腟内では,腸内細菌叢と比較し細菌叢構成細菌の多様性は驚くほど低い一方,腟内細菌叢は人種によっても,また個人間でも異なることが知られている.閉経前の健康な女性の腟内には主に乳酸桿菌が常在しており,女性生殖器の健康に深く関与していると考えられてきた.しかしながら近年,乳酸桿菌が最優勢菌であっても,菌種の違いにより女性生殖器疾患の罹患率は大きく異なることが明らかになっている.また,腟内マイクロバイオームに影響を及ぼすさまざまな因子も報告されている.本項では,腟内マイクロバイオームの特徴と健康および疾患との関連に関する最新の知見を紹介したい.
従来の感染症病因論は,単一の病原体が単一の疾患を引き起こすというコッホの原則に基づいていた.しかし,齲蝕をはじめとするバイオフィルム感染症は多数の微生物の相互作用によって成立し,コッホの原則だけでは十分な説明ができない.その特性を体系的に説明する新たな枠組みとして,キーストーン病原体仮説が提唱されている.この病因論は,微生物叢の構造改変を主導する特定の病原体の存在に着目し,齲蝕や歯周病など複雑なバイオフィルム感染症の理解に適している.本稿では,ミュータンスレンサ球菌が酸産生,グルカン合成,クォラムセンシングを駆使して他の菌種を巻き込み,口腔微生物叢全体を病的環境へと改変する過程を,キーストーン病原体仮説の視点から概説する.近年の研究は,Veillonella parvulaが乳酸代謝を介してStreptococcus mutansの酸応答系を強化し,酸耐性や酸産生能を増大させることを示しており,これまで共生的と考えられてきた菌が dysbiosis下で病原化する pathobiontとして作用し得ることを明らかにした.このようなクロススピーシーズ相互作用による病原性の変化は,齲蝕発症におけるキーストーン病原体仮説の臨床的意義を一層裏付ける.さらに,S. mutansが有するコラーゲン結合アドヘシンCnmタンパク質は,象牙質への付着と根面齲蝕の進展に加えて,血管内皮細胞への結合を介し,感染性心内膜炎や脳血管障害,腎症などの全身疾患との関連性が報告されている.これは齲蝕を超えた重要な帰結であり,キーストーン病原体仮説の臨床的意義を口腔から全身へ拡張する視座を提示するものである.
本研究では,RomeⅢを基準とした健常成人における便秘有訴者の割合を把握するとともに,便秘有訴者の水分摂取量が腸内細菌叢へ及ぼす影響を解析することを目的とした.健常成人195名を対象とした自記式質問紙調査により便秘有訴者を把握し,そのうち同意の得られた便秘有訴者を対象に,クロスオーバー比較試験の形式で水分摂取量と腸内細菌叢の解析を行った.便秘有訴者の割合は9.7%であり,水分摂取量と腸内細菌叢の解析を行った4名において通常水分量摂取時は推奨水分量の85.7%であった.便秘有訴者が推奨水分量の摂取を試みた際は163.2%となり,排便回数,排便量,便中の水分量は,通常水分量摂取時と比較して増加傾向であったが,統計上の有意差はなかった.腸内細菌叢においては,推奨水分量摂取時でBifidobacterium属,SMB53属,Akkermansia属が増加し,Ruminococcus属は減少した.RomeⅢを基準とした便秘有訴者の割合は,国民生活基礎調査報告の便秘有訴者率(人口千対)35.9より高く,便秘有訴者が推奨水分量以上の摂取を試みることで有益菌の増加を伴う腸内細菌叢の変化が生じ,人が本来備える力で腸内環境を整え得ると示唆された.