2014 年 13 巻 p. 38-54
近年,情報通信技術(ICT)に関わるインフラの充実およびそれに伴うコスト低下により,開発途上国の村落部においても,インターネットにアクセスすることが可能になりつつある.バングラデシュにおいてもICTの成長は目覚ましく,携帯電話が国土全体に普及していることに加え,テレセンターと呼ばれるコンピューター技術を利用してサービスを提供する情報拠点が農村部にも広がりつつある.一方,都市部では,健康志向の高まりとともに,有機栽培による農産物への需要が高まりつつある.このことから,大半がBOP層に属するバングラデシュの農家がこの需要に応える野菜生産ができれば,貧困を脱却できるきっかけにつながると考えられる.そこで,九州大学ではJICAの支援を受けて,減農薬栽培および有機肥料によるセミオーガニック野菜生産を所得向上の手段として,また,ICTを野菜生産技術向上や市場開拓のツールとして,草の根技術協力事業に取り組んだ.本稿では,この事業の成果として得られた経験および知見を紹介し,バングラデシュにおけるICTを利用した農業活動の可能性について考察する.