2024 年 2024 巻 226 号 p. 157-186
【背景】放射線治療後の癌患者に対する生命保険金の給付は総線量を50 Gy以上とする規定が過去にあり、一部の保険会社および共済では未だに線量規定の撤廃がなされておらず、総線量や治療回数を少なくした定位放射線治療の導入を妨げる要因となっている可能性がある。本研究は都心と地域の病院で前立腺癌に対する放射線治療を受ける癌患者の生命保険加入状況と定位放射線治療に関するアンケート調査を行い、生命保険加入状況と定位放射線治療のニーズを都心と地域で比較して明らかにすることを目的とする。
【方法】定位放射線治療を導入していない順天堂大学医学部附属順天堂医院および順天堂大学医学部附属静岡病院で前立腺癌に対して放射線治療を行った患者を対象としてアンケート調査を行った。調査項目は年齢、片道の通院時間、片道の通院距離、交通手段、家族の付き添いの有無、就労状況、放射線治療に関する生命保険加入の有無、加入している民間医療保険会社もしくは共済名、加入した時期、放射線治療を受ける際に優先すること(通院回数が少ないこと or 金額面の負担が少ないこと)とした。また、加入している保険に関して線量規定の撤廃が行われているかを評価した。
【結果】2022年4月から2023年9月にかけて都心の患者50名、地域の患者50名の計100名からのアンケート結果を得た。年齢中央値(範囲)は75歳(54−87)、通院時間は30分以内が29名(29%)、30分から1時間が42名(42%)、1時間から2時間が28名(28%)、2時間から3時間が1名(1%)であった。就労している患者が45名(45%)、就労していない患者は55名(55%)であった。放射線治療に関する特約の生命保険に加入している患者は43名(43%)、加入していない患者は57名(57%)であった。民間医療保険会社への加入は42件、共済の加入は4件であった。都心に比べて地域の方が通院時間は有意に長く、交通手段は車が多く、就労していない患者が多かった(p = 0.006, <0.001, 0.015)。就労している患者のうち、癌治療中の収入の減少があった患者は地域で有意に多かった(p = 0.006)。定位放射線治療を使用して通院回数を減らすことを優先したいと考えている患者は77名(77%)、治療に伴う費用を減らすことを優先したいと考えている患者は23名(23%)であった。都心と地域および生命保険の加入の有無では治療における希望に関して有意な差が見られなかった(p = 0.64, 0.57)が、片道の通院時間が30分以上かかる場合や就労での収入の減少が無い場合には定位放射線治療を使用して通院回数を減らすことを優先したいと考えている患者が有意に多かった(p = 0.035, 0.017)。線量規定の撤廃は現在15/16社(94%)で行われており、撤廃が行われていない1社でも定位放射線治療の保険金の給付は可能であった。
【結論】都心や地域に関わらず定位放射線治療のニーズが高く、調査対象となった患者の加入している保険金の給付も可能であるため、今後は定位放射線治療の導入を積極的に進めてよいと考えられた。一方で、治療期間中に収入の減少がある前立腺癌患者は費用を優先したいと考えている方が多く、治療の時間や時期の調整、さらに確実に保険金の給付を受け取れるように診断書の記載が必要であると考えられた。