日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
総説
耳鼻咽喉科学の過去25年の進歩と近未来の展望
―めまい平衡医学分野―
鈴木 衞
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 121 巻 12 号 p. 1468-1473

詳細
抄録

 めまいを訴える患者は高齢社会を反映して増加の一途をたどっている. 体平衡には前庭系, 視覚情報, 深部知覚などが総合的に関与する. また, めまいは自己の感覚なので検査所見とは並行せず, 病態の把握も困難なことが多い. しかしながら研究の蓄積によって病態や治療に多くの新知見が得られている.

 眼振検査をはじめとする神経耳科的検査の多くは過去の基礎的研究の成果で, 診断に大きく貢献してきた. 温度刺激検査だけでなく, 簡便で特異度も高い head impulse test が一側半規管の検査法として開発された. 新しい耳石器機能検査法としては前庭誘発筋電位 (VEMP) 検査や自覚的垂直位が臨床応用され, 前庭神経の障害が詳しく区別されるようになった. 今後, 病態に応じた治療法の開発も期待される. 画像検査の進歩は著しく, 内リンパ水腫の診断や平衡中枢機能の解明が進んでいる. 遺伝学も平衡障害の診断や治療法開発に寄与していくと思われる.

 BPPV の治療は, Epley らによる病態特異的な理学療法の開発を契機に大きく進歩した. 最先端の治療としては薬物を内耳へ直接作用させる drug delivery system や再生医学的手法があり, 今後内耳疾患治療の主流になることが予想される. 手術療法では, 難治性 BPPV への半規管遮断術, メニエール病へのゲンタマイシン鼓室内注入などが詳しく検討されている. 平衡訓練やリハビリテーションでは, 聴覚, 振動覚, 舌知覚などほかの感覚を利用した感覚代行が試みられている. 適応の決定や治療効果の判定にこれまで開発された機能検査が画像検査とともに貢献することを望みたい. 高齢者の QOL 向上のため, 平衡医学の果たす役割は今後増していくものと思われる.

著者関連情報
© 2018 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top