日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-68
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ポスターセッション
神経内分泌肺癌患者血清中の早期診断可能な自己抗体の検出
*松本 俊英小畠 陽子小林 信影山 泰平岡安 勲佐藤 雄一
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抄録

【目的】 肺癌は難治性癌の代表例であり、日本における男性癌死の第1位、女性でも第2位を占めている。その中でも神経内分泌癌である小細胞癌(SCLC)と大細胞神経内分泌癌(LCNEC)は5年生存率が他の肺癌に比して著しく低く、予後の非常に悪い癌である。臨床における神経内分泌肺癌の診断にはNSEやproGRPが用いられているが、Stage I, IIといった早期癌における陽性率35~45%と低い上に、LCNECに対する特異的な血清診断マーカーは未だない。本研究は、神経内分泌肺癌の大幅な予後の改善を目的とした、早期血清診断マーカーの獲得を目指す。そこで、癌患者の免疫系が腫瘍関連抗原に対して早期の段階で自己抗体を作り出す点に着目し、神経内分泌肺癌患者血清中に特異的に流出する自己抗体の同定を行った。 【材料と方法】 4種の肺癌細胞株(LCN1(LCNEC由来), N231(SCLC由来), RERF LC-AI(扁平上皮癌: SCC由来), A549 (腺癌: AD由来))を用いて、その可溶化物を2次元電気泳動し、神経内分泌肺癌患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法を行う。神経内分泌肺癌細胞株(LCN1, N231)のスポットにだけ反応したタンパク質のスポットを切り出し、トリプシン消化後MALDI-TOF-MSにて質量分析を行い、自己抗体と反応したタンパク質を同定する。 【結果と考察】 神経内分泌肺癌細胞株の2-DE及び患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法により、現在までに10症例患者血清中7種の抗原タンパク質が同定された。ELAVL3は別名HuCと呼ばれる分子量34~43kDaの神経系ヌクレオチドタンパク質であり、抗HuC自己抗体はすでに腫瘍随伴性神経症候群(PNS)を伴ったSCLC患者血清中に認められている。HuCを含めたHuファミリーは神経系の発生と維持に重要な役割を果たすと考えられているため、SCLCの診断や原因の究明において有用であるとされている。hnRNP A2/B1は中枢神経系小細胞の細胞質やグリア細胞の核に存在し、mRNA前駆体と直接結合し、遺伝子発現の調節を行う。リウマチ性関節炎や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患患者血清中に、抗hnRNP A2/B1自己抗体が高率に検出される。また、多種の腫瘍において発現が亢進するとされ、肺癌を含め早期診断マーカーとしての臨床応用の試みもなされている。  このように、癌患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法により、高率に新規の腫瘍関連分子やPNSに対する自己抗体の同定ができた。同大学医学部B倫理委員会への申請・承認の下、肺癌患者血清300例を収集済みであり、今後HuCのような神経内分泌腫瘍に特異性の高い自己抗体が同定される可能性は十分に高いと考えられる。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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