日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
選択された号の論文の136件中1~50を表示しています
特別招待講演
  • 井村 裕夫
    セッションID: SIL1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     生命科学の最近の進歩は誠に目覚ましいが、その成果は必ずしも臨床に生かされていない。その理由として、人を対象とした臨床研究(patient-oriented research :POR)の遅れがある. PORには観察研究(症例研究、コホート研究、ケースコントロール研究など)と介入研究(新しい医療技術の臨床試験)がある。わが国ではPORは全体として遅れているが、特に臨床試験の遅れは顕著で大きな問題となっている。最近の基礎研究の進歩によって今後新しい医薬品や再生医療が続々と臨床に導入されようとしているので、これを促進することは国家的課題ということができよう。  そこで科学技術振興機構研究開発戦略センターの臨床医学グループでは検討を重ね、統合的迅速臨床研究(integrative celerity research :ICR)を提言した。これは基礎研究の成果と臨床疫学の知見に基づいてあらかじめゴ-ルを設定し、それに向けて臨床研究の各ステップを統合的かつ迅速に実施しようとするものである。ICRの実現のためには、臨床試験のための新しいツ-ルキットの開発、臨床研究センターなどの基盤の整備、法律や規制の改革などが必要となる。  臨床研究を推進するツールとしては、マイクロドージング、薬物ゲノム学、分子イメ-ジングなど様々の方法があるが、薬物の有用性、安全性をより確実に評価するためのバイオマーカーの研究が必要となる。そのためにはゲノム、プロテオ-ム、メタボロ-ムの研究、いわゆるオミックスを発展させることが必要である。現在の臨床試験のエンドポイントは代理のエンドポイントであるので、真のエンドポイントにつながるバイオマーカーの開発が期待されている。プロテオームはそうしたマーカーの中でもとくに重要なものの一つであり、今後の発展が望まれる。  プロテオ-ムの重要性は、もちろん臨床試験におけるバイオマーカーにとどまるものではない。最近のゲノム多型の研究によって多因子疾患の発症にかかわる可能性のある遺伝子が次々と見出されているが。個々の遺伝子の関与は少なく、まだ疾患の発症機構の解明につながっていない。多因子疾患の発症機構の解明は今後の重要な課題であり、プロテオミクスの役割も大きくなると考えられる。プロテオームはまた癌などの疾患の早期診断法の一つとして、その有用性が期待されている。
招待講演
  • Young-Ki Paik
    セッションID: IL-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Following the success of the human genome project, it becomes obvious to think about mapping the whole human proteome. Proteins are the "building blocks of life", constitute the functional work force of the human body, and are potential targets for many drugs. It is estimated that, for nearly half of the proteins encoded in the human genome, there is no experimental evidence for their existence. The cellular locations as well as the functions of these proteins remain to be explored. Thus, I will address the general consensus that has been building in the proteome community as to why the human proteome project (HPP) needs to be launched globally and what the possible technical and biological impacts of execution of a global Gene-Centric HPP would be. In Korea, the current efforts are focused on mapping chromosome 13. We realized that there are many technical and biological issues that need to be overcome prior to execution of the full scale mapping. In addition to this subject, I will also touch on some real issues related to potential bottlenecks as well as expected cost for this emerging big project. (Supported by a grant from the Korea Healthcare Technology R&D Project, Ministry for Health, Welfare, and Family Affairs, Republic of Korea [A030003 to YKP].)
  • 夏目 徹
    セッションID: IL-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    独自に開発してきた超々高感度・高再現性を実現した質量分析システムとプロテオームワイドなタンパク質発現系を活用した、タンパク質相互作用・タンパク質-核酸相互作用・翻訳後修飾の検出と定量法に関する可能性を議論する。それと共に、これらを用いた疾患関連遺伝子の機能解析と、その結果明らかにした疾患発症メカニズムと創薬ターゲットについて紹介する。
  • Visith Thongboonkerd
    セッションID: IL-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Renal and urinary proteomics is one of the most rapidly growing subdisciplines of proteomics applied to biomedical research. The rapid growth of this field is evidenced by an increasing number of published articles related to renal and urinary proteome analyses. Using the keywords proteomics or proteome or proteomic together with kidney or renal or urine or urinary, >1,200 articles have been found in PubMed since 1996. This rapid growth reflects much interest of nephrologists and renal physiologists in applying proteomics to address clinical and basic questions. Moreover, urinary proteome analysis offers opportunities for biomarker discovery not only in kidney diseases but also in other organs' disorders and systemic diseases. Together, these speed up the progress of this field during the past several years. Commonly used methods for renal and urinary proteome analyses include two-dimensional polyacrylamide gel electrophoresis (2-D PAGE) followed by matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry (MALDI-TOF MS), liquid chromatography coupled to tandem MS (LC-MS/MS), surface-enhanced laser desorption/ionization (SELDI)-TOF MS, and capillary electrophoresis (CE) coupled to electrospray ionization (ESI)-TOF MS. All of these techniques have been applied to renal and urinary proteomics with the ultimate goals as follows: (i) to better understand biology and physiology of the kidney; (ii) to unravel pathogenic mechanisms and/or pathophysiology of kidney diseases and related disorders; (iii) to identify diagnostic and prognostic biomarkers; and (iv) to define new therapeutic targets and drugs. This session will summarize the current status of renal and urinary proteomics and also provide some perspectives in this field. Among all applications during the past 12 years, we have partially achieved the goals for better understanding of biology and physiology of the kidney, as well as unraveling of pathogenic mechanisms and/or pathophysiology of kidney diseases and related disorders. For biomarker discovery, a large number of biomarker candidates have been identified. However, they are neither validated in a large cohort nor ready for clinical applications. Moreover, we have not yet reached the goals for defining new therapeutic targets and drugs. Also, personalized medicine seems too far away from now, but may be possible in the future.
教育講演
  • 礒辺 俊明
    セッションID: EL1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    プロテオミクスはゲノム情報を背景にした新しいタンパク質科学ということができますが、その基礎を支えているのは生化学者が50年以上にわたって培ってきたタンパク質やペプチドの分離分析技術と最近の質量分析法の技術革新、大量のデータを迅速に処理して解析する情報処理技術の発展と考えられます。「ゲノム」に対応する「プロテオーム」の概念は1995年に始まるとされていますが、現在では「プロテオーム」や「プロテオミクス」という言葉をキーワードとして PubMed で検索される学術論文数は年間5,000報を超え、今までに累積した論文数は30,000報に達しています。これらの研究によって蓄積したプロテオミクスの概念や方法は、細胞や組織のタンパク質の変動や翻訳後修飾、分子間相互作用を大規模に解析する手段として発展を続けており、さらには分子生物学や細胞生物学の最新技術と融合して、転写や翻訳、タンパク質輸送や分解などの機能を支える細胞内装置の作用機構や生合成過程の研究、細胞のシグナル伝達ネットワークの研究などで生命科学の新たな展開をもたらしています。一方、これまでの研究では、生命システムの全体解析を目指す本来のプロテオーム研究の対象は、ゲノムサイズが比較的小さいモデル細胞に限られてきました。特に酵母での研究では、ゲノムにコードされた約6,000の遺伝子すべてに由来する、ほぼ完全なプロテオームの発現状態と細胞内局在、相互作用をもとにしたタンパク質のネットワークが明らかにされています。このような酵母での解析は基本的な生命活動の仕組みを明らかにしていますが、最近この方向での研究は、さらに複雑な高等生物の細胞がもつ特異的な高次機能や脳神経系などの複雑な生命システムを理解するための研究に焦点が移りつつあります。実際に欧米やカナダでは、最新の質量分析法や系統的に作成した抗体を利用して、ヒトがもつ約20,000の遺伝子に由来するタンパク質の発現や細胞内局在を網羅的に解析するヒトプロテオームプロジェクトや、すべての遺伝子にエピトープタグを導入して発現できるヒト細胞の作成などが企画され、一部についてはすでに研究が進められています。この講演ではプロテオミクスの技術と基礎研究の現状を、最近筆者らが進めているRNAタンパク質複合体の質量分析法の研究を交えて紹介します。
  • 戸田 年総
    セッションID: EL2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     1990年代にスタートしたヒトゲノム計画は2003年に全作業が終結し、結局ヒトの遺伝子は高々2万数千であることが明らかとなったが、alternative splicingやprocessing, 翻訳後修飾などの結果、実際に細胞内で機能しているタンパク質の数は少なく見積もっても10万種以上はあるものと推定されている。折しもヒトゲノム計画の真っ只中でスタートしたプロテオーム研究(特にヒトプロテオーム研究)は「ヒトゲノムの翻訳産物を網羅的にプロファイリングしよう」という考え方に基づくものであり、そのための網羅的なタンパク質分離分析手法として最初に選ばれたのが二次元電気泳動であった。その後様々な技術開発やシステムの改良がなされ、LC-MS/MS法によるショットガンプロテオミクスや、SELDI-TOF-MS法に代表されるプロテインチップを用いたプロテオミクスなど、二次元電気泳動に依らないプロテオーム解析も盛んに行われるようになったが、いまだに二次元電気泳動には他の方法にない多くの利点や特長があり、今後もプロテオーム研究のコア技術の一つとして利用され続けることは間違いない。そこで本講演では、二次元電気泳動の特長をあらためて見直しながら、『プロテオーム研究において二次元電気泳動が果たしてきた役割と今後の課題』について議論してみたい。
シンポジウム1
プロテオミクスの医学への応用(その1) マーカー探索(組織)
  • 近藤 格
    セッションID: S1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    がんの治療成績を向上させるためのバイオマーカーは臨床上のあらゆる場面で必要とされている。がんは多様性に富んだ疾患であり、既存の診断技術では正確な診断ができなかったり治療効果を予測できなかったりするからである。国立がんセンターでは臨床医・病理医との連携のもと、さまざまな悪性腫瘍を対象としてバイオマーカー開発を行ってきた。中心となる技術は蛍光二次元電気泳動法である。スループット性のよい二次元電気泳動の実験系の構築、超高感度の蛍光色素を用いたレーザーマイクロダイセクションの活用、バイオインフォマティクスの手法を用いた解析、公開データベースの構築などを行い、10,000枚以上の2D-DIGEゲルを泳動し、抗癌剤の奏効性、手術後の早期再発、転移などを予測できるバイオマーカーを実用化しようとしている。二次元電気泳動法や質量分析法に代表される「分離を基盤とするプロテオーム解析技術」はこれからもがんプロテオーム解析の主力技術として使用されていくだろう。一方、従来の解析方法では明らかな限界があることも事実である。「分離を基盤とするプロテオーム解析技術」においては低い網羅性においてタンパク質をまったくランダムに観察しているので、どのような分子ネットワークであっても網羅的に解析されることはない。がんの発生や進展に重要な役割を担うことが分かっている細胞周期、アポトーシス、転写、シグナル伝達、などのパスウェイに含まれるタンパク質を網羅的に調べたい場合には、現行の「分離を基盤とするプロテオーム解析技術」は明らかに力不足である。この欠点を補うことができるのが「抗体を基盤とするプロテオーム解析技術」である。特定の分子ネットワークやタンパク質ファミリーにフォーカスして抗体を用いて発現解析を行うことで、既存の生物学の知識を背景にした発現解析が可能になる。国立がんセンターでは「抗体を基盤としたプロテオーム解析」を立ち上げ、がんの発生や転移・再発に関わるタンパク質を同定している。分離を基盤とする技術としない技術を併用する、これからのプロテオーム解析の展望を紹介する。
