日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-39
会議情報

ポスターセッション
めまいモデルラット前庭代償期における小脳片葉プロテオーム解析
*深澤 雅彦岡本 一起中村 学永井 宏平有戸 光美黒川 真奈絵増子 佳世末松 直也肥塚 泉加藤 智啓
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

〔背景と目的〕ヒトのめまいのモデル動物として片側内耳破壊(unilateral labyrinthectomy: UL)ラットが使用されている。ULにより、前庭神経核の活動性に左右差が生じ、その結果、前庭-動眼反射を介する眼振と、前庭-脊髄反射を介する平衡障害が出現する。しかし、時間の経過とともにこれらの症状は寛解し、この自然寛解を前庭代償と呼ぶ。これには、前庭神経核を中心とした中枢前庭系の情報伝達の再構築が関与しているが、その機序は未だ解明されていない。本実験は、前庭神経核に対し抑制性に働いて左右のアンバランスを是正していると考えられる小脳片葉の蛋白質の変化を網羅的に解析することにより、めまいの治療標的となりうる蛋白質を探索することを目的としている。 〔方法と結果〕 Sprague Dawley ラットにULを施行し、前庭代償モデルを作成した。前庭代償急性期(48時間)と慢性期(1週間)に小脳片葉(破壊側、対側)を摘出し、蛋白質を抽出した。これを2次元ディファレンシャルゲル電気泳動で分離して解析した。48時間後および1週間後のUL群(破壊側、対側)をsham群(手術側、対側)とそれぞれ比較したところ、のべ120個のスポットが、UL群で有意に増加(1.3倍以上)もしくは減少(1/1.3倍以下)していた。その内21個のスポットが手術側、対側、48時間後、1週間後のいずれかで重複しており、結果、のべ99個の蛋白質スポットが変化していた。この99個中、48時間後において、両側小脳片葉で有意に変化したのが4個、片側のみで有意に変化したのが45個、さらに48時間後に変化せず1週間後にのみ変化するスポットが50個(破壊側のみで変化21個、対側のみで変化25個)であった。片側のみ変化の45個のうち30個は内耳破壊対側で変化しており、さらにそのうち19個が1週間後に両側で変化なしとなった。すなわち、48時間後対側でのみ変化する19個のスポットは急性期の代償に、1週間後に変化する50個のスポットは慢性期の代償に深く関与していると考えられる。次にこれらのスポットについてMALDI-TOF MSを用いて同定を試みた。その結果、13スポットから11種類の蛋白質、vesicle-fusing ATPase, mitochondrial aconitate hydratase, brain glycogen phosphorylase, heat shock congnate 71 kDa protein, lamin-B1, alpha-internexin, heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K, protein disulfideisomerase A3, mitochondrial ATP synthase subunit beta, mitochondrial ATP synthase subunit b を同定できた。 〔結語〕 前庭代償急性期には、対側の小脳片葉が、慢性期には両側の小脳片葉が関与している可能性が示唆された。今後、前庭代償に関与するスポットを同定し、同定した蛋白質については機能解析を行い、めまいの治療標的分子を解明していく予定である。

著者関連情報
© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
前の記事 次の記事
feedback
Top