日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
選択された号の論文の165件中1~50を表示しています
特別講演
  • Richard J. Simpson
    セッションID: KL-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    Colorectal cancer (CRC) is a leading cause of cancer death in the Western World. Early detection is the single most important factor influencing outcome of CRC patients. If identified while the disease is still localized CRC is treatable. To improve outcomes for CRC patients there is a pressing need to identify biomarkers for the early detection (diagnostic markers), prognosis (prognostic indicators), tumor responses (predictive markers) and disease recurrence (monitoring markers). Despite recent advances in the use of genomic analysis for risk assessment, in the area of biomarker identification genomic methods have yet to produce reliable candidate markers for CRC. For this reason, attention is now being directed towards protein chemistry or proteomics as an analytical tool for biomarker identification. Here, we discuss various proteomics technologies with reference to how they may contribute to CRC biomarker discovery. One such strategy uses a combination of continuous free flow electrophoresis (FFE) in the first dimension, a liquid-based IEF technique, followed by rapid RP-HPLC (1-6 min/analysis) in the second dimension. Imaging software has been developed to present the FFE/RP-HPLC data in a virtual 2D format. Demonstration of the method is presented using proteome analysis of human plasma and urine specimens. Additionally, we describe strategies for analyzing the ‘secretome’ of human CRC cell lines, the human platelet membrane proteome, tissue interstitial fluid from tumor-derived human colon carcinoma cell line xenografts, and a proteomics approach for analyzing the effect of non-steroid anti-inflammatory drugs on human colorectal carcinoma cell lines.
  • 浅島 誠
    セッションID: KL-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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     動物の細胞や組織・器官は各々、特異の構造や機能をもっている。それらの構造と機能を分子生物学的又は生理化学的に性質を決める方法の一つとして最近、プロテオミクス解析がなされてきている。生命の基本単位は細胞であるが、その時、細胞をまるごと解析しようとしていても中々難しいが、これを染色体、膜分画、細胞質などに分画してプロテオミクス解析すれば、かなりその細胞の中身を知ることができる。また、分子をラベルする方法や分析技術の改良などによって、分子の挙動の経時的変化や分化状態も知ることができる。 一方、再生医療においては、薬では治療できない病気や損傷について、細胞移植などの方法によって病気等を治そうとするものである。しかしながら、そこには細胞の個々の性質、免疫等の拒絶反応、分化の質などを知ることが大切であり、それらを克服すべき問題が多くある。そのような時、プロテオミクスの研究がこれらの問題にどのようにアプローチが可能であり、この分野に貢献できるのか、課題と今後について述べてみたい。
  • 柳田 充弘
    セッションID: KL-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    分化した細胞がその「生」を維持するのにはなにか共通点があるのだろうか。神経、脳、心臓の細胞はみかけ著しく異なる細胞であるが、分裂しないで長期にわたって「生」を維持し続ける点で共通性がある。この分裂しないで長期にわたって生存する能力は生殖細胞などにも顕著な性質であるが、これらに共通した細胞の性質はあるのだろうか。そもそも分裂する細胞とまったくしない細胞の間の本質的な違いは何なのであろうか。3年前に開設した沖縄科学技術整備機構G0細胞ユニットが掲げる問題意識は分裂しない細胞を維持する遺伝子は何か、それらには普遍性があるか、このようなものである。われわれはこの問題にアプローチするのに分裂酵母の窒素源枯渇下で分裂しないで生き続ける細胞をモデルにした。そして、古典的な遺伝学的アプローチと現代的なhigh throughputのプロテオーム解析ならびにトランスクリプトーム、メタボローム等のいくつかの解析手段をもちいて分裂しない細胞を特徴づける遺伝子機能を同定しその機能を調べている。浮かび上がってきた分裂酵母のG0細胞像は活発な糖代謝を基本に、細胞内に蓄積した窒素源の迅速な輸送と効率的な回転によって生を維持するというものであった。トランスクリプトームでは全遺伝子の80%の転写物が、プロテオーム解析では約50%の2500のタンパク質の存在量の変化がG0時と増殖時で比較検討が可能と成ってきた。遺伝子破壊実験をおこなうことによりG0細胞維持に関わる遺伝子が発見されてきた。成長分裂に向かってG0細胞から脱出する時に著しく減少する一群のタンパク質の研究も進めている。
シンポジウム
細胞ネットワーク解析の最前線
  • 紀藤 圭治, 伊藤 隆司
    セッションID: S1-1-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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      近年、インタラクトーム解析の進展により、様々な生命現象を担う多くのタンパク質複合体が明らかにされてきた。それらは、複数の複合体に共通のコアサブユニットと個々の複合体特異的な多様なアッタチメントタンパク質から構成されたモジュラー構造をとっているものが多い。その構成比のダイナミックな変動により様々な生命現象が制御されており、その変動を構成成分比(化学量論)も含めて定量計測することは、タンパク質間ネットワーク解析の極めて重要な課題である。
      質量分析はタンパク質の定量解析に有効な技術であるが、その化学量論的解析のためには個々のタンパク質に対応する標準タンパク質またはペプチドが必要である。しかしそれら多数の標準を個別に正確に一定量を調製して使用するのは、手間・操作および精度の面から現実的には極めて困難である。また、質量分析によるタンパク質解析に汎用されるトリプシンは、その消化効率が切断部位周辺のアミノ酸残基による影響を受けるため、トリプシン消化ペプチドを標準物質として用いる定量法の場合、サンプル中の対象タンパク質の不完全消化による定量値へのバイアスが生じる。
      以上の問題を克服するために、我々は定量対象となる各タンパク質に由来するトリプシン消化ペプチド(図、灰色)を、その上流および下流のアミノ酸3~4残基(図、赤色)も含めて連結させた人工標準タンパク質(peptide-concatenated standard: PCS)を用いた定量方法を開発してきた。PCSにより各標準ペプチドが正確に当モル量ずつサンプルに添加されることが保証されるとともに、対象タンパク質における消化効率を忠実に反映した正確な定量が期待される。実際に、翻訳開始因子eIF2Bγ由来の複数のペプチドを連結したPCSを作製し、出芽酵母より精製したeIF2γと混合して定量解析を行なったところ、消化されにくいものを含めて全てのペプチドでサンプル対スタンダード比が測定誤差5%以下で一致した。本講演ではタンパク質の化学量論的定量解析におけるPCS法の有用性とともに、eIF2B-eIF2複合体、Cyclin-CDK複合体などの構成成分の化学量論的解析および異なる細胞状態間での変動の計測例について紹介したい。
  • 松本 雅記, 小山田 浩二, 中山 敬一
    セッションID: S1-1-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    細胞内に存在するタンパク質は互いに相互作用することでシグナル伝達ネットワークを形成し、様々な生命現象を生み出している。このような細胞内シグナル伝達過程において、タンパク質のリン酸化は極めて重要な役割を担っており、タンパク質間で受け渡されるシグナルの実体と言っても過言ではない。ヒトゲノムには581種類のタンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)がコードされていることから、莫大な数のリン酸化タンパク質(およびリン酸化部位)の存在が推定される。これまで、数多くのプロテインキナーゼの生物学的重要性が示されてきたが、その生理的基質が十分に同定されているものは意外に少なく、プロテインキナーゼの活性化(インプット)と生命現象(アウトプット)の間には大きなブラックボックスが存在している。様々な状況下での細胞内リン酸化状態を網羅的に把握すること、すなわち、「いつ」、「如何なるタンパク質」の「どの部位」が「どれぐらい」リン酸化を受けているかを解析することはキナーゼの下流に広がるシグナル伝達ネットワークを俯瞰することと同義であり、インプット-アウトプット間のギャップを埋めることにつながると思われる。 これまでに、世界中でリン酸化をターゲットとしたプロテオミクス技術の開発とその応用が盛んに行われてきた。特に、金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によるリン酸化ペプチドの精製とタンデム質量分析による解析はペプチドの配列とリン酸化部位の直接的な同定が可能であり、非常に魅力的な方法である。しかしながら、IMACにおける非特異的な非リン酸化ペプチドの混入がしばしば問題となる。そこで、われわれはIMACの最適化を行い、高い特異性でリン酸化ペプチドを精製する技術を確立し、100ugの全細胞抽出液から700以上のリン酸化ペプチドが同定可能となった。さらに、強陽イオン交換クロマトグラフィーによる前分画後のIMACによるリン酸化ペプチド精製と安定同位体標識法による定量技術とを組み合わせることで5mgのタンパク質消化物から約2000-3000のリン酸化ペプチドを常時、同定・定量可能となっている。本演題ではわれわれが構築したリン酸化ペプチドの大規模解析システムを用いた細胞周期M期特異的リン酸化プロテオーム解析の現状について紹介したい。
  • 尾山 大明, 秦 裕子, 田崎 真哉, 斉藤 あゆむ, 長崎 正朗, 菅野 純夫, 仙波 憲太郎, 宮野 悟, 井上 純一郎, 山本 雅
    セッションID: S1-1-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    Signal transduction system is known to widely regulate complex biological events such as cell proliferation and differentiation. As phosphotyrosine-dependent signaling networks play a key role in transmitting signals, a comprehensive description of their dynamics would contribute substantially toward understanding the regulatory mechanisms that result in each biological effect. Recent proteomics approaches based on highly sensitive LC-MS/MS technology have enabled us to obtain large-scale quantitative information on the focused proteome such as phosphoproteome. Based on the SILAC technology, we developed a simple method for making a temporal quantitative analysis of phosphotyrosine-related proteins. In order to automate quantitation based on large volumes of nanoLC-MS/MS proteome data, we also developed software named AYUMS (Saito et al. 2007 BMC Bioinformatics 8, 15). This software has enabled us to obtain the activation profiles of signaling molecules in a high-throughput fashion, providing detailed quantitative information with the high time-resolution necessary for a systems biology approach. Sophisticated computational analysis of quantitative phosphoproteome data can lead us to grasp a system-level view of complex regulatory networks in signal transduction. We tried bioinformatical estimation of the well-known epidermal growth factor receptor pathway from the time-resolved phosphoproteome data (Tasaki et al. 2006 Genome Inform. 17, 226-238). We constructed an EFGR signal transduction pathway model based on the biological data available in the literature. The kinetic parameters were then determined in the data assimilation framework with some manual tuning so as to fit the proteome data. Our in silico model was further refined by adding or removing some regulatory loops, providing knowledge about some possible regulation that had not been inferred or confirmed experimentally.
