耳鼻と臨床
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補中益気湯が有効であったいびき、嗄声、嚥下困難症例
井上 裕章
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2001 年 47 巻 4 号 p. 256-260

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抄録

漢方薬の補中益気湯が有効であったいびき、嗄声および嚥下困難の3症例を報告した。症例1は75歳の男性。1年前より続く榎声と声の出しにくさがある。発声時に紡錘状の声門間隙ができる。軽度の気息性嗄声でG1R0B1A0S0、MPTは15秒であった。いわゆる老人性嗄声と診断した。補中益気湯の投与により、1カ月後には嗄声は改善、MPTは25秒に延長。発声時声門間隙もほとんど目立たなくなった。症例2は48歳の女性。主訴はいびきで、睡眠時無呼吸はない。鼻閉なく、上気道の器質的狭窄部位もないことから、睡眠時の軟口蓋や舌の筋緊張低下によるいびきと考えられた。補中益気湯の1週間の投与により、投与前10のいびきの強さが、1.5に小さくなった。症例3は71歳の女性。睡眠時無呼吸を伴わないいびきがあり、手足がだるく食後に眠くなりやすい。また、3カ月前より飲食物がのどにひっかかることがあり、むせやすい。筋緊張低下によるいびきと診断し、これに対して補中益気湯を投与したところ、いびきは半分以下となっただけでなく、嚥下困難および手足のだるさと食後の眠気も改善した。嚥下困難は加齢によるものと思われた。補中益気湯には筋緊張と運動を高める作用があるといわれており、これらの症例では、軟口蓋、舌、咽頭、喉頭などの筋肉の緊張や運動性が高まり、症状の改善がみられたと考えられる。

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