  • 角田 慎一, 堤 康央
    セッションID: S1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年、創薬を志向したバイオマーカー探索研究が世界的に注目されており、中でも、健常状態と比較して疾患状態で質的・量的、時空間的に発現変動している蛋白質を網羅的に解析・同定しようとする疾患プロテオミクスは、とりわけ大きな期待を集めている。しかし、疾患プロテオミクスにより、ハイスループットな解析が可能となっている一方で、多数見出されてくる疾患関連蛋白質候補の中から、真に有用なバイオマーカーを効率よく絞り込むための基盤技術が未成熟であるため、プロテオミクスで得られた情報を有効活用できておらず、創薬への展開は大きく滞っている。本観点から我々は、疾患プロテオミクスにより同定される多数の候補蛋白質各々に対して、モノクローナル抗体を複数種類ずつ迅速かつ簡便に創製することで、創薬バイオマーカーの効率的な絞り込みを可能とする方法論(抗体プロテオミクス技術)を確立した。抗体プロテオミクス技術は、二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)解析により同定・回収される微量かつ多数の候補蛋白質を抗原として、ファージ抗体ライブラリを駆使することにより、最短2週間で、網羅的にモノクローナル抗体(ファージ抗体)を作製可能とするものである。さらに、取得したファージ抗体は簡便に増幅可能であり、かつそのまま、組織マイクロアレイ解析に適用することにより、多症例の臨床検体における発現プロファイリング・バリデーションを一挙に達成可能である。これまでに我々は、乳がんや肺がん等を対象として抗体プロテオミクス技術による解析を試み、悪性度診断マーカー、および新規創薬ターゲットとして有望な蛋白質を見出すことに成功している。また現在、それら蛋白質の機能解析を進め、興味深い知見が得られつつある。そこで本講演では、疾患関連蛋白質に対する迅速な抗体創製・バリデーションを可能とする上記抗体プロテオミクス技術の有用性と創薬への展開について、最近の成果を含めて紹介させて頂く。
  • 片山 博之
    セッションID: S1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    プラズマプロテオーム解析では、細胞プロテオーム解析における各オルガネラの分離精製や膜タンパク質解析の困難さとは異なった課題がある。血液中の新規バイオマーカーを発見するためには10^10以上と推定されるダイナミックレンジを有する混合物について存在量の低いタンパク質をも含めたプロファイリングを行い、病態に伴って変動するタンパク質濃度、翻訳後修飾、スプライシングアイソフォーム等の変化を定量的に評価することが目標となる。 そこで、この課題に挑戦するために開発されたIPAS (Intact Protein Analysis System)について説明したい。まずアルブミン除去カラムで血液サンプルを処理する。次に、定量精度の向上を目的として、タンパク質のCys残基に安定同位体アクリルアミドを標識する。アクリルアミドは親水性の低分子化合物であり容易にCys残基を修飾できる。加えてタンパク質の物性に大きな影響を及ぼさないため、タンパク質レベルでの分離にそのまま適用できる。標識後のMS/MSフラグメント解析はシンプルかつ容易であり、通常のアクリルアミドと1,2,3-13Cアクリルアミドの3Daシフトしたペアを検出することで精度の高い定量を可能としている。続いて、タンパク質レベルでイオン交換-逆相クロマトグラフィーで分離を行う。最終的に合計100程度のフラクションに分画し、溶液状態でトリプシン消化を行いLC-MS/MS測定によりデータ取得を行う。通常、コントロールと病態をセットとした1サンプルについてFTMSで約3週間かけて測定を行う。この結果、クロマトグラフィーによる多次元分離で検出レンジが広がるだけでなく、タンパク質レベルの分離で得た荷電及び疎水性情報を加味した解析を行うことで翻訳後修飾やスプライシングアイソフォーム等について議論する可能性を広げている。 本法によって生み出される膨大なデータからバイオマーカー候補を選別することも大切であり、病態組織由来のマイクロアレイ、あるいはプロテオームといかにブリッジングするかが重要となる。本発表では癌関連を主とした実例を示しながら、バイオマーカー探索を行うためのアイディアを紹介したい。
  • 山本 剛, 立川 哲彦
    セッションID: S1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトの組織を用いた網羅的解析を行うにあたって大きな問題点の一つが個体差である。この問題を解決する為に重要なのはn数であり、統計学的な解析によって最終的に候補となるマーカーを決定する。しかし、コストやマンパワーの問題でn数を増やす事が困難となる場合も多く、その場合には多くのデータが個体差の中に埋もれてしまう可能性を否定できない。当教室ではこの問題に対する解決策の一つとして、レーザーマイクロダイセクションをベースとした組織切片からの網羅的解析を試みている。組織切片より標的細胞を回収する手法を用いる事によって、同一切片から形態学的に所見の異なる複数の部位を解析可能であり同一症例内での比較、さらには同一症例同一病変内での比較を行う事が出来る。また、培養細胞を得られない境界領域の病変や複雑な分化形態を呈する病変、過形成、良性腫瘍の解析においてもレーザーマイクロダイセクション法は有効である。本講演では、レーザーマイクロダイセクション法を用いた基本的な研究テクニックを初め、レーザーマイクロダイセクション法とマイクロアレイ、LC/MS/MSを用いたマーカー探索について非機能性下垂体腫瘍、口腔扁平上皮癌、歯原性腫瘍などの様々な症例を基にターゲットを決定する過程を示し、小規模な実験系からいかに有効なターゲットを見出すかについて紹介する。また、抽出されたターゲットとなるマーカーについて、リアルタイムPCR法、免疫染色法、ウエスタンブロット法を用いた組織切片ベースの検証手法についていくつかの結果を例に紹介する。
  • 小野川 徹, 前田 晋平, 岡上 能斗竜, 森川 孝則, 高舘 達之, 前田 めぐみ, 竹村 太郎, 三上 紗弥香, 遠藤 洋子, 山田 誠 ...
    セッションID: S1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     胆道癌は症状が出現した時点で進行癌であることが多く、現在外科的切除以外に根治治療が期待できる治療法がない。部位別がん死亡数では国内6番目に位置し、死亡/罹患比をみてもこの30年間で治療成績の大きな改善はない。それ故、胆道癌の危険因子や前癌病変を見いだすことにより早期発見を行うことは極めて重要である。
     今日腫瘍マーカーとして測定される CA19-9 や CEA は、それぞれ胆道癌患者の50~79%、40~70%で上昇するが、感度・特異度は鋭敏ではなく、その他のDUPAN-2・CA125・CA242・IL-6等も臨床的有用性は明らかではないことから、胆道癌特異的腫瘍マーカーは存在しないと言って良い。また、血液生化学データや画像診断などを組み合わせて診断能は向上するが、早期診断のための系統だったアルゴリズムはなく、予後に影響する因子についても、切除断端・剥離面の癌遺残・リンパ節転移・神経周囲浸潤等、治癒切除であったか否かが重要とされるが、その症例数の少なさや外科手術術式の多様性から、これまで高いエビデンスレベルのデータは殆どない。
     当科は肝胆膵外科治療のハイボリュームセンターとして機能しており、手術件数及び手術成績は全国でも有数である。我々は、臨床情報がデータベース化された膨大な当科専門疾患手術症例を対象に、日々の診療の問題に直面している臨床医の観点から、早期診断、将来の疾病への罹患、今後の病態の変動・予後、治療への反応性予測等、肝胆膵疾患診療に貢献する新規バイオマーカー蛋白質を探索することを目的として、独立行政法人物質・材料研究機構ナノテクノロジー融合センター共同研究型課題として申請し、本研究を開始した。
     1965~2008.10の期間で、当科における胆道癌切除症例437例のうち、早期発見が困難で予後不良である肝外胆管癌282例に絞り、さらに、1:画像診断の進歩と治療成績の安定化が得られた1998年以降の症例、2:臨床情報や予後情報が明らかで、3:術前化学療法・放射線療法施行症例、在院死亡例を除く153例(stage I:II:III:IV=7:37:53:56例)を対象とした。また、非癌部として膵頭部癌(膵頭十二指腸切除術)の胆管上皮とした。
     「胆道癌に発現し、進行すると高発現する蛋白質」の抽出を目的として、過去の病理所見のみならず、ダイゼクト用切片と連続する HE検鏡による専門病理医との再検討にて目的とする細胞特異的ダイゼクションを行い、早期(stage I):6例、進行(stage IV):8例・非癌部:6例の各群別でそれぞれ1065種類・1003種類・944種類の蛋白質を同定した。また、群特異的な発現蛋白質の同定にスペクトラル・カウント法を用いた比較定量及び統計検定を実施して、stagingにて変動する可能性がある149種類のバイオマーカー候補蛋白質を見出した。
      消化器癌医療は過去における膨大な科学データに基づき発展を遂げてきたが、進行症例では、医療の限界を感じざるを得ない。癌研究は、基礎研究から臨床研究を経て医療現場における普及、普遍化へと繋がっていくことが標準的なプロセスであるが、その流れは一方向ではなく、癌の医療現場より基礎研究へとの流れがあることも重要と考えられる。本研究は、外科医として自ら得た臨床検体で、臨床医の観点から、最先端の技術をもって基礎的解析を目指すものであり、胆道悪性腫瘍の効率的診断・治療を目指したトランスレーショナル研究として具体性と可能性の高さを持っているといえる。さらに、本研究成果が即座に臨床にフィードバックされるという特色を有しており、多くのがん患者に福音がもたらされることからも、その全容解明は急務である。
      今後症例を集積し、Geneontology解析を行うことで、候補の中で「血液や胆汁に現れる可能性がある」漏洩・分泌蛋白質などに絞り込み、術前に採取できる血液や胆汁を用いて選択的に検出・定量して候補マーカーを検証する新規研究戦略や、従来の形態学を超えた分子病理学的診断への応用、候補マーカーをターゲットとした分子標的治療や分子イメージング技術開発等、産業や臨床医学上のイノベーションや肝胆膵診療のブレイクスルーにつながるような成果を生み出したいと考えており、今回、臨床的意義をふまえた現在の研究進捗状況を報告する。
     謝辞 東京医科大学西村・加藤らによる肺癌ホルマリン固定パラフィン組織切片からバイオマーカー探索技術の報告が当科での研究開始の契機となったこと、また、本研究遂行にあたり共同研究者らによる技術支援・指導をいただいたことに深く感謝申し上げる。
  • 榎本 篤, 山川 良典, 高橋 雅英
    セッションID: S1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    これまで組織のプロテオーム解析は検体の保存法やタンパク質の回収法などに専門的な知識と技術を要することが多く、プロテオーム解析を専門としない他分野の研究者には比較的敷居の高い手法であった。しかしながら今回私達が試みた高速レーザーマイクロダイセクションと新規のタンパク質抽出技術、さらに高感度質量分析計を組み合わせた技術は、手元にパラフィン包埋組織さえあれば難しい知識がなくても容易にプロテオーム解析が可能となる画期的な技術である。今回は本技術を、神経科学領域でホットな分野である「神経新生の制御分子の同定」というテーマに応用したので紹介したい。  従来、成体(大人)の脳では神経細胞は再生されないと考えられてきたが、近年の研究により海馬の歯状回とRMS(rostral migratory stream)と呼ばれる領域では神経細胞が新生され続けていることが明らかにされている。本現象は「成体脳におけるニューロン新生」あるいは「adult neurogenesis」と呼称され、再生医学という観点からも各方面の研究者から注目されている。本研究では海馬歯状回とRMSをレーザーマイクロダイセクションで単離し、上記技術を用いたプロテオーム解析によって神経新生の制御因子の探索を試みたので紹介したい。得られた膨大な質量分析データの中から極めて興味深い分子群が検出されており、神経新生に特異的な制御分子同定への新たな知見が提供されつつある。一方で、実際に実験を行ってみると、質量分析データの解釈の方法、候補分子に対する検証の方法など様々な問題点や課題も浮上している。しかしながら本技術はこれらの問題点を補って余りある可能性を有しており、今後、臨床から基礎まで幅広い研究分野で、様々な病理検体や組織検体で応用されることが期待される技術である。
  • 藤井 清永
    セッションID: S1-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     バイオマーカー開発において、探索的研究によって得られた結果をいかに迅速かつ効率的に検証実験に結びつけるかが重要と考える。現在、がんの早期診断、予後予測に有効なプロテインバイオマーカー開発の一環として、手術検体を対象に質量分析技術を駆使した組織のプロテオーム解析を実施し、見出されたバイオマーカー候補の抗体による検証実験を展開している。バイオマーカー探索の基盤となるプロテオーム解析はLC-MSによるショットガン法を適用し、症例対照試験における群間比較にセミ定量スペクトルカウント法を応用いている。組織検体は、ホモゲナイズして得られたタンパク質抽出物をトリプシンを用いて全消化後、LC-MSによるプロテオーム解析に供される。このショットガン法により、約500種類以上のタンパク質が一斉同定解析される。それと同時に、がん組織と正常組織などの比較対照のタンパク質は、その同定解析で用いられるスペクトルのカウント数に基づいて比較解析される。このセミ定量スペクトルカウント法は実験的にもデータ処理においても簡便かつ迅速に目的とする発現差異タンパク質を見出すことが可能である。したがって、次に控えるウエスタンブロット法や免疫染色法といった生物学的検証実験に早期に移行することができる。しかし一方で、このセミ定量スペクトルカウント法を用いた発現差異解析は、組織検体をいかにノーマライズして試料調製するか、ショットガン法における再現性をどのように確保するかなど、注意しなければならない課題もある。  本発表では、セミ定量スペクトルカウント法を用いたLC-MSによるバイオマーカー探索について、これらの課題に対する対応を踏まえた実施例を挙げて本アプローチの詳細を紹介したい。手術検体を対象としたがん関連タンパク質の探索への応用として、スペクトルカウント法によるセミ定量評価に加え、その結果に基づくウエスタンブロット法と免疫染色法による検証実験の結果も併せて議論したい。
シンポジウム2
タンパク質研究から医薬品開発への道
  • 富澤 一仁
    セッションID: S2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Protein transduction therapy with membrane-permeable peptide consisting of 10-20 amino acids is a recently developed methodology that is capable of delivering functional proteins, peptides, drugs, genes and so on into cells. Poly-arginine peptide and a basic peptide derived from the human immunodeficiency virus type 1 (HIV-1) are typical of the membrane-permeable peptide. Protein transduction therapy has received increasing attention as a novel and highly efficient technology to modify cellular functions with therapeutic potential; however, the therapy has some disadvantages such as the degeneration of delivered protein in endosomes/macropinosomes. The mechanism of protein transduction has recently been clarified, and this mechanism-based new approach was developed to overcome the disadvantages. In this symposium, I focus on the current understanding and therapeutic potential of protein transduction therapy.