  • 守屋 央朗
    セッションID: S1-1-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    細胞内の蛋白質の存在量は、遺伝子の発現の強さ(転写速度や翻訳速度)、蛋白質の安定性(分解速度)といったパラメータによって決められる。これらのパラメータはおのおのの細胞が営む生命現象をもっとも効率よく行うために最適化されていると考えられる。その一方でこれらのパラメータは遺伝子発現のノイズやpHや温度といった環境の変動(摂動)対して細胞機能を維持するためにある程度の許容範囲を持っていることが推測される。これは細胞内の複雑な分子ネットワークが作り出す、生命のシステムレベルの特性“ロバストネス(頑健性)”の一端ととらえることが出来る。私たちは生命の持つロバストネスの特性(ロバストネス・プロファイル)を知ることは、生命現象の根幹原理の理解や高性能コンピュータ細胞モデルの開発、疾患の効率よい対処法を知る上で非常に有効であると考えている。 本口演では、私たちがモデル真核細胞の出芽酵母で開発したロバストネス・プロファイルを取得する実験手法、genetic Tug-Of-War (gTOW: 遺伝子綱引き)法について解説し、ロバストネス・プロファイルを得るとはどういうことか?またロバストネス・プロファイルから生命現象についてどのようなことがわかるのかといったことについて解説する。gTOW法では遺伝学的手法により標的遺伝子のコピー数を100倍程度に上げることが出来る。このことによって、標的遺伝子が働く生命システムの遺伝子の過剰発現に対するロバストネスを測定することが出来る。これを目的の生命システムに含まれる全遺伝子で行うことによってその生命システムのロバストネス・プロファイルを得ることが出来る。実際に私たちは出芽酵母の30の細胞周期関連遺伝子についてgTOW実験を行い、出芽酵母細胞周期のロバストネス・プロファイルを得ることに成功している。このロバストネス・プロファイルは出芽酵母の細胞周期の中で遺伝子の過剰発現に対する脆弱点をあぶり出すとともに、コンピュータ細胞モデルの問題点を浮かび上がらせた。またこのロバストネス・プロファイルの考え方を発展させることで、疾患状態をより強く規定している蛋白質を見いだすことや、癌などに対するより有効な治療薬の開発につながるものと考えている。
疾患・創薬マーカー探索の最前線
  • 桑原 秀也
    セッションID: S1-2-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    近年、マイクロアレイや質量分析などのゲノミクス・プロテオミクスの大規模な発現解析
    技術とバイオインフォマティクスの急速な進歩により、個別化医療(テーラーメイド医療)
    や創薬への応用をめざしたバイオマーカーの探索が隆盛である。特に質量分析法は血
    清・血漿のバイオマーカー探索の切り札として期待されている。しかし、これらのゲノミ
    クス・プロテオミクス解析から実用化までいたった成功例は実際には殆ど存在していな
    いのが現実である。この原因の一つはバイオマーカー探索の多くが、研究の始めから
    実用化に必要ないくつかの要件を考慮しないで行われているためである。
    今回はバイオインフォマテッィクスの視点から、(1)バイオマーカー探索に必要なサンプ
    ル数、(2)バイオマーカー探索に必要な実験精度、(3)バイオマーカーの実用化(市場化)
    に必要な要件などについて、我々のシミュレーション結果を用いて解説する。

    (1) バイオマーカー探索に必要なサンプル数
    機械学習としてよく利用されるSVM(support vector machine)は高い汎化能力を有し、
    過学習することが少ないと言われるが、複数マーカーを考慮する場合どの程度のサン
    プル数が必要であるのかを述べる。さらに必要なサンプル数が得られないのであれば、
    研究そのものが無為なものとなる可能性を指摘する。

    (2) バイオマーカー探索に求められる実験精度
    観測される値のばらつきがサンプル固有のばらつき(個人差)と計測系の精度に依存
    する時、計測系のばらつきが正規分布していると仮定できるならば、サンプル固有の
    ばらつきより計測系のばらつきが占める割合が大きいほど、重複実験の重要性が増す
    ことを強調したい。

    (3) バイオマーカーの実用化に求められる要件
    バイオマーカーを利用する目的によって要件は異なるが、ここではベイズ統計と厚生経
    済学の観点から診断を目的とする簡単なモデルを構築し、診断の感度と特異度及び罹
    患率の関係について説明する。モデルより費用対効果の観点から罹患率が稀なほど
    感度よりも特異度が重要となり、検査コストも安くする必要があることを示す。
  • 尾野 雅哉, 根岸 綾子, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S1-2-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    我々が開発してきた2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of LCMS)法は、複数のスペクトラムからなるLCMSデータを、各スペクトラムの相関係数からLCの時間変動を補正して、質量電荷比(M/Z)、保持時間(RT)の2軸を持つ平面に描出する。この手法により同一ペプチド由来のピークが、強度(Intensity)を変数に持つM/Z、RT座標に変換され、複数サンプル間での無標識定量比較を可能にした(Ono et al., Mol Cell Proteomics 2006, 5:1338)。さらに、同一M/ZのピークをRT、サンプルの2軸の平面で描出するインターフェースを加えることで、多数検体間の定量比較が必要な臨床プロテオーム解析が可能となった。今回は膵癌患者血漿と子宮体癌患者血清からのバイオマーカー探索を具体例として、2DICALシステムによる臨床プロテオーム解析法を呈示する。
    膵癌に関しては、膵癌43症例、対照者43症例の血漿を解析し、コンカナバリンAによる前処理を施した検体から115325ピークを検出し、両群間で有意差のあるピークをp値、ピーク強度、および強度比で10ピークに絞り込み、ペプチド、蛋白質同定を行い、翻訳後修飾の違いに基づくバイオマーカー候補を発見した。
    子宮体癌に関しては、子宮体癌40症例、対照者30症例、子宮筋腫30症例、子宮肉腫25症例の血清を解析し、主要蛋白質除去カラムで前処理した検体から154,992ピークを検出し、子宮体癌患者、対照者群間で有意差を持つピークよりIQR(Interquartile range)>20で100ピークのシングルマーカー候補を選出し、それらのピークのペプチド、蛋白質同定を行い、同定蛋白質の発現差をウェスタンブロットにて確認した。
    2DICALにて現在月間約200例の臨床検体が解析可能となっているが、このシステムは多くの質量分析装置のデータフォーマットに対応しているため、装置の数に比例してスループットの増加が見込まれ、今後より多くの臨床サンプルの解析が期待される。
    また、本法によるフォルマリンパラフィン切片からの組織プロテオミクスついても解説する。
  • 近藤 格
    セッションID: S1-2-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    Personalized medicine requires the next level of molecular diagnostics using novel biomarkers. The proteome is a functional translation of the genome, directly regulating cancer phenotypes and is therefore a rich source of biomarkers. To develop biomarkers for accurate differential diagnosis and prediction of drug response or early recurrence, we are conducting cancer proteomics studies using surgical specimens. We developed quantitative proteomics system using laser microdissection with high sensitive fluorescent dye, a large format two-dimensional difference gel electrophoresis, bioinformatics tools, and application of protein identification by mass spectrometry. We found that the overall features of the proteome correspond to carcinogenesis and histological differentiation in hepatocellular carcinoma and esophageal cancer, and that certain proteins grouped lung cancer and soft-tissue sarcomas according to their histology. We further found that a small number of certain proteins predicted drug response in lung adenocarcinoma and early recurrence in liver cancer. In gastrointestinal stromal tumor, a single protein, pfetin, predicted metastasis and survival post surgery in 210 cases, demonstrating its potential as a prognostic biomarker. To facilitate the use of these proteome data for cancer research, we are constructing proteome database where quantitative intensity and protein identification will be recorded for 5,000 protein spots across hundreds of surgical specimens and cell lines of lung cancer, esophageal cancer, liver cancer, pancreatic cancer, soft-tissue sarcoma, colon cancer, malignant mesothelioma, and their normal counterparts or surrounding tissues. Such proteomics studies will further our understanding of cancer biology and lead to the development of novel and practical biomarkers for personalized medicine.
  • 中村 立二, 小田 吉哉
    セッションID: S1-2-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    アルツハイマー病とは、大脳皮質に著しい萎縮や神経細胞間に老人斑、神経細胞内に神経原線維変化、神経細胞の脱落、神経伝達物質の異常が生じ、その結果、高度の知能低下や人格の崩壊がおこる認知症である。現在のところこの疾患の決定的な治療薬は存在せず、また一方で初期症状における対処がその後の症状の進行に影響するといわれている。 アルツハイマー病の確定診断は現在のところ記憶障害や認知障害といった医師の主観的な判断に基づくものであり、重症度についても日常生活での行動で判定している。アルツハイマー病との関わりが示唆されている物質として、ベータアミロイド(1-40、1-42)やリン酸化タウ、アポEなどが報告されているが、いずれも診断法として使われるほど信頼性がない。 アセチルコリン分解酵素阻害薬、塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)はエーザイによって認知改善薬として開発され、米国で1996年、ヨーロッパで1997年、そして日本で1999年にアルツハイマー型痴呆治療薬として認可された。アリセプトの日本での承認が遅れた理由の一つにアルツハイマー病診断の難しさが挙げられている。また新たな患者さんにアリセプトを処方してもらうための診断も、薬剤効果の見極めも、科学的根拠に基づいた客観的な指標は今のところ存在しない。このような状況下、より適切な治療を進めていく上でこの科学的根拠に基づいた客観的な指標、バイオマーカー、の発見は重要である。 エーザイはアルツハイマー治療薬リーディングカンパニーとして、次世代アルツハイマー治療薬の開発はもちろんアリセプトの販売拡大が重要な使命であると考えから、1999年にエーザイ・プロテオミクスチームを発足させ、アルツハイマー病診断マーカー探索を極めて重要な任務の一つと位置づけて脳プロテオミクスに力を入れている。現段階では詳細な進行状況を明かすことは出来ないが、パイロットスタディーとして行った100人スケールでの臨床サンプル、すなわちアルツハイマー病患者さんのヒト骨髄液や血漿サンプルを使ったバイオマーカー探索について我々の戦略や明らかになってきた課題などについて紹介したい。
ケミカルプロテオミクスの最前線
  • Predeki F. Paul
    セッションID: S1-3-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    Functional protein microarrys present new approaches for investigating the interactions and activities of small molecules with protein targets. From the discovery perspective, large collections of functional arrayed proteins can facilitate the identification of targets for small molecules with unknown mechanisms of action. They can also be used to identify unintended cross-reactivity, which may relate to side-effects. On the other hand, for screening purposes, a more targeted selection of proteins can be used for specificity profiling of small molecule libraries. This talk will provide a basic introduction to functional protein microarrays, and provide examples of the applications described above, using Invitrogen's ProtoArray™ technology.
