2026 年 21 巻 1 号 p. 35-37
イメージ心理学研究 2023, 21, 35-37 35
ワークショップ〔講演要旨〕夢見とイメージ研究の国際ワークショップ(2025 年 6 月 14 日)
夢見と覚醒時のイメージの関連性を探る
―Multi-modal な視点から検討した私たちの研究を通して—
岡 田 斉
(文教大学人間科学部)
夢想起頻度は毎日見るという者から全く見ないという者まで広い範囲でばらつくことが知られている。この個人差を引き起こす要因については,数多くの要因との関連性が検討されいくつものモデルも提唱されている(e.g.. Schredl & Montasser, 1996; Schredl, 2007)。夢見は睡眠時に起こるイメージ体験であることから,夢想起頻度の個人差に関わる要因として覚醒時のイメージ能力との関連性が着目されてきた。Hiscock & Cohen(1973)は,夢想起頻度は QMI
(Sheehan, 1967)の視覚の下位尺度と関連するが,聴覚の下位尺度とは関連しないことを見出し,夢想起頻度は覚醒時の視覚イメージの鮮明性と関わることを示唆した。Okada et al.(2000)は,彼らの研究ではイメージに関する指標が限られていた点に着目し,視覚イメージの鮮明性(VVIQ; Marks, 1973),視覚型
―言語型(VVQ; Richardson, 1977),イメージの統御性(TVIC; Richardson, 1969),QMI(7 種類の感覚)の全尺度を加え,大学生を対象に夢想起頻度高群(毎日見る・ほとんど毎日見る)と低群(月に 1, 2 回,ほとんど見ない,全く見ない)で得点の比較を行った結果,Hiscock & Cohen(1973)と同様,高頻度夢想起群の視覚イメージの鮮明性は低頻度群より有意に高くなり,彼らの結果が裏付けられた。それに加えて,彼らが検討していなかった QMI の皮膚感覚と内臓感覚においても高頻度夢想起群の鮮明性が有意に高くなることを見出し,夢想起頻度に関連する覚醒時のイメージ能力は視覚に限らないことが示された。
夢想起頻度には視覚以外のイメージ能力も関わる可能性が示されたが,逆に夢見においてはどのような感覚が体験されるのだろうか。言及した研究はあまり多くないが,REM 期覚醒法を用いた Hobson(1988)は視覚,聴覚,運動感覚の体験比率は高いが,味覚や嗅覚については報告していない。Okada et al.(2005)は大人数を対象とした感覚モダリティ別頻度の調査が見られないことから,530 人の大学生を対象に夢の中での視覚,色彩感覚,聴覚,発話,運動感覚,皮膚感覚,味覚,嗅覚,内臓感覚の体験頻度を評定する質問票と 4 つのイメージテスト(VVIQ, QMI, VVQ, TVIC)を実施した。その結果,いつも・時々体験すると高頻度に評価した割合は,視覚から運動感覚までは 70%以上,触覚は 30%,味覚・嗅覚が概ね 10%と夢で高頻度で体験される感覚とあまり体験されない感覚に二分することができた。さらに k-means クラスター分析を行ったところ,すべての感覚の頻度が高い第 1 群(約 23%),夢でよく感じる感覚(視覚・聴覚・運動感覚)の頻度のみが高い第 2 群(約 48%),全ての感覚の体験頻度が低い第 3 群(約 28%)の 3 群に分類することができた。イメージテストの得点を 3 群間で比較したところイメージの鮮明性,視覚化傾向,統御性はいずれもこの順で高いこと,QMI の感覚モダリティ別得点はすべての感覚において 1 群の鮮明性が高く 3 群の鮮明性が有意に低いこと,2 群に関しては視覚・聴覚・運動感覚の鮮明性が 1 群と 3 群の間に位置することが示された。これらの結果は,夢見において体験される感覚は頻度に違いはあるもののすべての感覚であること,味覚や嗅覚については頻度は低いながらも夢の中で体験されること,さらに,覚醒時のイメージの鮮明性と夢見の感覚ごとの体験頻度の間には概ね対応関係が見られることを示した。加えて夢見における感覚体験は出現する感覚の種類により対象者を3 群に分類できそれが覚醒時の対応する感覚のイメージ能力と関連することから,夢見において体験される感覚の種類の個人差が夢見の認知的メカニズムを検討するうえで有望な指標となることが示唆された。
