腸内細菌学雑誌
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ヒトフローラ研究
―現在と将来―
光岡 知足
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2005 年 19 巻 3 号 p. 179-192

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抄録

皮膚,上気道,口腔,咽頭,胃,腸管,膣,尿道などには,それぞれ部位によって特徴的な常在細菌がすみつき,常在フローラを構成している.多くの常在菌は潜在的の病原性を有し,何らかの原因でこの平衡関係が破れると,いわゆる“日和見感染”を惹き起こす.平衡関係の乱れは,抗菌物質やステロイドホルモンの投与,外科手術,ストレス,糖尿病,過労,老齢などが原因となる.20世紀後半,腸内フローラの研究は飛躍的に進展し,腸内フローラの包括的培養法の開発,腸内嫌気性菌の菌種の分類・同定法,微生物生態学的法則,宿主の健康と疾病における役割などの研究が系統的に行なわれ,腸内細菌学が樹立された.腸内フローラ研究の発展がきっかけとなり,機能性食品(プロバイオティクス,プレバイオティクス,バイオジェニックス)が誕生した.1980年代,分子生物学的手法が腸内フローラの研究にも導入されたが,いまなお検討段階にある.これからの腸内フローラの研究として,以下が重要課題として挙げられる.(1)腸内に少数しか存在しない菌種を含めた腸内フローラの包括的分子生物学的定性定量解析法の一刻も早い開発が望まれる.さらに,分子生物学的手法によって認識される生息しているが培養困難な菌種の培養可能とし,その分類学的位置づけと生化学・病理学的性状の解明.(2)腸内フローラを構成する主要菌種の生化学的性状と細菌・宿主細胞・食餌成分間の相互関係.(3) 免疫刺激,解毒作用などを含む腸内フローラの機能の研究が推進されれば,機能性食品が生活習慣病・免疫低下・炎症性腸疾患などの予防・治療のために栄養補助食品および代替医療としての利用が可能となる.(4)このような研究を達成するには,1958~1992年に私が理化学研究所(理研)で行なったように,産学の共同研究組織をつくり,研究者の差別化を排除し自由かつ協調的に結集し,学界が中心となって研究を推進させることが望まれる.

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© 2005 (公財)日本ビフィズス菌センター
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