  • 上杉 志成
    セッションID: S1-3-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    生命現象解明のために、生理活性小分子化合物はさまざまな形で利用されてきた。その中で最も直接的な利用法は、化合物の標的タンパク質を精製・同定することだろう。しかしながら、化合物の標的タンパク質を精製することは、通常困難を極める。今回の講演では、標的タンパク質精製を容易にする「釣竿法」について議論する。この精製法により、抗炎症薬「インドメタシン」の新たな標的タンパク質としてGlyoxalase1 (GLO1)を同定することができた。他にも、釣竿法を使った最新の応用例についても議論する。
  • 吉田 稔
    セッションID: S1-3-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    化学を武器に挑む生物学であるケミカルバイオロジーが世界的な注目を集めている。その中心となる概念は、古典遺伝学における突然変異を小分子に置き換えて標的タンパク質の同定や機能解析を行うケミカルジェネティクスである。しかし、歴史的に天然物化学が強い我が国では、こうした言葉が誕生する前から特異的な活性を有する天然物の作用機構を明らかにしようという研究が優れた成果を挙げてきた。演者らのグループは微生物の生産するトリコスタチンA、トラポキシン、レプトマイシンB、などの標的分子を解明し、それらがヒストン脱アセチル化やタンパク質の核外輸送など、重要な細胞内機能分子であることを明らかにしてきた。最近では、スプライソソームに特異的に結合し、スプライシング反応を阻害するとともにイントロンを含むmRNAの翻訳を誘導する驚くべき化合物を見いだしている。これらのケミカルバイオロジーを拡張し、ゲノム規模で組織的、系統的に化合物を見出し、生命現象を解明するためのツールとして活用していく、というのがケミカルゲノミクスの理念である。そこからは直接創薬につながる化合物が出てくることも期待されている。しかし、現状ではその基盤となる技術や材料の確立が十分とは言えない。演者らは動物細胞のモデル生物として優れている分裂酵母を選び、そのゲノムにコードされるORFを全てクローン化し(ORFeome)、それらに蛍光タンパク質や小分子タグ(FLAG2-His6)を付加して細胞内局在(Localizome)や電気泳動上の位置(Mobilitome)を網羅的に決定した。これらのリバースプロテオミクス情報や発現クローンライブラリーを用いた新しいケミカルゲノミクス戦略について解説したい。
  • 夏目 徹
    セッションID: S1-3-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノムプロジェクトの終了宣言が行われ、NIHによるGenome to Life Roadmapが発表された。その柱の一つがケミカルジェノミクスであることが宣言されて久しい。そして、この宣言に呼応し、欧米各国はケミカルジェノミックス、あるいはケミカルバイオロジーに関する研究投資が盛んに行われ始めた。事実、米国においても、巨額の研究予算がアカデミアの各研究施設に投入されケミカルバイオロジー・プロジェクトが様々なレベルで展開しようとしている。その基本的な戦略は、なるべく大規模なケミカルライブラリーを構築するとともに、スクリーニングセンターを設立し活性化合物を取得するための研究ネットワークを構築し、基礎研究者と合成化学者のコーディネーションを図り化合物主導の生物学を展開していくということのようである。 それに対して我が国は、限られた予算・リソースの中で、単に欧米に追従しても意味がない。明確な戦略や独自性・優位性がない、無策なプロジェクトを展開しては誰も幸せにはならないのである。我々は過去5年間、大規模なタンパク質相互作用ネットワーク解析行ってきた。そして、これを踏まえて「日本」のケミカルバイオロジープロジェクトをスタートさせた。何故なら、殆どの化合物は何らかのタンパク質に作用しその薬効を顕すからである。 本講演では、タンパク質ネットワークを俯瞰することにより明らかとなった疾患関連遺伝子の機能と疾患発症メカニズム等を概説するとともに4-21)、そのネットワーク情報と次世代天然物化学を駆使した化合物スクリーニング戦略を紹介する。本プロジェクトに於いては、生体システムの制御上、重要と思われるタンパク質、またはタンパク質相互作用をターゲットとした統一的なスクリーニングを実施し、得られた活性化合物の評価も行う。
グライコミクスの新展開
  • 平林 淳
    セッションID: S1-4-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    生命第3鎖として語られる糖鎖は、細胞単位で合成系(ヒトでは200種強の糖転移酵素群)が起動し「グライコーム(glycome)」を形成する。タンパク質のうち小胞体・ゴルジ体に輸送されるものの殆どは翻訳後修飾としての糖鎖付加を受け、糖鎖機能は比較的単純な役割(構造安定化やでデリバリー)から、免疫、炎症、癌などの細胞認識における機微と高次機能発現(細胞シグナル)、さらにはインフルエンザ・細菌毒素に代表される微生物感染の高機能化に至るまで、幅広い生命現象にどっしりと根を下ろしている。糖鎖研究は今やリソース発掘、ツール開発の時代を終え、その有効活用にむけた新展開の時期を迎えている。本講演ではNEDOの糖鎖エンジニアリングプロジェクト(H15~H17年度)で演者らが開発したレクチン利用による糖鎖解析技術とその実用化に向けた試みについて述べる。第一に、レクチンライブラリーの開発とこれらと100種以上の標準糖鎖との相互作用解析をフロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー(FAC)によって行なうことで、レクチン・糖鎖間の親和力を精度高く求めた。このために、島津製作所と共同でFAC自動化装置を開発し、解析ソフトを含めた実用機の開発を達成した(Methods Enzymol. 415:311-325, 2006)。得られた網羅的相互作用データはレクチン分子情報とともに三井情報と共同開発したCabos Databaseに登録し順次公開していく予定である。一方、本レクチン情報を元に糖鎖プロファイリングに有効なレクチンを選別し、簡易、高感度に糖タンパク質糖鎖の構造情報を取得できるレクチンマイクロアレイの開発に成功し、エバネッセント波励起蛍光法による専用スキャナーがモリテックスから販売される運びとなった(Methods Enzymol. 415:341-351, 2006)。本装置を用いればウエスタンブロットに用いる程度の微量糖タンパク質で高精度なプロファイリングができる他、疾患関連バイオマーカーの探索や再生医療などにおける細胞の品質管理にも使える見込みがつきつつある。以上述べた糖鎖用の解析ツールは広くプロテオーム研究者に活用してもらえることを期待している。
  • 三善 英知
    セッションID: S1-4-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    (背景と目的)膵癌は、今日最大の難治性がんである。その大きな理由の1つとして早期発見が困難なことがあげられる。現在頻用されているCA19-9という腫瘍マーカーは早期のがんでは上昇せず、どちらかと言えば治療効果の指標になっているのが現状である。また肝癌のように、慢性肝炎という発症母地を持たないため、膵癌のハイリスク群を同定することが困難であることも、早期診断が難しい理由の1つと言える。そこで本研究では、グライコミクスの手法を用いて、膵癌の新しい腫瘍マーカー同定の手法を紹介し、その臨床的な意義に関しても検討した。 (対象と方法)大阪大学医学部附属病院およびその関連病院に通院もしくは入院中の膵癌ならびに慢性肝炎患者を対象とした。糖鎖の解析はレクチンを用いたウエスタンブロットとmass spectrometry法によって行なった。さらに詳細な部位特異的な解析に対しても、mass spectrometryを用いた。同定した糖鎖標的分子(膵癌で糖鎖が変化している分子)の解析は、膵癌の培養細胞も用いた。既知のマーカーとしてCA19-9の測定はSRL社にて行なった。 (結果)膵癌患者の血清で、ハプトグロビンにフコースによる糖鎖修飾が高頻度に認められた。フコシル化ハプトグロビンは、膵癌において他の癌よりも陽性率が高く、血清中の全体量とは相関しなかった。膵癌細胞の中で、フコシル化ハプトグロビンを産生しているものもあるが、肝臓よりフコシル化ハプトグロビン産生を誘導する因子を分泌している可能性が示唆された。部位特異的な糖鎖解析から、ハプトグロビンに存在する4つの糖鎖の中でフコースの糖鎖修飾を受けやすい部分を同定した。フコシル化ハプトグロビンは、通常の慢性膵炎では陽性率が低いが、腫瘤形成性膵炎では高頻度に認められた。CA19-9とのコンビネーションによって、85_%_の血清診断が可能であった。 (結語)フコシル化ハプトグロビンは新しい膵癌の腫瘍マーカーとして期待され、部位特異的な糖ペプチドの糖鎖解析により、さらにハイスループットな臨床検査法の開発が期待される。
  • 川崎 ナナ, 高倉 大輔, 中島 紫, 橋井 則貴, 伊藤 さつき, 原園 景, 山口 照英
    セッションID: S1-4-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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     細胞・組織発現タンパク質の多くは糖鎖付加を受け,ある種の糖鎖構造は発生・分化や接着,あるいは疾患と深く関わっていることが明らかになってきている.従って,全糖タンパク質の網羅的解析技術の開発だけでなく,ある糖鎖構造を持つタンパク質をターゲットとしたグライコミクス技術の開発が必要となってきている.
     目的とする糖鎖構造をターゲットとした特異的検出法として,レクチンや抗体を利用する方法が一般的に用いられている.また,多段階質量分析法( MSn)によって生じた糖鎖構造に特徴的なイオンを指標として用いることによっても,その糖鎖構造を持つ糖鎖を特異的に検出できる場合がある.我々は,遊離糖鎖の中から,Lewis x (Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)や非硫酸化型HNK-1(GluAβ1-3Galβ1-4GlcNAc)などの糖鎖抗原に特徴的なイオンを利用することによって,それらの糖鎖抗原を持つ糖鎖を選択的に検出することに成功している.この方法を糖ペプチドに応用することができれば,目的糖鎖抗原をもつ糖ペプチドを特異的に検出し,ペプチド部分の配列を推定できるはずである.
     我々は,Lewis x付加糖タンパク質をモデルとして,レクチンとMSnを用いた目的糖鎖抗原を持つタンパク質の特異的検出とその同定を試みた.試料として,Lewis x付加糖タンパク質が多く発現しているマウス腎臓を用いた.マウス腎臓ホモジネートのトリプシン消化物からAALレクチンカラムでフコシル糖ペプチドを濃縮し,LC/MSnを行った.Lewis xに特徴的なイオンを指標として,多数のペプチドのプロダクトイオンスペクトルの中からLewis x付加糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルを選び出し,糖鎖構造を確認するとともに,ペプチド関連イオンを特定した.主なペプチド関連イオン22個を前駆イオンとして設定し,再度LC/MSnを行い,データベース検索を行った.その結果,6種類のタンパク質をLewis x付加糖タンパク質として同定することができた.
     レクチン等やMSnを利用する方法は,Lewis x以外の他の糖鎖抗原を持つ糖タンパク質の特異的検出とその同定法としても応用可能であると思われる.
  • 和田 芳直
    セッションID: S1-4-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    プロテオームにおける糖鎖解析の要求、すなわちグライコプロテオームの重要性への認識が高まっている。質量分析はそのスループットと感度ゆえにグライコプロテオームに欠かせない技術であるが、研究室ごとに異なる方法(修飾法、イオン化法など)が用いられている。一方で、糖鎖定量(microheterogeneityにおける個々の糖鎖存在比算出)にはクロマトグラフィーが標準とされ、質量分析による糖鎖定量の信頼性や位置付けは不明確である。ヒトプロテオーム機構Human Proteome Organisation (HUPO)におけるHuman Disease Glycomics/Proteome Initiative (HGPI)では、糖鎖解析を専門とする世界の20研究室にトランスフェリン(Tf)と免疫グロブリンG (IgG)を各1mg配布し、それぞれの研究室が普段用いている方法によりN型糖鎖プロファイリングを行った。