  • 朝長 毅
    セッションID: S2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    国際的な新薬開発競争に際して、シーズとなる疾患関連バイオマーカーの発見、知的財産権の確保は、今後のわが国の医薬品産業の発展に不可欠である。多くの疾患の原因は遺伝子の最終産物であるタンパク質の異常によって起こっているため、疾患関連バイオマーカーの発見にはヒトの血液、尿、組織などの臨床材料を用いた疾患プロテオミクス研究が不可欠である。近年、質量分析計の急速な進歩に伴い疾患プロテオミクス研究が世界中で急速に広まりつつあるが、現在までに同定されたタンパク質は比較的量の多いタンパク質ばかりであり、疾患バイオマーカーとして有用なより微量なタンパク質の同定のための手法が求められている。また、見つかったバイオマーカータンパク質候補は数多くあるが、それらがバイオマーカーとして有用であるかどうかの検証が十分なされておらず、それが真のバイオマーカーの発見に至っていない大きな理由である。それを解決するためには、バイオマーカー候補タンパク質の機能解析を行い、そのタンパク質の異常と疾患との関連性を明らかにする必要がある。本年度、医薬基盤研究所内にプロテオームリサーチセンターが発足し、平成24年度までの4年間、疾患関連創薬バイオマーカー探索研究が行われることになった。本センターでは最新のプロテオーム解析技術を結集させたオールジャパンの体制で疾患バイオマーカー探索を行うことを目標として準備をすすめており、本シンポジウムではその現状について紹介する予定である。
  • 寺崎 哲也, 川上 裕貴, 勝倉 由樹, 上家 潤一, 大槻 純男
    セッションID: S2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    実験動物で効果が確認された化合物をヒトに投与しても期待した有効性が確認されることは難しく、ヒト臨床試験の成功確率は11%と低い。実験動物を用いた非臨床試験とヒト臨床試験の間の大きなギャップをどのような研究戦略で埋めるのかは、ヒトゲノム解読以前からの長年の課題である。
     輸送担体、受容体、酵素など重要機能を担う蛋白質群の役割を明らかにすることは創薬科学や蛋白質科学の重要な課題である。重要機能蛋白質群は微量発現分子であり、従来の手法では検出が困難であった。私達は3連四重極型質量分析計を用いて、機能蛋白質群の酵素消化ペプチド断片を測定対象とした高感度かつ特異的な絶対定量法を開発した。さらに、質量分析計の検出に適したペプチド断片をアミノ酸の配列情報に基づいてin silicoで選択する方法を開発し、配列情報のみから迅速に高感度絶対定量法を構築可能なシステムを確立した。その結果、あらゆる蛋白質の発現量の絶対定量法の開発が可能になった。この手法によって、微量蛋白質の絶対定量が可能になり、重要機能蛋白質群を標的とした絶対定量プロテオミクス解析(Targeted Absolute Proteomics)が実現した。この方法を用いてマウスやヒト組織に発現するP-gp, BCRP, MRP4などの輸送担体タンパク質の絶対発現量を測定し、各々の輸送担体遺伝子導入細胞を用いて薬物の輸送活性を測定し、輸送担体の固有活性を用いたin vivoを再構築することが可能になった。この研究戦略は、動物種差だけでなく、新生児、小児、老年、各種中枢疾患における薬物動態の絶対値予測へ応用可能である。
     今日、遺伝子情報に基づいたPharmacogenomics (PGx)研究が盛んである。私達の開発したタンパク質の絶対定量法は、あらゆる動物種のあらゆるタンパク質に応用できることから、輸送担体だけでなく、薬物の効果や毒性の鍵を握る酵素、受容体、チャネルなどの定量も可能である。タンパク質の絶対発現量情報とその機能情報を統合するPharmacoproteomics (PPx)という新学問領域から生まれる成果が、創薬研究の変革をもたらすことを期待する。
  • 久永  眞市, 細川 智永, 浅田 明子, 斎藤 太郎
    セッションID: S2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     リン酸化は最もよく用いられている翻訳後修飾である.様々なシグナル伝達の調節を始めとして幅広く,かつ,重要な制御系として機能している.リン酸化の解析には放射性同位元素によるラベル,質量分析法,リン酸化抗体などの方法が用いられているが,in vivoのリン酸化状態を定量的に解析するのは簡単ではない.手軽な方法としてリン酸化抗体が頻繁に用いられているが,リン酸化部位を同定して,リン酸化抗体を作成しなければならないし,リン酸化を認識できるにしても,どの程度リン酸化されているかという定量的なデータを出すには手間がかかる.最近,フォスタグ電気泳動というリン酸化されたタンパク種の泳動上の移動度が遅れるのを利用して,リン酸化を検出する方法が開発,紹介されていた.我々はこの方法を利用して,サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)の活性化サブユニットp35とp39のリン酸化について解析した.Cdk5は神経細胞に高発現するプロテインキナーゼであり,脳形成期の神経細胞の移動や神経突起の伸長,シナプス可塑性,神経細胞死などに関わる多機能なキナーゼである.Cdk5自身は活性を示さないが,p35やp39との結合によって活性化される.p35やp39の量はプロテアソームの分解によって調節されるが,その分解はp35のリン酸化によって制御されている.p35のリン酸化は2カ所(Ser8とThr138)が知られている.p39についてはリン酸化があることは判っているが部位は同定されてはいない.p35のリン酸化されないAla変異体(S8A,T138A,S8A/T138A)を用いてリン酸化と移動度を関連づけた後,神経細胞内および脳におけるリン酸化状態を調べた.神経細胞内では主にSer8がリン酸化されており,脳内では新規なリン酸化部位があると思われるバンドが検出できた.フォスタグ電気泳動とAla変異体を用いて,新規なリン酸化部位Ser91を同定した.この方法は目的とするタンパク質のリン酸化マップさえ作成すれば,in vivoにおけるリン酸化状態を定量的に解析するに優れた方法であることが示された.
  • 富田 泰輔
    セッションID: S2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝学・生化学的解析から、アミロイドβ蛋白(Aβ)産生及び蓄積過程がアルツハイマー病(AD)発症機序に深く関与していることが示唆されており、脳内におけるAβの存在量及び蓄積過程の制御は、発症機序に基づいたdisease-modifying therapyとなることが期待されている。γセクレターゼはAβ産生経路においてC末端側の切断に関与し、Aβの凝集性を決定することから、重要な創薬標的分子と考えられてきた。近年になり、γセクレターゼの分子的な実態が明らかとなり、その酵素学的な解析と相まって、特異的な阻害剤がAD治療薬として開発され始めている。一方でγセクレターゼはNotchなど蛋白分解依存性シグナル伝達機構に必須な分子であることが明らかとなり、単純な疎外は副作用が懸念されている。したがってγセクレターゼの構造活性相関の理解は、その切断機構の解明とAβ産生特異的な活性を持つ化合物のラショナルデザインにつながる可能性があると考えられる。しかしγセクレターゼはプレセニリン、ニカストリン、Aph-1、Pen-2を最小構成因子とする高分子量膜蛋白複合体であり、その構造解析は困難を極めている。そこで我々は生化学的な構造活性相関解析法の導入や、化合物を基点にしたケミカルバイオロジーなどを取り入れ、AD治療薬として有用なγセクレターゼの構造活性相関研究を進めているので紹介したい。
  • 井上 英二
    セッションID: S2-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Alzheimer's disease is an age-dependent neurodegenerative disorder which is characterized by a progressive decline in cognitive function. Gamma-secretase dysfunction is evident in many cases of early-onset familial Alzheimer's disease. However, the mechanism by which gamma-secretase dysfunction results in memory loss and neurodegeneration is not fully understood. In this study, we performed a proteomic analysis of gamma-secretase substrates and identified EphA4 as a novel substrate. Moreover, we found that overexpression of EphA4 intracellular domain increased the number of dendritic spines by activating the Rac signaling pathway. These findings suggest that the processing of EphA4 by gamma-secretase affects the pathogenesis of Alzheimer's disease.
