抄録
難聴疾患を主とする68症例に, ECB検査 (臨界帯域幅の測定) とMLD検査 (マスキング・レベル・ディファレンスの計測) を行い, このうち58症例にはABR検査 (聴性脳幹反応の記録) を施行した.
内耳末梢性病変と考えられる症例では, SmNm値の異常症例が少なかった.
補充現象を有する症例では, SmNo値, MLD値の両耳聴検査で異常となる割合が多く, 部位診断については注意が必要である.
年代別に見た場合, 20才代以下ではECB値, MLD値の異常を示す頻度は小さいが, 30才代以上で異常の割合が急増する. しかし, 年令が高い程, 異常発現率が大きくなるような傾向は見られなかった.
ABRの第I波と第V波の間隔を測定し, 各耳についての値を, ECB検査異常耳群と健康成人群との各々の平均値で比較した所, 異常値群に潜時の延長を認めたが, 統計学的検定では健康成人群との間に明瞭な有意差はなかった. この点に関してはABRでのピーク潜時の測定上のバラつきを小さくする為, いくつかの問題点を克服して, 更に検討すべきであると考えられた.