one center of the program for comprehensive studies.
    We aims to study both structures and molecular functions of eukaryotic protein families involved in phenomena of biological and medical importance. Domain(s) belonging to selected families are screened in terms of the suitability for the structure determination. In the screening stage, we use the automated protein production based on a high-yield cell-free synthesis, and the NMR spectroscopy. The winners in the screening stage are subjected to larger-scale cell-free production of the uniformly 13C/15N-labeled samples for the NMR spectroscopy, and then step to structure determination. A part of the samples that are judged to be more suitable for the X-ray crystallography are prepared in the selenomethionine-substituted form for structure determination by MAD phasing. To accelerate the NMR analysis, we have developed a software package, KUJIRA, for the systematic and interactive NMR data analysis, and the program CYANA for automated structure calculation.
    We determined more than 900 structures by NMR spectroscopy according to this workflow.
  • 倉光 成紀
    セッションID: S2-3-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    極限環境に生育する好熱菌は、進化の起源に近い生物で、ヒトを含めた多くの生物の基本を研究するために適した生物である。その中でも、高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 は、(1) 簡便な遺伝子操作系が存在する生物の中で、(2) 最も高温で生息しており、タンパク質の構造・機能解析をも視野に入れたシステム生物学のモデルとして、適している。T. thermophilusのゲノムサイズは 2.1 Mbp であり、その構成タンパク質約2,000種類は、ほとんどの生物に共通な基本的タンパク質である。
     高度好熱菌のシステム生物学を目指して、研究は以下の4段階で進行する。
      第1段階: ゲノムワイドなタンパク質の立体構造解析。
      第2段階: ゲノムワイドなタンパク質の分子機能解析。
      第3段階: これまでの “各論的” な 各システムの分子機能解析。
      第4段階: 予測可能なレベルのシステム生物学(シミュレーション)。
     これまでに、第1段階のゲノムワイドな立体構造解析に重点を置きつつ、第2〜3段階のためのパイロット的研究を行ってきた(http://www.thermus.org)。
     第1段階のゲノムワイドな立体構造解析については、全タンパク質を対象とした大腸菌のタンパク質発現系を構築し、現時点でのタンパク質発現成功率は約80%であった。タンパク質精製の成功率は約60%、それらの結晶化成功率は約80%と高かった。精製タンパク質の約50%は、現在の技術レベルでも立体構造解析が可能であった。現時点までに約300種類のタンパク質の立体構造解析が完了し、国内外の研究グループの結果も併せると、約400種類のタンパク質について、立体構造解析が完了した。
     構造解析の対象とした中には、機能未知タンパク質約500種類が含まれていたが、約100種類については立体構造解析が完了した。その約60%は構造的特徴から分子機能の推定が可能であり、立体構造解析は機能推定にとって非常に強力であることがわかった。
     しかし、残された機能未知タンパク質については、系統的な機能解析を行う必要がある。そこで、これらの機能発見を、第2段階のゲノムワイドな機能解析法を駆使して進めつつある。さらに、第3段階や第4段階のシステム生物学へ向けたパイロット的研究を行いつつあるので、その進捗状況を報告する。
  • 田之倉  優, 永田 宏次, 竹下 大二郎, 宮園 健一
