中耳手術では骨組織をバーで削開する bone work により術野を展開するため, 一般の外科基本手技とは異なる特殊な手技が必要とされる. 削開開始の位置や方向を正確に決定するには複数のメルクマールを頼りにして, 術野の空間軸を決定することが重要となる. 骨部外耳道入口部の位置とカーブ, Henle 棘, 道内棘, 鼓室乳突裂, 側頭線を確認しながら, 術野の座標を設定する. 乳突洞は Henle 棘の後方に位置するので, そこから外耳道に平行な軸に沿って削開を開始する. 乳突洞に到達したら前方が外耳道のカーブに沿った形に変形した二等辺三角形を相似に後方, 下方に拡大するイメージで乳突削開を進める. 乳突腔上方は中頭蓋窩を, 後方は S 状静脈洞を意識しながら, 大きめのバーを平行に動かしながら削開していく. 顔面神経窩の開放はキヌタ骨窩の下方の外耳道後壁を薄く削ぎ落していくイメージで削開を深部に進める. キヌタ骨, 外側半規管, 後半規管, retrofacial cell, 顎二腹筋稜など複数のメルクマールを確認して顔面神経の走行を常に意識することが重要となる. 解剖学的な位置関係の把握に自信が持てない場合は先入観や直感で位置関係を決めつけずに, あえて重要臓器の骨壁を薄くして明視下において操作を行う positive identification を行う姿勢も重要である.