イメージ心理学研究
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招待講演論文
知覚と認識の多様性からイメージ研究を考える
高橋 康介
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2026 年 21 巻 1 号 p. 9-15

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イメージ心理学研究 2023, 21, 9−15

〔招待講演〕第 24 回大会(2023 年 12 月 9 日)

知覚と認識の多様性からイメージ研究を考える

高橋 康介(立命館大学総合心理学部)

キーワード:知覚,個人差,錯視,パレイドリア,アニマシー知覚

はじめに

知覚とイメージ 1 の関係についての心理学的な研究の歴史は古く,その代表例としては 20 世紀初頭の Perky の実験に遡る(Perky, 1910; Reeves et al., 2020)。それ以降も,現在に至るまで,知覚とイメージの相互干渉,錯視におけるイメージの影響,知覚とイメージにおける多義図形解釈など,知覚とイメージの共通性や相違点を示す知見が報告されてきた(Ishai & Sagi, 1995; Koenig-Robert & Pearson, 2021)。知覚研究全体を見渡すと,イメージとの関連を扱う研究はそれほど多くなく,同様にイメージ研究においても知覚の存在感は必ずしも大きくない。知覚研究においては,知覚以上に操作や観測が困難なイメージは実験的に扱いづらく,また多くの場合において,知覚過程の説明にイメージの概念が必須でないように見えることが,その理由と考えられる。一方で,イメージ研究においては,知覚と関連付けられる視覚的イメージは,さまざまな「イメージ」の広がりの中でもごく一部にすぎない。

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1 本論文において特に断りなく「知覚」「イメージ」という言葉を使う場合は「視知覚」「視覚イメージ」を指すが,議論は必ずしも視覚モダリティに限定されるものではない。

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本論文は,2023 年 12 月に開催された日本イメージ心理学会第 24 回大会での講演内容をもとにしたものである。ただし,執筆にあたっては部分的に議論を大幅に加筆しており,講演録というよりは,知覚と認識の多様性を踏まえた知覚研究とイメージ研究の接続についての理論的試論という位置づけである。前半では,知覚の構造や,異質な知覚現象としてのパレイドリアおよびアニマシー知覚を紹介し,後半では,知覚の多様性について著者らの最近の研究も交えながら論じる。最後に,知覚研究者の立場から,知覚研究とイメージ研究の接続に関する今後の展望を示す。現象や神経基盤における相互干渉,類似性や差異にとどまらず,知覚とイメージの多様性を踏まえたうえで,知覚の中のイメージ,あるいはイメージの中の知覚が果たす役割を考えることは,人間の認識の仕組みを理解するために,心理学的な観点のみならず,人類学的・哲学的な視点からも重要な意義を持つと考えられる。

知覚の構造

知覚は外的な入力の再現として受動的に生じる現象,イメージは内的に能動的に生成されるもの,という見方がある。本節では知覚の構造について簡潔に解説することで,この対比に疑問を投げかけることを目的とする(高橋,2023)。本稿で紹介する立場は,ヘルムホルツによる無意識的推論の考え方を基盤としている。ただし,これが唯一の知覚理論というわけではなく,ギブソンの直接的知覚や,近年注目されているエナクティビズム(enactivism)といった知覚理論も存在する。これらの理論の詳細な紹介は他に譲るとして,ここでは,知覚における感覚情報の不完全性,知覚の能動的性質,そして入力に対する知覚の多義性を中心に論じる。なお,これらの性質はヘルムホルツ的立場に特有なものではなく,上記の他の理論枠組みと本質的に矛盾しない。

知覚の狭義の目的は,目に入る感覚情報,すなわち網膜上に生じる像をそのまま再現することではなく,その感覚情報を引き起こした「世界の状態」を捉えることにある。光学的な観点から言えば,世界の状態と視点が定まれば,網膜像も一意に定まる(順光学)。これは,世界の状態とカメラの位置が定まれば写真の像が決まることと類似している。ただし,カメラの目的はレンズに入る光学情報をできるだけ正確かつ高解像度で記録することであるのに対し,知覚の目的は網膜像を忠実に記録することではない。むしろ,網膜像の原因として考えられる世界の状態を推定し構成することこそが知覚の本質的な役割である。

