燃料協会誌
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合成アンモニアのガス源転換
渡辺 徳二
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1959 年 38 巻 11 号 p. 726-734

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抄録

合成アンモニア工業におけるガス源転換の問題は, アンモニアのコスト中に占めるガス割合の非常に大きいことから単純に量的な問題として経済的, 技術的な観点で論ぜられることが多い。しかしこの問題はアンモニア合成工業の発展方向を技術的に規程するのみならず, 社会経済的に企業の存在構造を規定するもので, その重要さはいくら強調してもたりない問題である。
ガス源転換の方向として流体原料が固体燃料にまさることは疑いない。
ガス化方法としては戦後, 電解-水性ガス-半水性ガス-微粉炭ガス化-重油ガス化-原油ガス化と急激に変化しており, その他に天然ガスの使用が大きな関心をひいている。この間に国内過剰生産力の形成, 国際競争の激化を契機としてガス源問題は量的から質的な問題へ, すなわち単なるアンモニア合成部門の合理化から企業構造の変化へと展開し始めた。
長年わが国化学工業の王座にあつたアンモニア合成工業は従来のように単独に存立することが不可能になり, より巨大な化学コンビナートの中の一部門として従属的地位に転落しつつある。それに伴なつて生産と資本の集中は急激に進行しつつある。このような動向を硫安各社の具体的な動きによつて説明するとともに石油精製ガスや製鉄所で過剰とたるコークス炉ガスを利用するアンモニア合成が特に有利であることを示した。
石炭と石油の問題について意見が述べられた。特に日本水素の微粉炭ガス化が立地的にきわめてすぐれた着想であつたにもかかわらず企業的には失敗した原因を考察して, 新技術が周辺の社会から孤立して導入されたためであり, 本来小資本の手に負えない問題であつたと述べ, さらに石炭資本側が共同体制をとり得なかった事実を指摘した。現在石油を原料とする方法が石炭を圧倒し, その技術は全面的に海外より輸入されているが, このような石油一辺倒の化学工業のあり方は問題であつて, 立地条件によつては石炭の利用が決して途がないわけではない。ただその新しい石炭化学の技術はまだ工業化の段階にない。従つててつとり早い「技術導入」によらずに自らの手でこの工業化技術の研究開発をすすめてゆかねばならない。また社会経済的面からいえばアンモニアガス源転換がその工業のあり方を質的に変化させたように石炭産業自身が再編成, 構造変革を行って新しい情勢に対応することが是非とも必要である。

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