    【結果】標準法とされているクロマトグラフィーによる結果は研究室間にばらつきがあった。完全メチル化糖鎖のMALDI-MS(reflectron, [M+Na]+)を用いた研究室間のばらつきはむしろ小さく、脱離によるシアル酸の過少定量はなかった。一方、完全メチル化を行わない糖鎖のMALDI-MSではシアル酸脱離による過少定量結果が見られた。LC/MS(negative ion mode)による分析は良好であった。図1に示した方法別データ比較の通り、質量分析による糖鎖定量は、イオン化における糖鎖の開裂と対策を熟知して行えば、標準法とされる蛍光標識糖鎖のクロマトグラフィーに遜色なく、むしろデータのばらつきは糖鎖切り出し操作に由来すると考えられた。
    糖ペプチドについてはほとんどの研究室が定性データ(部位特異的な糖鎖構造)にとどまる中で、MALDI-MSとLC/MSによって定量したそれぞれ1研究室間の結果はよく一致し、Tfにおける部位特異的な、また、IgGにおけるサブクラス構造特異的な糖鎖プロファイルが得られた。糖ペプチドのイオン化効率が糖鎖構造でなくペプチド骨格に依存することが糖ペプチドを試料とする質量分析による糖鎖定量を可能にしている。

    この研究成果は次の論文にまとめられた。その著者28名がすなわち本講演の発表者である。
    Glycobiology 17: 411-422 (2007)
メタボプロテオミクスの新展開
  • 小田 吉哉
    セッションID: S1-5-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    現在エーザイは世界で最も使用されているアルツハイマー治療薬アリセプトの開発・販売会社であることから次世代の治療薬を認知症の方に届けることが我々に課せられた使命であり、1999年以降一貫して脳プロテオミクスに取り組んでいる。マウス脳およびマウスの神経芽細胞Neuro2Aに発現しているタンパク質を同定したところ、実に97%が両者に発現していた。脳とNeuro2Aでは機能が大きく異なるのでタンパク質は発現の有無だけではなく、翻訳後修飾やプロセシングも重要である。特にリン酸化は細胞内シグナル伝達において極めて重要な修飾である。細胞の生から死までのあらゆるステージにおいてリン酸化が関わっているといっても過言ではない。一方、プロテアーゼによるタンパク質の切断が多くタンパク質の成熟に必要であることは広く知られている。特に最近の研究では、細胞死に関わるシグナル伝達においてプロテアーゼが非常に重要な役割を担っていることが明らかになっている。このようにタンパク質がどのようにリン酸化されるか、あるいはプロテアーゼによって切断をうけるかを研究することは、そのタンパク質がシグナル伝達における位置付けを知る上で重要な手がかりとなる。そこで神経細胞間の情報伝達のしくみ、特に神経伝達物質が放出される分子メカニズム解明に焦点を当てることにした。アンフィファイジンは神経細胞におけるエンドサイトーシスを制御する重要なタンパク質である。質量分析によってこのアンフィファイジンには5箇所のリン酸化部位があると推定し、さらに5箇所のリン酸化部位のうち2箇所が機能発現に非常に重要であることを明らかにした。ところで興奮性神経毒に誘導される神経細胞死において、脱リン酸化酵素カルシニューリンはカルパインというカルシウム依存的に活性化されるプロテアーゼによって切断を受ける。カルシニューリンはN端に触媒領域、中央にカルモジュリン結合領域、C端に自己抑制領域がそれぞれ存在する。したがって、カルシニューリンの切断部位に関する情報は、切断後のカルシニューリンの機能を推測する上でなくてはならないものである。さらにカルパインは先のアンフィファイジンも切断することがわかった。この切断部位を質量分析にて推定した後、切断されたアンフィファイジンの機能解析をしたところ神経細胞におけるエンドサイトーシスを阻害することがわかった。
  • 中戸川 仁, 大隅 良典
    セッションID: S1-5-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    細胞は栄養の枯渇を感知すると、オートファジーと呼ばれる飢餓応答を発動させる。細胞質に膜小胞を押しつぶしたような形状の隔離膜が現れ、これが湾曲しながら伸展し、細胞質の一部や時にはオルガネラをも取り囲んだ球状の二重膜構造体、オートファゴソームが形成される。続いてオートファゴソームの外膜がリソソームや液胞といった分解コンパートメントと融合し、中身が内膜ごと消化される。タンパク質の分解産物であるアミノ酸はタンパク質の新規合成や糖新生等に転用され、細胞は飢えを凌ぐことができる。出芽酵母を用いた研究から、オートファゴソームの形成に必須の因子が数多く同定されているが、これらが何処からどのようにして膜の材料となる脂質分子をリクルートし、アセンブルさせるのか、そのメカニズムは全く明らかとなっていない。
     Atg8は、出芽酵母におけるオートファゴソーム形成に必須のユビキチン様タンパク質であり、Atg7 (E1様酵素) とAtg3 (E2様酵素) が媒介するユビキチン様の結合反応により、リン脂質であるホスファチジルエタノールアミン(PE)の親水性頭部のアミノ基に結合するというユニークな性質を持つ。我々は、この脂質修飾反応をin vitroで再構成し、Atg8にはPEと結合すると自身がアンカーされた膜(人工膜小胞)同士をつなぎ合わせ、hemifusion(向かい合う二枚の脂質二重層のうち、近接した一層同士のみが融合すること)させる機能があることを見出した。さらに、このようなAtg8の機能は、Atg4という脱脂質化酵素により可逆的に制御されうることも明らかとなった。一方、オートファジーに欠損を示すAtg8変異体を複数分離したところ、そのほとんどが上記機能に異常を示した。膜のつなぎ合わせとhemifusionというin vitroで観察された現象は、細胞内でのオートファゴソーム形成におけるAtg8の機能を反映しているものと考えられる。電子顕微鏡解析の結果、Atg8の欠失株や強い欠損を伴う変異株ではオートファゴソームの形成は観察されないが、部分的欠損変異株においては野生株に比べ顕著に小さなオートファゴソームが形成されることが明らかとなった。Atg8による膜のつなぎ合わせとhemifusionは、大きな(正常な大きさの)オートファゴソームの形成、即ち、隔離膜の伸張に重要な機能と考えられる。脂質修飾に応じたAtg8の機能制御機構についても議論したい。
  • 石井 剛志
    セッションID: S1-5-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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     生体内は, 通常還元状態に維持されており、その制御においてグルタチオンやタンパク質中に含まれるチオール基 (‒SH) は極めて重要な存在である。また、タンパク質中のチオール基は、多くの酵素の活性中心として重要な働きをするほか、ジスルフィド結合による立体構造の形成などにも寄与している。近年、様々なタンパク質の活性発現や機能調節においてシステイン残基の酸化還元反応が重要な役割を示すことが報告されてきており、システイン残基の可逆的な酸化修飾は生体内の重要な翻訳後修飾のひとつであることが明らかとなってきた。
     一方で酸化ストレスのような異常状態においては、タンパク質中のアミノ酸側鎖は、生体内で生成した過剰な活性酸素種 (ROS) により酸化されるほか、脂質過酸化反応などにより二次的に生成されるアルデヒド類などにより修飾される。このような酸化修飾は、酵素やシグナル因子の失活やタンパク質立体構造の崩壊を引き起こすタンパク質の酸化変性として働くほか、レドックスシグナルの混乱や崩壊を引き起こすことから、タンパク質の異常な翻訳後修飾と位置づけることができる。そのため、プロテオミクスにより酸化感受性の高いいわゆる ”標的タンパク質” を明らかにすることは、細胞内のレドックス制御や酸化ストレスによる病変発祥機構を理解するうえで重要となる。
     酸化修飾を指標としたプロテオミクス解析については、現在様々な観点から多くの研究が行なわれているが、本発表ではシステイン残基の酸化修飾やタンパク質カルボニル、脂質過酸化アルデヒドの標的タンパク質に焦点を当てた解析例について紹介する。
  • 田口 良, 北條 俊章, 田嶌 優子, 前田 裕輔, 木下 タロウ
    セッションID: S1-5-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質は翻訳後修飾によりそのC末部分がGPI糖脂質により置換され,生体膜に結合する膜タンパク質である.GPIアンカータンパク質の糖脂質前駆体の合成時又はタンパク質の翻訳後修飾の後に脂質部分のリモデリングが起こることなど解明すべき多くの問題が残されているが,分子レベルでの詳しい解明は行われていなかった.一方,リン脂質の分子種はクラス毎に特徴ある偏りを示し,動物種,組織,細胞内オルガネラ,生体膜ドメインにおいても非常に異なった分布を示しており,それらの生理的機能の維持に大きく関与していると考えられる.
    我々はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質のホスファチジルイノシトール(PI)における分子種特異性形成機構を各種GPIアンカータンパク質生合成変異体におけるアンカー構造の質量分析により解析した.その結果,GPIアンカータンパク質の細胞膜におけるラフトへの局在が,そのホスファチジルイノシトールの1-alkyl-2-stearoyl型PI分子種の含量が多いことと関連していることがこの分子種へのリモデリングを欠損した変異体の発見により予想された1).さらに,この特異的な分子種の生合成過程の内,初期の3ステップ目のイノシトールのアシル化した代謝物が蓄積する生合成変異株のイノシトール脂質分子種においてアルキル鎖脂肪酸の割合が特異的に増加することを見いだした2).さらにPIのsn-2位のステアリン酸へのリモデリングが翻訳後修飾後に細胞膜へ移行の最終過程で起こり,この過程にはホスホリパーゼA2作用によるリゾ体への分解とそれに続くステアリン酸のアシル基転移反応が関与している事が判った1)
    (文献)
    1. Maeda Y, et al., Mol Biol Cell. 18:1497-506 (2007).
    2. Houjou, T., et al., J. Lipid. Res., in press. (2007).
プロテオミクスの新技術
  • 紀藤 圭治, 山口 佳洋, 太田 一寿, 伊藤 隆司
    セッションID: S1-6-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    インタラクトーム解析の進展により、データベースには多数のタンパク質間相互作用が登録されている。しかし、その大半は機能アノテーションや定量的記述を欠いている。これらのデータを十分に活用するには、特定の相互作用を選択的に阻害したり、相互作用を定量的に計測する為の一般性の高い方法論が必要であると考えて、我々はその開発に取り組んできた。
    前者に関しては、特定の相互作用を障害するが他の相互作用には影響しない機能分離型アレルを単離するために、デュアルベイト逆2ハイブリッドシステムを開発した(1)。このシステムは、同一細胞内で正逆2種類の2ハイブリッドアッセイを並列処理するもので、インタラクトームのハブのように多数の相互作用パートナーを持つタンパク質の機能解析や、選択性の高い相互作用阻害剤の検索に特に有効である。
    後者に関しては、ペプチド連結型標準物質(Peptide-Concatenated Standard; PCS)と質量分析を利用してタンパク質複合体の構成因子の化学量論比を正確に計測する方法を開発した(2)。この方法では、定量に適したトリプシン断片(標準ペプチド)を各構成因子から選択し、それらを隣接配列とともに連結した人工タンパク質PCSを作成し、これを安定同位元素標識して精製複合体の質量分析による定量に用いる。PCSでは、全ての標準ペプチドが連結されているので、必ず等モルでサンプルに添加される。また、隣接配列の付加によって、標準ペプチドの切断効率がPCSと標的タンパク質とで同等になるために、正確な定量が実現する。更にPCSを上手に設計すれば、上記の機能分離型アレルも含めて異なるアレルの産物や、或いはオルタナティブ・スプライス・バリアントの産物を識別して定量することも可能であり、相互作用・複合体に関する理解を更に深めることも出来る。
    本演題では、相互作用・複合体の機能解析に有効なこれらの技術を、いくつかの実例を交えながら紹介してみたい。

