耳鼻と臨床
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原著
口内乾燥を訴える患者と唾液過多を訴える患者について(第一報)
井野 千代徳田邉 正博
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2018 年 64 巻 2 号 p. 37-52

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抄録
口内の乾燥感と過多感、共にストレスの関与があるとされながらも症状は全くの逆である。その相違を第一報として性、年齢そして唾液量から検討した。乾燥群は約 9 年間で 937 例、過多群は 93 例で、過多群の頻度は乾燥群の 1/10 の頻度であった。乾燥群は女性に多く過多群は男性に多かった。乾燥群で実際に安静時唾液量が「低下」していた症例は 63.0%であった。症例の 37.0%に唾液量低下は確認できなかった。過多群で安静時唾液量が「過多」であった症例は 25.3%で、症例の 74.7%に「過多」は確認できなかった。ヒトの感ずる乾燥感、過多感は時に実際の唾液量と無関係であり主体の心のありように依存することが分かる。乾燥感は不足感、満たされない感覚に通じる不快感、過多感は過重感に通じる不快感で神経症、うつ病の様相を呈することがある。刺激時検査としてガム試験を行ったが、ガムを噛む行為はストレスを軽減する行為でもある。従って、ガム試験での結果はストレスを排除した結果とも捉えることができる。乾燥群で安静時低下/ガム試験正常例、過多群での安静時過多/ガム試験正常例はガムを噛むことで異常が正常化しておりストレスの介入・関与を疑って良いと考えている。唾液量には個人差、加齢性変化があり画一的に唾液量検査結果から正常、異常と診断すべきものではなく、同検査結果は診断の一つの材料と捉えるべきと考えている。ヒトは加齢性に唾液量が低下するが、その加齢性低下のみで医療機関を受診することはなく、何らかのストレスの介入、関与があり意識化して受診する。低下したわずかな唾液量のみに注目していては誤診する。過多群で食事後などに唾液が増えると訴える症例がある。安静時唾液量検査のみでは十分に捉えることができないが、刺激時唾液量検査との組み合わせでヒントが得られる場合もある。詳細な病歴聴取、姿勢の観察、嚥下検査など多方面の検討が要求される。乾燥感、過多感を訴えて受診する症例は唾液量の多少にかかわらずストレスの介入、関与があるとして対応すべきで、うまく対応ができれば唾液量に変化がなくても症状の改善が十分に期待できると考えている。
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