2018 年 121 巻 12 号 p. 1479-1485
上顎洞腫瘍に対して行われる Endoscopic modified medial maxillectomy (以下 EMMM) は犬歯窩切開手術と異なり, 上顎洞前壁が温存され眼窩下神経や前上歯槽神経 (anterior superior alveolar nerve: 以下 ASAN) の損傷のリスクは低いとされる. われわれは, EMMM の手術中に ASAN 損傷を確認できた1例を経験した. ASAN は上顎洞前壁骨内の管腔・裂溝である canalis sinuosus (以下CS) を走行する. われわれは20例40側 (男性10例, 女性10例) の副鼻腔 CT 画像を 3D 医用画像処理ワークステーションを用いて再構成, 解析し CS の走行パターンと EMMM による ASAN 損傷リスクを検討した. CT で上顎骨内の CS の全長が確認可能な上顎骨は10側であった, その中には骨隔壁内に CS が存在する上顎骨が5側あった. 骨隔壁は手術で鉗除することが多く ASAN 損傷のハイリスク例と考えた. また, CS の一部が確認できない上顎骨は25側, CS が同定不能な上顎骨が5側であった. CS が一部でも確認できない30側では ASAN が上顎洞内に露出している可能性があり, 手術操作による ASAN 損傷の可能性を意識する必要があると考えた.