抄録
近年,企業経営における知的資本の重要性がますます認知されつつあるが,それは研究者の間ではいかに捉えられているのだろうか。それを解明すべく本稿は,知的資本を含む非財務情報に関する制度的動向および理論的観点を概説し,特に知的資本に関する研究を中心に公表するグローバルな学術雑誌を対象として,およそ過去20 年における公表論文を調査し,その間の研究者の知的資本に対する見方の変遷を明らかにする。結果として,知的資本に対する研究者の中心的関心は,認識・測定から報告・開示へと変遷が見られ,特に近年は知的資本開示に関する研究への関心が高まっていることが明らかになった。統合報告書を作成する企業数の増加に伴い,「報告」をテーマとする研究の数は多いが,「開示」に関する研究により注目が集まっており,論文数の増加幅も大きい。企業による知的資本に関する情報開示が企業価値増大に貢献し得るかどうかは賛否両論があるが,本稿は少なくとも研究者の関心が認識・測定から報告・開示に近年シフトしていることを示し,関連する今後の制度設計にも示唆を与えるものであると思われる。