抄録
本稿は,官学民が連携して取り組む「親子de多文化交流プロジェクト」の実践研究である。本プロジェクトでは,日野市の協力のもと,武蔵野美術大学の「上級日本語」クラスの履修生が主体となってイベントの企画,実施を行う。このプロジェクトを通じて,学生たちは,コミュニケーションという側面から民主的シティズンシップを学ぶことが期待される。
本稿では,まず日本語教育における民主的シティズンシップの議論を概観し・社会的な実践の中で学ぶべきものとして民主的シティズンシップを位置付ける。さらに・その教育実践の一例として親子de多文化交流プロジェクトを取り上げ・実践のプロセスと学生のふりかえりを民主的シティズンシップの観点から考察する。その考察から,「協働する」,そしてそこから「他者に気づく」,「自己と向き合う」,またそのような個々の経験,省察を支えるように「所属感を得る」,「顔が見える」を可能にする環境をつくることが,民主的シティズンシップにつながるコミュニケーションを学ぶために重要であることを論じる。その上で・民主的シティズンシップを育むための日本語教育では,顔の見える存在として他者が「現われ」る場をつくり,そこで,具体的な他者と出会い,翻って自己と向き合うこと,協働によりある目的に向かったコミュニケーションを重ねることが重要であることを主張する。