日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
手話で教育―失われた時の復刻を展望する―
中澤 操
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2022 年 125 巻 6 号 p. 975-985

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抄録

 約440万年前, ヒトの祖先は樹上と地上の両方で生活していたとみられ, このころに出現した大菱形中手関節 (鞍状関節) は母指対立を可能とし, 手で道具を使う生活が発展していった. 大脳に言語中枢のブローカ野が出現したのは約250万年前といわれる. 音声言語が使われるようになるためには喉頭下降や舌の運動性向上などの解剖学的・神経学的条件が整うことが必要で, それは約40万~約20万年前になって初めて出現した. 今世紀の脳 fMRI 研究から, 音声言語と手話言語の脳内表出中枢はほぼ同部位であることが証明されている. これらの事柄をつなぎ合わせると, われわれの祖先は先に音声言語以外の何かを言語として使っていたはずで, それは手話であったと推測される. その後喉頭下降が起きて徐々に音声言語に置き換わっていったのであろう. 20世紀末, 小児難聴に関しては診断機器や補聴器・人工内耳が大きく進歩し, 難聴児の音声言語獲得において多くの恩恵が与えられてきた. 一方, 21世紀に入り WHO の ICF (国際生活機能分類) や国連の障害者権利条約に見られるように, 音声言語も手話言語も同等に扱うこと, 難聴児や養育者に選択肢を与えられること, 療育・教育の専門家を育成することなどが社会に求められるようになった. 本稿では, 難聴児やその家庭が日本手話を第一言語 (コミュニケーション言語) として選択する場合に, どうやって日本手話から日本語の読み書きにつなげたらよいのか, 言語聴覚士や教師の人材育成をも視野に入れつつ歴史的背景を振り返りながら考察する.

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© 2022 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
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