日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-5-1
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メタボプロテオミクスの新展開
神経タンパク質のリン酸化とプロテアーゼによる切断
*小田 吉哉
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抄録

現在エーザイは世界で最も使用されているアルツハイマー治療薬アリセプトの開発・販売会社であることから次世代の治療薬を認知症の方に届けることが我々に課せられた使命であり、1999年以降一貫して脳プロテオミクスに取り組んでいる。マウス脳およびマウスの神経芽細胞Neuro2Aに発現しているタンパク質を同定したところ、実に97%が両者に発現していた。脳とNeuro2Aでは機能が大きく異なるのでタンパク質は発現の有無だけではなく、翻訳後修飾やプロセシングも重要である。特にリン酸化は細胞内シグナル伝達において極めて重要な修飾である。細胞の生から死までのあらゆるステージにおいてリン酸化が関わっているといっても過言ではない。一方、プロテアーゼによるタンパク質の切断が多くタンパク質の成熟に必要であることは広く知られている。特に最近の研究では、細胞死に関わるシグナル伝達においてプロテアーゼが非常に重要な役割を担っていることが明らかになっている。このようにタンパク質がどのようにリン酸化されるか、あるいはプロテアーゼによって切断をうけるかを研究することは、そのタンパク質がシグナル伝達における位置付けを知る上で重要な手がかりとなる。そこで神経細胞間の情報伝達のしくみ、特に神経伝達物質が放出される分子メカニズム解明に焦点を当てることにした。アンフィファイジンは神経細胞におけるエンドサイトーシスを制御する重要なタンパク質である。質量分析によってこのアンフィファイジンには5箇所のリン酸化部位があると推定し、さらに5箇所のリン酸化部位のうち2箇所が機能発現に非常に重要であることを明らかにした。ところで興奮性神経毒に誘導される神経細胞死において、脱リン酸化酵素カルシニューリンはカルパインというカルシウム依存的に活性化されるプロテアーゼによって切断を受ける。カルシニューリンはN端に触媒領域、中央にカルモジュリン結合領域、C端に自己抑制領域がそれぞれ存在する。したがって、カルシニューリンの切断部位に関する情報は、切断後のカルシニューリンの機能を推測する上でなくてはならないものである。さらにカルパインは先のアンフィファイジンも切断することがわかった。この切断部位を質量分析にて推定した後、切断されたアンフィファイジンの機能解析をしたところ神経細胞におけるエンドサイトーシスを阻害することがわかった。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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