シンポジウム3
グライコミクスの医学への応用(糖鎖)
  • 三善 英知
    セッションID: S3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    フコースによる糖鎖修飾をフコシル化と呼び、癌や炎症と最も関係が深い糖鎖の一つとして古くから注目されてきた。肝癌の腫瘍マーカーとして知られるフコシル化AFP(AFP-L3)や、シアリルルイスA抗原(CA19-9)などが、その代表的なものである。さらに近年、膵癌のフコシル化ハプトグロビンや肝癌のフコシル化ヘモペクチン、GP73などの報告が見られる。フコシル化反応は、GDP-フコースをドナー基質とし、フコース転移酵素の働きによって行われる。10年以上にわたる私達の研究にから、糖タンパク質のフコシル化はフコース転移酵素よりも、ドナー基質の量によって制御されることが多いことがわかってきた。ドナー基質の合成には、FXとGMDという2つの律速酵素が重要である。さらに、細胞質内で合成されたGDP-フコースをゴルジ装置に運ぶトランスポーターの発現量の関与も大きい(Moriwaki & Miyoshi et al. Glycobiology 2007)。  最近、私達の研究室で、ほとんどフコシル化されていない大腸癌細胞HCT116を発見し、その原因としてGMDの遺伝子異常であることがわかった。即ち、この細胞ではGMDのエクソン5-7が欠損し、細胞内のGDP-フコース量が検出不能であった。GMDの発現ベクターを遺伝子導入すると細胞のフコシル化が回復したことから、GMDの異常が低フコシル化に直接関与することがわかった。親株のHCT116とGMDのtransfectantをヌードマウスの皮下に移植すると前者のサイズは2倍以上で、フコシル化の回復したtransfectantでは腫瘍増殖の抑制を認めた。ヌードマウスからNK細胞を除去したとき、抑制されていた腫瘍増殖が回復したことにより、フコシル化の有無がNK細胞の腫瘍免疫作用に関与することが示唆された。そのメカニズムとしては、HCT116細胞が脱フコシル化されることによって、TRAIL(NK細胞が標的細胞を殺傷する手段の1つ)耐性になっていることがわかった。  このようにフコシル化の制御は複雑で、様々な癌で異なる機序により調節されていると予測される。それは、単に診断のマーカーだけでなく、癌細胞の特性を決め、免疫細胞を含めた微小環境の中で癌が生き抜く手段とも言える。本シンポジウムでは、以上のようなフコシル化制御のダイナミズムと診断、治療への応用に関して述べたい。
  • 里村 慎二
    セッションID: S3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Implementation of the on-chip immunoassay for AFP-L3% was achieved using a fully automated microfluidic instrument platform. Reagent and sample mixing, immune reaction, concentration, separation and detection in microfluidic channels occur by the Electrokinetic Analyte Transport Assay (EATA) technique, enabling the integration of all assay steps on-chip. The determination of AFP-L3%, a biomarker for hepatocellular carcinoma, was achieved by the presence of Lens culinaris agglutinin in the separation channel, causing separation of fucosylated isoform, AFP-L3, from the non-fucosylated AFP-L1 by lectin affinity electrophoresis. The microTAS immunoassay system has great potential for further application in the clinical laboratory when rapid and quantitative testing is required. Anal. Chem. 65 (1993) 613-616. Anal. Chem. 77 (2005) 5579-5582 Electrophoresis 29 (2008) 1399-1406 N. Engl. J. Med. 328 (1993) 1802-1806 Cancer Res. 53 (1993) 5419-5423 Gastroenterology 111 (1996) 996-1001
  • 久野 敦
    セッションID: S3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    細胞から分泌されるタンパク質上の糖鎖の組成および多様性は、100を超える糖鎖関連遺伝子の発現バランスに基づき制御され、細胞の分化、がん化の程度に応じて変動することが知られている。この糖鎖構造変化を有する糖タンパク質は、バイオマーカーとしての利用が期待できる。糖鎖バイオマーカーの開発は、糖鎖構造と糖タンパク質コアの量的変化と質的変化を同時に比較解析し、組織特異的、疾患特異的な糖鎖構造を、特定タンパク質について同定する流れが基本コンセプトとなる。最近、グライコプロテオミクスを基軸とした疾患マーカー探索により、莫大な数のマーカー候補タンパク質が同定されている。しかし、得られた候補分子群の糖鎖構造が疾患特異的に変化するかを実験的にとらえた例はほとんどない。これは糖鎖バイオマーカー開発の各フェーズに活用できるだけの高感度、高スループットな比較糖鎖解析技術が存在しないことが主たる要因となっている。
    最近のめざましいバイオ分析技術の進歩により、質量分析やLC、マイクロアレイ技術を駆使した糖鎖解析手法が開発されてきている。われわれがNEDO糖鎖構造解析プロジェクト(平成15~17年度)において開発したレクチンマイクロアレイ1)もその一つである。この技術は、
    1)タンパク質から糖鎖を切り離さずにそのまま分析できる。
    2)タンパク質上のN型、O型糖鎖の構造情報を同時に取得できる。
    3)分析に利用するタンパク質量はナノグラム程度ですむ。
    という利点で他の技術と活用シーンが大別される。これはまさに糖鎖バイオマーカー開発における上述のニーズに合致しているものである。そこでわれわれは、NEDO糖鎖機能活用開発プロジェクト(平成18~22年度)の一環として、レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖バイオマーカー探索に最適な比較糖鎖解析手法の開発を実施し、これまでに複数のアプリケーションを考案してきた。本シンポジウムでは、微量組織切片由来糖タンパク質比較糖鎖解析技術2)と、糖鎖バイオマーカー候補分子検証実験に有用な比較糖鎖解析技術3)について、技術原理と実施例について、時間の許す限り紹介したいと思う。

    引用文献
    (1) Kuno A. & Uchiyama N. et al. Nature Methods. 2, 851-856 (2005).
    (2) Matsuda A. et al. Biochem Biophys Res Commun. 370, 259-263 (2008).
    (3) Kuno A. & Kato Y. et al. Mol. Cell. Proteomics (2009).
  • 二川 了次, 奈良 清光, 星 京香, 遠山 ゆり子, 亀高 愛, 城谷 圭朗, 本多 たかし, 今牧 理恵, 北爪 しのぶ, 湯浅 龍彦, ...
    セッションID: S3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    特発性正常圧水頭症(iNPH)は、加齢に伴う認知症であり、しばしば歩行障害や尿失禁を伴うことが多い。本疾患は脳脊髄液(髄液)の過剰によって引き起こされると考えられている。髄液は側脳室壁に存在する脈絡叢組織によって1日あたり400~500m作られている中枢神経系に特有の体液であり、種々の新規バイオマーカーを含むことが期待されている。我々はある糖タンパク質(GPX)がiNPHの患者において減少していることを見出した。GPXを完全精製してレクチンマイクロアレイで分析したところ、その糖鎖は極めてユニークなものであることが示された。なお、同じコアタンパク質を持つ糖タンパクが血清中に存在するが、この糖鎖とは全く異なるものであった。GPXが脈絡叢で生産されているかを検討するために、脈絡叢からコアタンパク質に対する抗体で免疫沈降を行った。免疫沈降されたタンパク質の糖鎖は髄液中のGPXの糖鎖とよく似ており、GPXが脈絡叢由来であることが示唆された。以上の経緯からGPXは脈絡叢から分泌されることが示され、iNPHを含めた髄液の代謝異常のマーカーになることが示された。
  • 千葉 靖典, 伊藤 浩美, 佐藤 隆, 成松 久
    セッションID: S3-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)ポストゲノム時代において、糖タンパク質の解析(グライコプロテオミクス)をどのように進めていくかは大きな課題の一つである。糖タンパク質解析を困難にしている理由として、標準品となる糖鎖・糖ペプチドが比較的入手困難なことが挙げられる。糖鎖や糖ペプチドの標準品の作製には、基質特異性が明確である糖転移酵素を利用する事が好ましいが、酵素自体が不安定で大量に生産することが難しいため、糖転移酵素を利用した糖鎖合成は難しいと考えられてきた。我々は動物細胞(HEK293T細胞)とメタノール資化性酵母(Ogataea minuta)を宿主としてヒト糖転移酵素の生産法の開発を検討した。
    (方法)当センターで有するヒト糖転移酵素遺伝子はGatewayシステムを用いてライブラリー化した。膜貫通領域以降をコードする糖転移酵素の遺伝子を各細胞で発現するように遺伝子導入した。培地中に分泌される糖転移酵素をFLAGビーズや各種クロマトグラフィーを用いることで精製し、活性測定を行なうと共に、ウエスタンブロッティングにより発現量を推定した。さらに得られた糖転移酵素を利用し、糖鎖の合成や改変条件を検討した。
    (結果)既知の情報と当センターで新規にクローニングした遺伝子を含め、184種類の糖鎖合成関連遺伝子をクローニングし、ライブラリー化した。II型膜タンパク質型糖転移酵素のほとんどはHEK293T細胞で可溶型酵素として発現が可能であった。FLAGタグを利用してビーズ上に固定した糖転移酵素を利用し、血液型抗原などの非還元末端側の特徴的な糖鎖構造やO-型糖鎖を有する糖ペプチドの調製等、様々な糖鎖・糖ペプチドの合成を行なった。実際に合成した糖鎖・糖ペプチドを活用することで、MSを利用した構造解析システムの開発に活用した。また一部は基板上に固定し、糖鎖チップへの応用も行なっている。
    一方、酵母の発現系については、発現させたヒト糖転移酵素の半数程度でしか活性が確認されなかったため、種々の条件を検討した結果、ある酵素では数百倍の生産性の向上に成功した。これらの酵素を用い、天然からは大量調製が困難なN-型多分岐糖鎖の調製に成功した。今後これらの糖転移酵素の発現系を活用するにより、酵素法による糖鎖の大量調製と糖鎖標準品の安価な供給が期待できる。
    本研究は新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)「糖鎖機能活用技術開発」プロジェクトにおいて実施したものである。
  • 鈴木 匡
    セッションID: S3-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    There is growing evidence that N-linked glycans play pivotal roles in protein folding and intra- and/or inter-cellular trafficking of N-glycosylated proteins. It has been shown that during the N-glycosylation of proteins, significant amounts of free N-glycans are generated in the lumen of the endoplasmic reticulum (ER) by a mechanism which remains to be clarified. Free N-glycans are also formed in the cytosol by deglycosylation of misfolded glycoproteins by cytoplasmic peptide:N-glycanase (PNGase)(1), which are subjected to degradation by a cellular process called “ER-associated degradation” (ERAD). While the precise function of free N-glycans remains unknown, biochemical studies have revealed that a novel cellular process enables them to be catabolized in a specialized manner, that involves pumping free N-glycans in the lumen of the ER into the cytosol, where further processing occurs by endo-beta-N-acetylglucosaminidase (ENGase)(2) and cytosolic alpha-mannosidase (Man2C1)(3). Recent studies also suggested that the structures and amount of free N-glycans in tomovarious cancer-derived cell lines were quite different (4), prompting us to postulate that it can potentially serve as a biomarker of certain type of cancers and other diseases. There is also an evidence that the structure of free N-glycans of cultured cells changes drastically under different culture conditions, indicating that the they can be regulated in response to the environmental conditions. In this symposium I will summarize the current knowledge on the molecular mechanism of formation and degradation of free N-glycan, and also discuss its potential biological importance (5, 6).

    References: (1) Suzuki, T. (2000) J. Cell Biol. 149, 1039; (2) Suzuki, T., et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 9691; (3) Suzuki, T., et al. (2006) Biochem. J. 400, 31; (4) Ishizuka, A., et al. (2008) Biochem. J. 413, 227; (5) Suzuki, T. and Funakoshi, Y. (2006) Glycoconj. J. 291; (6) Suzuki, T. (2007) Sem. Cell Dev. Biol. 18, 762.