世界の状態と網膜像が一対一に対応するのであれば,網膜像を捉えることと世界の状態を捉えることは同義である。しかし実際にはそうではなく,知覚の過程においては,あるひとつの感覚情報を生じさせる可能性のある世界の状態が無数に存在しており,感覚情報だけから世界の状態を一意に決定することはできない。このような性質は,知覚の構造に内在する不良設定性として避けがたいものである。この点を理解するうえで有用なのが,恒常性に基づく錯視の一例であるシェパード錯視(Figure 1)である。ここでは,網膜像としては合同な平行四辺形が,まったく異なる形状の物体として知覚される。光学的な不良設定性により,異なる形の物体,つまり異なる世界の状態が,同一の網膜像を生み出す可能性があることを示している。またネッカーキューブ(Figure 2)もこの原理を示す典型的な例である(日髙・高橋,2021)。私たちは網膜像として与えられる 2 次元の線画から,3 次元的な立方体構造を容易に知覚する。しかしこれは逆光学問題であり,唯一の正解は存在しない。つまり,同一の 2 次元像を生み出す 3 次元構造は無数にあり,ネッカーキューブの場合にはその中の二つの典型的な立体構造の間を行き来することが,知覚的な奥行きの反転として体験されるのである。

Figure 1 シェパード錯視。図の中のふたつの机の天板の形は,画像上では向きが違うだけで合同である。しかし知覚される形は全く異なり,左は細長く,右は正方形に近い。

Figure 2 ネッカーキューブ。左の図に対して,立方体を少し下から眺めたもの(真ん中),立方体を少し上から眺めたもの(右)という,二種類の知覚が生じる。長く見ていると,見え方が変わることも体験できる。

同じ網膜像を生み出す世界の状態が無数にあるからといって,知覚が定まらないかというと,必ずしもそうではない。シェパード錯視やネッカーキューブのように,知覚は多くの場合,特定の世界の状態に収束する。これは,物理的に可能な状態の中に,現実の世界の状態として「ありそうなもの」と「そうでないもの」との区別が存在しているためである。

この「ありそうさ」を決定するために,知覚過程では与えられた感覚情報だけでなく,過去の経験,環境文脈,文化的背景など,さまざまな制約を用いる。そして,感覚情報を生み出しうる世界の状態の中で最も妥当とされるものが,知覚の内容として採用される。この仕組みを象徴的に示すのがクレーター錯視(Figure 3)である。2 次元画像自体には直接的な凹凸の情報は含まれていないため,凸凹どちらに見えても,また平面に見えてもよい。しかし「光は上から差す」という制約を導入することで,陰影から奥行きを推定できるようになるのである。ただし,この「光源が上方にある」という制約は人々に共通する経験に基づくものであり,絶対的なものではない。一般的にこうした制約は知覚する者の個人的な来歴や文化的背景をも含むものであり,知覚とは本質的に属人的かつ私秘的なプロセスである。したがって,ある知覚内容が「正しいか否か」かどうかを問うこと自体が無意味であり,それはイメージが「正しいか否か」を問うことが無意味であるのと同様である。

Figure 3 クレーター錯視。左2列の丸と右2列の丸は,同じ丸が上下反転しているだけである。しかし左側は凸として,右側は凹として知覚される。

以上を総括すると,知覚の構造は次のようにまとめられる。知覚の目的は,網膜像などの感覚情報をそのまま再現することではなく,それを引き起こす世界の状態を推定することである。しかし,不完全な感覚情報から世界の状態を一意に決定することは原理的に不可能であるため,私たちは経験や環境,文化的知識などの制約を活用しながら,多義的な世界の状態の中から最も「ありそうな」世界の状態を選択する。知覚とはこのような能動的過程なのである。

パレイドリアとアニマシー知覚

前節では,光学的観点から知覚の構造を検討した。しかし,私たちの知覚は光学的情報に限定されるものではなく,概念の世界にも広く開かれている。このことを示す現象として,本節ではパレイドリアとアニマシー知覚を取り上げ,知覚の構造の拡張を試みる。