夢見におけるイメージの多感覚的側面に着目し,私たちの研究を引用しそれを発展させた論文がいくつか出版されている。Kahan & LaBerge(2011)は夢見と覚醒時の認知機能の共通点と差異を明らかにすることを目的として記憶に現れる,注意,感情,動機付け,思考,知覚,行動等の出現頻度に働く認知・感情のメカニズムに差異があるか検討する目的で REM 期覚醒
法を用いて検討した。感覚別体験の有無を調べた結果,夢見と覚醒の間で差異があったのは味覚・嗅覚・皮膚感覚のみでありいずれも夢見のほうが低くなった。これらの感覚はまた他の感覚よりも夢見において出現頻度は低くなった。これらの結果は先の我々の研究の結果と一致するものであることを彼らは示唆している。
Heijden et al.(2024)は夢の中での感覚体験を調べた研究が少ないと指摘し,日誌法を用いて 1 週間の間に体験した夢見で体験される感覚の種類を調査した。その結果,視覚,聴覚の体験頻度が高く,触覚がそれに次ぎ,味覚と嗅覚は最も少なかったと報告した。この結果も我々の報告と一致するものであった。Bilzer & Monzel(2025)は,覚醒時に思い浮かべる心的イメージと夢見に現れるイメージはいずれも対応する外的刺激がないオフライン知覚であり,多感覚での体験が統合されたものである点で共通した認知メカニズムから生じると考え,夢見における感覚別鮮明性を測り,覚醒時のイメージの感覚モダリティ別の鮮明性を測る PSI-Q のスコアとの関連性を検討した。その結果,夢見の感覚別鮮明性と対応する感覚の覚醒時のイメージの鮮明性の間に有意な関連があること,夢見において視覚,聴覚,運動感覚,皮膚感覚の鮮明性は高いが,味覚,嗅覚の鮮明性は低いことを見出した。この結果は我々が頻度で得た知見を鮮明性でも確認したと言えよう。ここで取り上げた研究は夢見もイメージも多感覚的であることが本質的であり,そこで作り出されるイメージは睡眠,覚醒を問わず共通のメカニズムにより生成される可能性を支持する結果と考えられる。
先天盲でも夢を「体験する」。体験される夢には実際には視覚像はないがそれを除けば晴眼者と質的な差異はないと指摘されている(e.g., Hurovitz et al., 1999)。しかし,Ilic et al.(2023)は先天盲の中には夢の内容を描画できる人がいること,先天盲の覚醒時・REM睡眠時の視覚野の脳波は晴眼者のそれと類似していることから,先天盲はREM睡眠期に視覚野で視覚以外の感覚から得られた印象から視覚的イメージのような類知覚物を抽出,統合しエピソード記憶と言語的処理といった高度の認知機能の働きを加えることで視覚像を作り出すことがある可能性を示唆している。聴覚障害者の夢見についてはMendelson et al.(1960)は先天聾,5歳以前,5歳以降に聾となった人の体験する夢の内容を比較し,5歳以降に聾となった人に比べて先天聾のほうが夢想起頻度,色彩の体験頻度,鮮明性が高く空間的な奥行き視をよく体験すると報告した。一方Gilliland & Stone(2007)は色彩に関しての差異を確認することができなかったと述べている。Okada & Wakasaya(2016)は聴覚障害を有する高校生(86人)と健常な高校生(344人)の夢で体験する感覚,感情の種類別頻度を調査した。その結果,ほぼすべての項目で前者の頻度が有意に高い結果となったが,夢想起頻度を制御変数として再度検定を行ったところ味覚,温度感覚,緊張感の3つの項目のみが有意となった。この結果は,夢見と覚醒時に同じ認知メカニズムが働くと考える連続性仮説を支持する結果であると同時に他の感覚による聴覚欠損の補償作用が夢に反映されたのではないかと考えられた。
20 年前我々が夢見における感覚別頻度を調査した時には基礎的データすらなかった。しかし,近年の研究から覚醒時であっても睡眠時であっても頻度に高低はあるものの現れるイメージはすべての感覚に及ぶこと,さらに感覚入力がなくとも脳内で生成されている可能性まで議論されるようになってきた。多感覚イメージの統合という視点は夢見の認知的研究と覚醒時のイメージの研究を橋渡しをするだけでなく,感覚・知覚障害者と健常者のイメージ研究の結束点ともなっている。一方,夢見においては体験頻度の高い感覚と低い感覚がある理由は未だ明確ではない。今後の研究が期待される。
引用文献
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