耳鼻咽喉科臨床
Online ISSN : 1884-4545
Print ISSN : 0032-6313
ISSN-L : 0032-6313
各種動物耳管の比較解剖学的研究
楊 光宗
著者情報
ジャーナル フリー

1985 年 78 巻 1 号 p. 123-144

詳細
抄録

従来より耳管の研究は主として組織学的, 生理学的, 機能解剖学的な点に関して研究され, 報告されてきた. 今回当教室の耳管の基礎的研究の一端として, 耳管の進化について検討するため各種動物を系統発生的に下等動物から高等動物について特に耳管と耳管周囲構造との関係を中心に観察し, 併せて人耳管の加齢による変化と対比させたところ, 以下の様な結果を得ることができた.
(1) 両棲類のカエル, 爬虫類のトカゲの耳管は広く開存した状態を呈し, 人胎生期2Mの形態と同じであった.
鳥類の耳管咽頭口は他の動物と比較すると特異的であり, 鼻腔後方に翼突筋の表面から生じた膜様構造が見られその中に開存していた.
哺乳動物の耳管咽頭口は多くがスリット状を呈していたが, ウサギ, アシカでは開存していた. 又耳管隆起はコウモリ, ブタで発達していたが, 前者は耳管腺が, 後者はリンパ組織が発達していた.
組織学的には両棲類, 爬虫類の上皮は線毛円柱上皮, 哺乳類では多列線毛上皮であった.
(2) 哺乳類の耳管咽頭口は系統発生的に一部の例外を除いて, 下等なモルモット, ウサギ, コウモリでは硬口蓋基準線よりも下に位置し, 高等なサル, ブタ, イヌでは基準線の高さか又は上方に位置していた.これら事実は個体発生的に見た場合の耳管咽頭口の高さの変化に一致した変化を示した.
(3) 人耳管筋の内で, 挙筋は咽頭口付近において耳管腔に近づくが, イヌ, ブタ, アシカ, サルでは咽頭より離れた中間部において耳管腔の近くに存在していた. 又 Holborow の言う挙筋の加齢による耳管腔に対する変化を系統発生的に観察したところ, 個体発生上の変化を見ることができた.
(4) 人耳管軟骨は外側板よりも内側板が発達しているが, 動物においてはむしろ外側板の発達しているものが多かった. そして Rüdinger の言う発達した安全管を観察することができた. 又 Holborow の言う耳管軟骨の形態変化を系統発生的にも観察することができた. 即ち下等動物のモルモット, ウサギなどでは耳管軟骨は耳管腔の上方に限局しており, 高等動物のサル, ブタなどでは耳管腔全体を覆っていた.
(5) 系統発生的に下等な哺乳動物の耳管軟骨は硝子軟骨であり, 高等な哺乳動物では弾性軟骨であった. 動物の弾性軟骨における部位別弾性線維の分布様式は人で観察される様な変化は観察されなかった. 即ち, ほぼ軟骨全体に均等に分布していた. 又, 軟骨細胞は下等動物では大きく, 数は少なく, 高等動物では細胞は小さく, 数は多かったが, 人成人で見られる軟骨細胞の島状形成は観察されなかった.
(6) 哺乳動物の耳管軟骨の頭蓋底に対する傾きはモルモット, ウサギ, ネコでは鋭角であり, ブタではほぼ垂直に近かった. 即ち, 系統発生的に下等動物では鋭角, 高等動物では垂直に変位していくものと推測した.
(7) 哺乳動物の耳管骨部は, 人成人の如く発達していなかった. その理由として含気蜂巣の欠如及び大脳の未熟による内頸動脈の未発達が挙げられる.
(8) 鳥類の耳管は骨部が中心であり, 耳管機能は左右の含気蜂巣が頭蓋底で交通があるため, これを介して互いに関連し合うものと推測した.

著者関連情報
© 耳鼻咽喉科臨学会
前の記事 次の記事
feedback
Top