パレイドリアとは,ある対象が異なるものとして知覚される現象を指す。たとえば,壁のシミが人の顔に見えるといった経験がその典型である。ただしこれは単なる錯視や見間違いとは異なり,それが実際には顔ではないと明確に理解していても,顔としての知覚が消えることはない。著者は以前の著作において,可塑性,多様性,二重性,不可逆性,非対称性といった性質によりパレイドリアを特徴づけている(高橋, 2023)。可塑性とは同じ感覚情報に対して見え方が変化すること,多様性とは同じ感覚情報でも人によって異なる知覚が生じることを示す。二重性とは,知覚しているものが本当は存在しないとわかっているということであり,この性質からパレイドリアは見間違いや幻視とは異なるものである。不可逆性とは一旦そう見えると,そう見えない状態に戻るのが難しいということである。Figure 4 はパレイドリア的な顔の知覚を誘発する画像である。最初は顔に見えないかもしれないが,目と口に対応する濃淡に気づくと突然全体が顔として知覚される(可塑性)。なお具体的にどのような顔が知覚されているのかという点は人によって異なる可能性がある(多様性)。顔を知覚してもなお,それが実際は顔ではないということを明確に認識しながらも(二重性),一旦顔を知覚してしまうと,顔を知覚しない状態に戻ることは難しい(不可逆性)。Figure 4 に示したような画像では,最初は無意味な模様にしか見えなくても,目や口に対応する濃淡に気づいた瞬間,全体が顔として知覚される(可塑性)。さらに,どのような顔が知覚されるかは人によって異なる可能性があり(多様性),実際には顔でないとわかっていても,顔としての知覚は保持され(二重性),元の状態に戻すのは困難である(不可逆性)。

Figure 4 パレイドリアの例。最初は意味のあるものは見えないかもしれないが,しばらく見ていると顔が知覚されることもある。

このような特徴をもったパレイドリアという知覚現象は一見奇妙なものに思われるかもしれないが,ここで述べた性質は前節で紹介した知覚の構造と整合的なものであり,光学の世界を,「顔」という意味を含む概念の世界まで拡張したものである。つまり入力としての網膜像(Figure 4)を生み出す無数の原因の中から,顔の存在を仮定するような世界の状態を採用したということである。

本論とはそれるが,最後の非対称性についても触れておくと,非対称性とは例えば壁のシミが顔に見えることはあっても,顔が壁のシミに見えることはないということである。知覚の非対称性の背景には,より多くの感覚情報を一括して説明できる知覚の方が選好されやすいという傾向があるのかもしれない。たとえば,シミとして捉えると局所的な模様それぞれに別の原因を仮定する必要があるが,顔として捉えれば,それらすべてが一つのまとまりとして処理され,より単純な構造として知覚される。これは,四角形を個別の線としてではなく一つの正方形と見なすことの合理性に似ている。

このように,パレイドリアは光学的世界を超えて概念的世界にまで開かれた知覚として理解することができる。ただし,このときに知覚されているのは「顔」のような姿形を伴ったモーダルな概念である。ここでさらに,姿形を持たないアモーダルな概念にまで知覚を広げる現象として,アニマシー知覚を考察する。アニマシー知覚とは,幾何学的な図形が動く様子を見た際に,そこに生命感や意図,性格などの社会的意味を感じ取ってしまう現象である。Heider & Simmel

(1944)は,四角形や三角形が動くアニメーションを用いた実験によって,人間がこうした単純な図形の動きに対して生き物らしさや対人関係を読み取る傾向があることを示した。興味深いことにアニマシー知覚は,知覚される内容が高次な概念であるにも関わらず,熟慮や判断を介さず自動的かつ即時的に生じるものと考えられている(Scholl & Tremoulet, 2000; Takahashi & Watanabe, 2015)。

アニマシー知覚を引き起こす要因として,物体の動きがニュートン力学から逸脱していること,あるいは自己推進的な動きが含まれていることが重要であるとされている(Scholl & Tremoulet, 2000)。感覚情報の運動は,眼球運動や頭部運動のような自己運動により引き起こされることもあれば,物体の動きにより生じることもある。重力や風といった自然の外力による物体の動きを通して感覚情報の運動を生み出す場合もあれば,内在する意図や意志による物体の動きを通して感覚情報の運動が生じることもある。自己運動や物体に働く外的な力では説明できないような自己推進的な動きが感覚情報として生じた時,アニマシー知覚が生じる。