シンポジム4
基礎生物学とプロテオミクス(翻訳後修飾、リン酸化)
  • 高尾 敏文
    セッションID: S4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年、MSの発展により蛋白質の構造解析は精度よく行えるようになった。特に、蛋白質分子にしばしば存在する様々な翻訳後修飾の解析に威力を発揮し、部位特異的な構造同定が効率よく行えるようになっている。蛋白質の翻訳後修飾には、糖鎖や脂質等による比較的大きな分子による修飾やリン酸化等による小さな分子による修飾が知られているが、これらの翻訳後修飾は蛋白質の機能発現に少なからず寄与している。本発表では、我々がこれまで見いだした翻訳後修飾の解析例について紹介するとともに、MSの翻訳後修飾解析における今後の役割と課題について述べたい。
    Fig. 1aは、2006年に発見したWnt-3aの新規な脂質修飾パルミトレオイル基1)と、これまでに他のグループにより見いだされた修飾2),3)を示している。この修飾は、既によく知られているパルミトイル基と異なり、分子内に二重結合(C16:1, delta-9)をもつユニークな構造をしており、Wnt蛋白質の分泌に必須であることがわかった1)。この新規脂質修飾の発見の鍵となったのは、ナノLCにおいて、結合している脂質の違いにより修飾ペプチドを分離できたことである(Fig. 1b)。すなわち、脂質における二重結合の有無による分子質量の差はわずか2Daであるため、ここで用いたTOF/TOF型のMS/MSではそれらを分離して測定することは困難であったが、逆相LCにおいてそれらは比較的容易に分離することができた。
    参考文献
    1) R. Takada et al. Developmental Cell, 11, 791-801 (2006)
    2) K. Tanaka et al. J. Biol. Chem. 277, 12816-12823 (2002)
    3) K. Willert et al. Nature, 423, 448-452 (2003)
  • 今見 考志, 杉山 直幸, 京野 完, 冨田 勝, 石濱 泰
    セッションID: S4-2(P-45)
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    乳癌細胞では、細胞膜にわずかに存在するエストロゲン受容体(ER)がエストロゲン刺激によりタンパク質リン酸化を介して様々な癌関連シグナル伝達経路を活性化させることが知られている。本研究では、安定同位体アミノ酸標識法(SILAC法)を用いた定量的リン酸化プロテオミクスによりリン酸化シグナルの時系列変化を測定し、エストロゲン刺激後20分以内に誘起される膜内ERを介したシグナル伝達ネットワークを同定することを試みた。 SILAC法では、細胞中のタンパク質を安定同位体アミノ酸で完全に標識するために透析血清を使用する必要がある(Ong et al. Mol. Cell. Proteomics 2002)。しかし、血清の透析によりホルモン等の細胞機能に重要な影響を持つ成分が除去されてしまうため、SILAC法では本来の細胞の状態を評価できない可能性がある。そこで、我々はまず乳癌細胞をはじめとするプロテオミクスでよく用いられる培養細胞株10種について、プロテオーム・リン酸化プロテオームレベルで血清の透析による影響を定量的に評価した。その結果、程度の差はあるものの、シグナル伝達ネットワークにおいて透析の影響は無視できないことを確認した。そこで、細胞中のシグナル伝達ネットワークを正確に定量するため、通常血清中でも適用可能な二重標識SILAC(Dual Labeling SILAC, DL-SILAC)法を確立した。本手法は、通常血清中で比較すべき二つの細胞群の両方を質量が異なる安定同位体アミノ酸で標識を行い、二つの標識ピークを比較することで定量を行うものである。本法は、細胞種・培養条件による制限を受けない簡便かつ普遍的な定量法である。 DL-SILAC法を用いてMCF-7のエストロゲン刺激による定量的リン酸化プロテオーム解析を行ったところ、現在までに新規リン酸化部位を含む数千種のリン酸化部位の同定・定量に成功した。同定リン酸化部位のうち約20%がエストロゲン刺激により1.5倍以上制御を受けていた。さらに、これまで未報告であったシグナル伝達経路とのクロストークを示唆する結果を得た。
  • 梁 明秀
    セッションID: S4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質のリン酸化は増殖や分化といった数多くの細胞の機能を調節する上で極めて重要なメカニズムの1つである。しかしながら、いかにしてリン酸化されたタンパク質がリン酸化に引き続いて機能を大きく変化させるかという機構については不明な点が多かった。ペプチジルプロリルイソメラーゼPin1はリン酸化されたセリン/スレオニン-プロリン(Ser/Thr-Pro)というモチーフに結合し、そのペプチド結合を介してタンパク質の構造をシス・トランスに異性化させることにより、リン酸化タンパク質の機能を調節する新しいタイプのレギュレータである。 この 新規の“リン酸化後”調節機構は標的タンパク質の活性、細胞内局在、安定性等を変化させ、リン酸化タンパク質の機能発現に重要な役割を果たす。最近の研究により、Pin1は乳癌や前立腺癌などの悪性腫瘍およびアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の病態形成に極めて重要な役割を果たすことが明らかになった。また、Pin1ノックアウトマウスを用いた研究により、Pin1は上記疾患のみならず、網膜変性症、精子低形成症、自己免疫疾患などの難治性疾患の形成に関与することも示唆されている。このようにPin1が多くの疾患に関与するのはなぜであろうか? それはPin1がエフェクター因子として直接疾患形成に関与するわけではなく、あくまでもリン酸化タンパク質の調節因子として、リン酸化を介した疾患形成因子の機能発現に関与しているからであると考えられる。実際に、Pin1 の基質となる機能タンパク質は、臓器、細胞ごとにその種類が異なり、また同一の組織や細胞内においても正常時と疾患時ではPin1基質タンパク質のリン酸化状況やPin1との結合性も異なる。 我々はこのPin1 の特性を生かし、Pin1を分子プローブとして用いることにより、難治疾患の形成に直接関与する責任分子や関連するシグナル伝達系の同定を試みている。本演題ではPin1のベーシックな機能や構造について概説するとともに、Pin1を介した疾患形成の分子メカニズムについて最近の知見を紹介する。
  • 大野 茂男
    セッションID: S4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    バイオマーカーや創薬標的の探索に際して、プロテオミクスの解析手法の著しい発展が大きく貢献している。これまでに、臨床検体を利用した網羅的探索活動が広く行われ、網羅的解析手法の技術的な進歩と相まって、成果を上げてきた。一方で、様々な克服すべき問題点があることも明らかとなってきている。問題点の一つは、臨床検体を用いた解析の効率性と精度上の限界にある。これらを克服する戦略上の工夫としては、分子の絞り込みの第一段階に何らかの工夫を施すことが考えられる。もしも何らかの方法で候補分子を絞り込むことができれば、臨床検体を用いた最も大切な作業の効率と精度が飛躍的に高まることが期待できる。  私たちは、上述の問題点を克服する有力な方法として、(1)特定の細胞機能などへの着目、(2)疾患動物モデルの作出と利用、という二つの工夫を行うことにより、バイオマーカー及び創薬標的の探索を進めている。ここでは、このような取り組みのいくつかを紹介したい。  第一は、一過的に生じる超分子シグナル複合体の単離と精製による、未知分子の探索である。タグ付きタンパク質を高発現しても、生理的に意味のある超分子複合体を単離し精製することは困難である。私たちは、内在性のタンパク質をsiRNAにより抑制した後にタグ付きタンパク質を適度に発現させる事により、超分子シグナル複合体を単離し精製できることを見いだした。このような方法により、細胞極性の制御やmRNA監視機構に関わるキータンパク質を見いだすことに成功している。  第二は、疾患モデル動物の作出と性格付け、それを利用したバイオマーカーと創薬標的の探索である。ここでは、細胞極性タンパク質aPKC遺伝子を細胞特異的に破壊して作出した2種類のマウスモデルとそれを利用した新規バイオマーカーや創薬標的の探索研究を紹介したい。一つは腎糸球体ポドサイトのスリット膜の異常を引き起こし、巣状糸球体硬化症を発症するモデルである。もう一つは、乳腺上皮細胞の組織幹細胞(癌幹細胞)の異常増殖を誘導し、乳癌の前癌病変を引き起こすモデルである。これらの疾患モデルは、臨床検体を用いた解析では絶対に不可能な、発症機構の解明のみならず、発症前や発症初期に動くバイオマーカーや創薬標的の探索に際して極めて有用である。
  • 有戸 光美, 黒川 真奈絵, 増子 佳世, 岡本 一起, 永井 宏平, 末松 直也, 加藤 智啓
    セッションID: S4-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】
    関節リウマチ(RA)は、病因解明と根治療法が求められている難治性疾患である。RAでは、最近シトルリン化タンパク質に対する自己抗体が疾患マーカーとなることが判明し、タンパク質のシトルリン化がRA病態に関与する可能性が示唆されている。しかし、シトルリン化以外の翻訳後修飾(PTM)がRAに関与しているか否かについてはほとんど報告がなく、調べられていないのが現状である。そこで本研究では、PTMの1つである「アセチル化」に着目し、健常者に較べRA患者で有意に強くアセチル化されているタンパク質を網羅的に検出・同定することで、RAに関連するアセチル化タンパク質が存在するか否かを検討した。なお、PTMの網羅的探索は、リン酸化や糖鎖を除いては一般に進んでおらず、アセチル化タンパク質の網羅的解析法の確立はその一助となる。
    【方法】
    RA患者および健常者より、末梢血リンパ球由来タンパク質を調製し、二次元電気泳動により展開した。ゲル内タンパク質をSypro Rubyにて染色後、PVDF膜へ転写した。Sypro Rubyによりタンパク質スポットのゲル画像を取得後、さらに抗アセチル化リジン抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、アセチル化タンパク質スポットを検出した。RA患者と健常者間で、アセチル化量に差異のあったタンパク質スポットについて、アセチル化タンパク質スポット画像とSypro Rubyでのタンパク質スポット画像を重ねることで、その位置を確定した。そのタンパク質をトリプシンでゲル内消化し、回収後MALDI-TOF/TOF型質量分析により同定した。
    【結果】
    健常者に較べ、調べたRA患者に共通してアセチル化が顕著に亢進しているタンパク質スポットが複数個見出された。それらタンパク質スポットのうち2つはMALDI-TOF/TOF型質量分析により、&alpha-エノラーゼ(ENO1)とイソクエン酸脱水素酵素1(ICDH1)であると同定された。これらのアセチル化が、どのようにRAに関与しているのか明らかにするために、現在、同タンパク質の酵素活性とアセチル化の関係をはじめとした解析を行なっている。
    【結語】
    RAにおいて、ENO1とICDH1のアセチル化が顕著に亢進していることから、それらのアセチル化が、RAの疾患マーカーとして機能する可能性、あるいは、それらがアセチル化を受けることによる構造もしくは機能変換が、病態プロセスに関与する可能性が示された。
  • 岩井 一宏
    セッションID: S4-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    The ubiquitin system plays crucial roles in a wide variety of biological phenomena by regulating the function of proteins via conjugation of polyubiquitin chains. Types of polyubiquitin chains have been reported to determine the mode of regulation of proteins. Ubiquitin contains seven lysine (Lys) residues and ubiquitin molecules can form different types of chains via isopeptide bonds between an internal Lys and the C-terminal glycine. We have reported that a protein complex composed of two RING finger proteins, HOIL-1L and HOIP, specifically conjugates a novel type of polyubiquitin chain in which the ubiquitin moieties are linked via a head-to-tail linear linkage. We then designated the complex composed of HOIL-1L and HOIP as LUBAC (linear ubiquitin chain assembly complex). Through the analyses to elucidate physiological roles of the linear polyubiquitin chain, we have found that LUBAC specifically activates the NF-κB pathway. LUBAC binds to NF-kappaB essential modulator (NEMO) and conjugates linear polyubiquitin chains onto NEMO following stimulation with inflammatory cytokines. Moreover, deletion of HOIL-1L suppresses TNF-alpha-induced NF-kappaB activation and enhances Jun N-terminal kinase (JNK)-mediated apoptosis in mouse hepatocytes and embryonic fibroblasts. These results clearly indicate that LUBAC regulates TNF-alpha-mediated NF-kappaB activation via signal-dependent association and linear polyubiquitination of NEMO.
シンポジウム5
プロテオミクスの医学への応用(その2) マーカー探索(血液・尿)
  • 小寺 義男
    セッションID: S5-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    血清は多くの生物学的情報を含んでいる。従って、血清中のタンパク質・ペプチドを調べることにより、病気の早期発見、薬剤感受性、発症メカニズム等につながる有用な情報を得ることができる。しかし、血清中に存在するアルブミン、免疫グロブリンをはじめとした数10種類の高存在量タンパク質が総タンパク量の 99% 以上を占めていることに加えて、残り1% 中の数1,000種類のタンパク質・ペプチドの濃度は mg/mL から pg/mL と非常に広い。また、アルブミンなどのキャリアプロテインや各種癌に特異的なプロテアーゼの存在、生活環境・慢性疾患にともなう多種多様な副次的な作用、さらには、採取された血液の分離方法、分離までの時間、保存方法などが、個々のタンパク質・ペプチドの存在量に多様な変動を与える。このためそれぞれの疾患を直接反映する要素を引き出し、検査に応用するためには、多検体によるバリデーションを視野に入れた、存在量に応じた精度の高い分析法が必要となる。
     我々は、以前より血清を対象とした独自の分析法の開発ならびに既存の方法の最適化を行い、臨床医、検査技師と共同で各種疾患の検査法確立に向けてマーカータンパク質・ペプチドの探索を進めている。
     本シンポジウムでは、北里大学理学部附属疾患プロテオームセンター、千葉大学医学部附属疾患プロテオミクス寄付研究部門を中心に展開している診断マーカー確立に向けた様々なアプローチについて紹介する。
  • 奥村 宣明, 井口 誠士, 須藤 浩三, 田家 亜由美, 高尾 敏文
    セッションID: S5-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Urine has widely been used for diagnosis since it contains biomarkers for a variety of diseases and is easy to be collected in a noninvasive way. It is thus a promising source for biomarker discovery, but special considerations should be taken for analytical procedures to manage its low abundance of proteins and peptides as well as the high concentrations of various low molecular weight components. We have been searching for biomarkers, especially for cancers, from peptide and protein fractions of urinary samples using proteomic procedures. To analyze urinary peptides, in our standard procedure, urinary samples were filtered through an ultrafiltration membrane to remove proteins, and then concentrated and desalted. The fraction was separated by ion exchange chromatography into 16-20 fractions. Each fraction was further fractionated by reversed phase chromatography and analyzed by a MALDI-MS/MS spectrometer. The major component of urinary peptides are fragments of various types of collagen, but peptides derived from a variety of renal, plasma, and tissue proteins are also detected. In this presentation, we show results of characterization of peptides detected in urinary samples and an attempt to increase the efficiency of biomarker screening from urinary peptides.