    セッションID: S2-3-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     タンパク3000プロジェクト個別的解析プログラム「発生・分化とDNAの複製・修復」班では、大腸菌・好熱細菌・超好熱古細菌などの原核生物から、ヒト・マウス・ショウジョウバエなどの多細胞生物に至る多くの生物種に由来する、発生・分化及びDNAの複製・修復に関連するタンパク質の立体構造解析と機能解析を進めている。この4年間に、187個のタンパク質構造を決定し、そのうち115個をProtein Data Bank(PDB)に登録した。また、55件の特許出願をおこなった(国内36件、国際19件)。
     上記個別的解析プログラムの中核機関である我々の研究室では、現在までに、細胞の老化やガン化に関与するヒトのテロメアタンパク質、魚類の初期発生に必須である孵化酵素、甲殻類の成長を制御する脱皮抑制ホルモン、昆虫の脱皮行動や概日周期を制御する心臓作動性ペプチド等といった発生・分化関連タンパク質や、プリン塩基の生合成に関わるグアノシン1リン酸合成酵素等のDNAの複製・修復関連タンパク質、さらには転写制御因子やその他のDNA結合タンパク質等の構造解析を行ってきた。また同時に、タンパク質の機能解析として、細胞の分化に関連するWWドメイン含有タンパク質やCa2+結合タンパク質の核磁気共鳴(NMR)および表面プラズモン共鳴(SPR)によるタンパク質分子間相互作用解析を、基盤技術開発として、不溶化組換えタンパク質の試験管内巻戻し、膜タンパク質の発現、擬似微小重力下での結晶化の検討を進めてきた。
     昨年度からは新たに、タンパク質の構造解析・機能解析から創薬への展開を念頭に置き、ヒトの疾患(肥満・糖尿病・動脈硬化・心筋症等)関連タンパク質やヒトに感染して疾患を引き起こす病原体のタンパク質に焦点を絞った解析を開始した。本発表では、RNAi(RNA interference)に関与するタンパク質DicerのRNase IIIドメインの特徴的な構造と機能について新たに得られた知見を中心に紹介する。
  • 西村 善文
    セッションID: S2-3-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    真核生物ではエンハンサーには転写因子が結合してヒストンアセチル化酵素(HAT)をリクルートして転写を活性化し、サイレンサーには転写抑制因子が結合してヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)をリクルートして転写を不活性化する。当研究室では未分化赤血球維持に関与する転写因子で原がん遺伝子産物のc-MybのDNA結合ドメインのフリーの構造とDNAとの複合体構造、ストレス応答転写因子ATF-2の転写活性化ドメインの構造、神経特異的な転写抑制因子NRSF/RESTとコリプレッサーSin3の複合体構造、クロマチンリモデリング因子中のクロモドメインの構造をNMR法で解析してきた。
    また基本転写因子のTFIIEのαサブユニットのZn結合ドメインとβサブユニットのコアドメインの構造もNMRで決定した。TFIIEはαサブユニットとβサブユニットの各々2分子からなるヘテロテトラマーだと言われてきたがヘテロダイマーであることが判った。
    真核生物の染色体は1本の2重らせんDNAと数多くの蛋白質で構成されている。染色体の基本的な構造としては両方の末端にあるテロメアが必要である。染色体末端のテロメアはヒトではTTAGGG配列が繰り返された二重らせんの部位と1本鎖の3’突出末端からなる。二重らせんの部位にはTRF1とTRF2が結合する。我々はTRF1とTRF2の各DNA結合ドメインのフリーの構造と二重らせんに結合した構造を解明した。転写因子のc-Mybでは2番目と3番目のMybドメインが協調的にDNAを認識していたがTRF1やTRF2では単独のMybドメインが認識していた。非常に興味深いことにTRF2に結合するRap1は同じくMybドメインを持っているにもかかわらずDNA結合能はない。同じ構造を持っていても蛋白質の機能は蛋白質の表面に存在するアミノ酸配列で決定される。
    さらに現在ヒトcDNAライブラリーを用いて核内候補タンパク質の構造解析をある程度網羅的に行うことを試みている。
相互作用解析
  • 山下  亮, 井狩 高平, 浜田 圭子, 安田 和基, 鏑木 康志
    セッションID: S2-4-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    インスリンシグナル伝達機構の障害はインスリン抵抗性として知られ、2型糖尿病をはじめとした多くの生活習慣病の発症に関与する。インスリン受容体チロシンキナーゼの主要な細胞内基質であるIRS (insulin receptor substrate)ファミリーは肝臓、骨格筋、脂肪組織といった古典的標的細胞をはじめとした様々な細胞において発現しており、IRS上のホスホチロシン残基の多くは、様々なアダプタータンパク質と結合し、それぞれに固有の伝達経路を形成する。肝臓においてはIRS-1とIRS-2が重要な役割を担っており、糖新生、グリコーゲンや脂質の合成などの肝に特徴的な機能を調節していることが知られている。