イメージ心理学研究
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ワークショップ講演論文
夢イメージ研究と社会実装
松田 英子
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2026 年 21 巻 1 号 p. 43-45

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イメージ心理学研究 2023, 21, 43-45 43

ワークショップ〔講演要旨〕夢見とイメージ研究の国際ワークショップ(2025 年 6 月 14 日)

夢イメージ研究と社会実装

松 田 英 子

(東洋大学社会学部)

キーワード:夢想起,認知科学,神経科学,情報科学,ライフキャリア,イメージリスクリプト

はじめに

日本イメージ心理学会会員の皆様の協力を得て,

「夢見とイメージ研究の国際ワークショップ」が開催できたことに心より感謝する。「夢見とイメージ研究の現在」として 7 研究報告と海外特別研究報告があった。「夢見とイメージ研究のこれから」の話題提供の 1 つとして,夢研究の歴史と現在,これまでに取り組んできた「睡眠中の夢」に関する心理学研究について紹介し,これから取り組む必要のある研究課題についても述べる。

夢研究史:精神分析学から認知科学,神経科学へ

なぜ夢を見るのかに関して,1900 年精神分析学のフロイト(Freud, S.)による願望達成仮説(現実生活で満たせない願望を夢で補完的に満たす)が提出された。1950 年代にレム睡眠が発見されて以降,睡眠と夢見は大脳生理学の研究対象となった。1970 年代になり,ホブソン&マッカーリー(Hobson, A. & McCarley, R.)は夢の生成に関する活性化 - 合成仮説を提唱し,その後の修正版が現代においても基本的な考え方として支持されている。1980 年代以降は,夢の機能に関する情報処理仮説が提唱された。クリック

&ミッチソン(Crick, F. & Mitchison, G.)の逆学習・不要情報消去仮説,ウィンソン(Winson, J.)の再学習・情報再処理仮説,およびジュベ(Jouvet, M.)のシミュレーション仮説が認知科学的仮説の代表例である。さらにホブソンらの大脳生理学の流れを汲むスティックゴールド(Stickgold, R.)やザドラ(Zadra, A.)が夢見の状態をデフォルトモードネットワークと捉え,神経科学的研究を推進している(Zadra & Stickgold(2021 藤井訳 2021))。一方,脳損傷と夢見に端を発する神経科学的研究が,ソームズ(Solms, M.)を中心に行われ,フロイトの精神分析理論の実証を行おうとしており(Kaplan-Solms & Solms(2002岸本訳 2022); Solms(2021 岸本訳 2021)),神経科学的夢研究の領域から目が離せない。

夢とパーソナリティ心理学のこれから

心理生理現象である夢見はほとんどの人に毎晩数回ある睡眠中の体験である。夢の生成にイメージが果たす役割は大きく,睡眠時の精神活動のレベルを反映し,思い出せないレベルのぼんやりしたイメージから,悪夢,明晰夢などの鮮明な夢見まで分類される

(松田,2018)。

睡眠中の情報処理活動である夢は覚醒時の思考と連続性があると捉える連続性仮説(Domhoff, 2017; Schredl, 2017)が認知科学的に支持されている。私は連続性仮説に基づき,これまでパーソナリティやライフイベントと夢想起の個人差に関する研究を進めてきた。想起された夢にはまさにその瞬間の人と社会環境の相互作用が現れ,さらに生物学的変化や社会の中での役割の変化とともに生涯発達を遂げていく。それゆえ夢の内容には,夢見る人のパーソナリティと認知発達,精神的健康,および人生における課題とその対処がある程度反映される。しかし,想起された夢内容からその夢を見る人に関する情報(性格や発達水準,認知機能,精神的不調,ストレスとコーピング)を推測できるかというテーマについては,今後の課題として残る。情報科学の進展とともに,ビッグデータの質量分析,データベースの利用が鍵となると考える。これまで統合失調症(Zanasi et al., 2011, Michels et al., 2014)など特定のグループとその比較対象群を対象に,夢内容のテキスト分析が試みられてきたが,さらに潜在的意味解析(Latent Semantic Analysis)により,想起された語の連想に関しても定量化する試みが報告され始めている(Altszyler et al., 2017)。

