2018 年 82 巻 1 号 p. 1-7
A novel accelerated corrosion test method enhancing oxygen supply to simulate the corrosion of reinforcing steel in concrete has been proposed in this study. Oxygen reduction current density measured by means of potentiodynamic polarization test for a Fe sample embedded in cement paste or mortar in a saturated Ca(OH)2 solution under ambient air decreased with an increase of the cover thickness and the current density was inversely proportional to the cover thickness from 1 mm to 10 mm, suggesting that diffusion limited oxygen reduction can be accelerated by making the reducing thickness below 10 mm. The novel strategy to enhance oxygen supply in the proposed method is to apply pressurized oxygen instead of ambient air using a newly developed hyperbaric oxygen accelerated chamber. In 0.5 MPa of oxygen Fe samples covered with 5 mm of mortar or cement paste showed oxygen reduction current density almost 25 times as high as that under the ambient air. The thickness of rust layer formed during 30-day corrosion test of Fe samples covered with 5 mm of mortal or cement paste containing chloride ion in a saline solution under 0.5 MPa of oxygen was in good agreement with the increased oxygen reduction current density, indicative of acceleration of corrosion proportional to applied oxygen partial pressure. Furthermore, the characteristics of the rust formed under the pressured oxygen were similar to that of the rust formed under a practical service environment. Thus, the hyperbaric oxygen is beneficial and effective to validly accelerate the corrosion of reinforcing steel in concrete.
高速道路や鉄道高架橋などの大型で高耐荷重が要求される構造物にはコンクリートが不可欠である.我が国では1950年代から1970年代までに高度経済成長期を迎え,特に1964年に東京オリンピックを開催するために多数のコンクリート構造物が建設された.それから50年以上経過した現在,コンクリートの剥離や崩落などの事故がしばしば報告され,これらの構造物の多くが,補修・更新を必要としている1,2,3).コンクリートの剥離や崩落の主な原因は,引張応力を負担させるためにコンクリート内部に埋設された鉄筋の腐食である.鉄筋の腐食で発生した鉄さびが膨張し,コンクリートにひび割れや剥離を生じさせる.経年劣化したコンクリート構造物の補修や維持管理,または安心・安全な構造物の建設のためには,鉄筋の腐食挙動の理解に基づいた対策が必要である.
鉄系材料の腐食挙動の検討は,通常,試料の実環境への曝露で行われる.一方,アルカリ性のコンクリート内部では,鉄は保護性の高い酸化皮膜(不働態皮膜)に覆われるため4,5),腐食は極めて緩やかである.このため,実環境への曝露で,コンクリートにひび割れや剥離が生じるほどの腐食を進行させるには数十年を要する.鉄筋が耐食鋼や耐候性鋼の場合や,補修剤を使用したコンクリートの場合は,腐食の進行にはさらに長い期間がかかる.したがって,実環境曝露により,ひび割れなどの欠陥のないコンクリート内部の鉄筋の腐食を短時間で再現することはほぼ不可能である.そこで,鉄筋の腐食速度とひび割れ発生腐食量の適正な評価のために,実験室規模で,短期間に実環境と同様の鉄さびを生成させる腐食促進試験が必要である.コンクリート内部の鉄筋腐食促進試験として,電食試験法6,7),乾湿繰返し試験法8,9,10),オートクレーブ法11,12)などが提案されている.電食試験法は,鉄筋に比較的大きなアノード電流を印加して腐食を促進する方法であり,目的の腐食量を短時間で得ることができる.しかし,過剰に塩化物イオンを含む化合物が生成する場合がある.高谷らはコンクリート内に埋設した鉄筋にアノード電流を印加して腐食生成物の違いがひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響を検討したが,実環境で生成する鉄酸化物とオキシ水酸化鉄(Fe3O4(magnetite)とα-FeOOH(goethite)およびγ-FeOOH(lepidocrocite))に加えて塩化酸化鉄(III)カルシウムが生成したために実環境での腐食量とコンクリートのひび割れ発生の関係を完全に再現できなかったと報告している13).乾湿繰り返し試験法では,実環境の湿潤環境と乾燥環境とを模擬し,例えば塩水滴下と乾燥を交互に繰り返すことで,鉄筋を腐食させる.この方法では,実環境と同様のさびを生成できるが,他の促進試験法と比較して多くの時間と手間がかかる.オートクレーブ法では,高温高圧で鉄筋の腐食を加速させるが,コンクリートの組織が変化するおそれがあり,正確なコンクリートのひび割れ評価を行えない.以上より,現在提案されている腐食促進試験法は短時間で腐食させるという第一の目標は達成できているものの課題も有している.実環境と同様の膨張率(組成と構造)の鉄さびを,可能な限り簡便かつ短時間で,コンクリートの性質を変化させずに生成できる新規腐食促進試験法が求められる.