アニマシー知覚もまた,知覚の構造に基づいて理解することができるだろう。与えられた運動情報からその原因を推定するという意味では,ここで知覚されているのは動きそのものではなく,動きを引き起こしている「エネルギー源」というアモーダルな概念である

(高橋,2023)。このような知覚内容は,必ずしも姿形や視覚的特徴を持たないが,それでも私たちはそれを運動の原因として「知覚」してしまう。したがって,私たちの知覚は光学的原因にとどまらず,姿形を伴うモーダルな概念,さらには姿形を持たないアモーダルな概念にまで及んでいると言える。このようなパレイドリアやアニマシー知覚の考察を踏まえると,知覚は外界からの入力に対する受動的な反応であり,イメージは内的に能動的に生成されるものであるという対比は見直される必要がある。むしろ,知覚もまた能動的な仮説生成のプロセスであり,受動的処理と能動的処理の相互作用のうえに成立しているという知覚観が妥当である(Koenig-Robert & Pearson, 2021)。

知覚の多様性

イメージが人によって異なるということは,ごく自然な事実として広く受け入れられており,イメージ研究の分野ではその個人差や多様性が主要なテーマの一つとされてきた。イメージの鮮明さや統御のしやすさを測定するための質問紙尺度は多数存在し,中でも VVIQ(Marks, 1973)はイメージの鮮明性を評価する尺度として現在も広く使用されている。さらに,わずかな人のみがもつとされる直観像(名畑・小川, 2017)や,イメージをほとんどもたないアファンタジア(髙橋・行場,2021),さらにはイメージに関連する現象として異なる感覚モダリティが誘発される共感覚(浅野,2024)など,イメージの個別性と多様性を理解するための研究は広く進められている。

一方で,知覚研究は,大きな個人差を前提としない傾向が強い。例えば視力の強弱を除けば「知覚の鮮明さ」という考え方が議論にのぼることはないだろう。知覚が入力に基づいて自動的かつ安定的に生じる,つまり,同じ感覚情報が与えられれば同じ知覚が生じるという前提があり,個人差に焦点を当てる必要性がそれほど重視されなかったことが背景にあるかもしれない。しかしすでに論じたように知覚には個人の来歴が制約として含まれるため,個人差や多様性は決して無視できない。

とりわけ錯視の研究では,文化的背景が錯視の強度や知覚内容にどのように影響するかが長年にわたって議論されてきた(Deręgowski, 2017)。たとえば,ミュラーリヤー錯視の効果量が文化や地域によって異なるという議論は 100 年以上前から存在しており,特に欧米の都市圏においてこの錯視が強く生じる傾向があるとする報告は有名である。その背景として,都市建築に直線や直角が多く見られることを要因とする大工世界仮説が広く知られている(Berry et al., 1992)2。著者らの研究では,複数の古典的錯視を対象に,オンライン実験によって錯視量の個人差を大規模に検討する環境を構築した。その結果,ポッゲンドルフ錯視や色の同化といった現象においては,錯視の強さに明確な個人差が見られるだけでなく,従来の錯視効果とは逆方向に錯視が生じる参加者も一定数存在することが明らかとなった(Takahashi et al., 2023)。このような知覚の個人差は,視覚処理に関わる神経生理学的な多様性に起因している面もあるが,知覚の構造における不良設定性を解く際に参照される制約の個人差として理解できる面もある。すなわち,感覚入力の「もっともありそうな原因」が,人それぞれ異なる経験や来歴に基づいて推定されているということである。

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2 ただし最近でも議論が再燃している(Amir & Firestone, 2025; Kroupin et al., 2025)

