2016年11月から2022年7月に当科を初診し初発の鼻副鼻腔悪性腫瘍と診断した31例について後方視的に検討した。病理組織型、扁平上皮癌(SCC)の病期、初回治療、SCCの粗生存率(OS)、転帰について解析した。SCCが19例、非扁平上皮癌(non-SCC)が12例であった。SCCのうち13例が当院で初回治療を行った。T4a症例までは初回治療は手術を第一選択としている。個々の症例背景は異なるが、全13例の3年OSの参考値は62.5%であった。non-SCCは悪性黒色腫や腺様嚢胞癌の頻度が高いとされる。当院では悪性黒色腫1例、腺様嚢胞癌2例であった。non-SCCでは重粒子線治療が有望な治療選択肢とされている。本研究では症例数が限られ、選択バイアスを完全には排除できていなかったが、今後症例数を確保した上で更なる解析が望ましいと考える。
高音域のピッチ障害において、甲状軟骨形成術Ⅳ型の音声改善効果について音響学的および空気力学的パラメータを比較し、後方視的検討を行った。症例は当科で2014年から2021年に手術を施行した8例で、ピッチ障害の原因は、甲状腺手術後4例、外傷性1例、特発性3例であった。術前後で話声位、最高音、声域の周波数は上昇し(p < 0.05)、平均VHIは有意に改善した(p < 0.05)。最低音は有意に上昇したとはいえなかった(p = 0.363)。症例の中には、話声位の上昇と声域の拡大を得た一方で、最低音が維持された症例もあった。甲状軟骨形成術Ⅳ型は、特に高音域発声障害を有意に改善できる手術法である可能性が示された。ピッチの調整には、輪状甲状筋(前筋)による、声帯伸長に伴うtension上昇のみならず、甲状披裂筋(内筋)活動によるstiffnessの修飾が相互に関連しているものと考えられる。
兵頭スコアは嚥下内視鏡検査(VE)による標準的評価法として広く使用されているが、喉頭侵入・誤嚥の程度は十分に反映されていない。本研究では、VEでの喉頭侵入・誤嚥の程度をpenetration-aspiration scale(PAS)に準じて評価し、兵頭スコアに組み込んだ兵頭PAスコアを提案し、その有用性を検討した。嚥下障害患者223例を対象に、食形態との相関およびROC分析による食形態選定の精度を評価した結果、兵頭PAスコアは兵頭スコアよりも食形態との相関が強く、特に経口摂取の可否の判定精度が高いことが示された。一方、半固形食の摂取可否には両スコア間で大きな差は認められなかった。適切な食形態の選定には、水分の喉頭侵入・誤嚥評価に加え、とろみ水やゼリー嚥下の所見、意識レベル、認知機能、栄養状態などの全身所見を含めた総合的評価が必要であり、その統合方法の検討が今後の課題である。
1990年代前半から登場したノンリニア補聴器の調整においては、実耳測定を用いた調整方法が欧米のガイドライン上、推奨されている。中等度感音難聴3例について、実耳測定にてNAL-NL2(National Acoustic Laboratory. Non-linear 2)の目標値に調整した結果を考察した。症例1は持ち込み補聴器の再調整例、症例2はダイナミックレンジが非常に狭い症例である。NAL-NL2は増幅された音声全体のラウドネスが正常者のラウドネスを超えない条件で設定されており、実耳測定を用いて鼓膜直上での音圧を直接測定して調整することにより、音のうるささの訴えが少なかった。その結果、症例1、2で補聴器の常用が可能であり、良好な補聴効果を得た。症例3は高音急墜型の感音難聴であり、上記調整方法では不満足な結果となった。NAL-NL2の目標値は低音域のゲインが少なく処方される傾向があり、母音の出現頻度が高い日本語では十分に語音明瞭度が改善しない場合があることが示唆された。
非結核性抗酸菌性中耳炎は非常にまれな難治性中耳炎であり、長期の抗菌薬多剤併用が必要とされる。迅速発育型抗酸菌の一つであるMycobacterium abscessus(M. abscessus)に対してはアミノグリコシド系抗菌薬であるアミカシン(AMK)が用いられることが多いが、副作用として耳毒性があり、非可逆性の聴力消失や前庭障害を起こす可能性がある。今回、われわれはM. abscessusによる非結核性抗酸菌性中耳炎のまれな1例を経験した。治療前より蝸牛・前庭障害を認めたため、耳毒性薬剤を避けた抗菌薬多剤併用療法を施行した。手術加療を行わずに症状改善を得ることができ、抗菌薬投与中止後も10カ月以上感染の再燃なく良好に経過している。薬剤性難聴は遅発性、非可逆性に難聴を来すため、治療前より蝸牛・前庭障害を来している場合には耳毒性薬剤を回避した治療方針を考慮する必要がある。
Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)は、両側前庭障害・小脳性運動失調・感覚神経障害を三徴とする症候群である。今回、進行するふらつきにて受診し、前庭機能検査を契機にCANVASの診断に至った症例を経験したので報告する。73歳、男性。7年前にふらつきを自覚、4年前に脊髄小脳変性症と診断されていたが、転居をきっかけに当院を受診した。脳MRIでは小脳の萎縮が軽度であるにもかかわらず、ふらつきが強いことから、前庭機能検査を施行した。温度刺激検査、vHIT、VEMPにて両側前庭機能障害を認めた。遺伝学的検査にて、RFC1遺伝子のAAGGGリピートの異常伸長が認められ、CANVASと診断された。小脳障害を有する症例であっても、強い体平衡障害を認める場合には前庭機能検査を行うことが重要である。
眼窩内感染症は、視力障害や頭蓋内合併症を併発して死に至ることもあり、早期の診断と外科的治療が必要となる。今回われわれは、外傷後に鼻かみ(擤鼻)を契機に発症した眼窩骨膜下膿瘍の1例を経験した。症例は8歳の女児で、タブレット端末で右眼瞼周囲を受傷した。元来、鼻汁に伴う擤鼻習慣があった。初診時に眼瞼蜂窩織炎、単純CTで眼窩内側壁骨折、骨折部のair、上顎洞、篩骨洞の軟部陰影を認めた。小児科に入院し、抗菌薬が開始されたが、経過中に眼瞼腫張の増悪と視力低下が出現した。造影CTで、来院時の骨折部とairを認めた部位に一致して、膿瘍を形成していたため、擤鼻により感染が波及し、眼窩骨膜下膿瘍に至ったと推察した。緊急で内視鏡下鼻副鼻腔手術を行い、視力は改善し現在まで再発なく経過している。
症例は51歳、女性。右上腕痛を主訴に受診し、CTで右上腕骨の転移性骨腫瘍による病的骨折を指摘された。精査の結果左耳下腺腺様嚢胞癌、充実型cT3N3bM1 Stage Ⅳ Cと診断された。免疫染色ではHER2発現は陰性であった。遺伝子パネル検査では免疫チェックポイント阻害薬が推奨され、ペムブロリズマブ投与を開始した。初回投与から108日目に強い全身倦怠感と経口摂取不良のため来院し、劇症1型糖尿病の診断で緊急入院した。さらに入院中の経過に甲状腺機能低下症、間質性腎炎を認め、これらはペムブロリズマブによる免疫関連有害事象(irAE)が考えられた。免疫チェックポイント阻害薬使用にあたっては常にirAEの可能性を考慮し各診療科間で連携しながら治療にあたることが重要である。