イメージ能力の個人差についてこれまで解明されていない重要な問題は,その起源である。本研究はイメージ能力の個人差が生得的基盤を有する可能性について,二つの観点から論考を試みる。一つはイメージテスト得点の分布の特徴,イメージ個人差に関係するパーソナリティ要因,イメージ能力の基盤となる機序に,行動遺伝学の知見を対置するやり方でイメージ能力の生得的基盤の存在を仮説的に類推する試みである。もう一つは児童における認知的課題や事象に対するイメージテストの予測力を検証した諸研究と,イメージテストに対する児童の反応の仕方を検討した研究の知見から,大人と同様のイメージ個人差の存在を確認することを通してイメージ能力の生得的基盤を推測する試みである。論考に際してはイメージ能力の鮮明性,統御性,常用性(表象型),没入性の次元を念頭に置く。論考の結果,対置した行動遺伝学の知見からは,次のような点でイメージ能力が生得的基盤を持っていることが類推できる。(a)鮮明性,統御性,視覚化傾向の得点分布における肯定側への大きな偏りがイメージ生成能力の普遍性を示すかもしれない。(b)イメージ特性に関係するパーソナリティ要因として,鮮明性には気質(神経症傾向と向性の組合せ,持続性),美的感受性,抑圧傾向/自我許容性が,統御性には神経症傾向が,没入性には開放性と自己超越性が,空想傾向にはそれに加えて神経症傾向が関係し,いずれの要因も生得的基盤の関与が示唆される。(c)イメージ能力の基盤となる機序として,鮮明性とイメージ常用性の視覚的ワーキングメモリ容量の大きさ,鮮明性と表象型の神経心理学的基盤,統御性のワーキングメモリの実行機能,常用性の表象型に合致する符号化,没入性の想像活動への関与の強さと弛緩状態の惹起のいずれの機序についても,生得的基盤の関与が示唆される。児童を対象になされた発達的研究からは,次のように小学生の段階で既に大人と同様のイメージ個人差が顕在化している事実が確認できることから,大人と同様に生得的要因の関与を推測できる。(a)イメージ能力のいずれの次元についても,イメージテストが認知的課題や事象に予測力を発揮し,機序の同定にも大人と同等の貢献を示す。(b)イメージテストに対する児童の反応が大人の場合と非常に似ており,特に鮮明性のモダリティ横断的な特徴,各次元相互の緩やかな関連,鮮明性,統御性,視覚化傾向得点の肯定的方向への大きな偏り,没入性の正規分布といった基本的特徴に児童と大人で共通性がある。イメージ能力各次元について行動遺伝学的研究がなされることへの高い期待と,幼児・低学年児童を対象にしたイメージ個人差の研究や縦断的研究の必要性が述べられる。