日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第4回大会
セッションID: S2-5-2
会議情報

タンパク質とペプチドの定量的プロファイリング
iTRAQ法による神経系細胞分化に関わるNF1腫瘍抑制遺伝子関連タンパク質の解析
*小林 大樹Patrakitkomjorn Siriporn森川 崇藤村 美憲小林 隆之久保 美和佐谷 秀行荒木 令江
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

神経線維腫症1型(NF1)は、多発性神経線維腫を始め多彩な病態を示す遺伝性疾患である。NF1遺伝子産物NeurofibrominはRas-GAP相同領域を有し、その機能の欠損による、Rasを介した細胞内シグナル伝達異常は、特に神経系細胞分化異常を誘起し、NF1の病態に関わると考えられる。Neurofibrominの神経系細胞内機能を明らかにするために、RNA干渉(SiRNA)法を用いてNeurofibromin発現を抑制することによって、神経系細胞に及ぼすNGF依存性神経分化への影響を解析し、生じた表現型の細胞内責任シグナル分子群をiTRAQ法用いて詳細に検討した。PC12細胞において、NF1ノックダウン細胞はNGF刺激によるneurite outgrowthが経時的に阻害され、細胞骨格系の制御異常、運動能の亢進が観察された。最も形態変化の顕著なNGF刺激48時間後、それぞれの細胞から8M Urea、4%CHAPSを含む溶液でタンパク質を抽出し、アセトン沈殿にて脱塩濃縮後、トリプシン分解により得られたペプチドをiTRAQ(114:NGF_-_siRNA_-_, 115:NGF_-_siRNA+, 116:NGF+siRNA_-_, 117:NGF+siRNA+)試薬で修飾した。それぞれ等量混合した後、陽イオン交換クロマトにより分画し、これらをnanoLC-QqTOF解析に供し、iTRAQ修飾ペプチドの定量と同定を行った。現在までに約800種類以上のタンパク質を同定し、その内NGF刺激により特異的な発現差異を示す約60種のタンパク質を同定した。これらには既知のNGF誘導分子とともに新規の神経系分化関連分子が含まれていた。さらにNF1ノックダウンにより、NGF刺激PC12細胞内で特異的に上昇を示す19種のタンパク質と減少を示す19種のタンパク質を確認した。これらにはRasの下流に位置するGタンパク質Rho、プロスタグランジン、酸化還元酵素群、腫瘍関連分子群の上昇、また神経疾患の原因分子NMDAレセプターのチロシンキナーゼやそのレセプター下流の細胞骨格制御因子およびcalmodulin、刺激因子伝達分子群、特異的キナーゼ群などの減少が見られ、これらが総合的に細胞の分化異常に関連すると考えられた。現在、その他NF1腫瘍抑制遺伝子関連タンパク質の更なる同定を試み、その役割について検証中である。

著者関連情報
© 2006 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
前の記事 次の記事
feedback
Top