主催: 日本ヒトプロテオーム機構
好中球は自然免疫応答に関与する白血球であり、近年、その分化や異物の貪食には細胞膜に存在するマイクロドメインあるいはラフトと呼ばれる構造体が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。われわれはそれらを司るマイクロドメイン機能の分子メカニズムを調べるため、そのモデルとしてジメチルスルホキシド(DMSO)によって好中球様細胞へと分化するヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60の界面活性剤不溶性膜画分のプロテオミクス解析を行っている。
DMSOによる分化誘導前後のHL-60細胞株の細胞膜から1%TritonX-100不溶性膜画分(DRM)をショ糖密度勾配遠心により調製した。DRM中のタンパク質は還元アルキル化、クロロホルム/メタノール沈殿した後に再溶解し、プロテアーゼ消化してペプチド混合物とし、ナノフロー液体クロマトグラフィー/質量分析によるショットガンプロテオミクス解析を行い、試料中のタンパク質を同定した。また、一部の注目するタンパク質については同定の際に出現したペプチドの中から適当な配列について選択し、該当する安定同位体標識ペプチドを合成して内部標準物質として添加して定量を行った。
ショットガンプロテオミクス解析の結果、DMSOによる分化誘導前後のHL-60細胞膜のDRMから120 種類以上のタンパク質を同定した。この中には機能未知の膜タンパク質も含まれていた。このうち、分化誘導前後に特異的に発現されているタンパク質をそれぞれ41種類、25種類検出した。LysまたはLeuを安定同位体標識した内部標準ペプチドは13種類のタンパク質について合成し、絶対定量を行った。その結果HL-60細胞においてDMSO刺激により発現抑制されることがすでに知られているトランスフェリンリセプターは分化誘導により激減し、またflotillin1およびflotillin2は分化誘導により増加することを確認できた。現在、分化誘導によって発現の変化するタンパク質に関してその機能と分化や貪食能との関連を調べている。