イメージ心理学研究
Online ISSN : 2434-3595
Print ISSN : 1349-1903
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原著論文
  • 松田 英子, 松岡 和生, 岡田 斉
    2022 年 19 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    自閉症スペクトラム障害と夢の特性に関する研究は,海外では夢の情動やテーマからの分析が主であるが,日本における報告はほとんどない。またDSM-5 にて,自閉症スペクトラム障害の診断基準に新たに感覚異常が加わり,今後自閉症スペクトラム障害の感覚特性と夢で体験する感覚との研究の進展が期待されている。

    本研究の目的は, 夢日記法で収集された自閉症スペクトラム障害の青年の夢資料に出現した感覚と感情の特徴を分類することであった。夢資料提供者は,鮮明な夢を想起することを楽しんでいる,自閉症スペクトラム障害の大学4 年生であった。夢内容の質的分析の結果,想起された夢内容には,視覚や聴覚イメージの鮮明性のみならず,味覚,嗅覚などマイナーな感覚の体験が多く反映されていた。また,夢では肯定的感情の体験が多く,否定的感情の体験が少なかった。

    今後の課題は,この予備的な研究をふまえ,自閉症スペクトラム障害の感覚異常のアセスメントと夢の特性の関連を児童期から青年期までの十分なデータで検証することである。

  • 川原 正広
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 19 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,視覚イメージ処理と言語情報処理に関わる認知スタイルとして個人が日常生活の中で物体視覚思考,空間視覚思考,言語思考を用いる傾向を測定する表象スタイル質問票(RSI)を作成し,尺度の信頼性と妥当性を検討することであった。主因子法を用いた因子分析からは物体情報の処理に関わる“物体視覚思考”因子と言語情報の処理に関わる“言語思考”因子,空間情報の処理に関わる“空間視覚思考”因子の3 因子が抽出された。

    これらの因子は確証的因子分析や内的整合性,時間的安定性の検討から因子的妥当性や信頼性を持つことが確認された。また作成したRSI の基準関連妥当性について視覚情報処理や言語情報処理が関わる心理測度との関連について検討したところ,物体視覚思考尺度の得点は日本語版VVIQ,CEQ-J の得点と,空間視覚思考尺度の得点はMRT,PFT の成績と,言語思考尺度の得点はアナグラム課題,言語流暢性課題とそれぞれ特異的な関連が認められた。これらの結果から本研究で開発したRSI が十分な信頼性と妥当性を持つ質問紙であることが確認された。

展望論文
  • 畠山 孝男
    原稿種別: 総説
    2022 年 19 巻 1 号 p. 21-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    イメージ能力の個人差についてこれまで解明されていない重要な問題は,その起源である。本研究はイメージ能力の個人差が生得的基盤を有する可能性について,二つの観点から論考を試みる。一つはイメージテスト得点の分布の特徴,イメージ個人差に関係するパーソナリティ要因,イメージ能力の基盤となる機序に,行動遺伝学の知見を対置するやり方でイメージ能力の生得的基盤の存在を仮説的に類推する試みである。もう一つは児童における認知的課題や事象に対するイメージテストの予測力を検証した諸研究と,イメージテストに対する児童の反応の仕方を検討した研究の知見から,大人と同様のイメージ個人差の存在を確認することを通してイメージ能力の生得的基盤を推測する試みである。論考に際してはイメージ能力の鮮明性,統御性,常用性(表象型),没入性の次元を念頭に置く。論考の結果,対置した行動遺伝学の知見からは,次のような点でイメージ能力が生得的基盤を持っていることが類推できる。(a)鮮明性,統御性,視覚化傾向の得点分布における肯定側への大きな偏りがイメージ生成能力の普遍性を示すかもしれない。(b)イメージ特性に関係するパーソナリティ要因として,鮮明性には気質(神経症傾向と向性の組合せ,持続性),美的感受性,抑圧傾向/自我許容性が,統御性には神経症傾向が,没入性には開放性と自己超越性が,空想傾向にはそれに加えて神経症傾向が関係し,いずれの要因も生得的基盤の関与が示唆される。(c)イメージ能力の基盤となる機序として,鮮明性とイメージ常用性の視覚的ワーキングメモリ容量の大きさ,鮮明性と表象型の神経心理学的基盤,統御性のワーキングメモリの実行機能,常用性の表象型に合致する符号化,没入性の想像活動への関与の強さと弛緩状態の惹起のいずれの機序についても,生得的基盤の関与が示唆される。児童を対象になされた発達的研究からは,次のように小学生の段階で既に大人と同様のイメージ個人差が顕在化している事実が確認できることから,大人と同様に生得的要因の関与を推測できる。(a)イメージ能力のいずれの次元についても,イメージテストが認知的課題や事象に予測力を発揮し,機序の同定にも大人と同等の貢献を示す。(b)イメージテストに対する児童の反応が大人の場合と非常に似ており,特に鮮明性のモダリティ横断的な特徴,各次元相互の緩やかな関連,鮮明性,統御性,視覚化傾向得点の肯定的方向への大きな偏り,没入性の正規分布といった基本的特徴に児童と大人で共通性がある。イメージ能力各次元について行動遺伝学的研究がなされることへの高い期待と,幼児・低学年児童を対象にしたイメージ個人差の研究や縦断的研究の必要性が述べられる。

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