    1. Yamaguchi Y et al. J Biol Chem 282:29–38, 2007.
    2. Kito K et al. J Proteome Res 6:792–800, 2007.
  • 川崎 博史, 田口 宏美, 山中 結子, 進藤 真由美, 苅田 育子, 成戸 卓也, 今川 智之, 森 雅亮, 横田 俊平, 平野 久
    セッションID: S1-6-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
     疾患マーカータンパク質や病因タンパク質の探索のためには、特定の疾患患者群とその他の集団の間のタンパク質の発現の差異を定量的に比較することが必要である。プロテオミクスにおいて、従来はタンパク質の分離と定量には二次元電気泳動による解析が用いられており、質量分析法は電気泳動のスポットの定性的な同定法であった。近年、ゲル電気泳動によるタンパク質の分離を行わずにLC-MSと同位体標識法によって、試料間の発現タンパク質量の差異を分析する方法がいくつか開発されている。
     iTRAQ試薬は、アミノ基と反応するペプチド標識試薬である。同位体で標識された4種類の試薬は、すべて同じ質量の修飾ペプチドを生成する。同じタンパク質に由来する複数のペプチドのMSMSスペクトルによって、タンパク質の同定と試料間の量比を定量することができる。通常は、酵素消化によって生じたペプチドをiTRAQ試薬で標識し、LC-MSMSで同定・定量を行うが(iTRAQ法)、タンパク質をiTRAQ試薬で修飾した後に酵素消化を行い、同定・定量を行うことも可能になっている(Protein iTRAQ法)。
     私たちは、4歳以下の乳幼児にみられる急性熱性疾患である川崎病の病因解明を目指して、血清、血漿中に存在する疾患特異的なタンパク質の探索を行っている。これまでに、急性期と回復期の血清を対とした2D-DIGE法よる解析によって、急性期には炎症性タンパク質の発現量が、回復期には抗炎症性タンパク質の発現量がそれぞれ増加することを明らかにしている。今回、9名の川崎病患者の急性期、回復期の対と18名の正常小児の血清を用いて、急性期、回復期、正常小児の3群の間でのタンパク質の発現の差異を2D-DIGE法、iTRAQ法によって解析した。また、Protein iTRAQ法による分析では、患者の血漿交換外液を用いて分析を行った。iTRAQ試薬によるタンパク質の修飾の後、すべての試料を混合し、ゲルろ過による分画を行い、その後タンパク質を酵素消化した。これらの分析によって、以前の結果と同様に炎症関連のタンパク質の増減が観察された他、いくつかの興味深いタンパク質の変動を見いだすことができた。
     この結果をもとに、2D-DIGE法、iTRAQ法、Protein iTRAQ法の特徴や疾患関連タンパク質の探索における有用性について議論する。
  • 本田 一文, 原  智彦, 下重 美紀, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S1-6-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】がんの浸潤・転移の過程でアクチン細胞骨格のダイナミックな変化が重要な役割を担うと考えられている。われわれは、アクチン束状化に関与し、浸潤性乳管がんの予後マーカーになるアクチン結合タンパク質actinin-4を単離し(Honda et al., J Cell Biol 140:1383, 1998)、現在までがん細胞の運動性の亢進や浸潤・転移過程に関与することを報告してきた(Honda et al., Gastroenterology 123:51, 2005; Hayashida et al., Cancer Res 65:8836, 2005)。 今回、前立腺がん臨床症例におけるactinin-4タンパク質発現とactinin-4と複合体を形成するタンパク質の解析を行ったので報告する。 【方法と結果】 前立腺がん29症例について免疫組織化学的にactinin-4の発現を検討したところ、がん部では正常前立腺管部の基底細胞に比べて発現低下がみられ、この発現低下は前立腺細胞株(22RV, PC3, LNCaP)と正常前立腺上皮株(PrEC)の間でもウエスタンブロット法で確認された。Actinin-4遺伝子の過剰発現は22RVやPC3の細胞増殖を抑制し、actinin-4の発現低下が前立腺がんの異常な細胞増殖に係わるものと考えられた。そこで22RV細胞で内因性のactinin-4と結合するタンパク質群を免疫沈降法とLC-MS/MSで解析した。Endocytosis関連分子であるclathrin、dynamin、adaptin-δ、β-NAP、p47Aがactinin-4と相互作用することが分かった(Hara et al., Mol Cell Proteomics 6:479, 2007)。実際にactinin-4過剰発現下で蛍光標識されたトラスフェリンがperi-nuclear endosomeに輸送されることが確認された。 【結論】 EndocytosisはEGFR (epidermal growth factor receptor)などの細胞増殖因子リセプターのinternalizationに係わることが知られており、前立腺がんにおけるactinin-4タンパク質発現の抑制は細胞内の分子輸送を変化させ、がん細胞の増殖を促進させる可能性が推察された。
  • 瀬藤 光利
    セッションID: S1-6-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    生体試料の分析が可能な質量分析法は、ポストゲノム時代のプロテオミクス分野において非常に重要な役割を果たしている。一方でこれまで一般に質量分析法で用いられる生体試料には、生化学的手法で分離・精製された上で生体物質の同定等の解析がなされるという制約があった。この条件下では、生体試料内の目的物質の細胞組織内分布や局在などの位置情報が失われてしまう。そのような生体試料における位置情報をそのまま解析する手法として、近年、質量イメージング法(Imaging MASS Spectrometry: IMS)の開発を行っている。IMS のうちでは特に、従来の SIMS 法では困難であった高分子の分布・局在の解析とタンデム質量分析を実現する手段としての、MALDI 法が期待されている。IMS の主要な開発ポイントは、得られるデータの高感度高分解能化、物質同定精度の向上、位置分解能の向上であり、これまで我々はそのための条件である高性能な装置の開発と資料の前処理法の開発に携わってきた。このIMS の手法を用いることで、我々はマウス海馬において、カイニン酸投与による分子変動を発見した。さらにIMS の次の開発段階として、最近我々はナノ微粒子イオン化支援剤を用いたnanoparticle-assisted laser desorption/ionization (nano-PALDI) 法を確立した。ここで調製したナノ微粒子(d = 3.7 nm)は、質量分析において薬剤、ペプチド、蛋白質サンプルのイオン化を支援するものであり、既存のマトリクスの径(50m)を大幅に下回るため、空間分解能の高い解析が可能である。実際、我々はこの方法を用いて、組織の様な生サンプルから生体物質をイオン化することができることを示し、またMS/MS による物質同定にも成功した。こうして独自に開発を進めつつある IMS 法を、さらにヒト疾患の原因の解明に役立てるべく、研究を進めている。疾患対象としては、社会的影響力の大きい統合失調症やアルツハイマー病などの脳疾患、あるいは筋肉が壊死・変性する難病である筋ジストロフィーを念頭に置き、実際それらのヒトサンプルに対して解析を進めている。IMS によりこれら疾患の病理の分子像が同定されれば、有用な治療薬の開発につながるものと期待できる。今回の発表ではこれら我々の最新の研究データを元に質量イメージング法の医学応用について議論したい。
プロテオミクスの新技術・翻訳後修飾の解析
  • 石濱 泰
    セッションID: S1-7-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質のリン酸化は細胞内情報伝達において最も重要なイベントのひとつであり、そのリン酸化部位を同定し、定量的・速度論的かつ網羅的な解析を行うことは細胞機能を理解する上で必須である。さて、チタニアやジルコニアといった酸化金属はリン酸基に対して親和性を持つことは古くから知られており、近年では翻訳後修飾プロテオーム解析に応用されるようになった。最近、我々はアリファティックヒドロキシ酸でこれらの酸化金属を修飾することにより、リン酸化ペプチドに対する選択的な濃縮の効率が劇的に向上することを見出し、細胞抽出物のような複雑な混合物からワンステップでリン酸化ペプチドを濃縮することに成功した[1]。しかしながら、酸化金属、ヒドロキシ酸およびリン酸化ペプチド間の詳細な相互作用機構に関しては充分に解明されておらず、本研究では、まず結晶形などが異なる市販の酸化金属担体および物理化学的特性の異なる酸化金属担体を調製し、これらの物性がリン酸化ペプチド濃縮の際の選択性に及ぼす影響について検討を行った。その結果、結晶形の違いや結晶性よりも表面の化学的な性質がより選択性に影響を及ぼしていることがわかった。また担体の焼成温度をコントロールすることにより、選択性を最適化することも可能であった。さらにヒドロキシ酸以外の修飾剤の検討も行い、リン酸化ペプチド濃縮機構の解明をはかるとともに、リン酸化ペプチド濃縮法の最適化を行った。次に哺乳細胞や植物細胞の全細胞抽出物を試料として本法を適用し、超高精度質量分析計(LTQ-Orbitrap MS、サーモフィッシャー社)を用いたnanoLC-MSMSシステムで分析したところ、一試料あたり数千個のリン酸化ペプチドおよびリン酸化サイトを同定することが可能であった。例えばHeLa細胞では、非リン酸化ペプチドの混入率は10%以下であり、リン酸化ペプチドを高選択的に濃縮できることがわかった。本発表では、本法を細胞内情報伝達研究に適用した例として、安定同位体標識したガン細胞におけるリン酸化反応のダイナミクス解析についても報告する。 [1] N. Sugiyama et al., Mol. Cell. Proteomics, (2007) Feb 23; [Epub ahead of print].
  • 木下 英司, 木下 恵美子, 小池 透
    セッションID: S1-7-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    Phosphorylation is a major post-translational modification that regulates the function, localization, and binding specificity of target proteins. Abnormal protein phosphorylations are deeply related to various pathogenesis. Methods for monitoring the phosphorylation status of proteins are thus very important with respect to the evaluation of diverse biological and pathological processes.
    Recently, we reported that a dinuclear metal complex of 1,3-bis[bis(pyridin-2-ylmethyl)-amino]propan-2-olato acts as a novel phosphate-binding tag molecule, Phos-tag, in an aqueous solution under physiological conditions (Fig. 1). The Phos-tag has a vacancy on two metal ions that is suitable for the access of a phosphomonoester dianion (R-OPO32-) as a bridging ligand. The resulting 1:1 phosphate-binding complex, R-OPO32--(Phos-tag)3+, has a total charge of +1. A dinuclear zinc(II) complex (Zn2+-Phos-tag) strongly binds to phenyl phosphate dianion (Kd = 2.5 x 10-8 M) at a neutral pH. The anion selectivity indexes against SO42-, CH3COO-, Cl-, and the bisphenyl phosphate monoanion at 25 °C are 5.2 x 103, 1.6 x 104, 8.0 x 105, and > 2 x 106, respectively. A manganese(II) homologue (Mn2+-Phos-tag) can also capture R-OPO32- anion, such as phosphoserine, phosphotyrosine, or phosphohistidine, at an alkaline pH. By utilizing the Phos-tag molecule, we here introduce convenient and reliable methods for the detection of phosphorylated proteins, such as phosphate-affinity chromatography or phosphate-affinity electrophoresis. We believe that our Phos-tag technology would result in great progress in phosphoproteomics.
  • 藤田 英明, 松本 雅記, 中山 敬一, 田中 嘉孝
