日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S2-1-2
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疾病メカニズムのプロテオミクス解析
プロテオミクスによるNF1腫瘍抑制遺伝子産物NeurofibrominのRAS-GAP機能と結合蛋白質群を介した神経分化シグナル誘導メカニズムの解析
*荒木 令江Patrakitkomjorn Siriporn小林 大樹ウイルソン 森藤 政代森川 崇坪田 誠之Wilson Anthony佐谷 秀行
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抄録

神経系RAS-GAPであるNF1遺伝子産物(neurofibromin)の欠失/変異による多発性神経線維腫や学習障害発症メカニズムを、プロテオミクスの手法を用いて解析している。今回、NF1結合蛋白質群をpull down法およびiTRAQ法で同定し、これら分子群の細胞内相互機能解析を行うと同時に、NF1siRNA導入神経系細胞を用いて、proQDiamond-2D-DIGE及び2D-Western法にて特異的リン酸化亢進分子群を同定し、neurofibrominを介して神経分化/突起伸長に関わる細胞内シグナルの一旦を明らかにした。neurofibrominに特異的に結合する蛋白質群として、神経分化制御分子群、リン酸化・脱リン酸化酵素群、アダプター分子群、細胞骨格系・細胞接着系制御分子群、転写翻訳分子群など56種類の蛋白質が同定された。同定された結合蛋白質群の中でneuronのaxon形成とguidanceに関わるCRMP2, tubulin, WAVE複合体に注目したところ、この複合体はPC12細胞のNGF誘導性神経系突起先端に局在し、CRMP2のリン酸化を阻害して突起伸長誘導を促進することが判明した。また、siRNAによるNF1ノックダウン細胞内ではCRMP2のリン酸化が亢進し、神経突起伸長は優位に阻害された。これらの現象はNF1のRAS-GAPドメインを導入することによって正常化した。NF1siRNAによってリン酸化が亢進する分子は2Dゲル上で61個にのぼり、その中で特に多様なリン酸化を受けたCRMP-2のスポットは8個であった。NF1siRNAに関連して変動する7個のリン酸化CRMP2スポットは、RhoK, CDK5, 及びGSK-3B等のリン酸化酵素群による複数個のリン酸化部位から構成され、これらの活性制御がneurite の形成伸展に関わることが判った。neurofibrominは神経突起先端でCRMP2と結合してリン酸化を制御するとともに、そのRAS-GAP機能によるRas-RhoK, Ras-MAPK-CDK5-GSK3Bシグナル制御を介してCRMP2活性と神経細胞分化/突起伸長を制御していることが判明した。これらのシグナル阻害剤が、神経系分化異常に関連する病態の治療薬として有効である可能性が示唆された。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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