  • 吉田 豊, 行田 正晃, 山本 格
    セッションID: S5-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    我々は現在、国際ヒトプロテオーム機構(HUPO)の公認プロジェクトの一つである、Human Kidney and Urine Proteome Project (HKUPP, http://hkupp.kir.jp/)に参加して共同研究を実施している。HKUPPは米国、欧州、アジアにまたがる150人以上の研究者からなる国際共同研究プロジェクトであり、尿プロテオーム解析の標準化を最初の目的として、国際シンポジウム(2回)と国際ワークショップ(3回)における討議を重ね、尿プロテオーム解析標準化のためのガイドラインを発表する段階に達している。尿は非侵襲的に入手できる試料であり、疾患関連タンパク質・バイオマーカーの発見、治療ターゲット分子の探索のために有用であるとみなされている。しかし、人種差、性差、年齢差、個体差をはじめ、採尿時期、採尿方法、保存法、尿タンパク質調製法など、プロテオーム解析に影響する多くの因子があり、多くの研究室で得られている尿プロテオーム解析のデータの共有という観点からも、標準化の必要性は極めて高い。本シンポジウムでは、HKUPPでの情報交換と収集、討論を通じて策定が試みられている標準化に向けたガイドライン(案)を紹介するとともに、我々が現在すすめている尿試料のバンキングについても紹介する。
  • 和田 芳直
    セッションID: S5-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     糖鎖バイオマーカーを血漿糖タンパク質に求める場合、それはバイオマーカーとしての糖鎖遺伝子を対象としていることに他ならないのであるが、その内容は2つに分類できる。ひとつは肝癌マーカーAFP-L3としてFDA承認されているαフェトプロテインのコアフコースのように、既知(あるいは新規)の疾患マーカータンパクの特異性を規定する(あるいは高める)もので、この場合、タンパク質自体が、疾患に対して1:1の関係にある癌細胞そのものによって合成され、癌化を特徴づける糖鎖遺伝子発現変化のphenotypeとしての特定糖鎖構造(の増減)が炎症や良性腫瘍との鑑別を可能にするマーカーとなる。前立腺特異抗原PSAのN型糖鎖もその例である[1]。もうひとつは先天性糖鎖合成異常症(CDG)のように、生体内のあらゆる細胞で発現している糖鎖遺伝子の異常に起因し、それ故にあらゆる糖タンパク質の糖鎖構造に変化をもたらすような場合で、CDGではN型糖鎖についてはトランスフェリン、O型糖鎖についてはアポリポプロテイン-IIIが用いられている[2,3]。  先天的な糖鎖遺伝子欠損でなくても、多くの細胞の遺伝子発現に影響するサイトカインによる糖鎖構造変化を疾患バイオマーカーとする場合には、ありふれた(血中レベルが高い)血漿タンパク質を対象とすることで対応できるが、高い疾患特異性を期待することは本質的に難しく、むしろ重症度の診断への利用ということになりがちである。  血中濃度の高い糖タンパク質の代表は、N型糖鎖ではIgG、トランスフェリン、フィブリノーゲンであり、O型糖鎖ではIgAである。これらの主たる産生細胞はトランスフェリン、フィブリノーゲンが肝細胞であり、IgG、IgAは免疫担当細胞である。IgGとIgAについてはそれぞれリウマチおよびIgA腎症という頻度の高い疾患における糖鎖構造変化が報告されて久しいが、いずれも古典的な手法による糖鎖解析が使われてきた。講演では我々が進めてきた糖ペプチドを試料とする分析[4, 5]によって得た知見について述べる。 [文献] [1] Tajiri M, Ohyama C, Wada Y. Glycobiology. 18(1):2-8, 2008 [2] Wada Y. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 838(1):3-8, 2006 [3] Tajiri M, Kadoya M, Wada Y. J Proteome Res. 8(2):688-693, 2009 [4] Wada Y, Tajiri M, Yoshida S. Anal Chem. 76(22):6560-6565, 2004 [5] Tajiri M, Yoshida S, Wada Y. Glycobiology. 15(12):1332-1340, 2005
  • 曽我 朋義
    セッションID: S5-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Metabolomics has become a powerful new tool for gaining insights into cellular and physiological responses (1,2). Here we have developed a comprehensive and quantitative analysis method based on capillary electrophoresis mass spectrometry (CE-TOFMS). Metabolites are first separated by CE based on their charge and size and then selectively detected at their exact mass molecular ions by TOFMS detector (3). We applied the CE-TOFMS to profile liver metabolites following acetaminophen- induced hepatotoxicity and revealed ophthalmate as a sensitive indicator of reduced glutathione (GSH) depletion. We globally detected 1,859 peaks in mouse liver extracts, and highlighted multiple changes in metabolite levels, including an activation of the ophthalmate biosynthesis pathway. We confirmed that ophthalmate was synthesized from 2-aminobutyrate through consecutive reactions with g-glutamylcysteine and glutathione synthetase like GSH. Changes in ophthalmate level in mouse serum and liver extracts were closely correlated and ophthalmate levels increased significantly in conjunction with glutathione consumption (3). Our results specifically indicate that serum ophthalmate is a sensitive indicator of hepatic GSH depletion, and may be a new biomarker for oxidative stress. We also applied this approach to quantify hundreds metabolites in human colon and stomach tumor and normal tissues (4). The results highlight tumor-specific metabolic features characteristic of the Warburg effect and active amino acid uptake in both tumor types together with organ-specific differences presumably linked to oxygen availability. The findings demonstrate the potential of CE-TOFMS-based metabolomics for cancer research and suggest avenues for the development of novel anticancer therapeutics that target tumor-specific metabolism. References 1. Soga, T., et al., J. Proteome Res. 2. 488-494, 2003. 2. Ishii, N., Soga, T., et al., Science 316, 593-597, 2007. 3. Soga, T., et al., J. Biol. Chem. 281, 16768,-16776 2006. 4. Hirayama, A., et al. Cancer Res. in press.
  • 根本 直
    セッションID: S5-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     我々は簡単な測定ですみ、高度な解析知識を必要としないNMR(核磁気共鳴分光)を利用したメタボリック・プロファイリング技術の応用化を進めている。尿や血漿をほとんど精製することなく、混合物のままNMR計測し、そのスペクトルプロフィールを統計解析することで変動を与えている要素(変数)を探し出すことが出来る手法である。
     1つの試料から得られる1スペクトルはおよそ200個の変数として取り扱われ、多検体の計測を行って全体を多変量解析して散布図を得て解析を行う。このため、確証は無いがなにか変動が隠れている、と感じている実験系などの変動の明確化に有効である。また、変動を利用して追跡評価が可能であり、複雑な系に対するアプローチとしてプロテオームの両輪とも言えるメタボローム研究への足がかりになるものと考えている。
     その原理、応用例をお話しする。
シンポジウム6
プロテオミクスの医学への応用(その3) 疾患メカニズム解析
  • 横山 憲二
    セッションID: S6-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】現在のタンパク質を網羅的に解析するツールとして、二次元電気泳動法に基づく分析装置が広く用いられている。すなわち、はじめに等電点電気泳動(isoelectric focusing, IEF)によりタンパク質の荷電(等電点)をもとにした分離を行い、その後ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate, SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis, PAGE)により、タンパク質の分子量をもとにした分離を行う方法である。しかし、二次元電気泳動では、試料中のタンパク質分子がIEFゲルに浸透するまでの時間、IEFにかかる時間、タンパク質を染色する時間、過剰な色素を除去する時間等をあわせると、10時間~2日間必要である。また、ゲルの洗浄、移動などそれぞれの操作の間に必ず手作業が入るなど、自動化が難しく、さらに二次元電気泳動に慣れた研究者でなければ、再現性のいい結果を得ることが難しい。そこで演者らの研究グループでは、搬送システムを用いることにより二次元電気泳動を全自動化したシステムの開発を行っている。  一方、タンパク質を検出する際に用いられる試薬の性能は、近年めざましい発展を遂げており、以前と比べてかなり高感度かつ使用勝手がよくなっている。しかし、染色時間が長く必要であるなど依然問題を抱えている。演者らのグループでは、タンパク質を検出するための新規な蛍光試薬、比色試薬の設計、合成を行っている。  本講演では、二次元電気泳動、タンパク質検出試薬等のタンパク質解析ツールの新しい展開について、演者らの成果を中心に紹介し、その将来展望について議論したい。 【結果】1)全自動二次元電気泳動システム1)  図1は演者らのグループが開発した全自動二次元電気泳動システムである。一次元目のIEFチップが順次搬送される方式となっている。まず、IEFチップホルダーが、乾燥IEFチップ(支持板にIEFゲルストリップが固定されたもの)をつかみ、タンパク質試料溶液槽へと移動する。次に、膨潤溶液槽に搬送後、IEF槽に移動し、所定の電圧をかけIEFを行う。さらにIEFチップを二次元目SDS-PAGEゲルスタート地点まで搬送し、ゲル同士を接触させSDS-PAGEを開始する。検出にCCDカメラを用いれば、SDS-PAGEを行いながら分離状況をリアルタイムに可視化することもできる。本チップ、システムを用いて二次元電気泳動を行ったところ、90分程度でサンプル導入から検出までを全自動で行うことができた。また、タンパク質スポットの分解能、検出数については市販のミニゲルと同等、再現性はそれ以上であった。 2)タンパク質検出蛍光試薬2-5)  演者らはこれまでにタンパク質検出蛍光試薬1、2の開発を行ってきた。これらは、単独では全く蛍光を発しないが、溶液中でタンパク質と混合すると、瞬時に赤色の蛍光を発する。また、多くのタンパク質に対して同等の応答を示し、還元剤等の妨害物質の影響もほとんど見られなかった。さらに、1、2をSDS-PAGEの染色に用いたところ、ゲル中のタンパク質は、本試薬によって染色され、高感度で検出できることが明らかになった。また、市販の試薬を用いて染色する場合、染色前のSDSの除去および染色後の洗浄が必要であるが、本試薬を用いた場合、これらの操作を行わずにタンパク質のスポットを検出することに成功した。さらに、電気泳動用緩衝液に試薬を溶解後、電気泳動を行いながら染色を行うことによって、従来よりも簡便かつ迅速にタンパク質の染色を行うことが出来た。  また演者らは、(株)関東化学と共同で試薬2をもとにした新規蛍光試薬を開発し、これを製品化した(製品名:Rapid FluoroStain KANTO)。この蛍光試薬は、試薬2と同様に簡便にゲル染色が行え、さらに試薬2以上の性能を示すことがわかった。 【参考文献】 1) A. Hiratsuka, K. Yokoyama et al., Anal. Chem., 79, 5730 (2007). 2) Y. Suzuki, K. Yokoyama, J. Am. Chem. Soc., 127, 17799 (2005)., 3) Y. Suzuki, I. Namatame, K. Yokoyama, Electrophoresis, 27, 3332 (2006). 4) Y. Suzuki, K. Yokoyama, PROTEOMICS, in press. 5) Y. Suzuki, K. Yokoyama, Angew. Chem. Int. Edit., 46, 4097 (2007).