    セッションID: S1-7-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    細胞膜上で機能する膜蛋白質には本来リソソーム輸送シグナル(チロシンモチーフ・ジロイシンモチーフ)は存在せず、したがってリソソームへと運ばれることがない。これらの細胞膜蛋白質の代謝回転は、細胞外プロテアーゼによるシェディングか非特異的なエンドサイトーシスによる分解に依存しているものとしてあまり注目されることがなかった。しかしながら最近、ユビキチン化がこれら細胞膜蛋白質のエンドサイトーシスやその後のリソソームへの輸送シグナルとして機能していることが明らかになりつつある。これまで一部のチロシンキナーゼ型受容体やG蛋白質共役型受容体を除いて、ユビキチン化を受ける細胞膜蛋白質の同定と解析はあまり進展していなかった。我々はエンドソームにおけるユビキチン化膜蛋白質の選別輸送を制御するAAA-ATPaseであるSKD1/VPS4Bの変異体SKD1(E235Q)のアデノウイルスによる発現系と、ユビキチン化蛋白質のプロテオミクス解析システムを利用して、ユビキチン化によりリソソームで分解される細胞膜蛋白質の網羅的同定に成功した。現在までに約20種類の膜蛋白質を同定しており、そのうち少なくとも2種類の膜蛋白質についてはユビキチン化部位まで同定した。また免疫蛍光染色や免疫沈降・ウエスタンブロットの結果、少なくとも9種類の膜蛋白質についてはSKD1(E235Q)の発現に特異的に局在の変化(エンドソームへの蓄積)およびユビキチン化(ラダーとして検出)を受けていることを明らかにした。これらの中には既にユビキチン化が報告されているものや、これまでユビキチン化はおろかリソソームでの分解についてもほとんど報告されていない膜蛋白質も含まれていた。また、シグナル伝達に関わる分子・受容体や、その異常分解産物が神経変性疾患を引き起こすものもあり、ユビキチン化による細胞内輸送や代謝分解制御がこれらの膜蛋白質の機能と強く結びついている可能性が示唆された。現在は同定した個々の細胞膜蛋白質について、 1) 実際にリソソームでの分解がその代謝回転に寄与しているのか? 2) リソソームへの輸送・分解にユビキチン化が必須であるのか? 3) ユビキチン化の分子機構(ユビキチンリガーゼの同定および生理的条件下でのユビキチン化の制御) 4) ユビキチン化あるいはリソソームでの分解を阻害するとどのような機能変化が起こるのか? などについて細胞・分子レベルでの解析を行っている。
  • 梶 裕之, 武内 桂吾, 田岡 万悟, 山内 芳雄, 礒辺 俊明
    セッションID: S1-7-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝情報に基づいて合成されたタンパク質の多くは、翻訳後のプロセシングや糖鎖の付加、リン酸化、ユビキチン化などの多彩な翻訳後修飾によって、その活性や局在、機能などが調節されている。このうち糖鎖付加・修飾反応の重要性は、生物の発生過程でのこの反応の異常の多くが致死であり、またヒトでは「先天性糖鎖合成異常症(CDG)」として知られる遺伝性疾患があることでも明らかである。したがって、糖鎖修飾の実態はコアとなるタンパク質の機能状態を反映する重要な情報となるが、ゲノム情報から推測することが困難なため、タンパク質自体の解析が不可欠となっている。これまで我々の研究グループでは、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせたLC/MSショットガン法を基礎として、生体試料中に存在する複雑なタンパク質群からN結合型糖タンパク質を大規模に同定する方法、すなわち、1)レクチンカラムによる糖ペプチドの選択的精製、2)酵素(PNGase)を利用した、糖鎖付加部位特異的安定同位体標識(IGOT)、および、3)ナノフロー多次元LC/MS法によるコアペプチドの同定、を組み合わせた方法を開発し、線虫等、モデル生物に存在する多数の糖タンパク質とその糖鎖付加部位を明らかにしてきた。糖^ンパク質や糖鎖の機能をより詳細に解析するためには、細胞や組織の状態、たとえば特定の糖鎖関連遺伝子の欠損やガン化など、の変化に応じた、糖鎖構造や糖タンパク質の発現等の変化を定量的に解析することが有効と考えられる。このため現在我々は、上述のIGOT-LC/MS法に差別的(ディファレンシャル)な安定同位体標識法を適用した方法の開発を進めている。本講演では、糖タンパク質大規模同定法の改善、および相対定量解析(動態解析)法の開発に対する我々の取り組みと、モデル生物の大規模データから得られた知見を紹介する。
細胞装置のプロテオミクス解析
  • 柳澤 純
    セッションID: S1-8-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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     核内レセプターはビタミン、ホルモン、コレステロール代謝物、脂質などをリガンドとするリガンド誘導性の転写因子であり、癌、肥満、糖尿病、骨粗しょう症などのさまざまな疾患に深く関与することが知られている。核内レセプターは、その構造上の相同性から遺伝子スーパーファミリーを形成していることが知られており、ヒトでは48種類の遺伝子が存在する。核内レセプターのリガンド結合領域は、12のαヘリックス構造で構成されている。リガンドが結合すると12番目のαヘリックスの角度が変化し、転写を制御する蛋白質複合体(転写共役因子)群の結合が可能となる。  私たちは、核内レセプターとリガンド依存的に相互作用する蛋白質複合体、またはリガンド結合によって解離する蛋白質複合体を網羅的に探索し、プロテオミクス技術を用いて同定し、解析を進めてきた。その結果、核内レセプター依存的転写はクロマチンリモデリングに関与する蛋白質複合体やユビキチン・プロテアソーム系を制御する蛋白質複合体など複数の複合体によって制御されていることが明らかになった。さらに、われわれはは核内レセプターのプロテアソームによる分解に着目し研究を進め、核内レセプターがいくつかの蛋白質の分解を制御していることを突き止めた。今回は核内レセプターによる分解制御と癌との関連について報告する。  
  • 早野 俊哉, 高橋 信弘
    セッションID: S1-8-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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     真核細胞のリボソームは、主に核小体において、200種類を超えるトランス作用因子(snoRNAおよびタンパク質)が関与する極めて複雑な多段階過程を経て合成される。近年、リボソームの生合成が、細胞の増殖や環境への適応などの基本的な細胞機能のみならず、さまざまな疾病とも深く関わっていることが相次いで報告されてきた。われわれは、リボソーム生合成と高次の細胞機能との関連を明らかにすることを目的として、主としてリバースタギング法を用いたリボソーム生合成中間体のスナップショット解析を行うことで、ヒトリボソーム生合成過程の全容の解明を進めている。
     われわれは、同過程の初期中間体のひとつであるNop56p複合体の構成成分としてTreacher Collins症候群原因遺伝子の産物であるtreacleを見出した。Treacher Collins症候群は、発生過程における第1、第2鰓弓の形成不全による顔面の奇形症候群で、TCOF1遺伝子の異常により発症する常染色体優性の遺伝病である。TCOF1遺伝子産物treacleのhaploinsufficiencyにより、神経冠細胞がアポトーシスを起こすなどの知見が得られているが、その発症機構の詳細については不明である。
     プロテオミクスの手法を用いたtreacle相互作用タンパク質の網羅的な解析から、細胞質および核のいずれにおいてもtreacleがほとんどすべてのリボソームタンパク質と相互作用していることが明らかとなった。また、大量発現させたtreacleが核小体表面にリボソームタンパク質とともに蓄積すること、さらに、treacleが細胞質と核小体間を行き来するとの結果から、importinが介する新生リボソームタンパク質の細胞質から核への既知の輸送経路以外に、treacleが関与する新たなリボソームタンパク質輸送経路の存在が示唆された。また、treacle相互作用タンパク質として数多くのシグナル伝達系タンパク質が見出されたことから、細胞増殖などの刺激によりリボソームタンパク質の輸送が活性化され、それに伴いリボソームの生合成が亢進される機構があるものと考えられた。
  • 村田 茂穂
    セッションID: S1-8-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    The 26S proteasome is a multisubunit protease responsible for regulated proteolysis in eukaryotic cells. The catalytic activities are carried out by the core 20S proteasome. The 20S proteasome is composed of 28 subunits arranged in a cylindrical particle as four heteroheptameric rings, α 1-7 β 1-7 β 1-7 α 1-7. However, the mechanism responsible for the assembly of such complex structure remains elusive. Recently, we found three novel chaperones involved in the maturation of mammalian 20S proteasomes, designated Proteasome Assembling Chaperone-1 (PAC1), PAC2, and PAC3. These three molecules associate with precursor 20S proteasomes. Specifically, they are required for α-ring and subsequent half-proteasome formation. Their knockdown by siRNA causes abnormally assembled proteasome precursors, resulting in poor 20S proteasome maturation. The previously known proteasome maturation factor hUmp1 (also called POMP or proteassemblin) helps the dimerization of half-proteasomes, and 20S proteasome formation is completed. Based on these findings, we propose a multistep-ordered mechanism for the assembly for mammalian proteasomes.
疾病メカニズムのプロテオミクス解析 (招待講演)
  • 清木 元治
    セッションID: S2-1-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    がんの発生、そして最終的な転移にいたる過程は、様々な細胞と細胞外基質より構成される組織の中で進行する。がん組織ではMMPをはじめとする様々な細胞外プロテアーゼの過剰発現があり、細胞外基質成分や細胞周辺の蛋白質分解を担っている。中でも膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT1-MMP)は細胞を取り巻く主要な細胞外基質であるコラーゲンの分解活性を持ち、がん細胞の組織環境での増殖を制御する因子として重要である。また、MT1-MMPは腫瘍間質で発現されるMMP-2の活性化因子としても重要である。しかし、これらMMPを介した腫瘍・間質相互作用が生体内の腫瘍増殖や浸潤にどのような影響を及ぼすかは不明であった。それぞれのMMPを欠損する細胞とノックアウトマウスを用いて、がん細胞がMT1-MMP依存性の増殖をする際に、それを取り巻く線維芽細胞から供給されるMMP-2が必要であることが明らかと成った。一方で、がん組織の線維芽細胞ではMMP-2の発現が亢進している。MT1-MMPはがん細胞の表面からEMMPRINという糖蛋白質を切断により放出する。切断されたEMMPRINは線維芽細胞に作用してMMP-2産生を促進する活性を有している。このことから、がん組織におけるMT1-MMP/EMMPRIN/MMP-2を介したポジテイブフィードバック機構の存在が窺われる。また、プロテオミクスやMT1-MMPとの相互作用解析により同定した因子による細胞機能制御についても紹介する。
疾病メカニズムのプロテオミクス解析
  • 荒木 令江, Patrakitkomjorn Siriporn, 小林 大樹, ウイルソン 森藤 政代, 森川 崇, 坪田 誠之, Wils ...
    セッションID: S2-1-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    神経系RAS-GAPであるNF1遺伝子産物(neurofibromin)の欠失/変異による多発性神経線維腫や学習障害発症メカニズムを、プロテオミクスの手法を用いて解析している。今回、NF1結合蛋白質群をpull down法およびiTRAQ法で同定し、これら分子群の細胞内相互機能解析を行うと同時に、NF1siRNA導入神経系細胞を用いて、proQDiamond-2D-DIGE及び2D-Western法にて特異的リン酸化亢進分子群を同定し、neurofibrominを介して神経分化/突起伸長に関わる細胞内シグナルの一旦を明らかにした。neurofibrominに特異的に結合する蛋白質群として、神経分化制御分子群、リン酸化・脱リン酸化酵素群、アダプター分子群、細胞骨格系・細胞接着系制御分子群、転写翻訳分子群など56種類の蛋白質が同定された。同定された結合蛋白質群の中でneuronのaxon形成とguidanceに関わるCRMP2, tubulin, WAVE複合体に注目したところ、この複合体はPC12細胞のNGF誘導性神経系突起先端に局在し、CRMP2のリン酸化を阻害して突起伸長誘導を促進することが判明した。また、siRNAによるNF1ノックダウン細胞内ではCRMP2のリン酸化が亢進し、神経突起伸長は優位に阻害された。これらの現象はNF1のRAS-GAPドメインを導入することによって正常化した。NF1siRNAによってリン酸化が亢進する分子は2Dゲル上で61個にのぼり、その中で特に多様なリン酸化を受けたCRMP-2のスポットは8個であった。NF1siRNAに関連して変動する7個のリン酸化CRMP2スポットは、RhoK, CDK5, 及びGSK-3B等のリン酸化酵素群による複数個のリン酸化部位から構成され、これらの活性制御がneurite の形成伸展に関わることが判った。neurofibrominは神経突起先端でCRMP2と結合してリン酸化を制御するとともに、そのRAS-GAP機能によるRas-RhoK, Ras-MAPK-CDK5-GSK3Bシグナル制御を介してCRMP2活性と神経細胞分化/突起伸長を制御していることが判明した。これらのシグナル阻害剤が、神経系分化異常に関連する病態の治療薬として有効である可能性が示唆された。
  • 大石 正道, 二井 祥仁, 小寺 義男, 大草 洋, 藤田 哲夫, 岩村 正嗣, 馬場 志郎, 前田 忠計
    セッションID: S2-1-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