一方で、IRS-1、IRS-2各々に固有の経路や作用の存在が示唆されている。我々は肝細胞における、IRS-1およびIRS-2に独自のシグナル経路に関与するタンパク質や、これらのIRSと相互作用するタンパク質を探索するためにプロテオーム解析を行なった。 IRS-1あるいはIRS-2を高発現させたヒト肝癌由来HepG2を作製した。それぞれの細胞をインスリンにて24時間刺激後、細胞抽出液を2-D DIGE法にて解析し、インスリン依存性に発現変動するスポットを確認した。また、抗IRS抗体を用いた免疫沈降法により得られたタンパク質をSDS-PAGEにて解析し、インスリン依存性にIRSに結合するいくつかのタンパク質の存在を確認した。さらに抗ホスホチロシン抗体を用いて同様に免疫沈降を行ない、インスリン依存性にチロシンリン酸化されるタンパク質を探索した。以上の解析で得られたタンパク質についてLC-MS/MSによる同定を行い、IRS-1とIRS-2独自のシグナル伝達の分子機構を解析している。
  • 藤ノ木 政勝, 野口 崇夫, 稲葉 憲之
    セッションID: S2-4-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    哺乳類精子は射精されたのち受精能獲得という質的変化を経て卵と受精できるようになる。受精能を獲得した精子は、頭部で先体反応が、尾部では超活性化が起こっている。これらの変化は、CaやcAMPといったメッセンジャーとタンパク質リン酸化によって制御されていると考えられているが、具体的な制御機構は充分解明されている訳ではない。ところで、古くから性ステロイドホルモンの一つであるプロゲステロンは精子頭部で起こる先体反応を引き起こすことが示唆されている。しかし、先体反応後に起こる超活性化も引き起こすのかについては明らかになっていない。 そこで私達はまずプロゲステロンが先体反応だけでなく超活性化も引き起こすのかを調べた。実験はプロゲステロンによって先体反応が引き起こされることが知られており、かつ超活性化の識別が行ない易いハムスターを用いて行なった。ハムスター精子のpenetration率を有意に上昇させるプロゲステロン濃度である20ng/mlでプロゲステロンを作用させた所、有意に超活性化が促進する事が観察された。この促進は20ng/mlまではdose-dependentに起こり、この濃度を超えるとかえって促進が阻害された。さらに、プロゲステロンは精子頭部膜上に結合し、non-genomicな調節経路で超活性化を促進させることも明らかとなった。次に、上記のようなプロゲステロンによる超活性化の促進に伴って精子タンパク質のリン酸化も促進されるのかについて検討を行なった。ハムスター精子の超活性化において100近いタンパク質でリン酸化もしくは脱リン酸化が起こることをこれまでに報告している。数多いリン酸化タンパク質のうち、もっとも超活性化と密接な関連性を示唆されているチロシンリン酸化について注目して解析してみたところ、80kDa付近のチロシンリン酸化が有意にプロゲステロン依存的に促進していることがわかった。 以上の結果から、プロゲステロンは従来言われているような先体反応を引き起こすという機能以外に超活性化を促進させるという機能を持つことが分かった。そして、この促進の調節はチロシンリン酸化を伴ったnon-genomicな調節経路で行なわれていることも明らかとなった。
  • 朝長 毅, 聶 華, 大水 智恵, 佐藤 守, 根津 雅彦, 野村 文夫
    セッションID: S2-4-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    大多数の固形癌で癌の早期から染色体異数性などの染色体の構造異常が認められ、染色体不安定性が発癌の一つの原因として注目されている。その機序として、細胞分裂時における姉妹染色体分配を保証するメカニズムの破綻が関与していると考えられている。最近我々は、染色体均等分配に必須なセントロメアタンパク質CENP-AとCENP-Hがほとんどの大腸癌組織で発現増大していることを見出し、これらのタンパク質の発現増大が染色体異数性の原因になることを報告した。この染色体不安定性の原因となる因子をさらに詳しく調べるために、染色体不安定性を示す大腸癌培養細胞株(CIN cell line)と示さない細胞株(MIN cell line)から核タンパク質やクロマチンタンパク質を抽出し、プロテオーム解析を行った。CIN cell lineとしてCaco2、HT29、SW480、SW837、LOVO、MIN cell lineとしてHCT116、RKO、DLD1、SW48からそれぞれ抽出した核タンパク質、クロマチンタンパク質をアガロース2D-DIGEを用い、それぞれの細胞株のタンパク質発現を比較検討した。さらにそれらのタンパク質の発現や局在をWestern blotや免疫染色で確認した。その結果CINとMIN cell lineで発現や局在が顕著に異なるいくつかのタンパク質を見出した。現在、それらのタンパク質の機能解析と、染色体不安定性への関与について検討中である。
  • 荒木 令江, Patrakitkomjorn Siriporn, 小林 大樹, 青木 雅史, 長 経子, 森川 崇, 久保 美和, 佐谷 秀 ...