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このような観点から,概念の世界にまで拡張される知覚であるパレイドリアにおける個人差にも着目したい。著者らが行った絵文字の表情認知に関する研究(Takahashi et al., 2017)では,パレイドリア的な顔知覚の文化差に関して興味深い結果が得られている。たとえば「」のような顔文字は,実際の顔とは大きく異なる視覚的特徴を持つにもかかわらず,現代社会では笑顔を表現するものとして日常的に使用されている。このような顔文字に対する表情判断を,日本,タンザニア,カメルーンで実施したところ,日本の参加者の多くが笑顔と判断した一方で,タンザニアやカメルーンの参加者ではその割合が半数程度にとどまった。つまり,同じ感覚情報が与えられても,「笑顔」というモーダルな概念をそこに読み取るかどうかには文化的背景による差異があるということである。さらにその後の調査において,∵のように点を 3 つ提示した場合,それが「目と口」として知覚されるとは限らないこともわかってきている。

以上の議論をまとめると,私たちは他者も自分と同じように世界を知覚していると無意識に考えがちであるが,実際には他者と自分は私たちが思っている以上に異なる世界を知覚している可能性がある。知覚の構造に内在する不良設定性を解決する際の制約は,その人の来歴や文化,知識,文脈に依存するため,知覚は本質的に属人的であり,私秘的なものである。そのため,たとえ他者の眼球に入る感覚情報すべてを記録できたとしても,その人が世界をどのように知覚しているのかを正確に知ることはできない。誰かのイメージが他者には直接見えないのと同様である。私たちはしばしばイメージの多様性を強調するが,実は知覚もそれに劣らず多様なのかもしれない。

本節の最後に,知覚研究とイメージ研究において

「多様性」がどのように捉えられているかの違いについて簡単に触れておきたい。知覚研究では,ある特定の入力に対して「何が見えるか」というコンテンツに関する多様性が主に問題となる。錯視やパレイドリア,顔文字などに対して,どのような知覚内容が生じるのかという点に焦点が当たる。知覚の構造や処理プロセスそのものは比較的普遍的とされており,違いは神経生理学的要因や制約条件の個人差に起因するものとされる。これに対して,イメージ研究では,視覚イメージを「生成する能力そのもの」の違いに注目が集まる傾向がある。たとえば,イメージの生成が困難なアファンタジア,イメージを空間的に定位する直観像,あるいは VVIQ のようにイメージの鮮明性を個人の特性として尺度化する手法などがその例である。これらはいずれも,コンテンツそのものではなく,イメージ生成というプロセスの違いに着目した研究といえるだろう。知覚とイメージ,それぞれが扱う「多様性」の観点にこのような差異があることは,知覚研究とイメージ研究の接続を展望するうえでも興味深いものである。

知覚研究とイメージ研究との接続―今後の展望として

まとめにかえて,これまで議論してきた知覚に関す るポイントを簡潔に整理しておく。知覚は外界からの入力によって生じるものであるが,その目的は入力を忠実に再現することではなく,入力から世界の状態を推定することにある。感覚情報は知覚にとって本質的に不十分であり,知覚には能動的な処理が関与している。また,知覚は一義的なものではなく,多義的であると同時に,個人の来歴や文化的背景といった制約に基づき,個別的に形成される。これらの性質を踏まえると,知覚は一般に考えられているよりも,むしろイメージに近い性質をもつと言える。さらに,パレイドリアやアニマシー知覚に見られるように,知覚は光学的な世界に閉じておらず,概念的な世界にまで開かれている。その概念は,姿形を伴うモーダルなものだけでなく,動きのエネルギー源のようなアモーダルな対象にも及ぶ。本節では今後の研究における展望として,このような知覚の拡張性を踏まえたうえで,知覚研究者の立場から,知覚研究とイメージ研究の接続の可能性について論じたい。

知覚の能動的性質は,ヘルムホルツの能動的推論の流れを汲み,近年の主流理論でもある予測的符号化の枠組みにおいて理論化されている(Clark, 2013; 乾・坂口,2020)。この理論では,知覚とは感覚入力との誤差を最小化するような,もっともありそうな世界のモデルを予測・更新していく過程であると捉えられる。このような枠組みの中で,知覚とイメージの共通性から,Clark(2013)はイメージもまた予測の一形態であるとして論じている。ただし,この議論はイメージが持つ多様性をやや過小に評価しているようにも感じられる。たとえば,アファンタジアとされる人々は,行動に資するような視覚イメージを生成できないにもかかわらず,実際の知覚や行動に大きな支障をきたさない場合が多い。また,著者らが進めている将棋の研究では,将棋の脳内盤のように,現実の視覚刺激とは異なる抽象的なレベルのイメージが存在する(高橋ら,2023)。こうした点を踏まえると,イメージの多様性をより精緻に捉え,それを知覚理論と統合する形で理解していくことは,今後の重要な課題であると言えるだろう。

