日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S4-4
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基礎生物学とプロテオミクス(翻訳後修飾、リン酸化)
細胞シグナリングと疾患モデルのプロテオミクス
*大野 茂男
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抄録

バイオマーカーや創薬標的の探索に際して、プロテオミクスの解析手法の著しい発展が大きく貢献している。これまでに、臨床検体を利用した網羅的探索活動が広く行われ、網羅的解析手法の技術的な進歩と相まって、成果を上げてきた。一方で、様々な克服すべき問題点があることも明らかとなってきている。問題点の一つは、臨床検体を用いた解析の効率性と精度上の限界にある。これらを克服する戦略上の工夫としては、分子の絞り込みの第一段階に何らかの工夫を施すことが考えられる。もしも何らかの方法で候補分子を絞り込むことができれば、臨床検体を用いた最も大切な作業の効率と精度が飛躍的に高まることが期待できる。  私たちは、上述の問題点を克服する有力な方法として、(1)特定の細胞機能などへの着目、(2)疾患動物モデルの作出と利用、という二つの工夫を行うことにより、バイオマーカー及び創薬標的の探索を進めている。ここでは、このような取り組みのいくつかを紹介したい。  第一は、一過的に生じる超分子シグナル複合体の単離と精製による、未知分子の探索である。タグ付きタンパク質を高発現しても、生理的に意味のある超分子複合体を単離し精製することは困難である。私たちは、内在性のタンパク質をsiRNAにより抑制した後にタグ付きタンパク質を適度に発現させる事により、超分子シグナル複合体を単離し精製できることを見いだした。このような方法により、細胞極性の制御やmRNA監視機構に関わるキータンパク質を見いだすことに成功している。  第二は、疾患モデル動物の作出と性格付け、それを利用したバイオマーカーと創薬標的の探索である。ここでは、細胞極性タンパク質aPKC遺伝子を細胞特異的に破壊して作出した2種類のマウスモデルとそれを利用した新規バイオマーカーや創薬標的の探索研究を紹介したい。一つは腎糸球体ポドサイトのスリット膜の異常を引き起こし、巣状糸球体硬化症を発症するモデルである。もう一つは、乳腺上皮細胞の組織幹細胞(癌幹細胞)の異常増殖を誘導し、乳癌の前癌病変を引き起こすモデルである。これらの疾患モデルは、臨床検体を用いた解析では絶対に不可能な、発症機構の解明のみならず、発症前や発症初期に動くバイオマーカーや創薬標的の探索に際して極めて有用である。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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