    セッションID: S2-4-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    神経系腫瘍抑制遺伝子産物(NF1蛋白;neurofibromin, NF2蛋白;merlin)の細胞内機能を、プロテオミクスの手法を用いて生化学的、細胞生物学的に解析している。今回、NF1高変異部位であるC末端部位、及びNF2高変異部位であるN末端部位に対する結合タンパク質群をiTRAQ法およびTAP法を用いたProteomic affinity cellular mappingにより網羅的かつ定量的に同定し、NF両蛋白質を介する細胞内シグナルネットワークを解析した。また、NF1/NF2 SiRNAを用いた細胞内NF1・NF2蛋白質のノックダウンを行い、これらの蛋白質の発現抑制による細胞内シグナルの変化を生化学・形態学的に検討するとともに、ノックダウン細胞内特異的変動蛋白質群をProteomic differential displayによって解析した。NF1蛋白質に特異的に結合する蛋白質群として、Neuron Regulators、リン酸化・脱リン酸化酵素群、アダプター分子群、細胞骨格系・細胞接着系制御分子群、蛋白質合成関連分子群など28種類の蛋白質が同定された。NF1結合蛋白質群中でneuronのaxon形成に関わるcollapsin response mediator protein 2(CRMP2), tumbulin, coffilinとのinteractionに注目したところ、これらの分子はPC12細胞のNGF刺激後、NF1蛋白質を介してGSK3B及びRho kinase、LIMKinaseによるリン酸化が相互制御されることによってneurite の形成と伸展に関わっていることがNF1ノックダウン細胞にて証明された。また、NF2蛋白質ノックダウン細胞においても、細胞運動能、細胞接着能、骨格系の異常が認められ、DNA修復分子群、アポトーシス関連分子群、細胞骨格系・細胞接着系制御分子群、Neuron Regulators、細胞周期関連分子群を含む約25種類のNF2結合蛋白質群が同定された。NF1蛋白質とNF2蛋白質に共通するNeuron Regulatorや細胞骨格制御因子などの結合蛋白質群の存在や、両分子のノックダウンによる形態変化と、それに伴う変動蛋白質分子群に共通性があることから、これら共通分子を介したシグナルの異常がNF1及びNF2に類似する病態に関連する可能性が考えられた。
タンパク質とペプチドの定量的プロファイリング
  • 尾野 雅哉, 根岸 綾子, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S2-5-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    昨年の本学会で発表した2DICAL法(2 Dimensional Image Converted Analysis of LC/MS)に新しい2次元画像展開法を導入し、多数検体でのデータ解析を容易にした。従来の2次元展開法は質量電荷比(M/Z)と保持時間(RT)を座標軸としたものであるが、各症例は3次元目のデータとなるため、多数症例でのデータ処理を困難にしていた。今回われわれは、精密質量分析器のM/Zにずれのないことを利用し、質量電荷比を1M/Zごとに分割し、同一M/ZにおけるRTをひとつの座標軸とし、各症例をもうひとつの座標軸とする2次元展開法を考案した。この画像に前回報告した時間補正法を適応することにより、症例間で有意差のあるピークの検出に成功した。今回は、新規2DICALによる膵癌の腫瘍マーカー候補探索の作業工程について報告する。 材料と方法)学習セットとして膵臓癌患者18例と健常者19例、検証セットとして膵臓癌患者20例と健常者20例の血漿12microlからconcanavalin A に吸着する糖タンパク分画をトリプシン処理後、nanoLC/MSシステムでデータ採取し、液体クロマトグラムの保持時間と症例で2次元に展開する新規手法で解析した。 結果)ピーク総数は114229認め、triplicateで測定した各症例の代表値は中央値を用いた。学習セットに対するU検定でp値が0.00001以下でピーク強度平均値がどちらかの群で10以上ある101ピークを検証セットでの解析対象とした。サポートベクタマシンによる解析で、検証セットにて判別率が1因子解析で70%以上、2因子解析で83%以上を示す17ピークを同定した。それらのピークに対し、目視確認を行い、7ピークを腫瘍マーカー候補として選別した。 結論)新規2次元画像展開法を導入した2DICALはショットガンプロテオミクスのデータを解析する強力なツールであり、膨大なペプチドフラグメントから有用な腫瘍マーカーを発見できる可能性が示唆された。
  • 小林 大樹, Patrakitkomjorn Siriporn, 森川 崇, 藤村 美憲, 小林 隆之, 久保 美和, 佐谷 秀行, 荒木 ...