  • 中西 豊文, カプリオリ M リチャード
    セッションID: S6-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに:イメージング・マススペクトロメトリー(IMS)は、組織切片を直接飛行時間型質量分析計にて分析し組織切片内に発現・蓄積・沈着した分子の分布・局在性及びその構造情報を得る事が新しい解析方法である。現在、世界中の研究者達が競って診断指標・病態解明に有用なバイオマーカー候補を探索している。中でも、RM.Caprioli教授のグループは神経変性疾患、各種腫瘍組織を用いIMSによるバイオマーカーの同定で世界をリードしている。  今回、RM.Caprioli教授の下に短期留学する機会を得、IMS解析の最適条件を再確認し、合わせてIMSによる組織内発現タンパク質の分布・局在性及びon-tissue断片化による組織内タンパク質の同定結果などを報告する。 方法:マウス組織切片及びインフォームド・コンセント済のヒト正常網膜・脳前頭葉(アルツハイマー病患者剖検)組織切片(12~15μm厚)を分析対象とした。マトリックスにはシナピン酸(SA)及びジヒドロ安息香酸(sDHB)を用い、噴霧法としては用手法、ImagePrep及びPortrait630の3法を用いた。添加酸性溶液にはトリフルオロ酢酸(TFA)及びギ酸(FA)を用いた。プレートにはガラス製と金被膜製の2種類を用い、断片化酵素にはトリプシンを用いた。SmartBeamを装着したAutoflexII(IMS)及びUltraflexII(IMS&MSMS)を用いた。 結果:ガラス製と金被膜製プレートでの比較では、後者が特に高質量領域おいて良好であり、検出感度としては10倍以上の差が認められた。次に、マトリックス噴霧法の検討では、用手法ではその結晶化の不均一性は致命的であり、感度・安定性・再現性にも問題があった。次に、SA単独、混合間の比較では、後者の方に高質量領域での感度の上昇が認められた。また、酸性化溶液の検討では0.5%FAが最もS/N比、イオン量共に良好であった。ヒト網膜・前頭葉及びマウス脳切片を用いたon-tissue断片化ペプチド解析では、ミエリン塩基性蛋白、アルデヒド脱水素酵素など数種類の高含有タンパク質が同定出来た。 結論:まだまだ検討の余地は有るがSA+sDHB(19/1重量比)/0.5%FA/50%アセトニトリル溶液がイオン強度、シグナル/ノイズ比、>タンパク質検出感度等を考慮すると最適と考えられた。On-tissue断片化法は、まだまだ多くの欠点も存在するが、IMSの欠点を補うタンパク質の同定法として有望であり、発展性のある前処理方法と思われた。 謝辞:本研究はバンダービルト大学医学部・質量分析研究センターとの共同研究によって行われた。此処に深謝致します。
  • 加藤 智啓
    セッションID: S6-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、あるいは強皮症などのリウマチ性疾患では、根治的治療法の確立されていないものが多く、また、早期診断の為のマーカーとなるものも少ないのが現状である。病態として自己免疫現象が深く関与しているとされるが、詳細は未だ不明である。病因・病態の解明とそれに基づいた治療標的の同定や診断マーカーの確立が望まれている。当研究室では臨床検体から出発して、プロテオミクス・ペプチドミクスを中心にした探索を行い、その後生化学的・分子生物学的解析を行なうことで、上記目標に対処している。そのひとつは、関節リウマチ患者の主病巣である関節の滑膜細胞のリン酸化プロテオーム解析である。具体的には、非炎症性関節症である変形性関節症とくらべ関節リウマチで強くリン酸化されている蛋白質を2次元電気泳動で検出し同定した。そのひとつであるアネキシン7について遺伝子導入マウスを作成すると、コラーゲン誘導性関節炎(CIA)に抵抗性C57BL/6マウスがCIA感受性になるなど、関節炎発症に関与することが証明された、また滑膜細胞においてsiRNAによるアネキシン7発現抑制がTNF-α刺激によるIL-8分泌を抑制することなどからその機序にIL-8が関わることが判明した。現在、同遺伝子導入マウスをDBA1/Jマウスに戻し交配し、CIAの増悪の有無などさらなる検討を行っているので紹介したい。また、別のひとつとして、強皮症や血管炎症候群において血清ペプチドを探索し、疾患特異的に出現するペプチドの検出同定とそのペプチドを化学合成し、各種細胞に対する生理活性を解析している。その結果、血清蛋白質の分解産物ペプチドが細胞増殖刺激能を持つなど、生体内で役割を担っている可能性が示されているので、合わせて紹介したい。
  • 荒木 令江
    セッションID: S6-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年の高感度質量分析器をはじめとしたプロテオミクスの技術革新により、今まで困難とされていた疾患関連の生体内微量蛋白質が、かなりの感度で定量的に、かつhigh throughputに得られるようになった。それに伴い、様々な病態に関わる重要な細胞内分子ネットワークや機能情報を含むプロテオームデータベースや、それを検索するソフトウエア、さらにそれらの同定分子群の病態への関与を検証する方法論等の構築・開発が重要課題として推進されている。我々は、脳腫瘍を含む神経系疾患に関連する病態プロテオミクスを展開するため、種々のプロテオーム解析技術およびDNA arrayを組み合わせて、得られた情報を統合し、様々な病態において異常に制御されたシグナル伝達経路を特異的に抽出する方法論を検討している。本シンポジウムでは、熊本大学病態プロテオミクスコアシステムにおいて行っている高感度定量的タンパク質同定技術、および生物学的機能解析とその検証手法(iTRAQ, 2D-DIGE, MRM, MANGO, Auto2D-Natural protein chip)を紹介するとともに、得られたデータを統合マイニングし、重要分子シグナル群を抽出する方法論、さらに抽出重要分子群の迅速検証法、siRNA等を用いた生物学的機能解析のスタンダード方法論を紹介する。疾患メカニズムを解明するためのプロテオミクス的アプローチの1例として、特に脳神経系腫瘍遺伝子関連分子群を介した細胞内シグナル解析と、gliomaの薬剤感受性に関わる分子群の解析例および検証方法論と結果を報告し、如何に融合技術によって大量に得られたプロテオームデータを迅速に処理し、重要機能分子群を抽出して検証する方法論が重要かつ有用であるかを議論する。これらの方法論はすべての疾患・病態の解析はもとより、細胞生物学における基礎的な分子メカニズム情報を得るためのアプローチにも応用できる。蓄積されたデータベースを活用することによって、新しい病態メカニズムの解明や診断や治療のマーカー・創薬開発にも応用できる基礎情報が得られる可能性がある。
  • 藏滿 保宏, 岩本 早耶香, 田場 久美子, 藤本 正憲, 坂井田 功, 中村 和行
    セッションID: S6-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】膵癌は最も予後の悪い癌の一つで、発見時既に外科的切除不能であることが多く、有効な化学療法がない。Gemcitabine (GEM) は膵癌への単剤投与で最も有効な化学療法剤であるが、GEM抵抗性の膵癌が多いのが現状である。GEM感受性と抵抗性の膵癌株の細胞内蛋白質の発現を網羅的に比較解析してGEM抵抗性を規定する蛋白質を同定し、治療に応用することを目的とする。 【方法】GEM感受性膵癌株であるKLM1、AsPC-1、BxPC-3、MiaPaca-2、Panc-1と抵抗性株であるKLM1-R、PK45p、PK59細胞から蛋白質を抽出し、二次元電気泳動を用いて両細胞株の細胞内蛋白質の発現を比較した。発現に差のあるスポットをゲルから切り出して、質量分析計を用いて蛋白質を同定した。同定されたHSP27の発現をRNAiを用いてノックダウンしてGEM感受性の変化を調べた。また、HSP27の発現とGEM治療の患者の予後との関連性を調べた。 【結果】GEM感受性膵癌株と抵抗性株において、発現に差異のある細胞内蛋白質がいくつか同定され、そのうち一つのHSP27の発現をノックダウンしたところ、GEM感受性が大きく変化し、その蛋白質の患者膵癌組織での発現と予後とは大きく関連していた。
  • 具嶋 弘
    セッションID: S6-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    平成17年4月に施行された「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(以下、ゲノム指針)においてヒトゲノム・遺伝子解析研究の主たる研究は生殖細胞系列変異、または多型を解析する研究であって、がん等の病変部位にのみ後天的に出現し、次世代には受け継がれないゲノム、または遺伝子の変異を対象とする体細胞変異を解析する研究、遺伝子発現に関する研究、タンパク質の構造、または機能に関する研究は対象外とされている。しかしながら、ゲノム指針の対象外とされたプロテオーム解析研究においても「臨床研究に関する倫理指針」は遵守しなければならない。また、研究において偶然にもSNP(Single Amino acid Polymorphism)を反映したアミノ酸配列が変化したペプチドが得られた場合には研究機関の倫理委員会に諮ったうえで保管、使用等を決定することとされた。 臨床研究に関する倫理指針は2008年7月に改訂され、2009年4月から改訂された指針が施行された。この指針の施行に伴い、厚労省より2008年12月に出された「臨床研究に関する倫理指針質疑応答集(Q&A)」によると観察研究を行う場合、「『手術等で切除された標本、毛髪・爪、喉頭うがい液、胎盤』は、患者の治療のための治療行為に随伴して切除されたものとして試料が採取されたものと考えられることから、『試料の採取が侵襲性を有しない場合』に該当すると考えられる」と説明されている。 研究にあたっては研究倫理や被験者保護に注意し、医療への貢献度の高い研究を行うことが重要である。本講演ではプロテオーム研究における倫理面の対応について、主に観察研究での試料の利用について議論してみたい。
シンポジウム7
プロテオミクスの薬学への応用
  • 岡田 信彦
    セッションID: S7-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    During infection of mammalian hosts, Salmonella enterica serovar Typhimurium, a facultative intracellular pathogen, has to adjust rapidly to different environmental conditions encountered during passage through the gastrointestinal tract and following uptake into epithelial cells and macrophages. Successful establishment within the host therefore requires the coordinated expression of a large number of virulence genes necessary for the adaptation between the extracellular and intracellular phases of infection. The stringent response is a global bacterial response to nutritional stress that is mediated by accumulation of the alarmone guanosine tetraphosphate (ppGpp). It has been reported that ppGpp is required for the expression of nearly all known S. enterica virulence genes. However, the function of many proteins that are annotated on the genome of S. enterica serovar Typhimurium are still putative or unknown, and the complicated regulatory mechanism of the virulence by ppGpp is not well understood. Here, we constructed an agarose 2-dementinal electrophoresis reference map of S. enterica serovar Typhimurium strain ATCC 14028 for an exhaustive identification of ppGpp-regulated genes. We successfully identified 320 proteins on the reference map, and 155 proteins including a number of known virulence factors, which are more highly expressed in S. enterica serovar Typhimurium wild-type strain than the ppGpp0 mutant strain by comparative proteomics. Furthermore, using a mouse model of infection, two proteins, STM3169 and STM4242, were identified as novel virulence factors required for the complete mouse systemic infection by Salmonella. These results provide unequivocal evidence of the role of ppGpp in Salmonella virulence.
