耳鼻咽喉科臨床
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両側性聴神経腫瘍の臨床的考察 その(3)
平衡神経学的所見
喜多村 健小松崎 篤
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1979 年 72 巻 2 号 p. 123-134

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抄録
1) 東大耳鼻科外来で昭和35年~昭和52年の間に経験した20例の両側性聴神経腫瘍の平衡神経学的所見について報告した.
2) 温度眼振反応は20例, 40耳のなかで廃絶が29耳, 反応低下が8耳と高率に異常を呈した. 正常反応は3耳に認められたが, 3耳中2耳は突発難聴で初発した際の結果でかなり特異と考えられる. 両側性聴神経腫瘍の純音聴力損失は, 腫瘍の大きさに比較して軽度であることを先に報告したが, 温度眼振検査では腫瘍の大きさに関係なく早期に異常を呈する.
3) 左右注視方向性眼振の出現率は比較的高く, 18例中11例 (61%) である. 自発眼振の認められなかった症例は5例で, この5例の腫瘍の大きさは比較的大きく, 自発眼振が出現しないのはかなり特異的と考えられる. これらの症例のOKPは腫瘍の大きさに比較すると良好に保たれている. CT scan でほぼ同じ大きさと考えられる一側性聴神経腫瘍と両側性聴神経腫瘍のOKPを対比したが, 両側性聴神経腫瘍のOKPは良好に保たれる傾向がある. 両側性聴神経腫瘍は, 一側性聴神経腫瘍よりは周囲組織に与える障害の程度が軽いと考えられる.
4) 頭位眼振の出現率は極めて少なく3例 (19%) である. 両側前庭機能が廃絶している症例が多いことが大きな原因である.
5) 初診時から既に小脳橋角部に大きな腫瘍を認める症例では, 視運動眼振検査 (OKP) の推移を観察することで手術時期を決定するのが適切であることを提唱した.
6) すでに報告した聴力所見, また今回報告した平衡神経学的所見で, 両側性聴神経腫瘍は一側性聴神経腫瘍とは, かなり異った臨床的特徴を有している. 両者は診断, 治療の点からも異なる腫瘍として扱うことが必要である.
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