著者が現在注目している研究の方向性の一つに,イメージの描出がある。前節で述べたように,イメージ研究では生成過程の多様性が広く扱われている一方で,イメージの内容そのもの(コンテンツ)を客観的に描出する方法論はまだ十分に確立されていない。著者らは現在,視覚イメージを画像マッチングによって測定する手法の開発(善本ら,2023)や,共感覚者が体験する視覚イメージの可視化(渡邊ら,2024)を試みている。個別的な主観体験におけるイメージの見え方を丁寧に描き出し,それを文脈や知覚特性と関連づけて解釈することは,認知や行動におけるイメージと知覚の相補的,協調的な働きを解明するうえで大きな手がかりとなるだろう。

また,知覚像とイメージの融合という観点も興味深い。近年では,知覚とイメージを組み合わせることで錯視が生じるという報告もある(Pérez-Fabello & Campos, 2022)。著者らの将棋の棋士に関する研究では,熟練した棋士が対局中に駒をイメージによって操作し,実際の視覚像を上書きしていることが示唆されている。従来は,イメージは知覚を修飾する存在として理解されていたが(Ishai & Sagi, 1995;Koenig-Robert & Pearson, 2021),こうした知見は,熟達により知覚とイメージが協調的に働きうる可能性を示している。

さらに,イメージを介した概念操作とイメージを伴わない概念操作の比較も,今後の重要なテーマの一つである。アニマシー知覚のように,知覚がアモーダルな概念に開かれているとしても,それは運動の知覚などモーダルな経験を介して成立している。知覚は外界からの入力に依存する限り,こうした構造を避けることはできない。一方,イメージはアモーダルな概念に対して,直接的なアクセスを可能にする媒介として機能している可能性がある。たとえばアファンタジアに関する研究では,物語への没入感や共感性がやや低下する傾向があるものの,視覚イメージを用いずに物語の世界を理解できることが報告されている(Speed et al., 2024)。また,数学や論理学のような抽象的概念操作においてアファンタジアの人々がむしろ高いパフォーマンスを示す可能性も指摘されている(髙橋・行場,2021)。さらに,著者らが取り組んでいる四次元知覚に関する研究(高橋・日高,2022)では,三次元のイメージがかえって高次元空間の理解の妨げになると感じられる場面があり,イメージを介さずに理解することの有用性も否定できない。モーダルな像を介する知覚との対比として,アモーダルな概念の理解や操作において,イメージがどのように介在するか,あるいは介在しない方が効果的であるかという問題は,イメージと知覚それぞれの機能や限界を明らかにする鍵となるだろう。

以上で述べた研究の方向性は,厳密な理論体系に基づくものというよりも,著者自身の関心や経験に根ざしたものであり,ここで取り上げたもの以外にも有意義な研究の可能性は数多く存在する。著者自身,これまでイメージ研究を専門的に扱ってきたわけではなく,イメージ心理学会への参加も 2023 年が初めての経験であった。しかし,この 2 年間,イメージの鮮明性に関する研究や,将棋棋士の認知に関する研究に取り組みつつ,イメージ心理学会をはじめとする場でイメージ研究者と議論を重ねる中で,知覚研究者としてもイメージとの接続に対する関心を深めてきた。そして今では,知覚とイメージの個別性や個人差に焦点を当てた研究の重要性を強く認識するに至っている。本稿が,知覚とイメージの接点にある問いに光を当て,両者を架橋する研究の進展に,ささやかながら貢献できることを願っている。

引用文献

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謝辞

本論文は以下の科学研究費補助金(23H00078, 23K28387, 22K19790, 22H05226, 20KK0054, 20H01409, 17H06342, 25700013)の補助を受けて実施した研究成果によるものです。本論文の作成に当たりサポートして頂いた善本悠介氏,竹島遥貴氏,ChatGPT に感謝致します。

References
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