日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
嚥下障害に対する耳鼻咽喉科医の役割
―耳鼻咽喉科診療所における嚥下障害在宅医療連携の試み―
西山 耕一郎
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2014 年 117 巻 5 号 p. 631-637

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抄録

摂食・嚥下障害は, 咽頭期におけるトラブルを主原因とするケースが多いため, その治療に耳鼻咽喉科医師が果たす役割は大きい. 嚥下障害診療において耳鼻咽喉科医は, 嚥下内視鏡検査 (VE) などを通じて, 他科医師, 歯科医師 (口腔外科医師も含む), 言語聴覚士 (ST), 看護師, 栄養士, 薬剤師, 歯科衛生士, 介護士, ケアマネージャー, ソーシャルワーカー, ヘルパーなどの医師以外の他職種と, 効果的で良好な連携関係を構築しなければならない.
嚥下障害は, 摂食・嚥下のすべての過程と全身状態が大きく関与する. しかし現状では, 摂食・嚥下障害の治療やリハビリテーションの場面で, 口腔機能の改善のみを主体とした取り組みが行われることが少なくない. その結果, VE検査の評価を誤り, 個々の症例の嚥下障害の病態を考慮せずに, 病態を無視した画一的なリハビリテーションが施行されているケースがあり, 本質を見誤った治療が行われている可能性がある. つまり口腔期のみにケアを行うと, 唾液誤嚥による嚥下性肺炎の発生率低下や口腔内知覚の改善という観点では素晴らしい反面, 咽頭期嚥下障害の根本的な解決にはつながらない. つまり喉頭挙上, 喉頭閉鎖, 食道入口部の開大 (輪状咽頭筋弛緩) には対応していない. また嚥下障害における優先事項である肺炎の治療, 栄養管理, 悪性腫瘍や神経筋疾患の除外診断といった, 全身に対する重要な側面も不十分となる.
嚥下障害にて耳鼻咽喉科を紹介受診した患者の多くは, 咽頭期嚥下障害に対する病態診断および嚥下機能評価である. そこで耳鼻咽喉科医師はVE検査を活用して, 主治医, 歯科医, 他医療職, 介護職, 福祉職とも連携して嚥下障害にアプローチすべきである. また, 摂食・嚥下について正しい知識を普及させる役割も担うべきである. つまりわれわれ耳鼻咽喉科医師は, 医師以外の職種, 介護職, 福祉職が, 摂食・嚥下障害や栄養管理の本質を正しく認識し, 適切な多職種連携を実行できるようにするべきである. 現在神奈川県では, “日耳鼻神奈川県地方部会” と “横浜嚥下障害症例検討会ameblo” が中心となり, “日耳鼻神奈川嚥下研究会”, “横浜嚥下障害症例検討会”, “横浜飲み込みとお口のトラブル相談会” を開催して啓発活動を実施している.

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© 2014 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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