     疾患プロテオーム解析では疾患特異的マーカータンパク質の探索が盛んに行なわれているが、実験材料や研究手法などの制約により、新たなマーカー候補の発見はますます困難になってきている。すなわち、疾患プロテオーム解析においては疾患臓器に含まれる全タンパク質が解析対象となるが、2-DEを用いた場合、高分子量タンパク質、微量タンパク質および膜タンパク質は解析が難しい。 我々の研究グループは、一次元目にアガロースゲルを用いる二次元電気泳動法(アガロース2-DE)で、主に分子量10万以上の高分子量タンパク質をターゲットに解析を行ってきた。癌では選択的スプライシング異常に伴う癌特異的アイソフォームが多数発現し、それが有力な癌マーカー候補になる可能性がある。そのため、インタクトな高分子量タンパク質の等電点および分子量を測定できるアガロース2-DEは、癌プロテオミクスにとって有効な解析手法である。 ところが、ヒト腎細胞癌の手術検体を研究材料に、ラット腎臓と同一の実験プロトコールを試したところ、抽出できたタンパク質の種類とタンパク量はともに少なく、特に高分子量タンパク質成分を十分に可溶化できていなかった。 そこで、本研究では、ヒト腎臓組織の破砕方法とタンパク質成分の抽出条件について以下の4種類の方法(1)~(4)を比較し、ヒト腎臓組織のプロテオーム解析に最適な条件を決定した。その結果、テフロン-ガラスホモジナイザー中でホモジナイズ後に、(1)超音波破砕を行う方法、または(2)Glass Beads を加えてVortexで攪拌する方法は、(3)テフロン-ガラスホモジナイザーでホモジナイズしただけの場合よりも、大幅にスポット数とタンパク量を増やすことができた。一方、(4)市販のホールクルード抽出キット(C-PEK)を用いたタンパク質抽出法は、(2)の方法に比べて、タンパク質成分のスポットが少ないだけでなく、高分子量(60-300kDa)で塩基性(pH7-9)のスポットがほとんど検出されなかった。最適化した(2)のプロトコールを用いて、ヒト腎細胞癌患者から得られた手術検体で癌部と非癌部の2-DEパターン比較を行ったところ、数十個の腎細胞癌マーカー候補タンパク質を見つかることができた。我々は、これらのマーカー候補タンパク質について、ゲル内消化法およびLC-MS/MSを用いて同定を試み、分子量約400kDaを含む高分子量タンパク質を多数同定することに成功した。
構造プロテオミクスの最前線
  • 濡木 理
    セッションID: S2-2-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子に蓄えられた遺伝情報は、遺伝暗号の翻訳過程における精密な酵素反応の集積により、正確にタンパク質として翻訳され、生命に必須な機能を発揮する。特にトランスファーRNA(tRNA)は,mRNA上のコドンに特異的なアミノ酸を対応づけることによって、正確な遺伝暗号の翻訳を保証している。tRNAのアミノ酸が結合する3’末端には、あらゆる生物で保存されたCCA(シチジン、シチジン、アデニン)という配列があり、アミノアシル化だけでなくリボソームにおけるペプチジル転移反応にも必須な役割を果たしている。このCCA配列は、CCA付加酵素というRNAポリメラーゼの一種が、鋳型DNAを使うことなしに、修復あるいは新規に重合する。我々は、真性細菌Aquifex aeolicus由来のCCA付加酵素とプライマーとなるtRNA前駆体(末端がCC)、および基質であるATPの3者複合体の結晶構造を2.8Å分解能で決定した。その結果、本酵素は、鋳型DNAの代わりに酵素のアミノ酸残基で構成された「タンパク質性の鋳型」によって、基質となるCTPやATPを固定し、tRNAの末端が伸縮することで、鋳型なしでも特異的にCCA配列を結合させることができることを明らかにした。さらに我々は、古細菌Archaeglobus fulgidus由来のCCA付加酵素とプライマーとなる各反応段階のミニヘリックスtRNA(CCA, CA, Aが欠けているもの)とNTPとの複合体[mini-D(D; ディスクリミネーター), mini-DC, mini-DC+CTP, mini-DCC, mini-DCC+ATP, mini-DCCAの計6つのステージ]の結晶構造を解明し、CCA付加反応のダイナミクスを解明することに成功した。その結果、第一段階、第二段階でCTPが付加する際には、ポリメラーゼドメインが構造変化して閉じた構造をとり、プライマー末端もフリップしてCTPを受け取ることにより、酵素・プライマー・CTPのダイナミクスでNTPの基質特異性が決定されていた。これに対し、mini-DCCステージ以降はポリメラーゼドメインが一貫して閉じた構造をとっており、ポケットの静的な構造でATPを認識していることが明らかになった。さらにC末端のドメインがtRNAに特徴的なTCループを認識することで、プライマーは転移することなく、CCAの付加が終わると反応は終結してtRNAが離脱することが明らかとなった。
  • 嶋田 一夫
    セッションID: S2-2-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    膜蛋白質は細胞外からのシグナル伝達、イオンの透過、エネルギ変換など生体内の重要な機能を担うため、その機能解明は重要である。さらに、上梓されている薬物の半数以上が、膜タンパク質を標的タンパク質としていることを考えると、生命現象の深い理解のみならず、新規薬物のデザインの観点からも、膜タンパク質・リガンド複合体における、リガンド上の膜タンパク質結合面を同定する必要性が増してきている。 構造生物学的手法の一つである核磁気共鳴法(NMR)は、タンパク質や核酸など生体高分子の立体構造や相互作用様式に関する情報を我々に提供する。しかしながら、NMRで立体構造を求めることができるタンパク質は、対象タンパク質の分子量がおよそ40K以下のものに制限されている。これは、高分子量タンパク質になるとNMRシグナルの線幅が著しく増大し、詳細な解析、特に構造決定プロセスに必要なNOE解析が著しく困難になることに起因する。 上で述べたNMRの制限は膜タンパク質複合体に対する解析にも当然当てはまる。したがって、膜タンパク質の相互作用を研究する場合、適切なNMR測定法およびNMRサンプル調製法の開発が必須である。われわれは、以上の問題意識に基づき、新規NMR測定法として、交差飽和法および転移交差飽和法を考案し、コラーゲン認識分子など不均一超分子複合体やイオンチャネルの構造機能相関を行ってきた。また、NMRサンプル調製法としては、新規膜タンパク質再構成法を構築し、イオンチャネルとそのポアーブロッカーとの相互作用解析に成功した。 本講演では、上記成果に関して、報告する。
  • 村上 聡
    セッションID: S2-2-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    院内感染や抗がん剤耐性などにみられる多剤耐性化は、化学療法に立脚する現代医療の脅威である。多剤耐性化の主因である多剤排出トランスポーターは、作用や構造の異なる多種多様な薬剤を基質として認識し、細胞のエネルギーを用いてそれらを膜を介して能動的に排出する膜蛋白質である。そのユニークな基質認識機構および、輸送機構の本質的理解を目指し、大腸菌の持つ最も強力な多剤排出トランスポーターであるAcrBおよびAcrB・基質複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果、三量体で存在するAcrBの各プロトマーはそれぞれ輸送サイクルにおける三種類の状態のうちのひとつに対応しており、異なる立体構造を持つことがわかった。それらは基質取り込み口が開いた構造(取込型)、薬剤を結合させる構造(結合型)、外膜チャネルへと続く出口が開いた構造(排出型)、である。結合型は、基質結合に適した拡張した基質結合ポケットを持つ。その内側は芳香族アミノ酸に富み疎水的で、多くの疎水性基質を主に芳香族-芳香族相互作用により認識することが分かった。異なる基質は、異なる芳香族アミノ酸の組み合わせで対応する、“マルチサイト型結合”により認識されることがわかった。一方で排出型はこのポケットが収縮しており基質に対して低親和性の状態を持つとともに、細胞外へと続く経路が開いた構造を持つ。さらに取り込み型は、細胞内へと開いた構造を持ち、基質の取り込み状態にあると考えられた。AcrB三量体に含まれる各々のプロトマーが、順番に,取込型→結合型→排出型、の順序で構造および状態を回帰的に変化させることで、基質の一方向輸送が行われるメカニズムとして説明できた。またこの構造変化を誘起させる膜貫通部分に存在する荷電性アミノ酸のスイッチ機構も見つけた。このメカニズムは6量体で機能し疑似三回対称性を持つATP合成酵素における回転触媒機構と共通する部分が多い。ATP合成酵素が物理的な回転を起こすのに対して、AcrBは回転を起こすサブユニットを持たないことから、AcrBによるこの回帰的な協調性の伝搬機構を、機能的回転機構と名付け、薬剤の能動的輸送機構として提唱した。 参考文献: Murakami.S, et al. Nature 419, 587-593 (2002) Murakami.S, et al. Nature 443, 173-179 (2006)
  • 甲斐荘 正恒
    セッションID: S2-2-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    結晶状態における蛋白質を対象とするX線解析法と比べて、より生理学的条件に近い水溶液やミセル中を動き回る蛋白質の立体構造情報をもたらす手段としてのNMR法に寄せられる期待は大きい。しかしながら、蛋白質の構造決定技術としてのNMR技術は20年にも満たない新しい技術であり、X線解析法を補完するには更なる方法論の発展が不可欠である。NMRによる蛋白質の立体構造解析は多大な労力と高額な測定装置を長時間に渡って占有する必要があるにもかかわらず、得られる立体構造精度の向上、或いは現在においても25kDa程度に留まる分子量限界という大きな壁を依然として乗り越えられない壁に発展を妨げられてきた。欧米を中心とするこれまでのNMR手法の開発は、主として多次元NMR測定・解析技術と構造決定アルゴリズムの高度化に向けられてきた。このような、分光学としてのNMR技術の発展の一方で、肝心な蛋白質試料の調製技術の重要性が見過ごされてきたために、蛋白質NMR解析手法の開発が大きく停滞している。我々は、近年におけるX線解析法の進歩が蛋白質結晶の作成技術により支えられているように、NMR法においても試料調製技術の開発が不可欠であることを長年に渡って主張してきた。平成8年度から10年間に渡りCREST課題として開発を続け、この程NMRの抱える問題点を、蛋白質試料そのものを最適化するための技術、SAIL (stereo-array isotope labeling)法の開発に成功した。SAIL法を用いれば分子量40kDaを越える高分子量蛋白質の立体構造が精密に決定でき、また人手を介さずに全自動構造解析することも可能となる [Kainosho, et al.,, Nature, 440, 52-57(2006)]。 SAIL法は、日本発の次世代世界標準NMR解析技術として、国内外からの大きな期待を背負っている。50-100kDa領域の高分子量蛋白質複合体、膜蛋白質等、NMR法の適用範囲の拡大はSAIL法の発展にとって重要な今後の開発課題として残されてはいるものの、我が国にとってはSAIL法を世界標準として発信することは国際社会に対する重大な責務であろう。
疾患プロテオミクスの最前線
  • 戸田 年総, 中村 愛
    セッションID: S2-3-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
     アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、比較的若齢で発症する家族性の症例と、60代後半以降に発症する孤発性の症例に大別されるが、このうち家族性の神経変性疾患においては幾つかの原因遺伝子が特定されており、明らかな遺伝病である。一方、高齢発症の孤発性神経変性疾患においては遺伝子の関与は比較的薄いものと見られ、むしろ脳の老化に伴う神経細胞の機能低下や環境の要因の方が強く働いているものと見られている。
     そもそも脳の神経系の細胞をはじめとする体細胞がなぜ老化をするのか、そこにはどのような分子が介在しているのかまだよくわかっていないが、近年の研究で、酸化ストレスによる細胞傷害が老化に深く関わっている事が次第に明らかになってきている。実際我々も、ミトコンドリア内の酸化的リン酸化に伴って発生する活性酸素と、細胞質における物質代謝などに伴って発生する活性酸素、ヒドロキシラジカル、ペルオキシナイトライトなどの酸化ストレスによってタンパク質が酸化的な修飾を受け、細胞内に蓄積することが老化の根本的なメカニズムであるという仮説に立って研究を行なっており、実験的に酸化ストレスを加えた細胞内や老化した個体の組織内で修飾を受け、蓄積されるタンパク質を分析するための手段として、プロテオミクスを利用している。
     本シンポジウムでは、東京都老人総合研究所産学公連携プロテオーム共同研究センターにおいて、これまでに実施された老化および老年病に関わるプロテオーム研究を中心に、脳の老化と変性疾患のメカニズムの解明にプロテオミクスがどのように利用されてきたかを紹介するとともに、今後の方向性についても議論したい。
  • 平野 久, 岩船 裕子, キクチ ユリア, 岡山 明子, 川崎 博史, 荒川 憲昭
    セッションID: S2-3-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    プロテアソームは、ユビキチン化されたタンパク質を分解することによって重要な生体機能の制御に係わっている。したがって、プロテアソームやユビキチンならびにそれらと関連するタンパク質の異常はしばしば疾患の原因になることが知られている。演者らは、26Sプロテアソームを構成するサブユニットの翻訳後修飾はプロテアソームの機能に何らかの役割を担っており、その異常はプロテアソームの機能障害を引き起こし、疾患の原因となると推定している。しかし、プロテアソームにはどのような翻訳後修飾があるのかまだ完全に明らかにされていない。また、翻訳後修飾の役割もほとんど解明されていない。そこで、酵母を用いて26Sプロテアソームを精製し、質量分析装置などを利用して翻訳後修飾を網羅的に解析した。さらに、翻訳後修飾異常をもつプロテアソームを作製し、翻訳後修飾の役割を調べた。その結果、26SプロテアソームのすべてのサブユニットのN末端修飾の状態が明らかになった。31種類のサブユニットのうち、19種類のサブユニットがN-アセチル化されていた。また、1種類のサブユニットのN末端がミリストイル化されていることがわかった。一方、16種類のタンパク質はリン酸化されていると推定された。さらにO結合型アセチルグルコサミンで修飾されているサブユニットが少なくとも8種類存在することが示唆された。N-アセチルトランスフェラーゼ欠失変異体を用いた実験から、脱N-アセチル化によって20Sプロテアソームのプロテアーゼ活性が上昇すること、また、ホスファターゼ処理による脱リン酸化によって20Sプロテアソーム(キモトリプシン様活性)の基質に対する親和性が低下することがわかった。これらの結果から、プロテアソームの翻訳後修飾は機能と密接な係わりがあることが確認できた。そのため、翻訳後修飾の異常は、生体機能の異常を引き起こす原因になり得ると考えられた。
  • 西村 俊秀, 中野 智世, 西山 隆太郎, 海老沢 舞子, 吉田 浩一, 野村 将春, 矢倉 久仁子, 藤井 清永, 安東 純江, 板東 泰 ...