鉄の腐食反応は,鉄の酸化溶解反応であるアノード反応と,アノード反応で生じた電子を消費するカソード反応のカップリングにより進行する.コンクリート内部の鉄表面でのカソード反応は酸素還元反応であり,コンクリート中の鉄の腐食は酸素拡散律速と報告されている14).したがって,腐食加速には酸素の供給量増加によるカソード反応の促進が効果的と考えられる.一方,従来の腐食促進試験法はほとんどがアノード反応を促進しており,カソード反応である酸素還元反応を促進して腐食促進を試みた報告はほぼない.
コンクリート内部での鉄筋腐食は,塩化物イオンや中性化により不働態皮膜が破壊されて発生する5,15,16)ため,腐食促進試験には塩化物イオンが必要である.従来の腐食促進試験では,NaClのコンクリートへの練り込み,NaCl溶液への試験体の浸漬,試験体表面へのNaCl溶液の滴下や塩水噴霧が行われている.練り込みではコンクリートの性質が変化し,その後の腐食の進行に影響を及ぼす可能性があるが,鉄表面の塩化物イオン濃度を規定できる.NaCl溶液への浸漬や滴下では,鉄表面へ塩化物イオンが達するまでに比較的長時間かかり,鉄表面の塩化物イオン濃度の規定が困難であるが,コンクリート表面から鉄表面までの塩化物イオンの濃度勾配を再現できる.コンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数を求める電気泳動法(JSCE-G 571)は,比較的短期間でコンクリート内の塩化物イオン濃度の勾配を再現できるため,今後の促進試験における塩化物イオンの導入法としての応用が考えられる.
本研究では,酸素高圧下にセメントペーストおよびモルタル試験体を曝露して酸素供給量を増加し,コンクリート(セメントペーストおよびモルタル)内部の鉄筋腐食を促進させる新規試験法を考案した17)ので報告する.塩化物イオンを導入する場合は,鉄表面での塩化物イオン濃度を規定するために,NaClの練り込みで行った.
試料は純度99.5%の鉄板(株式会社ニラコ),厚さ 1 mmとした.この鉄板を 5×5 mm2に切断した後,片面をSiC耐水研磨紙(丸本ストルアス株式会社)で#800まで研磨して試料面とし,アセトンおよびエタノールで5分間超音波洗浄した.裏面に導線をはんだ付けし,試料面以外をエポキシ樹脂(ショーボンド建設株式会社)で絶縁被覆した.
2.2 セメントペーストおよびモルタル試験体2.1で作製した鉄試料を,かぶり 1~50 mmでセメントペーストおよびモルタルに埋設して試験体とした.セメントペーストおよびモルタル試験体の,かぶり 1~10 mmおよびかぶり 20~50 mmの場合の概略図をそれぞれFig. 1(a)および(b)に示す.かぶり 10 mm以下の試験体では,試験体の直径を 30 mm,試験体の長さを 25 mmとし,側面やかぶりの反対面から鉄試料表面までの距離がかぶりよりも小さくならないようにした.かぶり 20 mm以上の試験体では試験体の長さを 100 mmに大きくし,塩ビ管およびエポキシ樹脂で試験体側面やかぶりの反対面からの溶液の侵入を遮断した.
Schematic images of iron samples embedded in cement paste and mortar with various cover thickness.
セメントペーストおよびモルタルを打設する際にはセメント協会が提供している力学試験用標準セメントと標準砂を用い,水セメント比は 60 wt.%,セメント細骨材比は重量比で1:3とした.動電位カソード分極測定の試験体にはNaClを練り込まず,高酸素腐食促進試験の試験体には 1.03 MのNaCl水溶液を練り混ぜ水として使用した.これはコンクリートにおける腐食発生限界塩化物イオン濃度よりも十分高い濃度である.打設から1日以降は塩化物イオンを含まない試験体は蒸留水中で,塩化物イオンを含む試験体は練り混ぜ水と同濃度のNaCl溶液中でそれぞれ28日間養生した.