  • 服部 成介
    セッションID: S7-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     現在のプロテオミクス技術の分解能は、微量な細胞内シグナル伝達系構成因子の解析には不十分であり、なんらかの前分画法が重要と考えられる。ヒトゲノムには518 種ものタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)が存在し、タンパク質リン酸化の重要性を示している。細胞内の現象にはそれぞれ固有のキナーゼの関与が知られ、キナーゼの基質を網羅的に解析することでその機能を明らかにすることができる。したがって、キナーゼ基質を網羅的に解析するシステムを開発することは大変重要な課題である。そこで、リン酸化タンパク質精製と2次元ゲル電気泳動を組み合わせ、効率よくキナーゼ基質を同定するシステムの構築を試みた。ERKはRasの下流で活性化され、細胞増殖制御や腫瘍発症にかかわる重要なキナーゼであり、ERKをモデルキナーゼとして基質の同定を行った。
     ERKを活性化したNIH3T3線維芽細胞およびERK活性を抑制した細胞より、それぞれリン酸化タンパク質を精製し、2次元ゲル電気泳動で解析した結果、ERK活性化細胞に特異的に認められるスポットが多数検出された。これらのスポットは細胞総抽出液を試料とした場合には検出困難であり、リン酸化タンパク質精製の有効性が示された。スポット中のタンパク質をPMF法により同定し、さらにリン酸化部位の決定、リン酸化特異的抗体の作成を行った結果、同定したタンパク質は確かにERK基質であることが示された。
     新規ERK基質のうち、細胞骨格制御因子EPLINはERKリン酸化にともないアクチン線維との相互作用が低下し、細胞運動能が高められることが示された。また核膜孔複合体タンパク質Nup50はリン酸化によりimportinβとの相互作用が低下し、ERKリン酸化による制御が示唆された。同様のシステムを用いてp38 MAPキナーゼ基質の検索も行ない、多数の基質を同定している。
     特定のキナーゼ基質をより効率的に同定するため、細胞抽出液中のリン酸化タンパク質をすべてフォスファターゼ処理により脱リン酸化し、さらに試験管内で特定の精製キナーゼによりリン酸化するシステムの開発を行った。このシステムでは細胞内キナーゼ活性化により同定されたスポットより多数の候補スポットが認められ、効率のよい同定が可能と考えられた。
     以上の結果から、研究対象因子に相応しい前分画法により分離濃縮し、プロテオミクス解析の対象とすることが重要であると考えられる。
  • 永井 隆之
    セッションID: S7-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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     漢方薬は古来より現在まで種々の疾患の治療に臨床的に用いられている。漢方薬は複数の生薬から構成される多成分系の薬剤であり、それらの作用によって多面的な薬効を発現すると考えられている。漢方薬の薬効の科学的解明はこれまでも行われてきたが、漢方薬の多面的な作用を解析するのは困難であった。プロテオーム解析はタンパク質を網羅的に解析できることから、我々は漢方薬の多面的な作用を解析する手法として有用と考え、プロテオーム解析による漢方薬の薬効発現機序の解明を試みている。本講演では香蘇散(こうそさん、KS)についての検討結果を紹介する。
     KSは風邪の初期や抑うつ症状の治療に用いられている。我々は強制水泳と慢性マイルドストレスをマウスに負荷することによりうつ様モデルを作製し、うつ様状態の指標である強制水泳試験法における無動時間の延長及び視床下部-下垂体-副腎系(HPA axis)の活性化を確認した1)。KSを本モデルに経口投与すると、無動時間が有意に短縮し、抗うつ様効果を有することが示され、HPA axisの正常状態への回復が認められた1)。そこで、脳の視床下部を膜貫通タンパク質画分(F1)と親水性タンパク質画分(F2)に分画し、アガロース二次元電気泳動法を用いたプロテオーム解析を行った。
     その結果、視床下部においてストレス負荷により発現量が変化したスポットが16個観察され、そのうち13個はKS (1 g/kg/day)の投与により発現量が回復した。また、抗うつ薬である塩酸ミルナシプラン(MIL)(60 mg/kg/day)では回復せず、KSで回復するスポットが3個見出された。これらの結果より、KSの抗うつ様活性にMILとは異なる視床下部のタンパク質が関与している可能性が示唆された。
     一方、現在うつ病の診断やKS投与の指標となる血清マーカーは明らかとなっていない。そこで、うつ病の診断やKS投与の指標となる血清マーカーを見出すために、血清についてもアガロース二次元電気泳動法を用いたプロテオーム解析を行った。 その結果、血清においてストレス負荷で発現量が変化したスポットが123個観察された。ウェスタンブロッティングにより、KS投与群血清において発現量が回復する3種類のタンパク質が見出された。これらの結果より、ストレス負荷で発現量が変化しKS投与により回復した血清タンパク質がKSの抗ストレス作用や抗うつ様作用の指標となる血中マーカーとなる可能性が示唆された。
     プロテオーム解析の応用により、漢方薬の薬効発現機序の解明につながるとともに、西洋薬とは異なる漢方薬の標的タンパク質や漢方薬の投与の指標となるマーカータンパク質が見出されることが期待される。
    1) Ito, N., et al., Phytomedicine 13, 658-667, 2006.
  • 済木 育夫
    セッションID: S7-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトゲノム塩基配列の解読とともに、テーラーメード医療の実現に向けての取り組みが活発に行われてきている。疾患マーカーや創薬ターゲットの探索、疾患診断法の確立を目指して、近年著しい進歩を見せる遺伝子発現、多型解析やタンパク質発現解析の技術を利用して、生活習慣病や癌など様々な疾患で研究が進められている。これらポストゲノム関連の技術を応用し、これまで数多くの研究がなされながらも明確な解明には至っていなかった漢方医学における病態(証)の科学的解明に関する我々の試みについて紹介する。  漢方医学は多因子によって生じた病態(証)を多成分系である漢方薬を用いて治療するため、それらを科学的に解明していくためには、多様な因子を網羅的に解析できる手法を取り入れる必要がある。証はヒトが生来有する体質(遺伝的要因)と環境等によって変化する症候(環境的要因)の組み合わせにより規定される。前者を検索するのに多型解析が、後者には環境因子などの外部因子による病因に加え、表現型に結びついた病態に関連するタンパク質群を検索するためにプロテオーム解析が有力であると考えられる。   SELDI TOF-MS(Surface Enhanced Laser Desorption Ionization TOF-MS)を用いて、同意を得た関節リウマチと診断された患者の、桂枝茯苓丸による治療前後の血漿について、プロテインチップシステムを用いたプロテオーム解析を実施し比較検討を行い、患者特有のピークを見出す試みを行った。さらに、他の漢方方剤との比較や他の疾患(更年期疾患、アトピー性皮膚炎など)についても同様の検討を進め、それぞれのプロテオームパターンのデータベース化やマルチマーカーの探索を行いつつある。将来的には、得られた患者情報をデータベース化し、医師が漢方方剤を処方する際に活用できるような、証診断支援システムの構築を考えている。   本研究は、文部科学省知的クラスター創生事業「とやま医薬バイオクラスター」の「漢方方剤テーラーメード治療法の開発」プロジェクトおよび富山大学21世紀COEプログラム「東洋の知に立脚した個の医療の創生」の支援のもとで推進し、富山大学和漢薬研究所および医学部和漢診療学をはじめ、富山県立中央病院、株式会社インテックシステム研究所、株式会社ツムラとの共同研究である。
  • 広野 修一
    セッションID: S7-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年ヒト遺伝子の全塩基配列が解明されたことから、ゲノム情報、プロテオーム情報、蛋白質構造情報など得られる生物学的情報量が爆発的に増加し、新しい薬物標的や将来の医薬品につながるリード化合物を発見する機会が増すとともに、いろいろな疾病の治療薬となりうる種々の化合物(リガンド分子)に対する標的蛋白質群の立体構造が従来よりも比較的容易に得られるようになってきた。そのような状況において、創薬戦略も標的蛋白質の立体構造情報を有効に活用するStructure-Based Drug Design(SBDD: 標的蛋白質の立体構造に基づいた医薬分子設計)に重点が置かれ、SBDD研究は理論的・計算化学的に急速に発展し、近年の新規医薬品開発での成功例が数多く報告されてきている。 SBDDに限らず、論理的医薬品分子設計では、薬物-受容体相互作用理論(鍵と鍵穴の関係)に基づいて進められる。すなわち、受容体蛋白質には物理化学的特性を有する鍵穴(リガンド結合部位)があり、その特性に相補的な性質(立体相補性、静電相補性、疎水相補性)を有する鍵(化合物)のみが活性の扉を開けることができる(薬になる)というわけである。従って、SBDDによる医薬品開発では“鍵穴の構造に基づいて鍵をデザインする”ということになるため、研究は薬物標的蛋白質の3次元座標を得ることからスタートする。この時、いわゆる“鍵穴”(リガンド結合部位)がきちんとしたポケット状構造をとっている場合には、ルーチン的にSBDDを進めることができる。講演では、現代創薬研究の中核をなすと考えられるSBDDの一般的な流れやキーポイントを、我々が行った「ヒト酸性キチナーゼを標的にしたキチナーゼ阻害剤Argifinの論理的分子構造最適化」の事例研究1),2)を通して詳説する。
    1) Hiroaki Gouda et al., " Computational analysis of the binding affinities of the natural-product cyclopentapeptides argifin and argadin to chitinase B from Serratia marcescens ", Bioorganic & Medicinal Chemistry, 16, 3565-3579 (2008)
    2) Hiroaki Gouda et al., " Computer-aided rational molecular design of argifin-derivatives with increased inhibitory activity against chitinase B from Serratia marcescens ", Bioorganic & Medicinal Chemistry Letter, 19, 2630-2633 (2009)
  • 梅山 秀明, 加納 和彦, 寺師 玄記, 竹田-志鷹 真由子
    セッションID: S7-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    For anti-hypertension drug, the authors started "Structure Based Drug Design (SBDD) based upon homology modeling study on 3-dimensional protein structure" in 1985 before the computer graphics study is generally performed. The protein modeling of human renin which is the target angiotensinogenase for hypertension was carried out by using HGS Molecular models. Its target enzyme is containing aspartic acids in the catalytic site, and it has the 25% sequence identity for penicilopepsin determined experimentally. The inhibitor KRI-1230 was designed based upon the shape of the modeled active site. It was ascertained from the intravenous injection to marmoset that this drug is effective for the hypertention disease. At that time, we believed firmly that the homological protein modeling would become a greatly necessary tool in the SBDD study in recent future. Then we began making the soft programs such as sequence alignment and production of 3-dimensional protein structure. Thus, the system what is called BIOCES was made as the fundamental graphic system on which various application programs were executed. Moreover, we made the chimera modeling system in order to perform the homology modeling using some reference proteins determined from the X-ray and NMR experiments. From the use of those systems we have published 19 papers during 14 years since 1988. And it became possible that the plural proteins forming complex or multimer were made from the complex or multimer in the PDB database. Consequently, the FAMS (Full Automatic Modeling System) was developed. Using its FAMS, all the proteins coded on the genomes of various species had been modeled, and those modeling data were published to open from the RIKEN website as the name of FAMSBASE. Moreover, the FAMS program was developed to model the complex proteins as if the complex appears to be single protein in the proposal of a new algorism. We have continuously had the excellent results during recent 8 years until 2008 in the CASP contests of protein modeling. Also we have had good results in the CAPRI contests in relation to the docking prediction of the protein-protein interaction. Recently, we have had developed a new SBDD program based upon bioinformatics using the 3-dimensional coordinates of proteins and binding ligand molecules in the PDB database.
シンポジウム8
プロテオミクスの農学への応用
  • 貝沼(岡本) 章子, 石川 森夫, 小泉 幸道
    セッションID: S8-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     食酢は、我々の食生活において酸味を演出する発酵調味料である。食酢における酸味の主成分は酢酸であるが、これは酢酸菌によるエタノールの酸化変換、すなわち酢酸発酵により生成する。世界中には様々な種類の食酢が存在するが、全てこの酢酸発酵を原理として製造されている。
     酢酸菌は、偏性好気性のα‐プロテオバクテリアである。酢酸発酵は酸化発酵の一種であり、酢酸菌の細胞膜上に存在する酸化酵素の働きにより基質(エタノール)が酸化されて起こる。これは本菌にとってエネルギー代謝の一つであり、基質の酸化により遊離した電子を、同じく細胞膜上に存在する電子伝達系を経由させることにより、菌体内にATPを生成する。本菌は、これ以外にも、解糖系-TCAサイクル-電子伝達系を経る、通常の好気的エネルギー代謝経路を有しており、この二種類のエネルギー代謝経路を使い分けて生育を行うと考えられている。しかし、この切り替えついては不明な点が多く、また、本菌のTCAサイクルは一部遺伝子レベルでの欠損が報告されている等、詳細については不明な部分が多い。
     また、上記のような特殊なエネルギー代謝の関係上、酢酸菌はその生育の過程で、エタノール・アルデヒド・酢酸等の因子と常に共存し、加えて、強い好気的な代謝により、活性酸素種や発酵熱が細胞内に活発に発生することが予想される。すなわち、本菌の生育は、経時的に変化する複合ストレス環境と表裏一体と言うことができ、本菌は、これらの発酵時ストレスに対して適応能力を獲得していると考えられる。
     以上のような特徴的な生理の総体として可能となっている酢酸発酵を、より効率化するためには、本菌のこのような生理を包括的に解析する必要がある。演者らは今回、プロテオーム解析によるアプローチを試みた。方法としては、各種条件下で培養した菌体抽出液を、アガロース二次元電気泳動で解析し、特徴的なタンパク質スポットをLC-ESI-IT/MSで解析・同定して比較・検討を行った。これにより、本菌の変型TCAサイクルの概略、エネルギー代謝経路切り替えに関する知見、ストレス応答に関する知見等、重要な情報が同時に得られ、プロテオーム解析及び他の手法の組み合わせが、本菌の生理を解明するうえで有効な手段であることが示唆された。
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