    セッションID: S2-3-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    臨床プロテオーム研究の探索的段階において、研究計画から適切な試料採取までに多大の時間が掛かり、研究スピードを遅くしているひとつの要因である。医学部病院など研究機関には,ホルマリン固定組織が臨床データ(経緯,薬物応答,毒性等)や患者背景とともに保管されている。このような保管試料を用いることができれば癌プロテオーム研究を加速できる。筆者らは、ホルマリン固定組織切片からのタンパク質解析を可能とする新規抽出技術を適用し、レトロスペクティブな探索的プロテオーム解析を実施している。このような探索的研究から見出されたマーカー候補群は、別のグループの試料により特異性を検証したのち、その有用性をさらに大きな規模の群で証明することにより新規治療法の開発に役立てたいと考えている。 本研究では、肺癌患者由来組織切片を用いて3群の比較解析を行った。内訳は次の通りである。転移(+)では、原発癌組織および転移先の癌組織(患者数6)において、また転移(-)では原発癌組織(患者数7)。なお、インフォームドコンセントの承諾を得られた試料を本研究に用いた。ホルマリン固定された組織試料から蛋白質をペプチドとして抽出する技術はLiquid Tissueと名付けられる。特殊コートされたスライド(Director™)上に乗せた組織からマイクロダイセクション (laser micro-dissection: LMD) (Leica社製LMD6000システム) を用いて癌細胞群を収集した。Liquid Tissue技術らなる抽出システム(ExCellerator)により可溶化し、プロテオーム解析に用いた。なお、本抽出法は膜蛋白質も効率よくペプチドとして抽出する利点がある。本発表は、「組織から血漿へ」というバイオマーカー開発の新しいプラットフォームに立っており、上記の新しい戦略に基づく肺癌転移因子に関する解析結果、およびマーカー候補分子の選択的定量を可能とするMRM(Multiple Reaction Monitorinng)技術の検討につき報告する。
  • 松尾 光祐, 中村 洋, 増子 佳世, 遊道 和雄, 野寄 浩司, 西岡 久寿樹, 斎藤 知行, 加藤 智啓
    セッションID: S2-3-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    【目的】代表的な炎症性多関節炎である関節リウマチ(RA)の病因病態に関与する分子を探索する目的で、RAの病変主座である滑膜組織の滑膜細胞で、非炎症性関節炎とされる変形性関節症(OA)と対比して、強くリン酸化されている蛋白質を網羅的に検出し、その病態的意義を検討した。 【方法】RAおよびOA患者由来の培養滑膜細胞から総蛋白を抽出し、それぞれを2次元電気泳動で分離した。その後、リン酸化蛋白質のみを染色し、RA滑膜で強くリン酸化されている蛋白質スポットを検出した。その一部を質量分析により同定した。また、同定した蛋白質のひとつについて、マウスに遺伝子導入し、関節炎誘起性について検討した。 【結果】RA、OA両疾患の滑膜細胞でリン酸化の程度に差のある蛋白質が複数個検出された。そのうちの10個弱を同定した。RAにて強くリン酸化されている蛋白質の一つとしてアネキシン7を同定した。アネキシン7は発現量もRA滑膜表層細胞にて多く、浸潤した炎症細胞にも認められた。また、本来、コラーゲン誘起性関節炎(CIA)に抵抗性であるB6マウスにアネキシン7遺伝子を導入したトランスジェニックマウスはCIA感受性となることが判明した。 【考察】RAとOAの滑膜細胞はリン酸化プロテオームに差異があることが示された。また、RAで強くリン酸化されているアネキシン7は、CIA抵抗性マウスを感受性に変えることから、関節炎発症に深くかかわると共に、治療の標的をなりうることが示唆された。
  • 藏滿 保宏
    セッションID: S2-3-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    膵癌は最も予後の悪い癌の一つで、発見時既に外科的切除不能であることが多く、有効な化学療法がない。Gemcitabine(GEM)は膵癌への単剤投与で最も有効な化学療法剤であるが、GEM抵抗性の膵癌が多いのが現状である。GEM感受性と抵抗性の膵癌株の細胞内蛋白質の発現を網羅的に比較解析してGEM抵抗性を規定する蛋白質を同定し、治療に応用することを目的としている。GEM感受性膵癌株であるKLM1と抵抗性株であるKLM1-R細胞から蛋白質を抽出し、二次元電気泳動を用いて両細胞株の細胞内蛋白質の発現を比較した。発現に差のあるスポットをゲルから切り出して、質量分析計を用いて蛋白質を同定した。同定された蛋白質の発現をRNAiを用いてノックダウンしてGEM感受性の変化を調べた。同定された蛋白質の発現とGEM治療の患者の予後との関連性を調べた。GEM感受性膵癌株KLM1と抵抗性株KLM1-Rにおいて、発現に差異のある細胞内蛋白質がいくつか同定され、そのうち一つの蛋白質の発現をノックダウンしたところ、GEM感受性が大きく変化し、その蛋白質の患者膵癌組織での発現と予後とは大きく関連していた。
プロテオミクスの新技術・質量分析法を中心に
  • 高尾 敏文, 里見 佳典, Fernandez-de-Cossio Jorge, 田家 亜由美, 須藤 浩三
    セッションID: S2-4-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    Protein profiling of biological or clinical samples with MS has become a powerful tool, which could lead to new insights into biology or diagnoses of diseases. However, it still has, at least, two issues to be improved, i.e. poor interpretation on isotopic ion distributions and fragmentations in MS, and diversity on fragmentation efficiency, which greatly depends on the instrumentation of MS. Here, we present the applications of the recently developed software, on the first issue, for interpretation of MS or MS/MS spectra.
    Various stable-isotope labeling techniques have been reported for use in quantitative comparisons between paired samples in proteomic expression analyses by MS. However, interpretation of such mass spectra is far from being fully automated, mainly due to the difficulty of analyzing complex patterns resulting from the overlap of multiple peaks arising from the assortment of natural isotopes. In order to facilitate the interpretation of a complex mass spectrum of such a mixture, we developed a software application, "Isotopica" (http://coco.protein.osaka-u.ac.jp/Isotopica), that enables the automatic matching of theoretical isotope envelopes to multiple ion peaks in a spectrum, and report here some recent applications for quantitative proteomics.
    Relative intensities of fragment ions observed in a MS/MS spectrum reflect the propensities of chemical bonds to be cleaved in gaseous phase. In case of peptides, the side-chain structures of amino acid residues could influence the fragility of a peptide backbone upon CID. Thus, the fragmentation probabilities for a, b, c, x, y", and z-series ions were estimated as a function of amino acid residues at the cleavage sites, based on 22,392 MS/MS spectra obtained by a MALDI-TOF/TOF instrument, and applied for constructing a model of fragmentation pattern. The model has been in good correlation with actual spectra, and could be successfully used for improving the results of peptide identification.
  • 窪田 雅之, 木全 順子, 坂本 茂
    セッションID: S2-4-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    ETD(Electron Transfer Dissociation)は翻訳後修飾など従来のCIDでは修飾部位が優先的に切断され、MS/MSスペクトル上に修飾位置に関する情報が得られないようなサンプルに対して、修飾部位を維持したままペプチド鎖を優先的に切断する新しい開裂機構です。LTQの3分割リニアイオントラップに対してイオン源の反対側からCIによって生じさせたアニオンを導入し、ペプチドのプロトン付加分子のプロトン付加部位に選択的にアニオンから電子移動を起こすことで開裂させます。FT-ICRMSで用いられるECDと類似する開裂様式をとり、C、Zタイプのイオンを生じます。プロトン付加部位に選択的であることからリン酸化などの翻訳後修飾部位は保存されたまま開裂し、修飾部位を決定することが可能となります。また、分子量が比較的大きく、価数の多い多価イオンほど効率的にスペクトルを取得することができることから、CIDでは困難であった分子量2000以上のMS/MSスペクトルも容易に取得することができます。ハードウェアとしては3分割リニアイオントラップを用いることで、MS/MS対象の試料イオン、反応を起こすアニオンそれぞれを独立してIsolationし、反応するイオン種を単一にすることで安定したMS/MSスペクトルを得ることができるようにデザインされています。本講演ではETDの基本動作と仕組み、CIDとETDの違いや特徴、そしてリン酸化と糖修飾の解析例をご紹介します。
  • 馬場 崇, 佐竹 宏之, 万里 直己, 橋本 雄一郎, 長谷川 英樹, 平林 集
    セッションID: S2-4-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
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    電子捕獲解離(electron capture dissociation: ECD)は高いアミノ配列決定能力と翻訳後修飾分子の解析を可能とする手法として質量分析を用いたプロテオーム解析において有望視されている。我々は従来のECDの提供手段であるフーリエ変換型-イオンサイクロトロン質量分析装置(Fourier transform-ion cyclotron mass spectrometer : FT-ICR)にかわり、高周波イオントラップ内部でECDを実現することに成功しており[文献1]、最近、その反応速度と解離効率は従来法である衝突励起解離(collision induced dissociation: CID)と同等レベルに到達した。本方式により実現できた高速化・小型化ECDにより汎用的な高スループットプロテオーム手段を提供できるものと考えている。本報告では、高速かつ高分解能を有する飛行時間型質量分析装置に結合された高周波イオントラップを用いた電子捕獲解離について、最近の我々の研究の進展を紹介する。 現在一般的な質量分析によるタンパク質分析で用いられるCIDではペプチド分子イオンが大きくなると解離されにくい傾向がありアミノ酸配列の決定が困難となる。さらに翻訳後修飾分子を優先的に脱離する傾向があるためその修飾位置の決定も困難となる。1998年に実現されたECD[文献2]を用いれば、これらの課題を克服できる可能性が示されている。すなわち、ペプチドや10000Da程度のタンパク質であれば、消化することなくそのままアミノ酸配列を横断的に解離することができるので、デノボ解析が可能である。また翻訳後修飾分子を主鎖から失うことなくアミノ酸配列を解析する、すなわち修飾分子の修飾位置を確定することが可能である。 ※本研究は、株式会社日立ハイテクノロジーズの協力と、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実用化助成事業を受けて実施しました。 [1]T. Baba et al. Anal. Chem. 76 (2004) 4263 [2]R. A Zubarev et al. J. Am. Chem. Soc. 120 (1998) 3265
  • 小河 潔, 出水 秀明, 古橋 治, 原田 高宏, 竹下 建悟, 吉田 佳一, 瀬藤 光利
    セッションID: S2-4-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/29
    会議録・要旨集 フリー
    生体組織や細胞の形態情報は顕微鏡観察によって得られるが、そのものは何で構成されているかを知ることはできない。ここで開発している顕微質量分析装置は、顕微鏡で観察した場所を“その場”で質量分析することにより、形態情報と構成分子の情報を同時に得ることを目的としている。これにより、たとえば病変部位では正常部位に比べて構成分子にどのような変化が起こっているか、また異常組織はどのような生体分子で構成されているか、といったことを知ることができる。 これを実現するため、高解像度光学顕微鏡と微小レーザー集光系をもつMALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)-DIT(Digital Ion Trap)-TOF型質量分析計を組み合わせた顕微質量分析装置を開発した。この装置では、生体試料をできるだけ生に近い状態で分析できるように、大気圧下でのイオン化法を採用している。レーザー照射径は、レーザー照射痕による評価の結果、10μm以下が得られている。この質量分析のイメージングの情報に加えて、検出した分子が“何か”を正確に同定することも重要である。DITを用いると高い精度でMSn分析を行うことができ、正確な同定が可能となる。DITでは、イオンをトラップするための高周波高電圧駆動波形を、デジタル回路技術を用いて正確に、また自在に周波数制御することで、イオンを自在に制御することができ、高プリカーサ分離能や高い解離効率が得られる。 この装置を、実生体試料に適用した。試料は、ラットの脳組織切片を用い、トリプシン消化した後マトリクス(DHB)をスプレーし、直接質量分析による測定を行った。照射径10μmのレーザーによって、高い解像度で脳内に分布するペプチドの質量分析イメージが得られた。一方、生体試料の直接イオン化分析では極めて多くのピークが出現し、単一ピークの切り出しができないことにより、ピーク同定が困難な場合がある。本装置で、このような試料でも正確なピーク同定ができるかを評価するため、マウスの脳組織試料を用いて脂質の分析を行った。脳には、多種多様の脂質を含み、ほぼ1Da間隔でピークが出現する。このようなピークにおいて、DITを用いて脂質の単一ピークのみ分離することができ、MS/MS分析により正確な同定に成功した。
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