日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-8-2
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細胞装置のプロテオミクス解析
Treacher Collins症候群原因遺伝子産物treacleの機能解析
*早野 俊哉高橋 信弘
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抄録

 真核細胞のリボソームは、主に核小体において、200種類を超えるトランス作用因子(snoRNAおよびタンパク質)が関与する極めて複雑な多段階過程を経て合成される。近年、リボソームの生合成が、細胞の増殖や環境への適応などの基本的な細胞機能のみならず、さまざまな疾病とも深く関わっていることが相次いで報告されてきた。われわれは、リボソーム生合成と高次の細胞機能との関連を明らかにすることを目的として、主としてリバースタギング法を用いたリボソーム生合成中間体のスナップショット解析を行うことで、ヒトリボソーム生合成過程の全容の解明を進めている。
 われわれは、同過程の初期中間体のひとつであるNop56p複合体の構成成分としてTreacher Collins症候群原因遺伝子の産物であるtreacleを見出した。Treacher Collins症候群は、発生過程における第1、第2鰓弓の形成不全による顔面の奇形症候群で、TCOF1遺伝子の異常により発症する常染色体優性の遺伝病である。TCOF1遺伝子産物treacleのhaploinsufficiencyにより、神経冠細胞がアポトーシスを起こすなどの知見が得られているが、その発症機構の詳細については不明である。
 プロテオミクスの手法を用いたtreacle相互作用タンパク質の網羅的な解析から、細胞質および核のいずれにおいてもtreacleがほとんどすべてのリボソームタンパク質と相互作用していることが明らかとなった。また、大量発現させたtreacleが核小体表面にリボソームタンパク質とともに蓄積すること、さらに、treacleが細胞質と核小体間を行き来するとの結果から、importinが介する新生リボソームタンパク質の細胞質から核への既知の輸送経路以外に、treacleが関与する新たなリボソームタンパク質輸送経路の存在が示唆された。また、treacle相互作用タンパク質として数多くのシグナル伝達系タンパク質が見出されたことから、細胞増殖などの刺激によりリボソームタンパク質の輸送が活性化され、それに伴いリボソームの生合成が亢進される機構があるものと考えられた。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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