    セッションID: S2-5-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
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    神経線維腫症1型(NF1)は、多発性神経線維腫を始め多彩な病態を示す遺伝性疾患である。NF1遺伝子産物NeurofibrominはRas-GAP相同領域を有し、その機能の欠損による、Rasを介した細胞内シグナル伝達異常は、特に神経系細胞分化異常を誘起し、NF1の病態に関わると考えられる。Neurofibrominの神経系細胞内機能を明らかにするために、RNA干渉(SiRNA)法を用いてNeurofibromin発現を抑制することによって、神経系細胞に及ぼすNGF依存性神経分化への影響を解析し、生じた表現型の細胞内責任シグナル分子群をiTRAQ法用いて詳細に検討した。PC12細胞において、NF1ノックダウン細胞はNGF刺激によるneurite outgrowthが経時的に阻害され、細胞骨格系の制御異常、運動能の亢進が観察された。最も形態変化の顕著なNGF刺激48時間後、それぞれの細胞から8M Urea、4%CHAPSを含む溶液でタンパク質を抽出し、アセトン沈殿にて脱塩濃縮後、トリプシン分解により得られたペプチドをiTRAQ(114:NGF_-_siRNA_-_, 115:NGF_-_siRNA+, 116:NGF+siRNA_-_, 117:NGF+siRNA+)試薬で修飾した。それぞれ等量混合した後、陽イオン交換クロマトにより分画し、これらをnanoLC-QqTOF解析に供し、iTRAQ修飾ペプチドの定量と同定を行った。現在までに約800種類以上のタンパク質を同定し、その内NGF刺激により特異的な発現差異を示す約60種のタンパク質を同定した。これらには既知のNGF誘導分子とともに新規の神経系分化関連分子が含まれていた。さらにNF1ノックダウンにより、NGF刺激PC12細胞内で特異的に上昇を示す19種のタンパク質と減少を示す19種のタンパク質を確認した。これらにはRasの下流に位置するGタンパク質Rho、プロスタグランジン、酸化還元酵素群、腫瘍関連分子群の上昇、また神経疾患の原因分子NMDAレセプターのチロシンキナーゼやそのレセプター下流の細胞骨格制御因子およびcalmodulin、刺激因子伝達分子群、特異的キナーゼ群などの減少が見られ、これらが総合的に細胞の分化異常に関連すると考えられた。現在、その他NF1腫瘍抑制遺伝子関連タンパク質の更なる同定を試み、その役割について検証中である。
  • 牛山 正人, 吉川 正人, 長谷川 亮, 石塚 雄一
    セッションID: S2-5-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
     プロテオーム解析ではタンパク質の網羅的な同定に加えて,組織における疾患の有無や細胞における刺激の有無といった比較サンプル群間におけるタンパク質発現量の差異を明らかにすることが重要である。このタンパク質発現量ディファレンシャル解析は,2D-DIGE法のような二次元電気泳動とMSを組み合わせた方法とともに,安定同位体ラベルしたサンプルをLC-MSを用いて解析・比較定量する方法により進められている。一方,近年のLC-MS機器の性能向上に加えて専用の解析ソフトウェアが開発されたことにより,サンプルを安定同位体ラベルすることなく直接LC-MSを用いて解析し比較定量する,いわゆるラベルフリー法でのタンパク質発現量ディファレンシャル解析が注目期待されている。この方法では複雑なラベル化反応操作を省略できる点がメリットである。 今回は,このラベルフリー法によるディファレンシャル解析方法のプロテオーム解析への適用性を評価することを目的とし種々の検討を行った。nanoLC-MS (Ettan MDLC (GE Healthcare),Finnigan LTQ (Thermo Electron))を用い,サンプルとして,標品(BSA消化物),菌体(薬剤処理有無の2種)をn=3で測定し,解析ソフトウェアDeCyder MS (GE Healthcare)によりMSピーク強度に基づく比較定量,およびn=3測定での統計解析を行った。標品(BSA消化物)を種々のmol量で測定し解析した結果から,タンパク質のディファレンシャル解析において実用的な定量性と再現性のある比較解析の結果が得られることが示された。また,菌体抽出タンパク質サンプルにおいても良好な再現性が示され,発現量が変化した約170のタンパク質について変化量と同定結果が得られた。ラベルフリー法によるタンパク質発現量ディファレンシャル解析は,今後のプロテオーム解析において広範に利用できる技術と考えられる。
  • 石濱 泰
