主催: 日本ヒトプロテオーム機構
アルツハイマー病とは、大脳皮質に著しい萎縮や神経細胞間に老人斑、神経細胞内に神経原線維変化、神経細胞の脱落、神経伝達物質の異常が生じ、その結果、高度の知能低下や人格の崩壊がおこる認知症である。現在のところこの疾患の決定的な治療薬は存在せず、また一方で初期症状における対処がその後の症状の進行に影響するといわれている。 アルツハイマー病の確定診断は現在のところ記憶障害や認知障害といった医師の主観的な判断に基づくものであり、重症度についても日常生活での行動で判定している。アルツハイマー病との関わりが示唆されている物質として、ベータアミロイド(1-40、1-42)やリン酸化タウ、アポEなどが報告されているが、いずれも診断法として使われるほど信頼性がない。 アセチルコリン分解酵素阻害薬、塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)はエーザイによって認知改善薬として開発され、米国で1996年、ヨーロッパで1997年、そして日本で1999年にアルツハイマー型痴呆治療薬として認可された。アリセプトの日本での承認が遅れた理由の一つにアルツハイマー病診断の難しさが挙げられている。また新たな患者さんにアリセプトを処方してもらうための診断も、薬剤効果の見極めも、科学的根拠に基づいた客観的な指標は今のところ存在しない。このような状況下、より適切な治療を進めていく上でこの科学的根拠に基づいた客観的な指標、バイオマーカー、の発見は重要である。 エーザイはアルツハイマー治療薬リーディングカンパニーとして、次世代アルツハイマー治療薬の開発はもちろんアリセプトの販売拡大が重要な使命であると考えから、1999年にエーザイ・プロテオミクスチームを発足させ、アルツハイマー病診断マーカー探索を極めて重要な任務の一つと位置づけて脳プロテオミクスに力を入れている。現段階では詳細な進行状況を明かすことは出来ないが、パイロットスタディーとして行った100人スケールでの臨床サンプル、すなわちアルツハイマー病患者さんのヒト骨髄液や血漿サンプルを使ったバイオマーカー探索について我々の戦略や明らかになってきた課題などについて紹介したい。