2.3 動電位カソード分極測定セメントペーストおよびモルタル試験体内の鉄試料表面における酸素還元反応に及ぼすかぶりの影響および供給酸素の影響を検討するため,動電位カソード分極測定を行った.参照電極にはHg/HgO電極(-0.098 V vs. SHE(1 M NaOH))を,対極には白金線を用いた.溶液には室温の飽和Ca(OH)2溶液を用いた.電位掃引速度は 20 mV min-1とし,自然電位から-0.6 V(vs. Hg/HgO)まで分極測定を行った.28日間養生後の試験体を試験溶液に10分間浸漬し,自然電位が定常になったことを確認してから分極を開始した.かぶりの影響を検討する試験では,かぶりはセメントペースト試験体では1, 2, 5, 10, 20および 50 mm,モルタル試験体では 3, 5, 10, 20および 50 mmとし,大気圧下でカソード分極測定を行った.比較としてセメントペーストにもモルタルにも埋設していない試料(かぶり 0 mm)のカソード分極測定も行った.
供給酸素の影響を検討する試験では,セメントペーストおよびモルタル試験体のかぶりは 5 mmとし,Fig. 2 に示す加圧チャンバー内に 0.5 MPa(5気圧)の純O2ガスを封入し,1気圧の大気中の25倍の酸素供給圧下でカソード分極測定を行った.加圧チャンバーに関しては2.4で説明する.
Scemetic image of Hyperbaric-oxygen accelerated corrosion test.
高酸素腐食促進試験に用いる加圧チャンバーの模式図をFig. 2 に示す.純Ti製のチャンバー内に溶液を入れた容器および試料を設置し,2.0 MPaまでの高圧ガスを供給することが可能である.さらに,加圧しながらの電気化学測定も可能である.この加圧チャンバー内に,練り混ぜ水と同濃度の 1.03 M NaCl水溶液に浸漬したセメントペーストおよびモルタル試験体を設置した.酸素圧は 0.5 MPa(5気圧),試験期間は30日間とした.比較として,セメントペーストおよびモルタル試験体を,大気開放下の 1.03 M NaCl水溶液中に30日間浸漬した.用いたセメントペーストおよびモルタル試験体のかぶりは 5 mmとした.
腐食促進試験後,セメントペーストおよびモルタル試験体を割裂して鉄試料を取り出し,光学顕微鏡(ワンショット3D形状測定機 VR-3000,キーエンス)で表面観察を,走査電子顕微鏡(SEM)(Quanta FEG, FEI)で断面観察を行った.断面観察の際には反射電子(BSE)像を撮影し,エネルギー分散型X線分析(EDS)(Octane Elite, EDAX)により組成分析を行った.さらに,生成した鉄さびの結晶構造の分析を,レーザーラマン分光(RAMAN plus,ナノフォトン)により行った.レーザー波長は 532 cm-1とした.鉄試料の取り出し直後に分析しない場合には,鉄試料はシリカゲルを敷き詰めた真空デシケーター内で保管した.
Fig. 3(a)にかぶり 0 mmから 5 mmまでのセメントペースト内部の鉄試料のカソード分極曲線を,Fig. 3(b)にはかぶり 10 mmから 50 mmまでのセメントペースト内部の鉄試料のカソード分極曲線をそれぞれを示す.自然電位付近から酸素還元によるカソード電流が認められた.酸素還元電流密度は印加電圧が卑になるにつれ増加したが,徐々に傾きは小さくなった.セメントペースト内の鉄試料ではいずれのかぶり(1 mm~50 mm)においても,溶液に直接曝露した試料(かぶり 0 mm)よりも自然電位付近の電流密度が著しく低かった.また,自然電位付近の電流密度は,かぶりが大きくなるほど減少した.
Dynamic cathodic polaization curves of pure iron embedded in cement paste with various cover thickness: (a) Cover thickness: 0, 1, 2 and 5 mm, (b) Cover thickness: 10, 20 and 50 mm.
Fig. 4(a)にかぶり 0 mmから 5 mmまでのモルタル内部の鉄試料のカソード分極曲線を,Fig. 4(b)にはかぶり 10 mmから 50 mmまでのモルタル内部の鉄試料のカソード分極曲線をそれぞれを示す.モルタル内部においてもかぶり 0 mmの場合よりもかぶりがある場合の自然電位付近の電流密度が著しく低く,かぶりが大きくなるほど減少した.