夢の記憶と人が生きるリアリティ

現代の認知科学と神経科学において夢の機能は,覚醒時に入力された膨大な情報の中から,その個人にとって重要な①記憶情報の弁別と整理,②記憶情報の固定と消去,③記憶情報に伴う感情の処理,④記憶情報の新しい組み合わせによる創造的問題解決シミュレーションを実行しているという仮説が有力と考えられている(松田,2023)。つまり夢は報告者の人生における記憶情報のうち重要な情報を抽出し,‘ 自分はどこから来て , 今どこにいて , これからどこに向かうのか ’ というライフキャリアを知るための興味深い心理学的な資料であり,ナラティブセラピーとの相性が良い。

最近の研究の中で,幅広い年代の人々の睡眠中の夢の報告とそれらの基盤となる人生の語りにふれ,夢の資料をもとにしたライフキャリアインタビュー(life careers interview; Savickas, M.L.)を行っている。幼児期に夢の語りが始まり,児童期や思春期に悪夢体験が増える。元来夢想起は個人差の大きい現象であるが,中高年期,老年期はその個人差が拡大する。また老年期に至ると悪夢が少なく,ポジティブな夢の報告が多い印象を受ける。私は高齢者の夢には生きる上での知恵に基づく余裕やストレスコーピングの柔軟性などが反映されていると推測しており(松田,2025),これらを確かめることで,睡眠中の思考という側面から新しい生涯発達観を支えることができるのではないかと考えている。

悪夢と臨床心理学

幅広い年代で体験する悪夢(nightmare)への対処は,メンタルヘルスの維持と増進のために重要な課題である。悪夢は現実生活のストレスに対処しようとする個人の努力の反映であるので,症状レベルの深刻な悪夢は治療のターゲットになるのみならず,治療の素材として取り上げることは,ストレスコーピングの向上やレジリエンスの強化につなげることができると考える。診断基準を満たさない悪い夢(bad dream)についても同様である。

幼児期の認知発達,および言語発達とともに悪夢の語りが始まるので,最近は悪夢の語りに対する保護者への心理教育の普及を試みている(松田・殿脇, 2024)。またこれまで成人の悪夢低減のために使用されてきた認知行動療法のイメージリスクリプト技法を,児童期,思春期(松田・川瀬,2023),老年期の悪夢にカスタマイズして適用する取り組みを行っている。今後はこれらの治療効果を検証する実験(画像やVR を用いたイメージの書き換えを支援する実験とレム睡眠中にイメージを書き換える明晰夢の睡眠実験を含む)や PTSD の悪夢症状に関する臨床試験を行い,実証されたプロトコルの普及に努めること,非臨床的悪夢に対し,精神的健康を高める予防法として提案できるように研究を発展させていく計画である。

悪夢の合併疾患と夢研究の国際的動向としては,認知症者や発達障害児童(ASD,ADHD,LD 傾向)等,認知機能に着目した研究報告,レム睡眠中にイメージを書き換える明晰夢者の眼球運動や脳機能結合に関する研究報告が増えており,本研究のイメージリスクリプトの効用の検証は,国際的な動向と一致する。

夢イメージ研究の社会実装に向けて

フロイト(Freud, S.)の夢解釈から長く続く,治療の素材としての夢であるが,心理面接の中で夢イメージを使用することにより,悪夢の低減のみならず,クライエントが人生を語るきっかけを得て,語る抵抗感も少なく,より人生の物語の構成,再構成のプロセスにセラピストが共同参加しやすく,さらクライエントがポジティブな将来に関する展望も抱きやすくなると考えられる。

超高齢社会にある日本の「睡眠中の夢」研究から,夢の報告者が生きてきた時代背景,現在の社会,および自分の生活を報告者自身がどのように捉えて,どのように生きたいと願っているのか(現実の生活における夢)を整理し,人生 100 年時代を生きる変幻自在なキャリア(Protean career; Hall, D.T.)の形成支援を行うことに貢献できうると考える。

引用文献

Altszylera, E., Ribeirob, S., Sigmanc, M., & Fernández-Slezaka, D.(2017). The interpretation of dream meaning: Resolving ambiguity using Latent Semantic Analysis in a small corpus of text. Consciousness and Cognition, 56 , 178-187.

