日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: SIL1
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特別招待講演
統合的迅速臨床研究とオミックスへの期待
*井村 裕夫
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抄録

 生命科学の最近の進歩は誠に目覚ましいが、その成果は必ずしも臨床に生かされていない。その理由として、人を対象とした臨床研究(patient-oriented research :POR)の遅れがある. PORには観察研究(症例研究、コホート研究、ケースコントロール研究など)と介入研究(新しい医療技術の臨床試験)がある。わが国ではPORは全体として遅れているが、特に臨床試験の遅れは顕著で大きな問題となっている。最近の基礎研究の進歩によって今後新しい医薬品や再生医療が続々と臨床に導入されようとしているので、これを促進することは国家的課題ということができよう。  そこで科学技術振興機構研究開発戦略センターの臨床医学グループでは検討を重ね、統合的迅速臨床研究(integrative celerity research :ICR)を提言した。これは基礎研究の成果と臨床疫学の知見に基づいてあらかじめゴ-ルを設定し、それに向けて臨床研究の各ステップを統合的かつ迅速に実施しようとするものである。ICRの実現のためには、臨床試験のための新しいツ-ルキットの開発、臨床研究センターなどの基盤の整備、法律や規制の改革などが必要となる。  臨床研究を推進するツールとしては、マイクロドージング、薬物ゲノム学、分子イメ-ジングなど様々の方法があるが、薬物の有用性、安全性をより確実に評価するためのバイオマーカーの研究が必要となる。そのためにはゲノム、プロテオ-ム、メタボロ-ムの研究、いわゆるオミックスを発展させることが必要である。現在の臨床試験のエンドポイントは代理のエンドポイントであるので、真のエンドポイントにつながるバイオマーカーの開発が期待されている。プロテオームはそうしたマーカーの中でもとくに重要なものの一つであり、今後の発展が望まれる。  プロテオ-ムの重要性は、もちろん臨床試験におけるバイオマーカーにとどまるものではない。最近のゲノム多型の研究によって多因子疾患の発症にかかわる可能性のある遺伝子が次々と見出されているが。個々の遺伝子の関与は少なく、まだ疾患の発症機構の解明につながっていない。多因子疾患の発症機構の解明は今後の重要な課題であり、プロテオミクスの役割も大きくなると考えられる。プロテオームはまた癌などの疾患の早期診断法の一つとして、その有用性が期待されている。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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