Dynamic cathodic polaization curves of pure iron embedded in mortar with various cover thickness: (a) Cover thickness: 0, 3 and 5 mm, (b) Cover thickness: 10, 20 and 50 mm.
セメントペーストおよびモルタルは多孔質体であるため,細孔内部に水分を保持している18).試験体周囲の溶液中に存在する酸素(溶存酸素)は,細孔内の溶液中を拡散して鉄試料表面へ到達する.したがって外部と鉄表面の距離,すなわちかぶりが大きいほど酸素の鉄試料表面への到達時間は長くなり,鉄試料表面の酸素濃度は減少する.よって,かぶりの増加とともに電流密度が減少したと考えられる.ただし,後述の通り,あるかぶり以上で酸素還元電流密度は一定になると推察される.
セメントペースト内部とモルタル内部とを比較すると,同じかぶりではセメントペースト内部の酸素還元電流密度の方が低かった.セメントペースト内部にも細孔は存在するが,モルタル内部のセメントペースト-細骨材界面の細孔の方が大きいために,モルタル内でのみかけの酸素拡散係数の方がセメントペースト内よりも大きくなることが報告されている19).モルタル内部の比較的大きな細孔が酸素拡散のパスとなるために,セメントペースト内部よりも酸素還元電流密度が高くなったと考えられる.
コンクリート中の鉄が腐食する際には,式(1) で示される鉄の溶解反応(アノード反応)と式(2) で示される酸素還元反応(カソード反応)のカップリング反応が生じる.溶液中の鉄表面での酸素拡散限界電流密度は,酸素の拡散層厚さを含む拡散方程式(式(3))に当てはめられる20).
(1) |
(2) |
(3) |
Fig. 3 およびFig. 4 において,自然電位から 50 mV卑な電位での酸素還元電流密度を酸素拡散限界電流密度iLと等しいと仮定し,かぶりの逆数との関係を検討した(Fig. 5).Fig. 5(a)にはかぶり 1~50 mmの範囲を,Fig. 5(b)にはFig. 5(a)のかぶり 10 ~50 mmの範囲を拡大して示した.Fig. 5(a)より,かぶり 1 ~10 mmでは,セメントペーストとモルタル内のいずれでも,酸素還元電流密度とかぶりに逆比例関係が認められた.よって,この範囲のかぶりは一様な拡散層とみなせる.Fig. 5(b)より,20 ~50 mmの範囲では酸素還元電流密度とかぶりの逆数は直線関係から外れた.この結果から,かぶり内部において,鉄表面での酸素消費によりできる酸素拡散層の厚さは少なくとも 10 mm以上であることが示された.したがって,かぶりが酸素拡散層より厚い場合は,鉄表面での酸素消費による濃度変化の影響が及ばず,酸素が飽和したままの領域がかぶりの溶液側に存在すると考えられる.一方,かぶり 10 mm以下ではかぶりと酸素拡散層の厚さが一致するため,かぶりの厚さに応じて鉄表面の酸素の流束を変化させられると考えられる.酸素加圧下での試験では,鉄表面の酸素濃度を増加させ試験期間を短くするためにかぶりを 5 mmとした.
Relationship between Oxygen reduction current density and reciprocal of the cover thick-ness: (a) Cover thickness: 1-50 mm, (b) Cover thickness: 10-50 mm
Fig. 6 に 0.5 MPa酸素圧下のセメントペーストおよびモルタルに埋設した鉄試料表面におけるカソード分極曲線を示す.セメントペースト中とモルタル中いずれにおいても 0.5 MPa酸素圧下では大気開放と比較して酸素還元電流密度が上昇した.Fig. 6 において,自然電位から 50 mV卑な電位での酸素還元電流密度をTable 1 に示す.酸素加圧下における酸素還元電流密度はセメントペースト中で大気開放の22.5倍,モルタル中で大気開放の24.2倍となった.加圧チャンバー内に導入した酸素分圧は大気中の25倍であり,セメントペースト中およびモルタル中の酸素還元電流密度の上昇率はいずれも酸素分圧の上昇率に近い値となった.これは溶液中の酸素濃度は溶液が接する気体中の酸素圧に比例する(ヘンリーの法則)ためであると考えられる.この結果から,セメントペースト中およびモルタル中の鉄表面の酸素還元反応は酸素分圧に応じて促進されることが明らかとなった.
