黴毒性喉頭軟骨膜炎ノ一例
サルバルサン注射全治
1912 年 18 巻 4 号 p. 385-390
詳細
1912 年 18 巻 4 号 p. 385-390
即本疾患ハ音聲嗄嘶、咳嗽及ビ程度ノ呼吸障害ヲ以テ初マリ、疼痛發熱ナク又嚥下障害ヲ來サザリシモノナリ、而シテ諸症状ハ其進行極テ緩慢ニシテ或ル一期間ハ全ク靜止ノ状態ニアリシモ、後病變ノ進行急速トナリ、呼吸困難ノ増進ハ遂ニ氣管切開ヲ餘儀ナクセシムル程度トナリ、加之疼痛嚥下痛ヲ伴フニ至リタルモノニシテ翻リテ之ノ全經過ヲ通覽シ其状態ヲ追究スルニ
初メハ輕度ノ護謨腫ノ發生假聲帶及ビ聲帶ニ在リタル者ナルベシ、而メ該腫瘍ハ極メテ徐々ニ増大シ少シモ潰瘍ヲ形成スルコトナク、寧ロ所謂擴在性護謨腫性浸潤ヲ深部ニ作リ而メ後或ル時期ニ軟骨膜ヲ犯シ、披裂軟骨、環状軟骨、甲状軟骨内面ニ亘ル軟骨膜炎ヲ招致シタル者ナリ、即チ急激ニ増惡セル呼吸困難、嚥下障害等ハ之ノ時期ニ發生シタル者ニメ、呼吸困難ハ聲帶下室ニ於ケル膨隆其主因ヲナセリ。然レドモ未ダ軟骨膜周圍膿瘍ニ形成スルニ至ラザリシヲ以テ本症ニ對シ施行シタル驅黴療法「サルバルサン」ノ靜脈内注入ハ其奏功著シク、良好ナル經過ヲ取ラシメ、何等ノ障害ヲ殘スコトナク治癒シタル者ナリ。
抑喉頭疾患ニ際シ、喉頭鏡檢査ヲ行ナヒ内部ノ像ヲ見テ之レヲ確定スルコトハ必スシモ常ニ容易ナルモノニアラズ、特ニ慢性炎症及ビ惡性腫瘍ノ場合ニ於テ然リトス、余ガ之所ニ記載シタル一例ニシテモシ幾分タリトモ實地上稗補スル所アラバ望外ノ幸幅ナリ
