抄録
一側上喉頭神経麻痺の喉頭動態について3匹の生犬を用いた実験を行つた. 一側の上喉頭神経を切断し, 発声中に他側を電気刺激すると, 声門軸が回転して後部声門が切断側へ移動することが確認された. 声門軸回転の程度は非切断側の輪状甲状筋の収縮度が大きく変動するほど大きかつた. この結果から, 一側上喉頭神経麻痺例において発声時にピッチを上げることで健側の輪状甲状筋に収縮が生じ, 声門軸回転が明らかになると推定された.
喉頭筋電図で診断された一側上喉頭神経麻痺例21例にピッチ変換を指示して喉頭ファイバービデオ検査を行つた. 5例はピッチが変換できず, ピッチ変換可能な16例中13 例 (81%) でピッチ上昇に伴つて声門軸回転が生じ後部声門が顕著に麻痺側へ移動した. 声門軸が回転しなかつた3例中2例は喉頭周囲に癩痕があり, 1例は不全麻痺例であつた. ピッチ上昇に伴う声門軸回転が一側上喉頭神経麻痺に特徴的な喉頭動態であることが示された.