耳鼻と臨床
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内耳血管系に関する形態学的, 機能的考察
ラウフ S.
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1967 年 13 巻 4 号 p. 209-221

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抄録

内耳の血管の大部分は蝸牛軸に認められ, 蝸牛外側壁には比較的少ない. その割合は3: 1であり, 前者についての研究は後者のそれと比較して非常に少ない.
内耳血管系に関する研究は今日迄, 大部分次の2つの方法が用いられてきた. つまりコロイド状のdye stuff注入による形態学的観察, 血管条を被う蝸牛壁を開放しての血管の機能的観察である. これらの方法においても非生理的状態における観察であることは否定出来ない. 私の協同研究者, MAASSはベンチヂン法を改良して, 毛細血管系を生理的状態で示した. それによると前庭階の毛細血管は蝸牛外側壁に添つて4つの分岐をし, それぞれの間には吻合はほとんど認められない. われわれはこの明らかな流域の分離は, このそれぞれの部位が独自の機能を有しているものと信じたい. われわれは幾らかの実験結果にもとづき, これらのうちの1つの部位, つまり血管条について言及する.
血管条における毛細血管の占める割合は20%程で, 血液の供給は脳におけるより良好であるが, 網膜ほどでなく, 活動せる心筋におけるよりはるかに良くない.
一器官への酸素供給は, 毛細管血液量のみならず, 血液循環における流れの速さによる. 内耳は流量測定法や, クリアランス法を適用するにはあまりに小さすぎるので, AET (arm-ear-time) のような色素物質か, 放射性物質の注入による方法などが考えられる. 24Naを使用するが, fluorescinの使用, また3H-insulin, crypton85の使用がより適当である.
蝸牛の血行は, その代謝を考える上に重要である. 酸素の需要が多ければ多いほど, 多量の血液の循環を必要とする. われわれは例えば乳酸を用いて環流実験を行なつた.
血管条はその形態に注目すべきであるが, また一方, その機能についても同様である. われわれはラジオアイソトープを用いてクリアランス実験を行なつた. 24Na, 42K, 131Jを, モルモツト蝸牛の基底回転の前庭階に小孔を通して注入した. 圧を調節するために鼓室階に小孔を開いた. 各蝸牛回転を別個に観察することにより問題の解明がなされた. つまり, 基底回転より尖回転に到る各回転の, ラィスネル膜を介しての滲透は, 尖回転に行くにしたがい増加することを示している. そしてまた, ライスネル膜の滲透は血管条の活動性に依存していることとなる. 24Naまたは42K 液を注入した場合, その/5は血管系に吸収され, 1/5のみが内リンパ腔に滲透する.
血管条は形態学的に三層よりなり, 内リンパに近い層ではdark marginal cellがあり, 多くのミトコンドリアを有している. marginal cellは申間層により結合され, 基底層に続く. これら三層の由来や構築の詳細については諸家の光顕的, 電顕的観察が多い.
血管条の機能についてみると, この組織は内耳の全ての構造の中で最も細胞代謝が活濃である. そうして RAUCH (1962) によれば, 血管条のエネルギー消費は基底回転より尖回転に行くにしたがい減少するという. Corti以来, このエネルギーは2つの働きに必要であると信じられてきた. つまり内リンパの生成と聴細胞への酸素補給である. これらの推測は今日幾分修正されてきた. RÜEDIは1951年光学顕微鏡を用い, 血管条には時に吸収機能があることを示した. われわれ自身の1963年のラジオアイソトープを使用しての実験は, 前庭階への42Kの注入後血液循環を阻止すると, 血管条は強力に42Kを再吸収するであろうことを示した. 私は個人的に血管条は内リンパの生成に関与していると思つており, また再吸収は血管条が行なう唯一の機能ではないと思いたい. SPOENDLINによれば血管条の表面の“unit-membrane”は再吸収能力を示す特徴であるという. 私は他のもつと信じ得るcriteriaがあると思う. それはつまり, 1) pinocytosisの出現. 2) vesicleが内リンパ腔へ向つては発育しないこと. 3) 42K, 131Jの再吸収に関する所見. しかし私は血管条の分泌および再吸収機能は形態学のみでは説明出来ぬことを強調したい.
血管条の機能に関するもう一つの問題は, 有毛細胞への酸素供給である. 血管条自体の酸素需要はむしろ高いので, 血管条表面に残つたごとく少量の酸素が, 有毛細胞に広がる. さらに血液循環に関する実験は, 血管条の血液は前述の他の三部位の血液より, 血流が遅いことを示した. こゝでさらに考えねばならぬことは, 組織代謝を維持するための酸素供給は, 血行が確保されておれば充分であるということである.
ラセン隆起や外ラセン溝の周辺には, 血管条よりO2-donorとしての機能を有する血管領域がある. この問題は充分に説明されていない. このようにわれわれは, うたがいなく, 内耳血液循環に対してさらに深い理解を探求すべき地点に達している.

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