ムコーズス中耳炎は抗菌薬が発達した現在も頭蓋内合併症を併発するなど重症例が報告されているが, それらは基幹病院からが大部分で, 患者が最初に受診する耳鼻咽喉科一般診療所における診療の実態はよく知られていない. そこで今回, 過去19年11カ月間に市中の耳鼻咽喉科一般診療所で経験したムコーズス中耳炎新鮮例103例の検討を行った. 急性中耳炎全症例に占める割合は約0.3%ながら決して稀有なものではない. 0~88歳までの全年代にわたり発症が見られたが, 15歳以下の小児が47%を占めた. 一方で重症化による入院例の70%は成人であった. 診断には長時間続く激しい耳痛, 鼓膜の発赤 ・ 膨隆, 水疱形成や外耳道腫脹, 鼓膜切開時の茶褐色, 漿液性貯留液の噴出などの特徴的所見が参考になった. 年齢が高いほど遷延化例, 重症化例が多く, 骨導閾値上昇を来した症例は治療期間が延長した. ペニシリン系以外の抗菌薬が初期に投与された群 (23例) と, 最初からペニシリン系を投与された群 (53例) との間に治療期間の差は見られなかった. 早期 (平均2.6日) にペニシリン系抗菌薬への変更と速やかな鼓膜切開が行われた結果と思われる. 第一線の耳鼻咽喉科医はムコーズス中耳炎の存在を念頭におき, 適切な抗菌薬の選択と速やかな鼓膜切開を行うことにより, 病院に送らざるを得なくなる症例を減らすよう努めるべきである.
抄録全体を表示