主催: 日本ヒトプロテオーム機構
【目的】プロテオミクス研究の進展によって、タンパク質の翻訳後修飾と疾患の発症や悪化との連関が明らかになりつつあり、一方で薬効発現メカニズムの解明に翻訳後修飾の解析が有効な手段であることが強く示唆されるようになってきた。そこで本研究では、近年、白血病の新規治療薬として注目されている三酸化ヒ素の治療効果発現に関与する蛋白質の同定を最終目的に、酸化的修飾に着目した細胞内タンパク質のファーマコプロテオーム解析を行った。 【方法】各種白血病細胞株について、三酸化ヒ素存在下、48時間培養後の細胞生存率をWST-8 assayによって評価するとともに、細胞の形態変化を確認した。また三酸化ヒ素刺激による細胞内蛋白質の酸化的修飾を検討するために、1μMの三酸化ヒ素存在下で48時間培養後の細胞をサンプルとして、2次元電気泳動による発現量の変動解析(2D-DIGE)を行った。さらに、2次元電気泳動とWestern blotを組み合わせた2D-Western blotによって、一般的にタンパク質の酸化的修飾の指標として用いられているカルボニル化タンパク質の検出を行った後に、カルボニル化の増加した蛋白質をMALDI-TOF/TOF型の質量分析計にて同定した。 【結果・考察】白血病細胞株の生存率は三酸化ヒ素の濃度依存的に低下し、また細胞株によってその感受性に大きな差があることが明らかになった。また、三酸化ヒ素刺激により、細胞同士の凝集体が減少し、細胞が分散するという形態的変化が確認された。三酸化ヒ素高感受性細胞株として、T細胞白血病株のひとつであるC5/MJ細胞を用い、2次元電気泳動解析した結果、三酸化ヒ素刺激群と無刺激群で蛋白質の存在比、およびカルボニル化蛋白質の発現量に変動が生じているスポットが多数検出された。三酸化ヒ素刺激によってカルボニル化が増加した蛋白質の同定を行ったところ、複数のヒートショック蛋白質であった。以上の変化は、三酸化ヒ素の薬効発現にヒートショック蛋白質が関与している可能性を示唆するものであり、現在、カルボニル化された蛋白質の機能や発現挙動解析を通じて、薬効発現メカニズムを詳細に検討している。