日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S3-1
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グライコミクスの医学への応用(糖鎖)
癌とフコシル化:診断マーカーから治療の標的へ
*三善 英知
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抄録

フコースによる糖鎖修飾をフコシル化と呼び、癌や炎症と最も関係が深い糖鎖の一つとして古くから注目されてきた。肝癌の腫瘍マーカーとして知られるフコシル化AFP(AFP-L3)や、シアリルルイスA抗原(CA19-9)などが、その代表的なものである。さらに近年、膵癌のフコシル化ハプトグロビンや肝癌のフコシル化ヘモペクチン、GP73などの報告が見られる。フコシル化反応は、GDP-フコースをドナー基質とし、フコース転移酵素の働きによって行われる。10年以上にわたる私達の研究にから、糖タンパク質のフコシル化はフコース転移酵素よりも、ドナー基質の量によって制御されることが多いことがわかってきた。ドナー基質の合成には、FXとGMDという2つの律速酵素が重要である。さらに、細胞質内で合成されたGDP-フコースをゴルジ装置に運ぶトランスポーターの発現量の関与も大きい(Moriwaki & Miyoshi et al. Glycobiology 2007)。  最近、私達の研究室で、ほとんどフコシル化されていない大腸癌細胞HCT116を発見し、その原因としてGMDの遺伝子異常であることがわかった。即ち、この細胞ではGMDのエクソン5-7が欠損し、細胞内のGDP-フコース量が検出不能であった。GMDの発現ベクターを遺伝子導入すると細胞のフコシル化が回復したことから、GMDの異常が低フコシル化に直接関与することがわかった。親株のHCT116とGMDのtransfectantをヌードマウスの皮下に移植すると前者のサイズは2倍以上で、フコシル化の回復したtransfectantでは腫瘍増殖の抑制を認めた。ヌードマウスからNK細胞を除去したとき、抑制されていた腫瘍増殖が回復したことにより、フコシル化の有無がNK細胞の腫瘍免疫作用に関与することが示唆された。そのメカニズムとしては、HCT116細胞が脱フコシル化されることによって、TRAIL(NK細胞が標的細胞を殺傷する手段の1つ)耐性になっていることがわかった。  このようにフコシル化の制御は複雑で、様々な癌で異なる機序により調節されていると予測される。それは、単に診断のマーカーだけでなく、癌細胞の特性を決め、免疫細胞を含めた微小環境の中で癌が生き抜く手段とも言える。本シンポジウムでは、以上のようなフコシル化制御のダイナミズムと診断、治療への応用に関して述べたい。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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