Dynamic cathodic polaization curves of pure iron embedded in cement paste and mortar with 5 mm of cover thickness under ambient air and under 0.5 MPa O2.
Ambient air(0.02 MPa) | O2 (0.5 MPa) | Increase rate | |
---|---|---|---|
Cement paste | 2.50×10-4 | 56.2×10-4 | 22.5 |
Mortar | 5.32×10-4 | 129×10-4 | 24.2 |
(A m-2) |
Fig. 7 に各条件で腐食試験を行った際の鉄試料表面の光学顕微鏡像を示す.セメントペーストおよびモルタルのかぶりは 5 mmとし,試験期間は30日とした.なお,以下ではセメントペーストおよびモルタルに埋設し大気開放のNaCl溶液中に浸漬した試料をそれぞれセメント大気開放試料およびモルタル大気開放試料と,セメントペーストおよびモルタルに埋設し 0.5 MPa酸素圧下のNaCl溶液中に浸漬した試料をそれぞれセメント 0.5 MPa試料およびモルタル 0.5 MPa試料と記述する(Table 2).Fig. 7(a),(b)より,セメントおよびモルタル大気開放試料には腐食はほとんど認められなかった.セメントペーストおよびモルタルへのNaCl練り込みにより,鉄表面の不働態皮膜は破壊されていると推察されるが,セメントペースト中およびモルタル中の酸素量が著しく少ないために腐食の進行が抑制されたと考えられる.Fig. 7(c)より,セメント 0.5 MPa試料ではセメント大気開放試料よりも多くの腐食生成物が認められた.Fig. 7(d)より,モルタル 0.5 MPa試料では,セメント 0.5 MPa試料よりもさらに多くの腐食生成物が認められた.
Optical microscope images of iron sample surface after Hyperbaric-oxygen accelerated corrosion test: (a) Cement under ambient air, (b) Mortar under ambient air, (c) Cement under 0.5 MPa O2 and (d) Mortar under 0.5 MPa O2.
Sample | Sample name | Cover material | Oxygen pressure (MPa) |
---|---|---|---|
Iron | Cement under ambient air | Cement paste | 0.02 (Ambient air) |
Cement under 0.5 MPa O2 | Cement paste | 0.5 | |
Mortar under ambient air | Mortar | 0.02 | |
Mortar under 0.5 MPa O2 | Mortar | 0.5 |
Fig. 8 に各条件で試験を行った鉄試料の断面BSE像を示す.Fig. 8(a)および(b)より,セメントおよびモルタル大気開放試料では,厚さ0.2 μm以上の腐食生成物の存在は確認されなかった.これはFig. 7(a),(b)で説明したとおり,酸素欠乏より腐食が抑制されたためである.Fig. 8(c)および(d)より,セメント 0.5 MPa試料およびモルタル 0.5 MPa試料では厚さ数μmの腐食生成物が生成していた.
SEM images and EDS map of cross section of iron sample surface after Hyperbaric-oxygen accelerated corrosion test: (a) Cement under ambient air, (b) Mortar under ambient air, (c) Cement under 0.5 MPa O2, (d) Mortar under 0.5 MPa O2, (e) EDS map of Fe in identical area of (d), (f) EDS map of O in identical area of (d).
Fig. 8(d)と同じ視野のEDS測定による鉄と酸素の分布をFig. 8(e)および(f)に示す.腐食生成物層全体に均一に鉄および酸素が分布していたことより,腐食生成物は鉄酸化物やオキシ水酸化鉄,もしくはこれらの混合物すなわち鉄さびであることが確かめられた.
