日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
日本発の新規医療―鼓膜再生療法の健康保険適用と現状・今後の展望―
金丸 眞一
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2022 年 125 巻 5 号 p. 819-827

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抄録

 新治療の開発と実用化への過程は, 基礎研究に始まり, 非臨床試験, 臨床治験を経て薬事承認申請を行い保険適用に至る. これらの道のりには少なくとも10年以上の歳月と乗り越えなければならない数多くのハードルがある. この中でも特許の申請と取得, パートナー企業を見いだすことが最も重要な要件であると考えられる. これらを支援する目的で国はアカデミアと企業を結び付けるために, 2007年度より「橋渡し研究支援推進プログラム」を開始し, 一連の事業を続けてきた結果, 橋渡し研究支援拠点が支援するシーズ数は急増し, 拠点の基盤整備はほぼ完了したと考えられる. 筆者の鼓膜再生療法は, この橋渡し機関の一つである先端医療振興財団 (現神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター) で支援を受け, パートナー企業の紹介, 医師主導型臨床治験の実施など実用化の方向に大きな歩を進めることができた.

 2019年11月に鼓膜再生療法は, 健康保険適用の治療として全国の病院・クリニックで治療可能となった. 数年間は, 市販後調査の段階で有効性や安全性の検討がなされているが, 筆者の所属する北野病院での一昨年の治療成績は, 鼓膜再生率が98%, 全例で聴力改善を認め, 重篤な有害事象はなかった. 一方で, 鼓膜穿孔を有する患者のうち, 鼓膜再生療法の現在の適用基準を満たすものは, わずか20~30% 程度である. 今後, 適用患者数をいかにして増大させるかが大きな課題となる. 中でも, 鼓膜穿孔の原因疾患として最も多い慢性中耳炎の患者に対して, 内視鏡を使用し経鼓膜的に鼓室内の病変除去清掃と鼓膜再生を組み合わせた新しい鼓室形成術の開発を行っている.

 さらに, 海外展開を開始しており, この低侵襲な治療を先進国のみならず, 発展途上国にも広げていきたいと考えている.

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