2021 年 124 巻 3 号 p. 183-186
アブミ骨手術とは, アブミ骨が固着または可動性が低下している場合にアブミ骨に何らかの手術操作を加えて聴力改善を図る手術法で, 現在の主流はアブミ骨上部構造を除去してアブミ骨底板を小開窓した後に人工アブミ骨を挿入し, キヌタ骨長脚に締結するスタペドトミーである.
アプローチ法としては, 耳内法, 耳後法, 内視鏡下での外耳道切開法などがあるが, 副損傷の危険性はほぼ同じであり, 当科で施行している耳内法を中心に述べた. アブミ骨手術時の副損傷・合併症として, 鼓膜損傷, 鼓索神経損傷, 顔面神経水平部損傷, 浮遊底板, stapes gusher などのアブミ骨底板開窓時障害, 人工アブミ骨締結時のツチ・キヌタ関節離断に代表される耳小骨連鎖障害, 術後感音難聴などが挙げられる. 鼓膜損傷は, 丁寧な外耳道皮膚剥離が重要であり, 鼓索神経損傷は外耳道後壁骨の削開に細心の注意を払う.
浮遊底板の予防には, 人工アブミ骨挿入をアブミ骨上部構造摘出前に行う方法を紹介した. Stapes gusher は, 術前の画像診断が重要であるが予測不能の場合もあり, その場合の対処法および術前説明の重要性を述べた. 術後高度感音難聴は, 原因不明の場合も多く必ず術前説明を行い, インフォームド・コンセントを得ておくことが医療安全上も重要である.