セメント 0.5 MPaおよびモルタル 0.5 MPa試料の断面BSE像を無作為に5枚撮影し,それぞれの像で計測した鉄さび厚さの平均をTable 3 に示す.大気開放下および 0.5 MPa酸素加圧下でのカソード分極で得た酸素還元電流密度をもとに各条件での腐食量を推計し,これを次に示す膨張率を用いて鉄さびの厚さに換算した推計値も示す.ここで,膨張率とは生成した鉄さび厚さを溶解した鉄の厚さで除したもの(生成鉄さび厚さ/溶解した鉄厚さ)を指す.後述のように,生成した鉄さびはα-FeOOH,γ-FeOOHおよびFe3O4で構成されていた.ここでα-FeOOH,γ-FeOOHおよびFe3O4の膨張率はそれぞれ2.9,3.1および2.1であるので21),FeOOHの膨張率をα-FeOOH,γ-FeOOHの平均値である3.0とし,これらとFe3O4が鉄さび中に同量ずつ含まれているという仮定のもと,本研究での鉄さびの膨張率を2.55とした.断面SEM観察により得られた鉄さびの厚さは,セメントおよびモルタル大気開放試料では 0.2 μm以下,セメント 0.5 MPa試料では 1.7±1.1 μm,モルタル 0.5 MPa試料では 3.7±1.2 μmであった.酸素圧 0.5 MPaは大気の酸素分圧 0.02 MPaの25倍であり,酸素加圧下の分極曲線より得られた腐食量の推計値と酸素加圧下で生成した鉄さび厚さが良く一致したことから,高酸素腐食促進試験では酸素圧に比例して腐食を加速できることが示された.これらの結果から,セメントペーストおよびモルタル内部の鉄さび生成には酸素分圧が大きな影響を与えており,酸素加圧は鉄さびの生成促進法として有効であることが明らかとなった.
Experimental value | Calculated value | |||
---|---|---|---|---|
Ambient air (0.02 MPa) | O2 (0.5 MPa) | Ambient air (0.02 MPa) | O2 (0.5 MPa) | |
In cement paste | <0.2 | 1.7±1.1 | 0.06 | 1.4 |
In mortar | <0.2 | 3.7±1.2 | 0.13 | 3.2 |
(μm) |
モルタル 0.5 MPa試料表面の腐食生成物のラマンスペクトルをFig. 9に示す.セメントペースト 0.5 MPa試料の鉄さびは薄すぎたためラマンスペクトルを得ることができなかった.酸素加圧下で生成した鉄さびはFe3O4およびα-FeOOH, γ-FeOOHから構成されていた.高谷らは,建設後30年から40年が経過した実構造物中の鉄筋に生じた鉄さびの構造をX線回折を用いて解析し,アルカリ環境のコンクリート内ではFe3O4とα-FeOOHおよびγ-FeOOHが主に生じることを報告している21).したがって,高酸素腐食促進試験で実環境と同様の鉄さびを生成できることが明らかとなった.すなわち,本研究で考案した酸素供給促進試験法は従来の促進試験法の課題を克服し,簡便な方法であるため,コンクリート内部鉄筋腐食の新規促進試験法として有効である.
Laser Raman spectra of iron rust formed in mortar under 0.5 MPa O2.
本研究では,セメントペーストおよびモルタルに埋設した鉄試料の動電位カソード分極測定を行うことで,酸素分圧が鉄の腐食に及ぼす影響を検討した.さらに,酸素加圧による新規腐食促進試験法を開発した.以下に得られた結論を示す.
(1) セメントペースト/モルタルに埋設した鉄表面における酸素還元電流密度は試験溶液に直接曝露した鉄表面上での電流密度と比較して著しく低く,かぶりの増加に伴い減少した.また,0.5 MPa酸素加圧下での酸素還元電流密度はセメントペースト内およびモルタル内どちらにおいても大気下の酸素還元電流密度の約25倍となった.
(2) かぶり 10 mm以下のセメントペースト/モルタル内部での酸素還元電流密度は,かぶりと逆比例関係にあった.この結果より,かぶり 5 mmの試料ではかぶり全体を鉄表面での酸素消費により形成される拡散層とみなせることが示された.
(3) 0.5 MPa酸素加圧下のセメントペースト/モルタル内で生成した鉄さびの厚さは,腐食が酸素還元律速であると仮定し,酸素加圧下のセメントペースト/モルタル内で得た酸素還元電流密度をもとに推計した厚さと同等であった.セメントペースト/モルタル試験体周囲の酸素圧に比例して,内部の鉄の腐食を加速できることが明らかになった.
(4) 酸素加圧下で生成した鉄さびは,実環境で数十年かけて生成された鉄さびと同様の組成・構造であった.
(5) コンクリート,モルタルおよびセメントペースト内部の鉄筋の腐食促進に,本研究で考案した高酸素腐食促進試験が有効である.
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(管理法人:科学技術振興機構)によって実施された.また,本研究の一部は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(NIMS分子・物質合成プラットフォーム)の支援を受けて実施された.