耳鼻咽喉科臨床
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内リンパ水腫に関する組織学的研究
矢沢 代四郎
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1981 年 74 巻 10special 号 p. 2450-2506

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抄録

内リンパ水腫剖検例の文献的考察, また内リンパ嚢腐蝕法による実験的内リンパ水腫の発生, さらに, これら実験的内リンパ水腫を用いて脱水剤の負荷や内リンパ嚢開放による組織変化を検討し, 日常臨床で行なわれている Glycerol test, Furosemide test, Iso-Sorbide の内服, また内リンパ嚢手術の基礎的問題を検討した. 一方内リンパ液産生過剰による水腫モデルを作製し, 組織学的に検討した. 以下これらの研究から得られた結果を列記する.
(1) メニエール病70剖検例 (1938-1980) 中4例を除く66例 (94%) にライスネル膜の伸展を認めた. これはメニエール病を特発性内リンパ水腫の臨床診断名と規定しても良いとする根拠の一つである.
(2) これらメニエール病剖検70例中, 31例において内リンパ嚢に関する記載があり, そのうちの約半数15例に fibrosis 所見を認めた. 内リンパ水腫発生の原因の1つと考えられる.
(3) モルモット内リンパ嚢を腐蝕することで内リンパ嚢組織は線維化し, これにより内リンパ水腫が形成される. とりわけ10%硝酸銀液をガラスキャピラリーで微量注入する方法で60例中その88%に水腫を認めた.
4) 内リンパ嚢腐蝕法による内リンパ水腫モルモットの内耳組織変化を検討すると, コルチ器の変性は5~10%に認め, 血管条の萎縮は41%に認め, さらに水腫高度例では球形嚢の感覚細胞の萎縮を認めた. また内リンパ嚢の線維化の強い例では水腫も高度である傾向が強い.
5) Glycerol, Furosemide, Iso-Sorbide の脱水剤を実験的水腫モルモットに負荷すると, 伸展していたライスネル膜が収縮して folding 皺襞形成を認めた. その程度は Glycerol が最も著明で, 次いで Iso-Sorbide, Furosemide の順序であった. 極端な collapse を認める例もあったが対照側と比較検討してみると, むしろ例外的であり, artifact の可能性もある.
6) 実験的内リンパ嚢を骨内部まで開放すると基底回転側に内リンパ圧の低下を示唆するライスネル膜の folding を認めた. 但し開放部分を吸引すると, ライスネル膜は collapse を起こしやすい.
7) 内リンパ液産生過剰のモデル実験として微小ガラスキャピラリーを蝸牛管に刺入し, 内リンパの等価液で加圧すると次のような変化がおきた.
(i) 50mmH2O圧: ライスネル膜が波打っている所見を認めるが水腫は認めない. 但し約80分を要してゆっくり徐々に加圧すると水腫を認めることがあった.
(ii) 100mmH2O圧: ライスネル膜はほぼ (+)~(廾) まで伸展し, 一部ライスネル膜に断裂を認めることもあった.
(iii) 300mmH2O圧: ライスネル膜は伸展して完全に断裂していた.
以上 (i), (ii), (iii) の所見は, ガラスキャピラリーの刺入部位周辺に限局し, それ以上の上方回転では変化はほとんど認めない. 但し300mm H2O圧の場合, 上方回転では collapse 傾向を認めた.

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