    セッションID: S2-5-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質の網羅的発現解析は、近年の質量分析計の高性能化およびミクロ化LCとのオンライン接続により今日では比較的簡単に行えるようになった。しかし、ゲノム配列解析やDNA microarrayによるトランスクリプトミクスと比較すると依然としてプロテオミクス技術でカバーできる測定対象範囲は限られており、真の「オミクス」レベルでの網羅的解析は達成されていない。特に安定同位体標識を用いる定量解析では、さらにその測定対象範囲が限られてしまうという問題点がある。そこで、より広範囲をカバーする簡便な方法として、LC-MSMS分析時に得られるパラメータからタンパク質の存在量を推定する2つの方法を開発した。ひとつは、測定ペプチド数と理論ペプチド数の比がタンパク質濃度の対数と直線関係にあることを利用したもので、ペプチド数比の指数から1を引いた数をexponentially modified protein abundance index (emPAI)と定義した。細胞抽出物中の約50種のタンパク質に対して、同位体希釈法による結果と比較した結果、emPAIは5倍以内の精度を有していた。さらに異なるMSと異なる液相分画法を組み合わせながらemPAI法を適用した結果、例えば大腸菌の全可溶性タンパク質について、その80%以上(約2000タンパク質)を同定すると同時に定量することも可能となった。もうひとつの方法は、タンパク質の消化ペプチドのシグナル強度を用いるもので、トップ3ペプチドのシグナル平均値がタンパク質の存在量と相関することから、この値をextracted ion current-based protein abundance index (xPAI)と定義した。今回、emPAI, xPAIに加えて最近報告されたspectrum counting法について、その特徴を明らかするとともに、細胞抽出物中の約50種のタンパク質に対してその定量精度を比較した。最も高い精度が得られたのはemPAIであったが、試料の複雑さを減らすことによりxPAIの定量精度は劇的に向上した。これらの方法はあくまでタンパク質存在比の推定法であるが、タンパク質の同定実験結果からそのまま算出できるので、簡便性および網羅性を備えたタンパク質定量発現解析の汎用法として期待される。本発表では、プロテオーム解析用LC-MSシステムの高性能化についてもあわせて報告する。
  • チャン エリック, ウェング リー, サットン ジェニファー, プロール ショーン, ケラー アンドリュー, ウォレス ジェームズ, ペング ...
    セッションID: S2-5-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/16
    会議録・要旨集 フリー
    The Rosetta Elucidator Systemを使ったタンパク質発現解析とバイオマーカー探索 LCMSの技術革新により、タンパク質バイオマーカー探索が注目を集めている。しかしながらバイオマーカー探索の成功には、いかによりよく大量なデータを処理・解釈できるかにかかっている。本発表では、そのような大量で複雑なデータを管理・解析するために開発されたRosetta Elucidator システムを使って、どのようにバイオマーカー探索を行うことが可能か、という点にフォーカスをおき、実際のデータをもとに解説する。 データはワシントン大学との共同研究によるHIVのデータを使い、解析の流れを紹介する。 HIV-1感染はウィルスの遺伝子の頻繁な変異により、薬の開発には困難が強いられる。 ウィルスの感染によるホストの遺伝子発現の変化に対抗するためにはウィルスの複製を阻止することが有効とも考えられる。そこでラベルフリーLCMSを用い、複数のタイムポイントを設定したタイムコース解析を行い、感染による発現変化について考察する。またマイクロアレイの結果も活用し、たんぱく質発現との比較、様々なパスウェイによる機能的特徴もあわせてさらなる解析を行った。 Rosetta Elucidatorシステムでは液体クロマトグラフィーから出力されるピークののずれをそろえ、そろえられたアイソトープグループを定量し、ProteinProphetsを使ってタンパクを同定するために使用した。 最初の解析により116個のタンパク質がHIV-1の感染によりHIV-1の感染していない細胞にたいしての変化として観察された。タイムコースに沿った変化を表しているタンパク質を見つけるため、2次元配置のANOVAを行った。最終的に絞り込まれた44個のタンパク質はパスウェイ解析により、タンパク質分解、アポトーシス、細胞周期に関連していることが分かった。 今回のようなmRNAとタンパク質の情報を活用したインタラクティブなアプローチにより、HIV-1の複製によるホスト細胞の影響を示すことができた。
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