主催: 日本ヒトプロテオーム機構
生体内は, 通常還元状態に維持されており、その制御においてグルタチオンやタンパク質中に含まれるチオール基 (‒SH) は極めて重要な存在である。また、タンパク質中のチオール基は、多くの酵素の活性中心として重要な働きをするほか、ジスルフィド結合による立体構造の形成などにも寄与している。近年、様々なタンパク質の活性発現や機能調節においてシステイン残基の酸化還元反応が重要な役割を示すことが報告されてきており、システイン残基の可逆的な酸化修飾は生体内の重要な翻訳後修飾のひとつであることが明らかとなってきた。
一方で酸化ストレスのような異常状態においては、タンパク質中のアミノ酸側鎖は、生体内で生成した過剰な活性酸素種 (ROS) により酸化されるほか、脂質過酸化反応などにより二次的に生成されるアルデヒド類などにより修飾される。このような酸化修飾は、酵素やシグナル因子の失活やタンパク質立体構造の崩壊を引き起こすタンパク質の酸化変性として働くほか、レドックスシグナルの混乱や崩壊を引き起こすことから、タンパク質の異常な翻訳後修飾と位置づけることができる。そのため、プロテオミクスにより酸化感受性の高いいわゆる ”標的タンパク質” を明らかにすることは、細胞内のレドックス制御や酸化ストレスによる病変発祥機構を理解するうえで重要となる。
酸化修飾を指標としたプロテオミクス解析については、現在様々な観点から多くの研究が行なわれているが、本発表ではシステイン残基の酸化修飾やタンパク質カルボニル、脂質過酸化アルデヒドの標的タンパク質に焦点を当てた解析例について紹介する。