2024 年 70 巻 3 号 p. 119-127
神経鞘腫は神経鞘シュワン細胞由来の良性腫瘍であり、鼻副鼻腔に発生するものはまれである。その中でも上顎洞の神経鞘腫の報告は少ない。今回われわれは、悪性腫瘍が疑われた上顎洞神経鞘腫例を経験した。症例は 61 歳の男性で、主訴は左頬部痛である。副鼻腔 CT にて左上顎洞の圧排性骨破壊像を示した。副鼻腔造影 T1 強調画像では、不規則な強い造影効果を示した。上顎洞悪性腫瘍も疑われる所見であった。左中鼻道から排膿があったため、消炎加療後に組織生検を施行した。画像にて左中鼻道の腫瘤が上顎洞から発生していることを確認して十分な量の組織検体を提出した。手術前および手術中の迅速病理においても診断は神経鞘腫であった。Modified Medial Maxillectomy にて左眼窩下壁から発生する腫瘍を摘出した。眼窩下壁での腫瘍摘出の操作は、大きな手術スペースをつくり腫瘍を全摘するのはもちろんだが、眼窩下神経や動脈の損傷を避けるために愛護的な操作が必要である。術後は十分な期間の経過観察が必要である。