日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
頭頸部悪性腫瘍切除・遊離組織移植術における周術期栄養管理
今井 隆之
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2021 年 124 巻 12 号 p. 1559-1564

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抄録

 頭頸部癌患者は癌による代謝異常のみならず, 摂食・嚥下の通路にできる部位的特殊性から, 治療前に既に栄養障害を来している症例が多い. 低栄養状態とそれに伴う免疫能の低下は治療後に合併症が発生する重大なリスク因子である.

 頭頸部悪性腫瘍切除・遊離組織移植術は長時間の手術となり, 術野も複数箇所に及ぶことから患者にとって非常に侵襲の大きな治療である. 手術侵襲を低減するための試みとして, さまざまなエビデンスに基づく周術期管理方法をパッケージ化した Enhanced Recovery After Surgery(ERAS) プロトコルが各種癌の外科領域で発信されている. 筆者の所属する宮城県立がんセンターでは, 2016年9月以降, 頭頸部悪性腫瘍切除・遊離組織移植術の周術期に ERAS プロトコルによる管理を導入し, 実践してきた. ERAS の構成要素の中で,「栄養管理」はプロトコルの土台, 基板となるものである.

 当科では頭頸部悪性腫瘍切除・遊離組織移植術を受ける患者に対し, 以下に示す周術期栄養管理方法を ERAS プロトコルの構成要素の一部分として実践している. 1) アルギニン, ω-3 脂肪酸, 核酸配合栄養剤を用いた術前免疫栄養療法. 2) 術前絶飲食の原則の廃止. 執刀3時間前までの糖質含有清透水による術前経口補水・糖質摂取. 3) 術後早期における高タンパク質栄養剤の投与, 許容可能な低エネルギー投与. 4) 術前, 外来レベルでの管理栄養士による介入, 栄養指導. 5) 術翌日から早期経腸栄養を実現するための工夫. 腸管蠕動運動促進, 術後悪心・嘔吐軽減のための試み. など, いずれも患者の術後早期回復, 術後回復の質の向上を目指した周術期支援策であり, それらの実現・実践のためには多職種が連携し, チームで患者を支援する体制が必要である.

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