Domhoff, G.W.(2017). The invasion of the concept snatchers: The origins, distortions, and future of the continuity hypothesis. Dreaming, 27(1), 14.

Kaplan-Solms, K. & Solms, M,(2002). Clinical Studies in Neuro-psychoanalysis Introduction to a Depth Neuropsychology. Routledge(マーク・ソームズ,カレン・カプラン=ソームズ 岸本 寛史( 訳)

(2022).神経精神分析入門:深層神経心理学への招待 青土社)

松田 英子(2018).夢イメージと急速眼球運動 イメージ心理学研究,15(1),37-43.

松田 英子(2023).1 万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話 ワニブックス

松田 英子・川瀬 洋子(2023).悪夢を主訴とする高校生へのイメージエクスポージャーとイメージリスクリプトの適用 カウンセリング研究,56(2),69-78.

松田 英子・殿脇 零央(2024).幼児の悪夢想起の発達と保護者の対処に関する質的分析 東洋大学社会学部紀要,62(1),111-118.

松田 英子(2025).睡眠中にみる夢を味方に人生をデザインする.月浦崇・柴田悠・金子守恵(編著).みんなのための生涯学 人生を楽しむ科学への招待

(pp. 88-96)ナカニシヤ出版

Michels, F., Schilling, C.,Rausch, F.,Eifler, S., athias Zink, M.,Meyer-Lindenberg, A., & Schredl, M.

(2014). Nightmare frequency in schizophrenic patients, healthy relatives of schizophrenic patients, patients at high risk states for psychosis, and healthy controls. International Journal of Dream Research, 7(1), 9-13.

Schredl, M.(2017). Theorizing about the continuity between waking and dreaming: Comment on Domhoff(2017). Dreaming, 27(4), 351-359.

Solms, M.(2021). The Hidden Spring: A Journey to the Source of Consciousness. Profile Books.(マー ク・ソームズ 岸本 寛史・佐渡 忠洋(訳)(2021).意識はどこから生まれてくるのか 青土社)

Zadra, A., & Stickgold, R.(2021). When Brains Dream: Exploring the Science and Mystery of Sleep. W.W. Norton & Co.Inc.(アントニオ・ザドラ,ロバート・スティックゴールド 藤井 留美(訳)(2021).夢を見るとき脳は――睡眠と夢の謎に迫る科学 紀伊國屋書店)

Zanasi, M., Calisti, F., Di Lorenzo, G., Valerio, G., & Siracusanoet, A.(2011). Oneiric activity in schizophrenia: Textual analysis of dream reports. Consciousness and Cognition, 20 , 337-348.

謝 辞

本 研 究 は, 本 発 表 は,MEXT/JSPS 科 研 費 JP21H05343/23K02969 のサポートを受けた。発表に関連し,開示すべき利益相反関係(COI)にある企業等はない。

References
  • Altszyler, E., Ribeiro, S., Sigman, M., & Fernández-Slezak, D.(2017). The interpretation of dream meaning: Resolving ambiguity using Latent Semantic Analysis in a small corpus of text. Consciousness and Cognition, 56, 178-187.
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  • 松田 英子(2018).夢イメージと急速眼球運動.イメージ心理学研究,15(1),37-43.
  • 松田 英子(2023).1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話.ワニブックス.
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  • Michels, F., Schilling, C., Rausch, F., Eifler, S., Zink, M., Meyer-Lindenberg, A., & Schredl, M.(2014). Nightmare frequency in schizophrenic patients, healthy relatives of schizophrenic patients, patients at high-risk states for psychosis, and healthy controls. International Journal of Dream Research, 7(1), 9-13.
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  • Zanasi, M., Calisti, F., Di Lorenzo, G., Valerio, G., & Siracusano, A.(2011). Oneiric activity in schizophrenia: Textual analysis of dream reports. Consciousness and Cognition, 20, 337-348.
 
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